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セナが働き出して心配しかなかったが、思ったよりも周りに馴染み上手く出来ていると聞いてホッとした。本人も楽しそうに出勤している。
「セナ、バイトはどうだ?」
「普通」
「そうか。何かあればすぐに言うんだぞ」
「言ったらどうするんだよ」
「もちろん助けるよ」
「一番危ない奴が何言ってんだか」
ぷいっと顔を背けるセナは中々懐かない野良猫のようだ。ご飯や甘いものを見せれば寄って来るが、それ以外には全く近寄ってこない。近付けば驚くくせに、撫でれば大人しくなる。
他のオメガと違うところは、遠回しにもフェロモンを送ってこないところだろう。無関心を装うオメガは多くいたが、本当に関心を寄せないオメガはセナが初めてだ。
だからこそ、セナをオメガとしてではなく一人の人間として見ていられるのかもしれない。そして、一人の人間として見ると、セナには心配しか湧かない。
「セナ、体調はどうだ? 体が熱くなったりはしないか?」
「大丈夫だよ」
「抑制剤を探さないとだからヒートがきたらすぐに連絡するんだぞ」
「分かってるってば。ガキじゃねえんだから。一回言われたら分かる」
ガキじゃない、一般的な十八なら確かにそうだ。自分がその歳には家業を手伝い始めていたし、三十以上差があるベテラン役員を前に事業プレゼンをしていた。
だが、セナは違う。
まず知識と経験、危機感が圧倒的に少ない。中卒だから仕方ないかもしれないが、不安過ぎる。
――なあ! これ! どうしたら良い!?
――なんだそれ。詐欺メールをクリックしたのか?
今時引っ掛かる若者がいるのかと思えるような典型的な詐欺メールに引っ掛かるし。
――志貴、見ろ。スカウトされた。もっと稼げるかな?
――お前、夜の街を歩いたのか? 風俗なんかにスカウトされるんじゃない。
風俗のスカウトとさえ気付かないし。
――俺は肉しか食べない。
――野菜も食え。好きなものを作って良いが、バランス良く食べないと病気になるぞ。
高カロリーなものを好み、生野菜は食べない。
とにかく不安要素しか見せてこない。子どもでもここまで心配させないだろう。
「お前って恋人いんの?」
「ん? 恋人? いないが、急にどうした?」
セナの行く末を心配していれば、突然セナから恋人の有無を問われる。俺に一切興味がないくせにどうしたのか。
「気になるのか?」
「花嫁教室でお前がオメガの人たちから人気だって聞いたから」
「へー」
「ホテル事業の代表してんの?」
「そんな話も聞いたのか?」
花嫁教室の参加者は富裕層のオメガばかりだ。俺のことを知っている人がいてもおかしくはない。
「ホテルって儲かるの?」
「まあ、普通に? 何かしら一つは事業を受け持つことになっているから。唯一興味があることにしたんだ」
連城グループは幅広く事業を手掛けている。跡を継ぐのは長男と決まっているが、下二人も必ずグループの事業を受け持つよう強く言われている。
突っぱねることも出来るが、社会で生きていく中で自己中に振る舞うことは出来ない。事業の中で興味があるのはホテル事業だったので受け持つことにしたのだ。
「今度泊まりに行くか?」
「どこに?」
「俺が一から手掛けたホテルがあるんだ。せっかくだから泊まりに行くか」
「……ふーん」
「興味ない?」
セナは首を振る。興味がないわけじゃないらしいが、俺が相手だから乗り気ではないのかもしれない。
「一番良い部屋は常に自分用に空けてあるから、いつでも泊まりに行けるぞ」
「ふーん」
「それか他に行きたいところでもあるか?」
「別に。俺、ホテルに泊まったことないから、どこでも良い」
「そうだったのか? なら早く泊まりに行こう。バイトも頑張っているし、ご褒美だ」
セナは素っ気なく「ふーん」と答えるだけだったが、その顔は嬉しそうだった。
養護施設出身なら旅行に行くことはなかっただろう。一度もホテルに泊まったことがないと知っていればもっと早く連れて行ったのに。
執筆活動で閉じ籠ることが多いことから、自分のためにもホテル事業を選んだ。過ごしやすさと感性が刺激されるようなホテルを目指しているから、きっとセナも楽しめるはず。
「他は? したいことはあるか?」
「……旅行行きたいし、美味いもの食べたい」
「良いな。セナがやりたいことをしていこう」
「うん。お前の金でな」
「もちろんだ。心配するな」
背中を撫でていれば、セナはちらっとこちらを見上げてまた前を向く。
「どうした?」
「嘘じゃないだろうな?」
「嘘じゃないって。嘘ついたことないだろ?」
「じゃあ、オメガはどうなった?」
その話になるか。
オメガを紹介して欲しいと言われているが、特に探してはいない。身元のしっかりしたオメガは何人かいるし、セナに紹介しても安心な人もいるが、人間としてもオメガとしても未熟なセナにはまだ早い。
ただどうしてオメガに拘るのか、そこは気になってしまう。
「そういえば、何でオメガが良いんだ?」
「関係ねえだろ」
「でも知っておかないと何かあった時に困るだろ?」
「何かって何だよ。別に俺がオメガが好きでも良いだろ」
「どんな理由でオメガが好きかによってアドバイス出来るし、探すのに役立つし」
優しく後頭部を撫でれば、セナは唇を突き出したまま黙る。
答えないところを見るに、ちゃんと理由はあるということだ。自分がオメガになったことには本気で絶望していたのに、恋人はオメガが良い。オメガに拘る理由は何なのか。
「オメガは可愛いもんな」
「可愛いとかは知らねえけど、オメガは、守って、あげなきゃじゃん」
「ん?」
セナはそれ以上言わずプイッと顔を背けてしまった。それでも逃げることはなく、ただ俺が撫でる手のひらに身を委ねた。
「セナ、バイトはどうだ?」
「普通」
「そうか。何かあればすぐに言うんだぞ」
「言ったらどうするんだよ」
「もちろん助けるよ」
「一番危ない奴が何言ってんだか」
ぷいっと顔を背けるセナは中々懐かない野良猫のようだ。ご飯や甘いものを見せれば寄って来るが、それ以外には全く近寄ってこない。近付けば驚くくせに、撫でれば大人しくなる。
他のオメガと違うところは、遠回しにもフェロモンを送ってこないところだろう。無関心を装うオメガは多くいたが、本当に関心を寄せないオメガはセナが初めてだ。
だからこそ、セナをオメガとしてではなく一人の人間として見ていられるのかもしれない。そして、一人の人間として見ると、セナには心配しか湧かない。
「セナ、体調はどうだ? 体が熱くなったりはしないか?」
「大丈夫だよ」
「抑制剤を探さないとだからヒートがきたらすぐに連絡するんだぞ」
「分かってるってば。ガキじゃねえんだから。一回言われたら分かる」
ガキじゃない、一般的な十八なら確かにそうだ。自分がその歳には家業を手伝い始めていたし、三十以上差があるベテラン役員を前に事業プレゼンをしていた。
だが、セナは違う。
まず知識と経験、危機感が圧倒的に少ない。中卒だから仕方ないかもしれないが、不安過ぎる。
――なあ! これ! どうしたら良い!?
