愛に変わるのに劇的なキッカケは必要ない

かんだ

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 そして、次に正気に戻った時、俺は喉が裂けるほど大声を出した。
「あ゙ぁーー!!」
「一旦落ち着こう。な? セナ。そんな大声出したら喉を痛めるから」
「うるせえ!! 馬鹿! 強姦魔!」
「だから落ち着けって言ってるだろ。俺が悪かったから」
「落ち着けるわけがないだろ! 馬鹿野郎!」
「分かったから」
「何が分かったんだよ! 馬鹿! 何も分かってないくせに適当なこと言うな!」
「適当じゃないって。俺が悪かった。まずは落ち着いて話そう」
「落ち着けるわけがないだろ! 馬鹿野郎!」
「俺が馬鹿野郎なのは分かってるから」
「今分かっても遅えんだよ! この馬っ、ゔっ!?」
 首に突然の衝撃を感じた瞬間、俺の視界は真っ暗になった。

 ♦︎

「俺は連城志貴。こっちは高嶋圭人」
「どうも」
「……えと、俺は平岡秀治です。セナから、大体のことは聞いてます」
「自己紹介なんかしてどうすんだよ」
「セナ~、ちょっと落ち着こうな?」
 隣に座る秀治に諌められ、ふんっと鼻を鳴らして顔を背ける。全員の視線が集まっていると分かるが気付かないフリをする。
「僕の方から話をさせてもらいますね」
 高嶋が咳払いをしてから始める。
 今、この場には俺と秀治、志貴と高嶋の四人がソファーに座っている。気絶する前は俺たちしかいなかったけど、どうやら今後の話をするために他の二人を呼び寄せたらしい。
「不運なアクシデントにより、藤岡セナの性がオメガに安定しました」
「おい、不運なアクシデントじゃないだろ。一回目は一億歩譲ってそうだったとしても、二回目はそいつが無理やりしたんだからな」
 何が不運な、だ。一回目だって、ベッドに倒された時に俺はちゃんと違うと、待ってと言った。それなのに無視してフェロモンを出して進めたのは志貴だ。そして二回目も、先輩にお願いしてオメガのフェロモンを浴びようと思っていたのに、無理やり擬似ヒートを起こさせ、俺を好き勝手した。
 ――ちゅー、していい?
 ――あぁ、たくさんしよう。
 ――ふ、ん、ん。
 脳裏に過ぎる姿は、全部志貴のせいだ。
 志貴を睨み付ければ、すぐに謝罪が返ってくる。
「そうだな。俺が悪かった」
「謝って済む問題じゃねえ」
「分かってる」
「……まぁ、色々あって、オメガに安定しました。慰謝料をお支払いし、和解するということでよろしいですね?」
「俺はこれからもオメガなんかとして生きていかなきゃなんねえんだぞ。たった一回慰謝料払って終わりなんて鬼畜か」
「セナは何を望む? 叶えられるなら叶えるから」
「慰謝料はもらう。オメガになったせいでバイト先がクビになった。俺の生活を保護しろ」
 バイトで生計を立てているのに、志貴に二度目に会うまでの一週間で全部のバイトがクビになった。
 ――ごめんね。お客さんにアルファが多いから。
 ――オメガになったのか? 苦情がきたんだよ。
 ――ちょっと今まで通り雇うのは難しいかなぁ。
 などなどなど。
 どこも発情期があるオメガを敬遠する。発情して周りに迷惑を掛けるリスクがあるから、わざわざバイトとして雇う奇特な人間はいない。
「分かった。俺が安全なところを探すよ。最低でも今まで稼いでいた分は稼げるように。他は?」
「他は、抑制剤とか、定期検診とか、オメガのせいで掛かるお金はお前が払え」
「あぁ、それもそうだな。抑制剤も安くはないし」
「秀治、他もなんかあるかな」
「セナ、アルファを紹介してもらったらどうだ?」
 他に何をしてもらおうか、そう考えていれば、秀治から思ってもいなかったことを提案される。
「ほら、オメガはヒート中は一人だとキツイから、アルファに助けてもらうのが一番だって聞くしさ」
「……そうなの?」
「調べたらそうだって。一週間は続くけど、アルファがいれば一日で終わることもあるらしい。でも俺らの周りにアルファいないしさ~。変な奴に引っかかるよりマシじゃん?」
 確かに、オメガになったばかりだからいつ発情するか分からない。一人で辛く過ごすより、その時だけ助けてもらった方が良いかもしれない。本当に一緒に過ごすかどうかは分からないが、保険として用意してもらっておけば良い。
「じゃあ、安心安全なアルファ紹介しろ」
「……分かった。他は?」
「あとオメガも紹介しろ」
「オメガも? どうして」
 そんなの、オメガと付き合いたいからに決まっている。元々オメガと結婚することが夢だったのだ。オメガになってしまったが、オメガと結婚することは出来る。
「俺はオメガが好きなんだ。だからオメガを紹介しろ」
