愛に変わるのに劇的なキッカケは必要ない

かんだ

文字の大きさ
13 / 26

13.

 セナが働き出して心配しかなかったが、思ったよりも周りに馴染み上手く出来ていると聞いてホッとした。本人も楽しそうに出勤している。
「セナ、バイトはどうだ?」
「普通」
「そうか。何かあればすぐに言うんだぞ」
「言ったらどうするんだよ」
「もちろん助けるよ」
「一番危ない奴が何言ってんだか」
 ぷいっと顔を背けるセナは中々懐かない野良猫のようだ。ご飯や甘いものを見せれば寄って来るが、それ以外には全く近寄ってこない。近付けば驚くくせに、撫でれば大人しくなる。
 他のオメガと違うところは、遠回しにもフェロモンを送ってこないところだろう。無関心を装うオメガは多くいたが、本当に関心を寄せないオメガはセナが初めてだ。
 だからこそ、セナをオメガとしてではなく一人の人間として見ていられるのかもしれない。そして、一人の人間として見ると、セナには心配しか湧かない。
「セナ、体調はどうだ? 体が熱くなったりはしないか?」
「大丈夫だよ」
「抑制剤を探さないとだからヒートがきたらすぐに連絡するんだぞ」
「分かってるってば。ガキじゃねえんだから。一回言われたら分かる」
 ガキじゃない、一般的な十八なら確かにそうだ。自分がその歳には家業を手伝い始めていたし、三十以上差があるベテラン役員を前に事業プレゼンをしていた。
 だが、セナは違う。
 まず知識と経験、危機感が圧倒的に少ない。中卒だから仕方ないかもしれないが、不安過ぎる。
 ――なあ! これ! どうしたら良い!?
 ――なんだそれ。詐欺メールをクリックしたのか?
 今時引っ掛かる若者がいるのかと思えるような典型的な詐欺メールに引っ掛かるし。
 ――志貴、見ろ。スカウトされた。もっと稼げるかな?
 ――お前、夜の街を歩いたのか? 風俗なんかにスカウトされるんじゃない。
 風俗のスカウトとさえ気付かないし。
 ――俺は肉しか食べない。
 ――野菜も食え。好きなものを作って良いが、バランス良く食べないと病気になるぞ。
 高カロリーなものを好み、生野菜は食べない。
 とにかく不安要素しか見せてこない。子どもでもここまで心配させないだろう。
「お前って恋人いんの?」
「ん? 恋人? いないが、急にどうした?」
 セナの行く末を心配していれば、突然セナから恋人の有無を問われる。俺に一切興味がないくせにどうしたのか。
「気になるのか?」
「花嫁教室でお前がオメガの人たちから人気だって聞いたから」
「へー」
「ホテル事業の代表してんの?」
「そんな話も聞いたのか?」
 花嫁教室の参加者は富裕層のオメガばかりだ。俺のことを知っている人がいてもおかしくはない。
「ホテルって儲かるの?」
「まあ、普通に? 何かしら一つは事業を受け持つことになっているから。唯一興味があることにしたんだ」
 連城グループは幅広く事業を手掛けている。跡を継ぐのは長男と決まっているが、下二人も必ずグループの事業を受け持つよう強く言われている。
 突っぱねることも出来るが、社会で生きていく中で自己中に振る舞うことは出来ない。事業の中で興味があるのはホテル事業だったので受け持つことにしたのだ。
「今度泊まりに行くか?」
「どこに?」
「俺が一から手掛けたホテルがあるんだ。せっかくだから泊まりに行くか」
「……ふーん」
「興味ない?」
 セナは首を振る。興味がないわけじゃないらしいが、俺が相手だから乗り気ではないのかもしれない。
「一番良い部屋は常に自分用に空けてあるから、いつでも泊まりに行けるぞ」
「ふーん」
「それか他に行きたいところでもあるか?」
「別に。俺、ホテルに泊まったことないから、どこでも良い」
「そうだったのか? なら早く泊まりに行こう。バイトも頑張っているし、ご褒美だ」
 セナは素っ気なく「ふーん」と答えるだけだったが、その顔は嬉しそうだった。
 養護施設出身なら旅行に行くことはなかっただろう。一度もホテルに泊まったことがないと知っていればもっと早く連れて行ったのに。
 執筆活動で閉じ籠ることが多いことから、自分のためにもホテル事業を選んだ。過ごしやすさと感性が刺激されるようなホテルを目指しているから、きっとセナも楽しめるはず。
「他は? したいことはあるか?」
「……旅行行きたいし、美味いもの食べたい」
「良いな。セナがやりたいことをしていこう」
「うん。お前の金でな」
「もちろんだ。心配するな」
 背中を撫でていれば、セナはちらっとこちらを見上げてまた前を向く。
「どうした?」
「嘘じゃないだろうな?」
「嘘じゃないって。嘘ついたことないだろ?」
「じゃあ、オメガはどうなった?」
 その話になるか。
 オメガを紹介して欲しいと言われているが、特に探してはいない。身元のしっかりしたオメガは何人かいるし、セナに紹介しても安心な人もいるが、人間としてもオメガとしても未熟なセナにはまだ早い。
 ただどうしてオメガに拘るのか、そこは気になってしまう。
「そういえば、何でオメガが良いんだ?」
「関係ねえだろ」
「でも知っておかないと何かあった時に困るだろ?」
「何かって何だよ。別に俺がオメガが好きでも良いだろ」
「どんな理由でオメガが好きかによってアドバイス出来るし、探すのに役立つし」
 優しく後頭部を撫でれば、セナは唇を突き出したまま黙る。
 答えないところを見るに、ちゃんと理由はあるということだ。自分がオメガになったことには本気で絶望していたのに、恋人はオメガが良い。オメガに拘る理由は何なのか。
「オメガは可愛いもんな」
「可愛いとかは知らねえけど、オメガは、守って、あげなきゃじゃん」
「ん?」
 セナはそれ以上言わずプイッと顔を背けてしまった。それでも逃げることはなく、ただ俺が撫でる手のひらに身を委ねた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

ネガティブなΩがスパダリαから逃げる

ミカン
BL
オメガバース

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。最後におじいさまの番外編を追加しました。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 ※画像はpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。