愛に変わるのに劇的なキッカケは必要ない

かんだ

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3.

 そんなことを圭人に言って、一週間経った時だった。
 実家はオメガらしくないオメガを見付けてきたらしく、早速見合いをセッティングしてきた。普段は写真を送ってくるのに、それもなく初っ端から対面だ。俺の気が変わらないうちに会わせたいらしい。
「志貴様、今日はホテルの個室で夕食を取ることになっています。お相手は瀬名斗真様。瀬名家は中流家庭ですが、斗真様は有名な大学にも通っていますね」
 圭人から相手の話を聞きながら、支度を整えようと重い腰を上げる。ラフな格好からスーツに着替え、髪を後ろに撫で付ける。気は進まないが、毎日見合いのことを言われるより一度会ってしばらく大人しくさせる方がマシだ。一時間だけ我慢して、やっぱりオメガとは相性が良くないと伝えるつもりだ。
 見合い会場のホテルへ到着すると、圭人は「部屋は取ってありますので、お一人でもお二人でもお好きなようにお使いくださいね」と残し帰って行く。見合い先まで監視も兼ねて着いてくるかと思っていたがこの先は一人らしい。これなら一時間も我慢しなくて良いかもしれない。
 三十分で切り上げようと決め、案内された個室へ向かった。
 その途中。「せ~な~、早く来いよ~」と間延びした声が聞こえ、思わず立ち止まる。
 瀬名、相手の名前だろうか。
 短髪の男はベータだ。ここには不釣り合いな安物のスーツを着ている。彼の視線の先から現れたのは、小柄な男だった。多少マシなスーツを着ているが、体に合っていないように見える。
 ここは予約客のみしか通らず、圭人曰く今日は自分たち以外はいないとのことだった。瀬名と呼ばれてもいるし、彼が相手で待ち間違いない。
 彼らからは見えない場所で会話を聞くことにした。相手がどんな気持ちで今日の場に臨んでいるか、確認しておこうと思ったからだ。
「うるさいな。言われなくても行くよ」
「緊張してんの?」
「……うん」
「大丈夫だって。相手は乗り気なんだし、絶対上手くいくよ」
 乗り気、どんなふうに伝えてあるのか。
 瀬名の表情はどこか期待に満ちている。応えられない場合は面倒なことになるだろう。今から気が滅入りそうだ。
「上手くいくかな?」
「うん。お前は良い奴だから、絶対大丈夫」
 瀬名は男の励ましに頷き、小さく気合を入れる。
「そうだよな。ここまで来たんだし、大丈夫」
 ……大丈夫じゃない。たった三十分でこの見合いは終わらせるつもりだ。
 瀬名は俺が言ったようにオメガの性質は薄かった。むしろあまり出会ったことがないような、不可思議なフェロモンを感じる。
「最悪一夜だけでも良いし。それ以外何も望まないんだし、大丈夫だよな?」
 健気だな。本心か? 本心だよな。周りには誰もいないんだから。
「そうだな。お前は良い奴だけど、一目惚れされるタイプじゃないから。一夜だけお情けをもらえれば充分だ」
「うるせえな」
 確かに瀬名は今まで会ったオメガに比べるとものすごく可愛いわけでも綺麗なわけでもない。淡い栗色の髪、大きなアーモンドアイ、活発そうな表情、可愛いや綺麗というよりも男の子という印象が大きい。
「お前の良さは一緒に過ごさないと分からないからさ~。気にするなよ」
「別に気にしてねえし。元々少しだけ一緒にいてくれれば良いし」
 一晩か。一晩くらいなら、相手をしてあげた方が良いのだろうか。
 悩ましいところだ。相手をした場合、しない場合、どちらがお互いにとって楽か考える。
「俺はそろそろ帰るから、何かあればすぐに連絡しろよ?」
「うん。ありがとう。落ち着いた」
 男と瀬名が別れ、一人になる。途端に不安そうな表情を浮かべる瀬名に、今日はなかったことにしようと決める。
 たった一夜共にするだけで充分だと思うような相手を抱くのは気が引ける。ならさっさとこの見合いに希望はないと教えた方がまだ傷が浅く済むだろう。
 俺は瀬名に近付いた。
「瀬名君」
 名前を呼べば体を跳ねさせて振り向く。
 アーモンドアイが丸く見開いた。
「今日はごめん。なかったことにしよう」
「……は?」
「ここまで来させて申し訳ないけど、帰ってくれるか? タクシー代は出すから」
「ぇ、待って。どういうこと? なんで急に?」
 瀬名は混乱の表情を浮かべた。
 俺が乗り気だと聞いてきたのだから、開口一番拒絶されては誰でも驚くだろう。
「悪い」
「悪いって、そんな、一言で。俺、なんかした?」
 少し潤んだ瞳で見上げられ、何故か良心が痛みそうになる。
「何もしてない」
「じゃあ、良いじゃん。俺、今日のために頑張ってきたのに」
「申し訳ない」
 瀬名は悲しそうな表情をしたと思ったが、すぐに怒りに変えた。
「ふざけんなよ。謝って済む問題じゃねえだろ。何考えてんだクソ野郎」
 瀬名は結構口が悪いらしい。周りは教養のある者や少しでも俺に良く見られるために媚びを売る者ばかりだったから不思議と新鮮な気持ちになる。
「そっちが乗り気だったのは分かるが、本気になられても困るんだよ」
「本気? 本気になんねえよ。一度だけの話しなんだから。今日が終われば綺麗さっぱり忘れるつもりだし」
「……本当か?」
 力強く頷かれる。
「今日のためにおめかしもしてきたし、頑張って良いホテルも用意したんだぞ」
 得意気な顔だ。両手を広げているのは自分の姿を見せるためだろう。体格に合っていないスーツ姿を「おめかし」と言う瀬名は少し可愛いと思ってしまった。
 それに、このホテルはうちの家が用意したと思ったが、瀬名家が用意したことを知る。中流家庭にしては確かに頑張った方だろう。
「本当に、一度だけで良いのか?」
「うん」
「部屋は?」
 そう聞くとホテルキーを渡される。随分と下の階だ。泊まったこともない。
 俺はそれを受け取り、「じゃあ、これっきりな」と念を押し、瀬名の手を取った。本当なら最初は個室で食事をすると聞いていたが、本人がその気なら一度だけさっさと抱いてしまおうと決める。最近溜まっていたせいもり、そんな選択をしてしまった。
 部屋に着いてすぐ、瀬名を引き寄せる。
「わっ、なに」
「瀬名君、経験は?」
「……一応、何回かは」
「そうか。今日は手っ取り早くフェロモン使うからな」
「うん」
 オメガを発情させるフェロモンを出す。……と、瀬名は驚いたように体を強張らせた。
「――っ!? おい、お前! なに、してんだ!?」
「フェロモンだ。素面でやるより良い」
「は? 待て、何のはなし」
 オメガの匂いが徐々に強くなる。ベッドに倒す頃には瀬名の体には力が入っていなかった。
「なに、やだ、なんで」
「気持ち良くしてやるから、安心しろ」
「や、だぁ」
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