12 / 13
12.裏
しおりを挟む
和佐がフェロモンを出し、アルファの本能を刺激してから一週間。離れていた日々が相当参ったのか、俺から離れることを嫌がった。断腸の思いという雰囲気を出しつつも海外出張までの期間は何とか仕事に向かっていたが、そろそろそれもキツくなってくるだろう。
専業主夫になった約一年半。和佐はずっと俺のフェロモンの中で生きてきた。今更そこから飛び出して生きることは難しい。オメガの本能はアルファに愛されることを優先する上、俺は愛情に満ちたフェロモンしか浴びせてこなかった。他のアルファのように、オメガを支配するためのそれを浴びせたことは一度もない。
オメガの本能としても、和佐個人の理性としても、番に愛されるという当たり前の日常が変われば、不安定になるのも仕方がなかった。
「社長、椿さまがお見えです」
「……姉が?」
和佐を思い浮かべていれば、姉の来訪を告げられる。アポもなく何の用で来たのか。
断る方が面倒だと分かっているため、ここまで通すよう許可を出す。
姉はカツカツとヒールを鳴らしながら、我が物顔で応接ソファーへと腰を下ろした。
「どうしたんですか? 突然」
「私のお気に入りのパティスリーから、人をやめさせるのやめてくれない?」
「和佐は元々俺のです。貸すのは数ヶ月だけと言ってあったでしょう」
勝手に人をやめさせたような言い方をされるが、その『人』とは和佐のことだ。和佐に紹介した洋菓子店は姉の趣味で経営されている。ちなみに配達先は姉が所有する製薬会社。姉とそこで働く研究員のために毎日配達させている。
姉とは長くても半年、和佐を働かせるよう伝えてあり、了承を得ている。今度の海外出張に合わせて仕事を辞めることになったので、その文句を言いに来たらしい。
「オーナーも和佐君のこと気に入ったみたいでね。出来ればこのまま働いて欲しいって言っていたの。まだ半年も経ってないのに辞めさせるなんて、心が狭過ぎない?」
「和佐が続けられないと判断したんですよ。それに、代わりのパティシエは用意したじゃないですか」
「そう判断せざるを得ないようにしたのは貴方でしょう。代わりが使えるなら良いけど」
姉が和佐を気に入っていることは知っているが、オーナーまで気に入ったとは知らなかった。自分の番が他人に嫌われるよりはマシだが、好意を持たれても腹立たしい。例えそれが純粋な好意だとしても。
辞めさせて正解だったなと改めて思う。
「たった数ヶ月しか許さないなら、最初から許可しなきゃ良かったのに」
「俺は和佐の意思を尊重したいんです。アルファがオメガを支配することは簡単ですが、それだと和佐本来の良さが失われる」
「どうせ自分の思い通りに進めるくせに。どうしてそんな面倒なことをするのかしら。我が弟ながら理解し難いわ」
姉が大袈裟に溜め息を吐く。同じ親から生まれたが、考え方には差がある。だからこそ姉弟の中では気が合う方なのかもしれない。
「あ、そういえば、相藤君が結婚するんだって」
「相藤?」
溜め息から一転、姉が思い出したように閃いた表情をした。聞き覚えのないその名前に訝しめば、呆れた顔をされる。
「まさか、忘れたの?」
「重要な相手ではないんでしょう」
「和佐君の運命の番役をした人じゃないの」
専業主夫になった約一年半。和佐はずっと俺のフェロモンの中で生きてきた。今更そこから飛び出して生きることは難しい。オメガの本能はアルファに愛されることを優先する上、俺は愛情に満ちたフェロモンしか浴びせてこなかった。他のアルファのように、オメガを支配するためのそれを浴びせたことは一度もない。
オメガの本能としても、和佐個人の理性としても、番に愛されるという当たり前の日常が変われば、不安定になるのも仕方がなかった。
「社長、椿さまがお見えです」
「……姉が?」
和佐を思い浮かべていれば、姉の来訪を告げられる。アポもなく何の用で来たのか。
断る方が面倒だと分かっているため、ここまで通すよう許可を出す。
姉はカツカツとヒールを鳴らしながら、我が物顔で応接ソファーへと腰を下ろした。
「どうしたんですか? 突然」
「私のお気に入りのパティスリーから、人をやめさせるのやめてくれない?」
「和佐は元々俺のです。貸すのは数ヶ月だけと言ってあったでしょう」
勝手に人をやめさせたような言い方をされるが、その『人』とは和佐のことだ。和佐に紹介した洋菓子店は姉の趣味で経営されている。ちなみに配達先は姉が所有する製薬会社。姉とそこで働く研究員のために毎日配達させている。
姉とは長くても半年、和佐を働かせるよう伝えてあり、了承を得ている。今度の海外出張に合わせて仕事を辞めることになったので、その文句を言いに来たらしい。
