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マンションを飛び出し走る。また今日も気分が下がったままデートに向かわなければならなくなって最悪だ。早く真宮さんに会って癒されたい。……そう思って、何とか気分を上げていたけど、真宮さんは約束の時間になっても現れなかった。
一時間、二時間と経っても来ず、連絡も取れない。こんなことは初めてだ。遅刻することはあっても、何時間も連絡が取れないことはない。いつも「遅刻しちゃう~」と事前に連絡を入れてくれた。
四時間ほど待っても来なくて不安になる。
だけど、「セナ!」と名前を呼ばれてその不安は一瞬消えた。……志貴が来たから。
「セナ、お前、何してるんだここで」
「何って、デートじゃん。でも真宮さん来なくて。連絡も取れなくて」
志貴は急いで来たのか息切れをしている。偶然俺を見付けて声を掛けたわけではなさそうだった。
「何かあったのかな」
「……あいつはお前との約束を放って他のところで遊んでいた」
「え」
「自分のホテルに行ったら、そこにいたんだ。セナはどうしたと聞けば、忘れていたと言っていたよ」
「そうなの?」
忌々しそうに悪態をつく志貴を呆然と見上げながら、言葉を反芻する。
「そうだ。あいつは性格が終わってる」
「良かった」
「は?」
良かった。一気に安堵が広がる。
「何かあったのかって不安だったんだよ。でも俺との約束忘れてただけで、無事だったなら良いや。良かった」
事故や事件に巻き込まれていたら、そう考えると不安だったけど、無事でいるなら良い。
本心からそう答えれば、志貴は舌打ちをして俺の腕を取った。
「おい! 何だよ!?」
「うるさい」
ピリピリした雰囲気の志貴は、黙って俺を家へと連れて行く。今日はもうハウスキーパーの仕事はないのに、なぜまたここに来なきゃいけないのか。
「離せよ!」
中に入って必死に腕を振り払えばようやく離してくれた。
「急に何なんだよ馬鹿」
「馬鹿はお前だ。あんな奴に利用されて、蔑ろにされて、良かった? 怒れよ」
「別に怒ることでもないだろ。短気だなお前」
「は? お前は相手がオメガなら何でも良いのか? 許せるのか?」
「そうだよ」
「馬鹿。オメガはお前が思うよりも強かなんだよ。より強いアルファに愛されるためにな。お前にオメガと付き合うなんて無理なんだから、もう会うのはやめろ」
急に現れて急に怒り出して急に人を貶し出す。
今日の志貴はいつになく癪に触る。
「うるさいな! お前に関係ないだろ! お前を巻き込んでもないんだから! 何で口出しするんだよ!」
「利用されてるのを知って放っておけるわけないだろ。世間知らずだとは思っていたけど、蔑ろにされても許すようなお人好しだとは知らなかった。お前はもう何もしなくて良い。後は俺が適当に後始末する」
「はあ? 急に何言ってんだよ。意味分かんねえ」
志貴は大袈裟に溜め息を吐く。
「意味が分からないのはこっちだ。お前はオメガなんだよ。アルファじゃない。アルファみたいにオメガを愛そうとか馬鹿な考えは捨てろ。オメガがアルファに憧れる気持ちは分かるが、馬鹿馬鹿しいにも程がある」
今日の志貴は、本当に腹が立つ。あまりにも腹が立つからか、目頭が熱くなってきた。
「うるせえな。お前なんかに何が分かるんだよ。オメガなんかになりたくなかったのに、アルファになれるはずだったのに、お前のせいでオメガになったんだぞ。俺はアルファじゃなきゃダメなのに」
「ダメなんてことはないだろ。確かにヒートがあったり大変だろうけど、ちゃんとサポートするって言っているだろ。何でダメだって決め付けるんだ」
「オメガの本能が嫌なんだよ!」
喉が裂けそうになるほど、腹から声を出して答える。いつもよりも大きな声だったからか、志貴がほんの少し驚いた顔をする。
「オメガの本能が嫌なんだよ! 何がアルファに愛されることが本能だ! そんなのアルファ次第じゃん! 愛されなくなったら、どうするんだよ」
アルファに愛されなくなったらどうなる?
