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「だから落ち着けって言ってるだろ。俺が悪かったから」
「落ち着けるわけがないだろ! 馬鹿野郎!」
「分かったから」
「何が分かったんだよ! 馬鹿! 何も分かってないくせに適当なこと言うな!」
「適当じゃないって。俺が悪かった。まずは落ち着いて話そう」
「落ち着けるわけがないだろ! 馬鹿野郎!」
「俺が馬鹿野郎なのは分かってるから」
「今分かっても遅えんだよ! この馬っ、ゔっ!?」
「……」
「……」
「……」
「……繰り返し同じことしか言わないからって、気絶させることないのでは?」
「いや、違う。ただ落ち着かせようと思って」
「気絶させたと」
「……まぁ、そういうことになるな? 結果的に」
「で? どうするおつもりですか? そのオメガ」
抱き止めた小さな体を見下ろしながら、俺は逡巡の末、答える。
「家に連れ帰るしかないだろ」
「正直、志貴様が面倒見る必要はないと思いますけど」
少し不満げな声と視線、向けられる先は俺の腕の中。圭人が何を考えているか、よく分かる。
俺が抱き止める男はオメガで、二回会っただけの知人にもならない存在だ。知っているのは名前のみ。共通の友人知人もいない。
何故俺が謝り、気絶させ、丁寧に抱き上げているのか、まずはこいつと出会ったことから話は始まる。
♦︎
「志貴様、ご家族からお見合い写真を預かってきましたよ」
「預かってくるなよ。どうせ見ないんだから」
「見るくらいはしてください。可愛いオメガばかりなのに」
「見た目に興味はない」
春麗らかな昼下がり。窓の外には綺麗な青空が広がるのに、圭人が持ってきた不必要な見合い写真のせいで気分は最悪だ。せっかく難産だった執筆活動を終えて生まれ変わったような清々しい気持ちでいたのに。台無しである。
ソファーへ乱暴に座り、ローテーブルに置かれた見合い写真を一瞥する。つい最近も山が出来るほどの見合い写真を寄越してきたくせに、まだ候補はこんなにもあるのかとウンザリする。
「持って帰ってくれよ?」
「一応言いますが、そちらは以前志貴様が言っていた好みのタイプど真ん中の方々ですよ」
「あ~、その時なんて言った?」
自分で言ったことだろうが、本心というわけではないためイマイチ覚えていない。
圭人は呆れたような目を向けながら答えた。
「綺麗系、フルーツ系のフェロモン、華奢な体、笑顔が可愛い」
「ははは」
「笑い事じゃないですよ。自分で言ったくせに」
「その時はそれがタイプだったのかもな」
我ながら適当に答えたものだ。どんな相手を寄越されても見合いをする気はないため、テレビで人気のオメガを言っただけ、ということを思い出した。
「志貴様ももう二十三でしょ? そろそろ身を固めて欲しいと思っているんですよ」
「まだ二十三だ。優性アルファだからって早くに結婚する必要もないだろ」
「でも志貴様のご両親は二十歳で結婚してその歳には二人を産んでいるじゃないですか」
「両親が早いだけだよ」
自分達が早くに出会い、結婚して、数少ない優性アルファを三人も産んで、常に幸せの絶頂にいるからと、我が子にもオメガとの結婚を急かしてくるのだ。二人が幸せなのは良いことだが、それを押し付けてくるのは本当にありがた迷惑。上の二人はすでに結婚して優性アルファの子どもを産んでいるのだから、例え末っ子の俺が独り身を突き通したとしても許して欲しいものだ。
「そんなに結婚したくないんですか?」
「そういうわけじゃないけど、わざわざ見合いをしてまでは必要ない」
「どうせ誰とも長続きしないんだから、お見合いしてみれば良いのに」
誰と付き合っても体を重ねても、一瞬の楽しさはあるが自慢したいほどの幸福度はない。だからだろうか、その楽しさは代替えが効くせいで、一人と長く続けられたことがない。
だからこそ、お互いに一途な両親は俺のプライベートを心配しているのかもしれない。
「知らない奴と会う時間があるなら仕事している方がマシだ」
「またそんなことを。小説家もやめてもっと仕事に専念しては? 志貴様の作品はとても素晴らしいですが」
「一つの事業部を担当しているだけでも褒めてもらいたいけどな」
適当に相槌を打てば、圭人は見合い写真を一枚一枚捲りながら見せてくる。一応それを目で追うが、特に思ったことはない。オメガっぽいなぁ、くらいだろうか。
「全く惹かれる方はいませんでしたか?」
「うん」
「どんな方だったら、一度くらいな会ってみようと思えますか?」
「そうだな、オメガらしくないオメガとか? オメガの性質が薄い、みたいな。元々オメガのフェロモンは好きじゃないし」
圭人は一度口を開いたがすぐに閉じる。多分、性質が薄いと妊娠は期待出来ない、と言いかけたのだろう。だが、俺が独り身を突き通すよりもオメガと結婚することが優先だと思い、閉じた。
