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第四章
47.朝食
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「お待ちどうさま!」
しばらくして、私の前に熱くスライスしたパンが数枚と葉野菜と豆を煮こんだスープが並べられた。美味しそうな香りに、私のお腹も思わず返事をしてしまう。
「あ、ありがとうございますっ」
「お腹空いてたんですね。どうぞいっぱい食べてください」
お腹の音をごまかすように返事をして、手を合わせてスープを一口啜る。
その瞬間、口の中いっぱいに素朴で優しい味が広がった。薄すぎず濃すぎず、すうっと染み込んで芯から身体が温まる。
「おいしい……!!」
「でしょ?評判いいんですから!」
夢中になって一口、また一口とスープを味わってからパンに手を伸ばす。一緒に出されていたハチミツの入った瓶からたっぷりと蜜を塗り、思い切り頬張る。
柔らかなパンの食感にハチミツの甘みがふわりと乗って、とてつもなく美味しい。
「おいし……っ!私、こんなにおいしいパン初めてですよ」
「ありがとうございます。やっと笑顔になりましたね」
そう言われて、自分の口角が上がっていることに気がついた。思い返してみれば、こんなにほのぼのとした時間を過ごせたのは……この世界に来てから数えるほどしかなかったかもしれない。
「やっぱり笑顔の月音さんが一番素敵です!私は、詳しい事情は知りませんけど……月音さんが笑っていられるよう祈ってますからね」
グッと胸が暖かくなる。肩にまとわりついていた重荷が、その一言で軽くなったようにさえ感じた。
「スリールさん……」
感極まって声が詰まる。そのまま私が食べ終わるまで、彼女はずっと楽しげな顔を浮かべていた。
*
「ごちそうさまでした!」
「いえいえ!おいしそうに食べてくださっていたので、私も嬉しいです!」
食事を終えて店を出ると、スリールさんが見送ってくれた。
「応援してますからね、月音さん。またいつでもいらしてくださいっ」
事情を詳しく知らない彼女はまた私と会えると信じてくれている。
できることなら私も会いたい。
――そんな気持ちを振り払って深々とお辞儀をした。
行こう。もう、あとは進むだけだ。
「いいねえ、その決意に満ちた表情。実に絵になるよ」
「……前触れなく現れるの、やめて欲しいんですけど」
不意に、隣にミェルさんが現れた。
正直心臓が止まりかけたが、悟られまいと表情を変えずに返答する。
「君が居ないから探しに来たんだ。スリールと一緒にいたとはね」
「朝食をご馳走になっていました。会ったばかりなのにこんなに良くしてもらえて、感謝しかないです」
「そうか。帰りたくなくなったかい?」
その問いにはすぐに首を振った。
「いいえ。……ものすごく名残惜しいし、もっと話たいこともありましたけど、私は帰ります。絶対に」
私の返答に満足そうな笑顔を浮かべたミェルさんは、独り言のようにポツリと呟いた。
「強いね君は。うん、きっと大丈夫だな」
ふと横を歩くミェルさんの顔を見ると、今まで見たことのなかった、どこか遠くを見るような穏やかな顔をしていた。
……まるで、何かを悟ったような。
「さ、行こう。もうじき本格的に作戦会議だ」
そんな私の疑問もさておいて、ミェルさんは歩くスピードを上げた。
――いよいよ始まるんだ。リスルディアを相手取った、最後の戦いが。
しばらくして、私の前に熱くスライスしたパンが数枚と葉野菜と豆を煮こんだスープが並べられた。美味しそうな香りに、私のお腹も思わず返事をしてしまう。
「あ、ありがとうございますっ」
「お腹空いてたんですね。どうぞいっぱい食べてください」
お腹の音をごまかすように返事をして、手を合わせてスープを一口啜る。
その瞬間、口の中いっぱいに素朴で優しい味が広がった。薄すぎず濃すぎず、すうっと染み込んで芯から身体が温まる。
「おいしい……!!」
「でしょ?評判いいんですから!」
夢中になって一口、また一口とスープを味わってからパンに手を伸ばす。一緒に出されていたハチミツの入った瓶からたっぷりと蜜を塗り、思い切り頬張る。
柔らかなパンの食感にハチミツの甘みがふわりと乗って、とてつもなく美味しい。
「おいし……っ!私、こんなにおいしいパン初めてですよ」
「ありがとうございます。やっと笑顔になりましたね」
そう言われて、自分の口角が上がっていることに気がついた。思い返してみれば、こんなにほのぼのとした時間を過ごせたのは……この世界に来てから数えるほどしかなかったかもしれない。
「やっぱり笑顔の月音さんが一番素敵です!私は、詳しい事情は知りませんけど……月音さんが笑っていられるよう祈ってますからね」
グッと胸が暖かくなる。肩にまとわりついていた重荷が、その一言で軽くなったようにさえ感じた。
「スリールさん……」
感極まって声が詰まる。そのまま私が食べ終わるまで、彼女はずっと楽しげな顔を浮かべていた。
*
「ごちそうさまでした!」
「いえいえ!おいしそうに食べてくださっていたので、私も嬉しいです!」
食事を終えて店を出ると、スリールさんが見送ってくれた。
「応援してますからね、月音さん。またいつでもいらしてくださいっ」
事情を詳しく知らない彼女はまた私と会えると信じてくれている。
できることなら私も会いたい。
――そんな気持ちを振り払って深々とお辞儀をした。
行こう。もう、あとは進むだけだ。
「いいねえ、その決意に満ちた表情。実に絵になるよ」
「……前触れなく現れるの、やめて欲しいんですけど」
不意に、隣にミェルさんが現れた。
正直心臓が止まりかけたが、悟られまいと表情を変えずに返答する。
「君が居ないから探しに来たんだ。スリールと一緒にいたとはね」
「朝食をご馳走になっていました。会ったばかりなのにこんなに良くしてもらえて、感謝しかないです」
「そうか。帰りたくなくなったかい?」
その問いにはすぐに首を振った。
「いいえ。……ものすごく名残惜しいし、もっと話たいこともありましたけど、私は帰ります。絶対に」
私の返答に満足そうな笑顔を浮かべたミェルさんは、独り言のようにポツリと呟いた。
「強いね君は。うん、きっと大丈夫だな」
ふと横を歩くミェルさんの顔を見ると、今まで見たことのなかった、どこか遠くを見るような穏やかな顔をしていた。
……まるで、何かを悟ったような。
「さ、行こう。もうじき本格的に作戦会議だ」
そんな私の疑問もさておいて、ミェルさんは歩くスピードを上げた。
――いよいよ始まるんだ。リスルディアを相手取った、最後の戦いが。
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