オニの世、ヒトの世〜恋情の思慕〜

冬月紫音

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龍と晴と華夜

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あの日も雨だった。

ずぶ濡れになってオニの世を出た日。

あれから雨の日は嫌い。

良いことなんて雨の日に起こったことがないもの。

全てはいつも雨の日…。

そして今日も雨。

英絵ハナエさん。」
「はい。」
「傘忘れたの?」

私は会社の玄関でボーッと立っていたので同じ職場の女の子が声をかけてくれた。

「そうなんです。朝の天気予報見るの忘れてて…。」
「そっか…。家近かったっけ?」
「いえ、少し歩きます。」
「そうだよねぇー。どっかのコンビニで傘買う?それまで一緒に傘入ってく?今日はもう雨止まないんじゃないかな?」
「いえ、お構いなく…。明日土曜日で休みですし、今日は濡れて帰ります。」
「本当にそれで良いの?」
「はい。ありがとうございます。気にかけてくださって。」
「いいよ、いいよ。本当に大丈夫なんだね?」
「はい。」
「んじゃ私は先に帰るねー。おつかれー!」
「はい。お疲れ様です。」

私はヒトになってから、人間には名字が必要だと知った。
なので今英絵華夜ハナエカヨと名乗っている。

あれから色々あってもう10年も経つのか…。

本当にあそこから出て色々あったなぁと雨空を見上げながら思った。

「華夜?」
「あ、夜行ヤコウ先輩…。」
「今から帰るのか?傘は?」
「えっと、忘れました…。」
「本当にお前は…。んで何ボーッとしてたんだ?」
「いや、なんとなく…。今から帰りますので…。」
「俺の傘に入れよ?どうせ帰る方向一緒だろ?」
「いえ、結構です…。」
「遠慮なんかするなよ。お前はいつも遠慮してばっかりだな。たまには俺に頼れよ。同じなんだから。」

そう言って夜行先輩は私の肩に手を回した。

私はこのヒトが苦手だった。
馴れ馴れしく、知り合いかのように接してくる。実際は大学の時のただの2つ上の先輩でただ同じヒトだというだけで、大学の時も何かしら近づいてきては距離感が近かった。

それにこのヒトは嫌な感じがした。

現在も勧誘してくるある組織がある。

でも私はそれに拒否し続けている。

それでもしつこくやってくる。

しまいには同じ職場にもなってしまった。

部署は違うが何かと絡んできて、正直鬱陶しい。

私はこの会社の経理を行なっていた。
周りは人間の女のヒトばかりだけど、流石に人間の世界に10年もいれば馴染む。
たまたまこの職場は良い人達ばかりで、なかなか仕事に慣れなかった私に優しくしてくれた。

なるべくおとなしく、人間に違う者だとバレないように地味に見えるようにに幻惑をかけて、目立たないようにしているのにこのヒトのせいで少し目立つのだった。

「離れてください…。傘は結構です。家まですぐそこですので…。」
「そんな嘘はつくな。お前の家ぐらい知ってる。ちゃんと調べてあるからな。組織の幹部候補生として…。」
「やめてください。何度も言っているでしょう。私は協力する気はありません。大学の時からお断りしているはずです。」
「そんなこと言うなよ。お前の治癒能力、幻惑能力は他のヒトと比べても天と地の差がある。お前はいわばヒトの中でもエリートなんだよ。それを勧誘しないでどうしろというんだ。」
「とにかく結構です。失礼します…。」

そう言って無理矢理離れて、雨の中走った。

「おつかれさん。またな。」

そんな声が後ろから聞こえたが無視した。

やっぱり雨の日は最悪だ。

あの男にも会うし、最悪…。

そう言ってヒールで走った。
スーツや中のシャツが濡れていたがもう気にしなかった。
一気に幻惑の能力を強くして体全体を隠したからだ。
こうすればぶつかったりしない限り人間やヒトから認識されない。

そうしてたくさん歩いている人の中をぶつからないように走った。

そうすれば昔のことも今のことも考えないように済むと思ったから…。

交差点で信号待ちをしながら俯いた。

あぁ、またあの日のようにずぶ濡れだ。

なるべくあの日のようにならないように、思い出さないように雨の日はきちんとチェックするのに。

なのに今日に限って失敗した。

失敗した日に限って、避けていた先輩にも会うし…。

あの組織なんか入るわけない。

信号が青になった。

急いで帰ろう。
モタモタするとまた嫌なことが起きるかもしれない。
私はもう平穏に生きたいだけなのに…。

沢山の人混みの中走って渡ろうとした。

「華夜!!!」

そう呼ばれ、走ろうとしていた右腕を取られて後ろに引っ張られる。
そしてそのまま後ろにいる人物に抱きしめられた。

あまりにも急だったのでとっさに腕を取られてしまったけど、少し冷静になってその腕から離れようとした。

けど抱きしめる腕が強くて解けなかった。

「は、離してください…。」

そう言っても後ろにいる人は動かなかった。
人に触られていることで周りの人も私のことが認識できていて、少し目立っていた。

「あの、誰か知りませんけど、お願いです。離してください。周りの人が…」

そう言うとあっさり離されたが左手を握られてそのまま無理矢理自分が渡ろうとした方向に連れていかれて、近くにあった店先の屋根のある所まで連れていかれた。

その時抵抗出来なかったのは手を引っ張る後ろ姿がよく知っている人物だったからだ。

屋根のある所まで連れて行かれた所で握っていた手を離されて正面から見られた。

そして私の身長に合わすようにかがんで、両手で私の両頬に触れた。

「本当に華夜だ…。本当の本当に華夜だ…。やっと、やっと会えた…。」
「龍…。」
「ずっと会いたかった…。ずっとずっと会いたかった…。オニの世に残ってるかとも思ってずっと探してたんだ。無事で、怪我とかもしてなくて、本当に良かった…。」

自分がずぶ濡れ姿ということもあってあまり見て欲しくなかったけど、龍は目を合わせてくる。

どうにか目を逸らしたくなって俯きかけたけど、両頬を手で包まれている為下にも向けない。

「とりあえず、どっか落ち着ける所で話そう。晴もこっちに来てる。今仕事で離れてたんだけど、すぐ連絡したら来ると思う。落ち着く所分かるか?それにお前ずぶ濡れじゃないか。そのままじゃ風邪ひくからそれも着替えさせてやりたいし…。」

両頬にあった手は外されたけど、また左手を握られた。
もう逃がさないとでもいうように。
でも見つかったら私も逃げる気はなかった。

龍はどこか休める所を探すためにキョロキョロと周りを探しながら上着の左ポケットから携帯を取り出して、電話をかけた。

「晴、冷静によく聞け。華夜が見つかった。すぐに来い。俺のオーラを辿ればお前なら場所分かるだろ?早く来い!」

急いだ口調でそう言うと電話を切りまたポケットに戻した。

「とりあえず、どっか場所ないかな…」
「あの、龍…。」
「ん?なんだ?どした?」

さっきまでの晴と話した口調とは違ってすごく優しい口調で言われて一瞬戸惑った。

「えっと、あの…。」
「ん?」
「このすぐ近くに私の部屋があるの…。そこで話す…?」
「良いのか?」
「その方がゆっくり話せると思うし…。それに着替えもあるし…。あと先に入って着替えるからちょっとだけ外で待っててほしい…。」
「え、あ、そうだよな。分かった。たぶん晴は俺のオーラを追っかけて来ると思うからたぶん俺が動いても来ると思う。」
「分かった。んじゃすぐそこだから…。」

そう言って家に向かって歩き出したけど、繋いだ手はそのままだった。
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