――なんだそれ。詐欺メールをクリックしたのか?
今時引っ掛かる若者がいるのかと思えるような典型的な詐欺メールに引っ掛かるし。
――志貴、見ろ。スカウトされた。もっと稼げるかな?
――お前、夜の街を歩いたのか? 風俗なんかにスカウトされるんじゃない。
風俗のスカウトとさえ気付かないし。
――俺は肉しか食べない。
――野菜も食え。好きなものを作って良いが、バランス良く食べないと病気になるぞ。
高カロリーなものを好み、生野菜は食べない。
とにかく不安要素しか見せてこない。子どもでもここまで心配させないだろう。
「お前って恋人いんの?」
「ん? 恋人? いないが、急にどうした?」
セナの行く末を心配していれば、突然セナから恋人の有無を問われる。俺に一切興味がないくせにどうしたのか。
「気になるのか?」
「花嫁教室でお前がオメガの人たちから人気だって聞いたから」
「へー」
「ホテル事業の代表してんの?」
「そんな話も聞いたのか?」
花嫁教室の参加者は富裕層のオメガばかりだ。俺のことを知っている人がいてもおかしくはない。
「ホテルって儲かるの?」
「まあ、普通に? 何かしら一つは事業を受け持つことになっているから。唯一興味があることにしたんだ」
連城グループは幅広く事業を手掛けている。跡を継ぐのは長男と決まっているが、下二人も必ずグループの事業を受け持つよう強く言われている。
突っぱねることも出来るが、社会で生きていく中で自己中に振る舞うことは出来ない。事業の中で興味があるのはホテル事業だったので受け持つことにしたのだ。
「今度泊まりに行くか?」
「どこに?」
「俺が一から手掛けたホテルがあるんだ。せっかくだから泊まりに行くか」
「……ふーん」
「興味ない?」
セナは首を振る。興味がないわけじゃないらしいが、俺が相手だから乗り気ではないのかもしれない。
「一番良い部屋は常に自分用に空けてあるから、いつでも泊まりに行けるぞ」
「ふーん」
「それか他に行きたいところでもあるか?」
「別に。俺、ホテルに泊まったことないから、どこでも良い」
「そうだったのか? なら早く泊まりに行こう。バイトも頑張っているし、ご褒美だ」
セナは素っ気なく「ふーん」と答えるだけだったが、その顔は嬉しそうだった。
養護施設出身なら旅行に行くことはなかっただろう。一度もホテルに泊まったことがないと知っていればもっと早く連れて行ったのに。
執筆活動で閉じ籠ることが多いことから、自分のためにもホテル事業を選んだ。過ごしやすさと感性が刺激されるようなホテルを目指しているから、きっとセナも楽しめるはず。
「他は? したいことはあるか?」
「……旅行行きたいし、美味いもの食べたい」
「良いな。セナがやりたいことをしていこう」
「うん。お前の金でな」
「もちろんだ。心配するな」
背中を撫でていれば、セナはちらっとこちらを見上げてまた前を向く。
「どうした?」
「嘘じゃないだろうな?」
「嘘じゃないって。嘘ついたことないだろ?」
「じゃあ、オメガはどうなった?」
その話になるか。
オメガを紹介して欲しいと言われているが、特に探してはいない。身元のしっかりしたオメガは何人かいるし、セナに紹介しても安心な人もいるが、人間としてもオメガとしても未熟なセナにはまだ早い。
ただどうしてオメガに拘るのか、そこは気になってしまう。
「そういえば、何でオメガが良いんだ?」
「関係ねえだろ」
「でも知っておかないと何かあった時に困るだろ?」
「何かって何だよ。別に俺がオメガが好きでも良いだろ」
「どんな理由でオメガが好きかによってアドバイス出来るし、探すのに役立つし」
優しく後頭部を撫でれば、セナは唇を突き出したまま黙る。
答えないところを見るに、ちゃんと理由はあるということだ。自分がオメガになったことには本気で絶望していたのに、恋人はオメガが良い。オメガに拘る理由は何なのか。
「オメガは可愛いもんな」
「可愛いとかは知らねえけど、オメガは、守って、あげなきゃじゃん」
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