「オメガよりアルファと付き合った方が良いだろ?」
「うるさい。アルファじゃダメなんだよ」
「連城さん、すみません。そこは譲れないので、もし良い人を知っていたら紹介してやってくれませんか?」
 秀治も援護に入り、志貴は眉根を寄せた表情で「考えるよ」と頷く。
「他は?」
「困った時には、絶対俺を助けるって誓え」
「分かった」
 とりあえずはこのくらいで良いだろう。
「セナ、良かったな。ちゃんとした人で」
「ちゃんとした人は強姦なんかしねえ」
「ははは、まあそうだけど。でもちゃんと誠実に対応してくれているじゃんか。な?」
 秀治がケラケラと笑いながら肩を組んでくる。他人事だからそんな簡単に言えるんだ。
 俺はムッとしながら秀治の方に体重をわざと掛けた、ところで、志貴に名前を呼ばれる。
「セナ」
「なんだよ」
「こっちに座ったらどうだ?」
「なんでだよ」
 アルファとはあまり関わることがなかったけど、こいつほど意味が分からない人間はいないと思う。
 俺は引きながら秀治に寄り掛かる。
「ほら、そっちは狭いだろ」
「そっちもこっちも同じ二人掛けソファーだろ。しかもお前の方が秀治よりデカいんだからそっちの方が狭えだろ」
「そんなことない。隣に来て試してみろ」
「セナ、とりあえずそっち座っとけ」
「なんでだよ~!」
 秀治に背中を押されると、バランスを崩す。志貴はすかさず俺の腕を引っ張り自分の隣へと座らせた。
「やっぱり狭えじゃねえかよ」
「そうか? 逆にくっ付いていれば狭くないんじゃないか?」
「お前馬鹿か?」
 腰を引き寄せられると体がくっ付く。そのせいで志貴の体温で移ってくるようだった。
「くっ付くなよ」
「で、他に望むことはないのか? そしたらさっきの内容を書面にするが」
「……とりあえずは良いよ。何かあったら付け加える」
「そうしよう。圭人、頼む」
「はいはい、分かりました。こんなクソオメガには過ぎる待遇だと思いますが」
「何だとクソ野郎!」
「セナ、落ち着け。圭人のことは気にするなって。な?」
 あやすように背中を撫でられるが、暴言を気にせずにいられるほど出来た人間じゃない。
 高嶋はずっと俺に対して敵対心を露わにしていた。いつも睨むような、蔑むような視線を向けてきた。気に食わないのだと分かるが、こっちの方が気に食わない。
「ほら、お茶でも飲め」
「いらない。もう帰る」
「帰らないよ」
「帰らなくねえよ。何で帰らないよになるんだよ」
 もう意味が分からない!
「このケーキ、普段行列でなかなか買えないところのなんだ。甘いもの嫌いか?」
 ずいっ、と、ケーキが乗った皿を差し出される。生クリームたっぷりのそれは、ローテーブルに用意されていたものだ。甘い匂いにピタッと体が止まる。食べたいと思っていたけど、怒っているのに食べるのは何か恥ずかしいかと我慢していた。
「美味いのか?」
「美味いぞ。ほら、ケーキ食べて落ち着こう」
 フォークに乗せられた一口大のケーキ。目の前に寄越されるとすぐに口を開きたくなった。どうにかテキトーな言い訳をする。
「……秀治が、知らん奴の用意したものは食うなって」
「良い心がけだ。だが俺は知らない奴じゃないだろ? 俺の名前分かるよな?」
「連城志貴」
「そうだ。志貴な。これは何も入っていない、ただ美味いだけだ。ほら」
 口元に近付き、反射的に口を開く。すぐに口内に甘さが広がった。
「美味い」
「だろ? お前が好きかと思って用意させたんだ。余ったものは持って帰ると良い」
「ん」
 飲み込むタイミングで次が運ばれてくる。美味い。誕生日には奮発してコンビニのケーキを食べるけど、全く味が違う。
「もう一個食べるか?」
「持って帰る」
 あっという間に一個を完食する。
 高嶋がケーキを包むところを眺めながら、「そろそろ帰る」と志貴と秀治に伝える。
「送って行くよ」
「いらない」
「大丈夫だから」
「いらないってば! 秀治! 帰るぞ!」
 俺が立ち上がれば秀治も「そうだな~」とソファーから腰を浮かせる。腕を掴まれるかと思ったが特に拘束はなかった。
「待て、セナ。ちゃんと連絡先を交換しよう。お前に何かあったらすぐに俺に連絡出来るように」
 教えたくなかったけど、志貴の言う通りだと思い仕方なく交換することにする。
「お前からは連絡してくるなよ」
 それだけ最後に伝え、秀治と出て行く。今気付いたが腹が立つくらいその家は広かった。富裕層が住む区域で、富裕層の中の富裕層が住むマンションだと秀治に教えられて、相変わらず世の中は不公平だと思った。
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