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エルフのお婿さん
長(おさ)の苛立ち
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「…………ふぅ」
エルフの長、レム・ルリア・レイナル・エルファリアは、溜息を吐きながら執務室の椅子にもたれかかった。
そして読んでいた手紙をクシャリと握りつぶすと、振り返りもせず後方に放り投げる。
弧を描いて宙を飛んだ紙くずは見事にゴミ箱の中へと飛び込み、コトンと軽い音を立てた。
「……よろしいのですか? 非公式と言えども、一応は外交文書ですよね?」
それを見た大樹組筆頭であるルル・ロウナ・ルクリスが、呆れたような声でレムに問いかける。
「ふんっ」
ルルの問いに鼻息一つで返事を返すと、レムは指先に小さな火を灯し、それを先ほどと同じように後方に放り投げた。
火は紙くずと同じ軌跡を辿り、ゴミ箱に飛び込んでいく。
そして次の瞬間、火はゴウッとその勢いを増して激しく燃え上がったが、すぐさま鎮火して焦げ臭いにおいを部屋に漂わせた。
「なにが外交文書だ。そういうのはな、ちゃんと国交があって、お互いのことを理解した国同士が送り合うものだ。
……なあ、ルル。やつらがなんて言ってきたと思う?」
「……ジャックを返せ、ですか?」
レムの態度から手紙の内容を察したルルが、答えを返す。
────そして、どうやらそれは正解であったようだ。
「そうだ。しかもその交換条件として、奴隷の男を30人送ってよこすと書いてあった。はっ! …………ふざけるなっ!」
怒声を上げたレムが、今度は手のひらの上に自分の胸と同じくらいの大きさの氷塊を作り出すと、振り向きざまにオーバーハンドスローで投げつけた。
一直線に飛んだ氷塊は、焦げ臭いにおいを放つゴミ箱を粉砕し、その後ろにある執務室の壁を貫通して外に飛び出していく。
「やつらが、我らエルフ族のことを少しでも理解しているなら、こんなにも愚かな交換条件など持ち出すはずがない! 違うか、ルル!」
「いえ、仰るとおりです」
ルルが即座に肯定した通り、レムの怒りは正当なものであった。
確かに、エルフ族には女しかおらず、子を産む為には人間の男が必要になる。
だが、だからと言ってどんな男でもいいというわけではないのだ。
エルフは優秀な狩人であり、更には魔法も使える優れた戦士の一族でもある。
その能力は、100歳前後の若芽組の者たちですら人間の戦士より遥かに優れ、200歳前後の若木組の者であれば人間の英雄すら凌駕する。
そして、それ以上の年齢である大樹組の者ともなれば、単独で一軍を相手取ることができるほどの能力を持ち合わせているのだ。
そんな彼女たちの相手を、並みの人間が務められるはずがない。
エルフはその能力に比例するかのように、毎日木の棒で自分を慰めなければ収まらないほどの、非常に強い性欲を持っているからだ。
最低でも独力で危険な魔獣の生息地を乗り越え、エルフの領土に侵入してくる程度の能力を持ち合わせている人間でなければ、若芽組の少女たちにすら一発で乗り殺されてしまうだろう。
迷い込んで来た人間の英雄『ジャック・ハウザー』を捕えることができたのは、まさに500年に一度あるかないかという好機なのだ。
奴隷に落とされるような人間の男など、30人どころか3000人送ってこられたところで、ただ迷惑なだけである。
「ふーっ、ふーっ…………そういえば、若芽組が森で人間の男を捕まえたと言っていたな。
あれはどうなった? 特例として若芽組に優先使用権を与えていたが……もう死んだか?」
話の流れで、レムはふと昼間に報告があった『森で捕まえた怪しい人間の男』のことを思い出し、ルルに聞いてみた。
「いえ、そろそろ報告があってもよさそうなものですが…………遅いですね。まだ生きているのでしょうか?」
「ふむ……」
豊満な胸を下から持ち上げるように腕を組みながら、レムは受けた報告を思い返す。
男の外見はオークによく似ているが、その身体能力は若芽組にあっさり捕まったのでそれ以下。
だというのになぜか素っ裸で森をうろついており、捕らえられてからもエルフである自分たちを恐れる様子もないという。
よく考えてみると、あまりにも不自然で、そしてあまりにも奇っ怪な存在だ。
「……じつは実力を隠していて、その正体はジャックを奪還するために送り込まれた凄腕の刺客、ということは?」
「いえ、それはないと思います。私が遠目から確認したのですが、おそらく若芽組どころか、エルフの幼児以下かと……」
「幼児以下…………それなら、最初のひとりで死んでいてもおかしくないだろう?」
「私もそう思うのですが……」
と、二人が頭を悩ませているところに、
タタタタタタッ…………バタンッ
「報告に上がりました! 本日捕らえ、若芽に優先使用権を与えていた人間ですが────