「アルファは良いよ。自分次第じゃん。オメガに愛されなくても自分が愛していれば良いんだろ? でもオメガは違うじゃん。愛されなきゃじゃん。相手の気持ち次第じゃん」
だから嫌なんだ。アルファだったら自分さえ愛情を持っていれば問題ない。だけどオメガは逆だ。相手のアルファがいなければ本能的な幸福感は得られない。
「親にも捨てられて、施設でも厄介払いされて、何も知らなくて何も出来ない俺が、オメガなんかに、なっちゃって、どうするんだよ」
「……セナ」
「誰が俺なんか愛してくれるんだよ。一人で、生きていかなきゃならないのに、他人が必要なオメガなんかになって、アルファが良かったんだ」
感情が溢れ、涙がボロボロと溢れ出た。目を見開く志貴を見つめながら答えを求める。
――要らないわよ。
そう言って俺を捨てたオメガの母親。
――お前なんかいなければ良かったのに。
そう言って俺を殴ったアルファの父親。
――ごめんねセナ君。うちも余裕がないから。
そう言って本当なら高卒までいられるのに中学卒業と同時に俺を追い出した施設長。
皆が捨てた俺を、何でも持っているアルファが好きになるわけがない。
「他人に振り回されるなんて、もう懲り懲りだ」
「セナ」
「オメガなんか、いやだ。いやだよぉっ」
「セナ、ごめん、ごめん」
ぎゅうっと抱きしめられる。痛いくらいの強さだった。
「お前の気持ちも知らないのに、頭ごなしに怒って悪かった。セナのことが心配だったんだ。俺がお前を大切にするから、怖がらなくて良い」
「やだよぉ、ゔわーん、あ゙ぁー」
「なんでそんなこと言うんだよ。俺がアルファだからか? それなら、俺がお前だけのオメガになる。お前は俺を大切にして愛してくれ。な?」
意味が分からないことを耳元で囁く志貴に、俺はひたすら泣いた。オメガになって初めてぶちまけた不安と恐怖は、いつまでも付き纏った。
一時間、二時間と経っても来ず、連絡も取れない。こんなことは初めてだ。遅刻することはあっても、何時間も連絡が取れないことはない。いつも「遅刻しちゃう~」と事前に連絡を入れてくれた。
四時間ほど待っても来なくて不安になる。
だけど、「セナ!」と名前を呼ばれてその不安は一瞬消えた。……志貴が来たから。
「セナ、お前、何してるんだここで」
「何って、デートじゃん。でも真宮さん来なくて。連絡も取れなくて」
志貴は急いで来たのか息切れをしている。偶然俺を見付けて声を掛けたわけではなさそうだった。
「何かあったのかな」
「……あいつはお前との約束を放って他のところで遊んでいた」
「え」
「自分のホテルに行ったら、そこにいたんだ。セナはどうしたと聞けば、忘れていたと言っていたよ」
「そうなの?」
忌々しそうに悪態をつく志貴を呆然と見上げながら、言葉を反芻する。
「そうだ。あいつは性格が終わってる」
「良かった」
「は?」
良かった。一気に安堵が広がる。
「何かあったのかって不安だったんだよ。でも俺との約束忘れてただけで、無事だったなら良いや。良かった」
事故や事件に巻き込まれていたら、そう考えると不安だったけど、無事でいるなら良い。
本心からそう答えれば、志貴は舌打ちをして俺の腕を取った。
「おい! 何だよ!?」
「うるさい」
ピリピリした雰囲気の志貴は、黙って俺を家へと連れて行く。今日はもうハウスキーパーの仕事はないのに、なぜまたここに来なきゃいけないのか。
「離せよ!」
中に入って必死に腕を振り払えばようやく離してくれた。
「急に何なんだよ馬鹿」
「馬鹿はお前だ。あんな奴に利用されて、蔑ろにされて、良かった? 怒れよ」
「別に怒ることでもないだろ。短気だなお前」
「は? お前は相手がオメガなら何でも良いのか? 許せるのか?」