「親もうるさいし、一度くらいは会うよ。そういうオメガがいれば」
「落ち着けるわけがないだろ! 馬鹿野郎!」
「分かったから」
「何が分かったんだよ! 馬鹿! 何も分かってないくせに適当なこと言うな!」
「適当じゃないって。俺が悪かった。まずは落ち着いて話そう」
「落ち着けるわけがないだろ! 馬鹿野郎!」
「俺が馬鹿野郎なのは分かってるから」
「今分かっても遅えんだよ! この馬っ、ゔっ!?」
「……」
「……」
「……」
「……繰り返し同じことしか言わないからって、気絶させることないのでは?」
「いや、違う。ただ落ち着かせようと思って」
「気絶させたと」
「……まぁ、そういうことになるな? 結果的に」
「で? どうするおつもりですか? そのオメガ」
抱き止めた小さな体を見下ろしながら、俺は逡巡の末、答える。
「家に連れ帰るしかないだろ」
「正直、志貴様が面倒見る必要はないと思いますけど」
少し不満げな声と視線、向けられる先は俺の腕の中。圭人が何を考えているか、よく分かる。
俺が抱き止める男はオメガで、二回会っただけの知人にもならない存在だ。知っているのは名前のみ。共通の友人知人もいない。
何故俺が謝り、気絶させ、丁寧に抱き上げているのか、まずはこいつと出会ったことから話は始まる。
♦︎
「志貴様、ご家族からお見合い写真を預かってきましたよ」
「預かってくるなよ。どうせ見ないんだから」
「見るくらいはしてください。可愛いオメガばかりなのに」
「見た目に興味はない」
春麗らかな昼下がり。窓の外には綺麗な青空が広がるのに、圭人が持ってきた不必要な見合い写真のせいで気分は最悪だ。せっかく難産だった執筆活動を終えて生まれ変わったような清々しい気持ちでいたのに。台無しである。
ソファーへ乱暴に座り、ローテーブルに置かれた見合い写真を一瞥する。つい最近も山が出来るほどの見合い写真を寄越してきたくせに、まだ候補はこんなにもあるのかとウンザリする。
「持って帰ってくれよ?」
「一応言いますが、そちらは以前志貴様が言っていた好みのタイプど真ん中の方々ですよ」
「あ~、その時なんて言った?」
自分で言ったことだろうが、本心というわけではないためイマイチ覚えていない。
圭人は呆れたような目を向けながら答えた。
「綺麗系、フルーツ系のフェロモン、華奢な体、笑顔が可愛い」
「ははは」
「笑い事じゃないですよ。自分で言ったくせに」
「その時はそれがタイプだったのかもな」
我ながら適当に答えたものだ。どんな相手を寄越されても見合いをする気はないため、テレビで人気のオメガを言っただけ、ということを思い出した。
「志貴様ももう二十三でしょ? そろそろ身を固めて欲しいと思っているんですよ」
「まだ二十三だ。優性アルファだからって早くに結婚する必要もないだろ」
「でも志貴様のご両親は二十歳で結婚してその歳には二人を産んでいるじゃないですか」
「両親が早いだけだよ」
自分達が早くに出会い、結婚して、数少ない優性アルファを三人も産んで、常に幸せの絶頂にいるからと、我が子にもオメガとの結婚を急かしてくるのだ。二人が幸せなのは良いことだが、それを押し付けてくるのは本当にありがた迷惑。上の二人はすでに結婚して優性アルファの子どもを産んでいるのだから、例え末っ子の俺が独り身を突き通したとしても許して欲しいものだ。
「そんなに結婚したくないんですか?」
「そういうわけじゃないけど、わざわざ見合いをしてまでは必要ない」
「どうせ誰とも長続きしないんだから、お見合いしてみれば良いのに」
誰と付き合っても体を重ねても、一瞬の楽しさはあるが自慢したいほどの幸福度はない。だからだろうか、その楽しさは代替えが効くせいで、一人と長く続けられたことがない。
だからこそ、お互いに一途な両親は俺のプライベートを心配しているのかもしれない。
「知らない奴と会う時間があるなら仕事している方がマシだ」
「またそんなことを。小説家もやめてもっと仕事に専念しては? 志貴様の作品はとても素晴らしいですが」
「一つの事業部を担当しているだけでも褒めてもらいたいけどな」
適当に相槌を打てば、圭人は見合い写真を一枚一枚捲りながら見せてくる。一応それを目で追うが、特に思ったことはない。オメガっぽいなぁ、くらいだろうか。
「全く惹かれる方はいませんでしたか?」
「うん」
「どんな方だったら、一度くらいな会ってみようと思えますか?」
「そうだな、オメガらしくないオメガとか? オメガの性質が薄い、みたいな。元々オメガのフェロモンは好きじゃないし」
圭人は一度口を開いたがすぐに閉じる。多分、性質が薄いと妊娠は期待出来ない、と言いかけたのだろう。だが、俺が独り身を突き通すよりもオメガと結婚することが優先だと思い、閉じた。
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