月と魔女と異世界と

カラスウリ

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第二章

22.空夜

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「ほら、見て……花びらの形が微妙に違うでしょ?あと、色は似てるけど厳密に言うと色素から少し異なっていてね……?例えばこうやって光を当てると……」

「わっ、ほんとだ!照らしてみると変わりますね」

 白を基調とした清潔な部屋に、所狭しと花々が飾られた、鮮やかな空間。プレジールさん自慢の「花専用部屋」に通された私は、彼女の解説を隣で聞いていた。
 始めこそその圧倒的な熱量に押され気味だったが、豊富な知識量と初心者の私に合わせた適切な言葉選び、何よりその楽しげな様子に、気づけばすっかりと聞き入っていた。

「でしょう……?似てるようでちゃんと個性があってね……それから、これは――」

「プレジール!流石に篭もりすぎじゃないか?」

 バンッと扉が開き、不安そうな様子でミェルさんが姿を現した。

「ちょっと……邪魔しないで欲しいのだけど」

「かれこれ2時間近く出てこなかったろ、もう夕方だぞ?月音ちゃんもほら、あんまり付き合わせちゃ悪いだろう」

「あ~、ミェルさん!私は大丈夫ですから!と言うか、お花の話を聞くの新鮮で楽しいですし」

 その私の一言で、曇っていたプレジールさんの表情が柔らかくなる。
 対照的にミェルさんはますます表情が翳かげって行く。

「まぁ、君が良いなら……ともかくプレジール、月音ちゃん、ちょっと話があるんだ」

「聞くけど……時間的に夕食にしながらにしましょう……構わないわよね」

「ああ、すまないね。ご馳走になるよ」

 名残惜しそうに扉に向かい、ミェルさんとすれ違うようにプレジールさんは去っていく。
 残ったミェルさんの「水を差して悪かったね」とでも言いたげな目に「問題ないですよ」という意味を込めたアイコンタクトで返し、私たちも部屋を後にした。

 *

「おぉ、この香り高いハーブを惜しみなく使ったフレッシュかつ後味が爽やかなサラダ!野獣肉ジビエの脂っこさを計算した上で、食べ合わせることにより上質な旨味のみを引き出すとはねぇ!!」

「本題を言いなさいよ」

 リビングの食卓を囲んで、私たちはプレジールさんの料理に舌鼓を打っていた。ジビエとサラダが綺麗に盛り付けらており、食欲を唆られる。現にミェルさんも本来の目的を忘れこの有様だ。

「おっと、失敬。実は君らがよろしくやってる間に身体強化の魔術の合成を試してたんだよ」

「言い方がなんかアレですけど……それで、その魔術で何を?」

 よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりにもったいぶって間を空けた後、彼女は口を開く。

「ズバリだね、一時的にだが私の足の筋力を爆発的に増強することが可能になった。これにより月音ちゃん、君を抱えて最短ルートでの到達を目指すよ……月水晶の反応があった『トリステス』とかいう小国にね」

 ――『トリステス』。宗教国家リスルディアの下部に位置する、小規模の国家。次なる私たちの目的地となった場所。

「ただ、あくまで一時的な強化であるから休憩を挟みつつね。早ければ明日中にでも着くぞ」

「……つまりミェルさんが私をお姫様抱っことかして、森の中を走りながら向かうってことですか?」

 それこそ童話にありそうな展開というか……。そもそも、転移魔術を研究していたミェルさんならワープとかで一瞬で辿り着けそうな気がするが。

「ん~、お姫様抱っこかおぶるかは君の好みに合わせるけど……原始的だがこれが一番手っ取り早いんだよ。空を飛ぶ魔術なんかもあるにはあるが、極一瞬しか使えないし」

「転移とかは?ミェルさん研究してましたよね」

「私のはあくまで『異世界転移』に比重を置いていてね、残念ながら難しい。それにご存知、転移系の魔術は贄と魔力も膨大に捻出する必要がある訳で」

 結局、走るしか方法は無いみたい。
 シュールな絵面になること請け負いだけど、こればっかりは仕方ない。

「想像したら少し面白いわね……ふふ」

 空いた食器を片付けながら微笑するプレジールさん。私も手伝って食器群を下げていく。

「という訳で善は急げだ。月水晶の反応が消える前に出立したいから、明日中には出よう」

 後ろから聞こえるミェルさんの声に、隣に居たプレジールさんが少しだけ俯いた……ように見える。さっきまでの微笑みは、いつの間にか寂しげな表情に様変わりしていた。

 ――そして、不意にこちらの襟を指でつまんで引っ張ってきた。

「ねぇ……月音、一晩ちょうだい……?」
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