愛に変わるのに劇的なキッカケは必要ない

かんだ

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9.

「志貴様、どうしてそこまであのオメガの世話をするんです」
 話し合いが終わりセナが平岡秀治と出て行ってすぐ、圭人に真剣な顔付きで問われる。
「今までオメガ、というか他人にそこまで関心を持ったことないじゃないですか。だからご家族も心配して見合いを進めてくるんですし。正直あのオメガはオメガとしても底辺ですよ」
 特に反応をせずにいれば、圭人は気にせず話を続けた。
「藤岡セナ、養護施設出身で中卒、十八になる今もフリーターです。小中と勉強は全く出来なかったみたいですね。これじゃどの高校も受からないな。このご時世、中卒者は殆どいないって言うのに逆にすごい」
 俺から依頼はしていないが、圭人の判断で勝手にセナのことを調べたらしい。若いと思っていたが本当に十代だったとは。中学生でなかったことに少し安心する。
「人間的に底辺ですね」
「そんな風に言うなよ。苦労が多かったんだな」
「はぁ、本当にどうしたんですか。ああいうクソ生意気で苦労と不幸のどん底にいるような人間がタイプだったんですか? 顔だって普通なのに」
「そういうわけじゃないよ。顔は、可愛いだろ」
 普通というほど普通じゃない。
 淡い栗色の髪、大きなアーモンドアイ、活発そうな表情、最初は可愛いや綺麗というよりも男の子という印象が大きかったが、喋っているうちに可愛く見えてきているから不思議だ。万人受けする可愛さではなく、一緒にいると気付ける、知る人ぞ知る可愛さだ。……何を考えているんだ? 俺は。
「あれが可愛い? 志貴様、お疲れですか?」
「すこぶる元気だ」
「余計おかしいですね。今までも苦労不幸を背負うオメガはいたのに」
 いたか? 思い出せないが、幼馴染で秘書のように基本そばにいる圭人が言うならそうなのだろう。
「その時は一切興味を持っていませんでしたよ。むしろだからなんだと吐き捨てていたでしょ。今の志貴様は全く理解出来ませんね」
 それには同意したい、力強く。
 二十三にもなれば色々なタイプのオメガを見てきた。
 連城家は国内経済を動かすと言われる大手企業グループを率いる一族だ。その第三子、優性アルファとして生まれた。他のアルファに比べてステータスやフェロモン性は高く、多くの者が釣られてきた。
 様々なタイプのオメガがいたが、一度として感情が揺れたことはない。むしろ煩わしく、媚びてくるオメガよりもアルファやベータと遊ぶ方が楽だった。体の相性はオメガの方が良くても、他の性でも充分快感は得られる。わざわざオメガを選ぶ理由がなかった。
 今でもそう思う。
 なのに、セナを前にするとどうしても口を挟みたくなる。
「まさかとは思いますが、実は一目惚れしたとかじゃないですよね?」
「……いや、そういう感じじゃない」
「安心しました。この歳になって急激に罪悪感が育ったってことにしましょう」
 圭人のまとめに頷き、深く溜め息を吐いて背にもたれる。
「アルファとオメガの紹介は、僕の方で適当に見繕いますね」
「オメガだけ頼む」
「アルファは?」
「俺が行く」
 どんな反応が返ってくるか分かり、先に理由を伝える。
「安心安全なアルファってだけで、俺はダメとは言われていない。それに他のアルファに発情期間中を任せたら妊娠させられる可能性もある。自分が相手をした方が、お互い安心安全だ」
「はぁ……ではオメガは?」
「適当で良い。ごっこ遊びに付き合ってくれるなら。ただ、絶妙にクズなオメガにしてくれ」
「クズ?」
 人間性が疑われるようなオメガといれば、オメガ好きが少しは変わるかもしれない。
 オメガ同士で結婚する者もいるが、やはり発情期中はアルファがいなければ苦悶が長く続く。好きな人がいるわけではないなら、わざわざオメガを選ばせる必要もない。
「志貴様は、あのオメガとどういう関係になりたいんですか?」
「別に何も考えていないって。急激に成長した罪悪感のせいなだけ」
「それなら良いですが。あぁそうだ。出版社からライトノベルに興味はないか聞かれましたよ」
「ライトノベル? なんで?」
「志貴様の小説は緻密で先が読めず時間を忘れるくらい没頭出来ます。ただファン層が上なので、若者好みの本を書いてみたら? ということですね」
 ラノベか。普段書いているものよりも軽い文体にする必要がある。
「発想もセンスが良いですし、ラノベを書けばより売れると思います。考えてみてください」
「あぁ、分かった」
 圭人もマンションを出て行くといつもの静けさになった。秒針の小さな音、コーヒーとケーキの残り香だけが感じられる。……いや、あとは、腕に残るとセナの感触とフェロモンだ。二回抱いただけなのに、薄い体の大きさや内側の狭さを覚えてしまった気がする。
「本当に、何やってんだか」
 吐き出した声は、随分と疲れていた。
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