途中から参加した若木組の者も含め、全八名で三巡マワしてもなお生きているそうですっ!」
走り込んで来た伝令が、とんでもない報告を持ってきたのだった。
エルフの長、レム・ルリア・レイナル・エルファリアは、溜息を吐きながら執務室の椅子にもたれかかった。
そして読んでいた手紙をクシャリと握りつぶすと、振り返りもせず後方に放り投げる。
弧を描いて宙を飛んだ紙くずは見事にゴミ箱の中へと飛び込み、コトンと軽い音を立てた。
「……よろしいのですか? 非公式と言えども、一応は外交文書ですよね?」
それを見た大樹組筆頭であるルル・ロウナ・ルクリスが、呆れたような声でレムに問いかける。
「ふんっ」
ルルの問いに鼻息一つで返事を返すと、レムは指先に小さな火を灯し、それを先ほどと同じように後方に放り投げた。
火は紙くずと同じ軌跡を辿り、ゴミ箱に飛び込んでいく。
そして次の瞬間、火はゴウッとその勢いを増して激しく燃え上がったが、すぐさま鎮火して焦げ臭いにおいを部屋に漂わせた。
「なにが外交文書だ。そういうのはな、ちゃんと国交があって、お互いのことを理解した国同士が送り合うものだ。
……なあ、ルル。やつらがなんて言ってきたと思う?」
「……ジャックを返せ、ですか?」
レムの態度から手紙の内容を察したルルが、答えを返す。
────そして、どうやらそれは正解であったようだ。
「そうだ。しかもその交換条件として、奴隷の男を30人送ってよこすと書いてあった。はっ! …………ふざけるなっ!」
怒声を上げたレムが、今度は手のひらの上に自分の胸と同じくらいの大きさの氷塊を作り出すと、振り向きざまにオーバーハンドスローで投げつけた。
一直線に飛んだ氷塊は、焦げ臭いにおいを放つゴミ箱を粉砕し、その後ろにある執務室の壁を貫通して外に飛び出していく。
「やつらが、我らエルフ族のことを少しでも理解しているなら、こんなにも愚かな交換条件など持ち出すはずがない! 違うか、ルル!」
「いえ、仰るとおりです」
ルルが即座に肯定した通り、レムの怒りは正当なものであった。
確かに、エルフ族には女しかおらず、子を産む為には人間の男が必要になる。
だが、だからと言ってどんな男でもいいというわけではないのだ。
エルフは優秀な狩人であり、更には魔法も使える優れた戦士の一族でもある。
その能力は、100歳前後の若芽組の者たちですら人間の戦士より遥かに優れ、200歳前後の若木組の者であれば人間の英雄すら凌駕する。
そして、それ以上の年齢である大樹組の者ともなれば、単独で一軍を相手取ることができるほどの能力を持ち合わせているのだ。
そんな彼女たちの相手を、並みの人間が務められるはずがない。
エルフはその能力に比例するかのように、毎日木の棒で自分を慰めなければ収まらないほどの、非常に強い性欲を持っているからだ。
最低でも独力で危険な魔獣の生息地を乗り越え、エルフの領土に侵入してくる程度の能力を持ち合わせている人間でなければ、若芽組の少女たちにすら一発で乗り殺されてしまうだろう。
迷い込んで来た人間の英雄『ジャック・ハウザー』を捕えることができたのは、まさに500年に一度あるかないかという好機なのだ。
奴隷に落とされるような人間の男など、30人どころか3000人送ってこられたところで、ただ迷惑なだけである。
「ふーっ、ふーっ…………そういえば、若芽組が森で人間の男を捕まえたと言っていたな。
あれはどうなった? 特例として若芽組に優先使用権を与えていたが……もう死んだか?」
話の流れで、レムはふと昼間に報告があった『森で捕まえた怪しい人間の男』のことを思い出し、ルルに聞いてみた。
「いえ、そろそろ報告があってもよさそうなものですが…………遅いですね。まだ生きているのでしょうか?」
「ふむ……」
豊満な胸を下から持ち上げるように腕を組みながら、レムは受けた報告を思い返す。
男の外見はオークによく似ているが、その身体能力は若芽組にあっさり捕まったのでそれ以下。
だというのになぜか素っ裸で森をうろついており、捕らえられてからもエルフである自分たちを恐れる様子もないという。
よく考えてみると、あまりにも不自然で、そしてあまりにも奇っ怪な存在だ。
「……じつは実力を隠していて、その正体はジャックを奪還するために送り込まれた凄腕の刺客、ということは?」
「いえ、それはないと思います。私が遠目から確認したのですが、おそらく若芽組どころか、エルフの幼児以下かと……」
「幼児以下…………それなら、最初のひとりで死んでいてもおかしくないだろう?」
「私もそう思うのですが……」
と、二人が頭を悩ませているところに、
タタタタタタッ…………バタンッ
「報告に上がりました! 本日捕らえ、若芽に優先使用権を与えていた人間ですが────
途中から参加した若木組の者も含め、全八名で三巡マワしてもなお生きているそうですっ!」
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