エルフのお婿さん────(※実際は子作り用の家畜です)

布施鉱平

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エルフのお婿さん

おっさんはボクっ娘JCエルフに頼まれました

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「────どうか、ネムさんやキキさんが無事に元気な赤ちゃんを生めますように……そしてどうか、どうか赤ちゃんが私に似ていない、可愛い女の子でありますように……っ」

 妊娠したことを伝えに来てくれたネムとキキが、ジャックの作った軽食(イモっぽい何かの香草揚げ)を貪り尽くしてから帰った後。

 良夫はひとり部屋にこもり、母子の健康と、生まれてくる子供の容姿が自分に似ていない事を切に願いながら、神に祈りを捧げていた。

 前世では精子バンクに登録でもしない限り、自分が末代まつだいになるのはほぼ確実であった良夫なのだ。

 その自分に子供が出来たのだから、神に祈りを捧げたい気持ちにもなるだろう。

 いつものように数秒で切り上げるのではなく、良夫が真剣に祈りを捧げ続けていると……


 コン、コン


 扉のドアが、ノックされた。

「ん、ジャックですかね……? ……よっこらしょ」

 わざわざ入室の許しを得てくる人物などジャック以外には考えられないので、良夫はひざまずいていた体勢から立ち上がると、軽い気持ちでドアノブに手をかける。

「どうしました、ジャック。なに、か……」

 だが、扉を少し開いたところで、その動きを止めた。

 なぜなら────


「やあ、ヨシオくん。遊びに来たよ」

 そこに立っていたのが裸エプロンの変態……もといジャックではなく、DCっぽいJCエルフのナナだったからだ。

「ナ、ナナさん! 失礼しました、ど、どうぞお入りくださいっ」

「うん、お邪魔するね」

 突然の来訪に驚き、飛びすさるようにして横にずれた良夫の前を通って、ナナが部屋の中に入ってくる。

 その際にナナから漂ってきた石けんのような匂いから、良夫はナナが自分に合いに来る前に、わざわざ風呂に入ってきたのだということを察した。

 扉をノックしたことといい、訪れる前に体を清めてきたことといい、ナナはどうやら他のエルフとは少し違った価値観を持っているようだ。

「さて……」

 と、ベッドのある辺りまで歩いて行ったナナが、くるりと振り返り、良夫を見つめてくる。
 そして、

「君は、本当に変わった人間だねぇ」

 いきなり、そんなことを言ってきた。

「えっ、はぁ……あの、なにかおかしなところでもありましたでしょうか?」

 ナナの言わんとすることを理解できない良夫が素直に聞き返すと、ナナはそのイケメンDCのように中性的な顔に笑みを浮かべながら、言葉を続けた。

「いや、実は少し前から部屋の前にいたんだけどね?」

「えっ!?」

「君があまりにも真剣に祈ってるものだから、入りづらくてさ。お祈りの内容も、全部聞いちゃったんだよ」

「あの、それは、なんというか、その……」

 ナナの『全部聞いちゃった』発言に、良夫はもごもごと口ごもり、体を小さくした。

 単純に独り言を聞かれて恥ずかしかった、というのもあるが、愛玩動物ペットでしかない自分が父親を気取って母子の心配をするなど、おこがましい行為だったのではないかと思ったのだ。

「いやいや、別に咎めているわけじゃないよ。むしろ、本気で彼女たちの心配をしてくれていた君の事を、より好きになったくらいだからね」

「す、すすすす、好きっ!?」

 ナナからの突然の告白に、良夫の胸がトゥンクと高鳴る。

 なにせ生まれてから死ぬまでの41年間、一度も異性から『好き』とか『愛してる』とか『良夫くん』とか呼ばれたことがない良夫なのだ。
 
 その栄えある第一号が『一見イケメンDCっぽくみえるボクっ娘JCエルフ』という、属性てんこ盛りの美少女だったのだから、良夫の動悸が不整脈のように跳ね上がるのも仕方の無いことだろう。

 顔を赤くして心臓を押さえる良夫を見つめながら、ナナがくすりと笑う。

「うん、ボクは君が好き。だって────」

 言いかけた言葉を一度切ると、ナナはふわりと良夫の側に歩み寄り、間近から良夫の顔を見上げてきた。

「だってヨシオくん────オークにそっくりなんだもの」

「えっ?」

 ナナの口から放たれた言葉を理解できず、良夫は動悸による息苦しさも忘れ、ナナを見返した。

 白く細い指で良夫の顔をなぞりながら、ナナはさらに言葉を続ける。

被虐ひぎゃく願望……いや、むしろ破滅はめつ願望とでも言うのかな? ボクは昔っから、自分が無理矢理オークに犯されてしまう状況シチュに興奮するような性癖の持ち主だったんだよ。
 もちろん、実際に犯された事なんて無いんだけどね」

「…………っ!?」

「だからさぁ、ヨシオ君……」

 衝撃的な性癖カミングアウトに固まる良夫に対し、ナナがさらに体を密着させてくる。

 そして、

「ボクの…………オークになってくれないかな?♡」

 イケメンDCのような顔に『女』の色気を滲ませながら、そんなことを言ってきたのだった。
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