「そうだよ」
「馬鹿。オメガはお前が思うよりも強かなんだよ。より強いアルファに愛されるためにな。お前にオメガと付き合うなんて無理なんだから、もう会うのはやめろ」
急に現れて急に怒り出して急に人を貶し出す。
今日の志貴はいつになく癪に触る。
「うるさいな! お前に関係ないだろ! お前を巻き込んでもないんだから! 何で口出しするんだよ!」
「利用されてるのを知って放っておけるわけないだろ。世間知らずだとは思っていたけど、蔑ろにされても許すようなお人好しだとは知らなかった。お前はもう何もしなくて良い。後は俺が適当に後始末する」
「はあ? 急に何言ってんだよ。意味分かんねえ」
志貴は大袈裟に溜め息を吐く。
「意味が分からないのはこっちだ。お前はオメガなんだよ。アルファじゃない。アルファみたいにオメガを愛そうとか馬鹿な考えは捨てろ。オメガがアルファに憧れる気持ちは分かるが、馬鹿馬鹿しいにも程がある」
今日の志貴は、本当に腹が立つ。あまりにも腹が立つからか、目頭が熱くなってきた。
「うるせえな。お前なんかに何が分かるんだよ。オメガなんかになりたくなかったのに、アルファになれるはずだったのに、お前のせいでオメガになったんだぞ。俺はアルファじゃなきゃダメなのに」
「ダメなんてことはないだろ。確かにヒートがあったり大変だろうけど、ちゃんとサポートするって言っているだろ。何でダメだって決め付けるんだ」
「オメガの本能が嫌なんだよ!」
喉が裂けそうになるほど、腹から声を出して答える。いつもよりも大きな声だったからか、志貴がほんの少し驚いた顔をする。
「オメガの本能が嫌なんだよ! 何がアルファに愛されることが本能だ! そんなのアルファ次第じゃん! 愛されなくなったら、どうするんだよ」
アルファに愛されなくなったらどうなる?
「アルファは良いよ。自分次第じゃん。オメガに愛されなくても自分が愛していれば良いんだろ? でもオメガは違うじゃん。愛されなきゃじゃん。相手の気持ち次第じゃん」
だから嫌なんだ。アルファだったら自分さえ愛情を持っていれば問題ない。だけどオメガは逆だ。相手のアルファがいなければ本能的な幸福感は得られない。
「親にも捨てられて、施設でも厄介払いされて、何も知らなくて何も出来ない俺が、オメガなんかに、なっちゃって、どうするんだよ」
「……セナ」
「誰が俺なんか愛してくれるんだよ。一人で、生きていかなきゃならないのに、他人が必要なオメガなんかになって、アルファが良かったんだ」
感情が溢れ、涙がボロボロと溢れ出た。目を見開く志貴を見つめながら答えを求める。
――要らないわよ。
そう言って俺を捨てたオメガの母親。
――お前なんかいなければ良かったのに。
そう言って俺を殴ったアルファの父親。
――ごめんねセナ君。うちも余裕がないから。
そう言って本当なら高卒までいられるのに中学卒業と同時に俺を追い出した施設長。
皆が捨てた俺を、何でも持っているアルファが好きになるわけがない。
「他人に振り回されるなんて、もう懲り懲りだ」
「セナ」
「オメガなんか、いやだ。いやだよぉっ」
「セナ、ごめん、ごめん」
ぎゅうっと抱きしめられる。痛いくらいの強さだった。
「お前の気持ちも知らないのに、頭ごなしに怒って悪かった。セナのことが心配だったんだ。俺がお前を大切にするから、怖がらなくて良い」
「やだよぉ、ゔわーん、あ゙ぁー」
「なんでそんなこと言うんだよ。俺がアルファだからか? それなら、俺がお前だけのオメガになる。お前は俺を大切にして愛してくれ。な?」
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