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この世界、乙女ゲームの世界ですよ!!

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頭に少し不安がよぎりながらも会場の中に入った。

ドアが開いて、入った途端人、人、人。
こんなに呼ぶ必要があったのかと思うほど人がいた。
その人たちが私たちを一斉に見る。
先程まで話していたであろう人達も話すことをやめて、こちらを見ていた。

そりゃぁついに今回の主役が出てきたんだから当たり前だろう。

「本日は我が愛娘の4歳の誕生日パーティーにご参加頂きありがとうございます。」

お父さまはこんな人達の視線をものともせず、堂々と話し出した。
周りは自然と静まり返っていて、どの人もお父さまの言葉を聞こうとしていた。

「我が愛娘であるルイーズは元々体が弱く、実際は2歳か3歳になった頃にこういったパーティーをすべきでしたが、出来ませんでした。ですが、この度体調不良も比較的安定しだし、こうして皆様に紹介することが出来ましたこととても嬉しく思います。では、本人から紹介してもらおうと思います。まだこういった場に慣れていないので、多めに見て頂けると幸いです。」

そう言って軽く礼をするとお父さまは私にニッコリ微笑みながら視線を向けた。
その笑顔に少し安心し、私はこの会場で挨拶をした。

「はじめまして、アタナシア辺境伯の長女ルイーズ・アタナシアと申します。」

そう言って淑女の礼と言われる、少しスカートを持ち、膝を軽く折って礼をした。

「本当は皆さまに早くごあいさつをしたかったのですが、体調が悪くなかなかできなかったことをお許しください。ですが、こうしてお会いできたこと、とてもうれしく思います。どうぞこれからよろしくお願いいたします。このたびはわたしの誕生日パーティーにお集まりいただいて、ありがとうございます。」

そう言うと会場の参加者から拍手が起こった。

(いや、この挨拶噛まないようにめっちゃエマに訓練させられたんだよね。元々の記憶があるから話し方がまだ拙くてもどうにか覚えられたって思う…。)

会場自体は立食パーティーになっているのだが、私がずっと立ち続けることが厳しい為、会場の前の方にイスが用意されていたので、そこに座る許可を得て座らせてもらった。

その時にお父さまからはよくやったと褒めてもらい、直ぐに近くに来てくれたお母さまからはさすが、私の娘だわ!と抱きしめてくれた。

でもパーティーはこれで終わりではなくて、この後色んな人達のご挨拶があるのだ。

それこそお父さまの知り合いから何から何まで…。
それも個人だけでなくご家族で挨拶になるとそれぞれに挨拶されるから一家族だけでとても時間がかかる。とりあえず参加者の人達の家族構成はエマに頭に詰め込まれたので、どうにか対応出来たのだ。

パーティー自体はとても煌びやかで、置いてある食事もとても美味しそうなのに誰も食べようとしたりせず、ただただお父さまやお母さまに気に入ってもらおうとしているのが目に見えて分かるような人たちもいた。
そういう人たちは私に気に入られようと妙な視線で見ていて、あまりにも距離感が近く、近くにお父さまやお母さまがいない時にこそ触れようとしたが、それはルディが阻止してくれた。そういう所本当にかっこいいなぁと思って見ると、ルディは恥ずかしそうに照れていた。

そうこうしているとお父さまが人を連れて私に近づいてきた。

「ルゥ、こちらの方々を紹介しておくよ。」

色んな人の挨拶を受けていたが、お父さまが紹介することはほとんどなかった。
なのでこの人は絶対これからも関わる人なんだろうなぁと思って姿勢を正した。

「この方々はウィンザー公爵御一家で、この国の王の1番近くにいらっしゃる方だよ。この方がロイド・ウィンザー公爵、こちらが奥様のシルビア様、そしてこちらがそのご子息のエイドリアン様だ。」
「はじめまして、ウィンザーさま。座ったままのごあいさつ、お許しください。ルイーズ・アタナシアと申します。」

そう言ってニッコリ微笑んで軽く座りながらお辞儀をした。

そうして顔を上げてみると、黒い短髪の背の高いスラッとした男性で切れ長の茶色い目をしたとても男前な男性とピンクがかった金色の髪に青い色の瞳を持った笑顔のとても綺麗な女性、そして黒い髪を後ろに流して固めていて、黒い瞳をした少年がいた。

(ん?さっきなんて言った…?)

「初めまして、アタナシアの姫君。私はロイド・ウィンザーだよ。あなたのお父様とはとても仲良くさせて頂いてて、彼が辺境伯だからなかなか会えないんだけど、会えた時は必ず夜どうし飲み明かす程の中なんだよ。だから君の話はもういいよってぐらい聞いていてね。」
「初めまして、ルイーズさん。私はシルビア。こちらが息子のエイドリアンよ。あなたと比べると1つ年上になるの。私はあなたのお母様と昔からの友人でね。とてもあなたに会いたかったの。この息子ともどうか仲良くしてあげてね。」

ウィンザー公爵ご夫妻はとても笑顔で私に接してくれた。

でも私が気になったのはさっきから笑顔の欠片も見せない不貞腐れた少年だった。

(エイドリアン・ウィンザー…。ローズマリアのウィンザー公爵の息子…。)

「ほら、エイドリアン。ご挨拶は?」

ウィンザー夫人がそう言って彼の背中を押して私の近くに寄せた。

「はじめまして、エイドリアンです。」

彼は私の方を見ることなく軽くお辞儀をする。

「ごめんなさいね。ちょっと人見知りなのよ…。」

ウィンザー夫人がそう言うが私は他のことに頭がいっぱいだった。

(え…。ローズマリアにエイドリアン…。絶対これ乙女ゲーム“ローズガーデン~秘密の恋~”の中じゃない!!え!私ゲームの世界に転生したの?!しかもエイドリアンってどのルートでも常に悪役!っていう設定で、ヒロインとそのパートナーの邪魔をする言わば敵役!何より……私の1番のそして何よりも大切だった推しだわ!!!!!)

表情は一応笑顔をキープしていたが、心は大荒れだった…。
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