「オーナーも和佐君のこと気に入ったみたいでね。出来ればこのまま働いて欲しいって言っていたの。まだ半年も経ってないのに辞めさせるなんて、心が狭過ぎない?」
「和佐が続けられないと判断したんですよ。それに、代わりのパティシエは用意したじゃないですか」
「そう判断せざるを得ないようにしたのは貴方でしょう。代わりが使えるなら良いけど」
姉が和佐を気に入っていることは知っているが、オーナーまで気に入ったとは知らなかった。自分の番が他人に嫌われるよりはマシだが、好意を持たれても腹立たしい。例えそれが純粋な好意だとしても。
辞めさせて正解だったなと改めて思う。
「たった数ヶ月しか許さないなら、最初から許可しなきゃ良かったのに」
「俺は和佐の意思を尊重したいんです。アルファがオメガを支配することは簡単ですが、それだと和佐本来の良さが失われる」
「どうせ自分の思い通りに進めるくせに。どうしてそんな面倒なことをするのかしら。我が弟ながら理解し難いわ」
姉が大袈裟に溜め息を吐く。同じ親から生まれたが、考え方には差がある。だからこそ姉弟の中では気が合う方なのかもしれない。
「あ、そういえば、相藤君が結婚するんだって」
「相藤?」
溜め息から一転、姉が思い出したように閃いた表情をした。聞き覚えのないその名前に訝しめば、呆れた顔をされる。
「まさか、忘れたの?」
「重要な相手ではないんでしょう」
「和佐君の運命の番役をした人じゃないの」
207
あなたにおすすめの小説
βな俺は王太子に愛されてΩとなる
ふき
BL
王太子ユリウスの“運命”として幼い時から共にいるルカ。
けれど彼は、Ωではなくβだった。
それを知るのは、ユリウスただ一人。
真実を知りながら二人は、穏やかで、誰にも触れられない日々を過ごす。
だが、王太子としての責務が二人の運命を軋ませていく。
偽りとも言える関係の中で、それでも手を離さなかったのは――
愛か、執着か。
※性描写あり
※独自オメガバース設定あり
※ビッチングあり
大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った
こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。
貴方のうなじ
ゆい
BL
「貴方様の項を噛んでもいい?」
私がそう聞いたら、彼は、きょとんとした顔で、目をこれでもかと見開いていた。
オメガバースです。オメガバースについての詳しい内容は省きます。
生真面目な公爵子息α×ちょっとズレている男爵子息Ω
リハビリですので、思いついたまま書いております。
名前が出てこない短編part3です。
誤字脱字がないか確認はしておりますが、ありましたら報告をいただけたら嬉しいです。
途中手直しついでに加筆もするかもです。
感想もお待ちしています。
2025.10.20 ムーンライトノベルに投稿しました。
可愛いあの子には敵わない【完】
おはぎ
BL
騎士科の人気者のエドワードとは最近、一緒に勉強をする仲。共に過ごす内に好きになってしまったが、新入生として入ってきたエドワードの幼馴染は誰が見ても可憐な美少年で。お似合いの二人を見ていられずエドワードを避けてしまうようになったが……。
巣作りΩと優しいα
伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。
そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……
クローゼットは宝箱
織緒こん
BL
てんつぶさん主催、オメガの巣作りアンソロジー参加作品です。
初めてのオメガバースです。
前後編8000文字強のSS。
◇ ◇ ◇
番であるオメガの穣太郎のヒートに合わせて休暇をもぎ取ったアルファの将臣。ほんの少し帰宅が遅れた彼を出迎えたのは、溢れかえるフェロモンの香気とクローゼットに籠城する番だった。狭いクローゼットに隠れるように巣作りする穣太郎を見つけて、出会ってから想いを通じ合わせるまでの数年間を思い出す。
美しく有能で、努力によってアルファと同等の能力を得た穣太郎。正気のときは決して甘えない彼が、ヒート期間中は将臣だけにぐずぐずに溺れる……。
年下わんこアルファ×年上美人オメガ。
騎士隊長が結婚間近だと聞いてしまいました【完】
おはぎ
BL
定食屋で働くナイル。よく食べに来るラインバルト騎士隊長に一目惚れし、密かに想っていた。そんな中、騎士隊長が恋人にプロポーズをするらしいと聞いてしまって…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる