愛に変わるのに劇的なキッカケは必要ない

かんだ

文字の大きさ
2 / 26

2.

「だから落ち着けって言ってるだろ。俺が悪かったから」
「落ち着けるわけがないだろ! 馬鹿野郎!」
「分かったから」
「何が分かったんだよ! 馬鹿! 何も分かってないくせに適当なこと言うな!」
「適当じゃないって。俺が悪かった。まずは落ち着いて話そう」
「落ち着けるわけがないだろ! 馬鹿野郎!」
「俺が馬鹿野郎なのは分かってるから」
「今分かっても遅えんだよ! この馬っ、ゔっ!?」
「……」
「……」
「……」
「……繰り返し同じことしか言わないからって、気絶させることないのでは?」
「いや、違う。ただ落ち着かせようと思って」
「気絶させたと」
「……まぁ、そういうことになるな? 結果的に」
「で? どうするおつもりですか? そのオメガ」
 抱き止めた小さな体を見下ろしながら、俺は逡巡の末、答える。
「家に連れ帰るしかないだろ」
「正直、志貴様が面倒見る必要はないと思いますけど」
 少し不満げな声と視線、向けられる先は俺の腕の中。圭人が何を考えているか、よく分かる。
 俺が抱き止める男はオメガで、二回会っただけの知人にもならない存在だ。知っているのは名前のみ。共通の友人知人もいない。
 何故俺が謝り、気絶させ、丁寧に抱き上げているのか、まずはこいつと出会ったことから話は始まる。

 ♦︎

「志貴様、ご家族からお見合い写真を預かってきましたよ」
「預かってくるなよ。どうせ見ないんだから」
「見るくらいはしてください。可愛いオメガばかりなのに」
「見た目に興味はない」
 春麗らかな昼下がり。窓の外には綺麗な青空が広がるのに、圭人が持ってきた不必要な見合い写真のせいで気分は最悪だ。せっかく難産だった執筆活動を終えて生まれ変わったような清々しい気持ちでいたのに。台無しである。
 ソファーへ乱暴に座り、ローテーブルに置かれた見合い写真を一瞥する。つい最近も山が出来るほどの見合い写真を寄越してきたくせに、まだ候補はこんなにもあるのかとウンザリする。
「持って帰ってくれよ?」
「一応言いますが、そちらは以前志貴様が言っていた好みのタイプど真ん中の方々ですよ」
「あ~、その時なんて言った?」
 自分で言ったことだろうが、本心というわけではないためイマイチ覚えていない。
 圭人は呆れたような目を向けながら答えた。
「綺麗系、フルーツ系のフェロモン、華奢な体、笑顔が可愛い」
「ははは」
「笑い事じゃないですよ。自分で言ったくせに」
「その時はそれがタイプだったのかもな」
 我ながら適当に答えたものだ。どんな相手を寄越されても見合いをする気はないため、テレビで人気のオメガを言っただけ、ということを思い出した。
「志貴様ももう二十三でしょ? そろそろ身を固めて欲しいと思っているんですよ」
「まだ二十三だ。優性アルファだからって早くに結婚する必要もないだろ」
「でも志貴様のご両親は二十歳で結婚してその歳には二人を産んでいるじゃないですか」
「両親が早いだけだよ」
 自分達が早くに出会い、結婚して、数少ない優性アルファを三人も産んで、常に幸せの絶頂にいるからと、我が子にもオメガとの結婚を急かしてくるのだ。二人が幸せなのは良いことだが、それを押し付けてくるのは本当にありがた迷惑。上の二人はすでに結婚して優性アルファの子どもを産んでいるのだから、例え末っ子の俺が独り身を突き通したとしても許して欲しいものだ。
「そんなに結婚したくないんですか?」
「そういうわけじゃないけど、わざわざ見合いをしてまでは必要ない」
「どうせ誰とも長続きしないんだから、お見合いしてみれば良いのに」
 誰と付き合っても体を重ねても、一瞬の楽しさはあるが自慢したいほどの幸福度はない。だからだろうか、その楽しさは代替えが効くせいで、一人と長く続けられたことがない。
 だからこそ、お互いに一途な両親は俺のプライベートを心配しているのかもしれない。
「知らない奴と会う時間があるなら仕事している方がマシだ」
「またそんなことを。小説家もやめてもっと仕事に専念しては? 志貴様の作品はとても素晴らしいですが」
「一つの事業部を担当しているだけでも褒めてもらいたいけどな」
 適当に相槌を打てば、圭人は見合い写真を一枚一枚捲りながら見せてくる。一応それを目で追うが、特に思ったことはない。オメガっぽいなぁ、くらいだろうか。
「全く惹かれる方はいませんでしたか?」
「うん」
「どんな方だったら、一度くらいな会ってみようと思えますか?」
「そうだな、オメガらしくないオメガとか? オメガの性質が薄い、みたいな。元々オメガのフェロモンは好きじゃないし」
 圭人は一度口を開いたがすぐに閉じる。多分、性質が薄いと妊娠は期待出来ない、と言いかけたのだろう。だが、俺が独り身を突き通すよりもオメガと結婚することが優先だと思い、閉じた。
「親もうるさいし、一度くらいは会うよ。そういうオメガがいれば」
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

ネガティブなΩがスパダリαから逃げる

ミカン
BL
オメガバース

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。最後におじいさまの番外編を追加しました。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 ※画像はpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。