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完結.終わりと始まり
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学園は騒然とした。
人間族のアリーナ・ノービレ王女が、婚約者のリリカ・リリオンに魔法薬を盛った。それを原因とした魔力暴走を起こし仮死状態に陥ったが、ルディ・マリグノが治療に当たったおかげで奇跡的に生還し、今は療養している。聖人族は強く抗議し、婚約を破棄、賠償を求めた。アリーナ王女及び計画に加担した者は即刻強制送還となった。
流れていた噂は真実として、学園中で話題に上がった。
……本来の真実は、あの場にいた者だけの胸にあるだけだ。
だが、どうしても確認したいことがあった僕は、深夜のマリグノ先輩の部屋を訪ねた。
快く、とはいかないが、予感していたのか素直に中へと案内される。
よくある二人部屋、のはずが、相当な広さの部屋が広がっている。相方がいないため好きに魔法で部屋をいじったのだろう。
「久しぶり、ユヌ君」
「リリオン先輩」
これも予想していた。この部屋にリリオン先輩がいるだろうことも。
リリオン先輩は一人掛けの椅子に座り足を組んでいた。もう寝るだけなのか、ラフな格好をしている。
「何を聞きたいの? 俺? それともルディ?」
「リリオン先輩です。どこからが、リリオン先輩の計画ですか?」
単刀直入に、僕は確認したいことを投げ付けた。
「多分、君が想像しているのが合っていると思うよ」
「そうなると、先輩方が賭けをして魔法に制限を掛けたことも計画のうちになりますが」
「うん、正解。よく分かったね。良い子だ」
嬉しそうな反応に、僕はふうっと息を吐いた。
「制限魔法が掛けられていることが、魔法薬が使えるとアリーナ・ノービレ先輩の背中を押したんですね。きっと本来のあなたなら服用しても簡単に解除できてしまうから。魔力暴走を起こすほど抵抗するとはノービレ先輩も思っていなかったでしょう」
「そうだね。魔力暴走はほぼ死に繋がるから」
「だけど、あなたは魔力暴走が起きると分かっていてあえて起こしたんですね」
「うん」
「……どうして、そんな危険な賭けをしたのか。最初は分かりませんでしたが」
僕は二人を見る。リリオン先輩の斜めに位置した一人掛けの椅子に座るマリグノ先輩は、手にした本を読んでいる。題名は読めない。知らない文字で書かれているから。こちらには一切興味を持っていないようだった。
「聖人族は出生率が低いため、高位貴族は準成人になると必ず子を儲けると誓わされるようですね」
「正確には、聖人族の繁栄を義務とし果たす、だけどね」
「その誓いがある以上、正当な理由なく子を儲けることができない相手とは添い遂げられない。……お二人は、愛し合っているんですね」
僕が出した、今回の件の根底だ。
聖人族は子を儲ける必要があり、その誓いは正当な理由なく違えた場合、対価として魔力を失うことになる。子を儲けることができない、同性であるマリグノ先輩と愛し合い、添い遂げるために、誓いをした『リリカ・リリオン』を殺すことにした。死んだことで誓いは消えるから。二人には勝算があったから、そんな危険な賭けをしたのだろう。
リリオン先輩は大きく目を見開き、次いで少し嫌な顔をした。
「半分正解。そんなロマンティックな理由じゃないよ」
「え」
「ルディは俺に執着していて、俺を自分のものにしたいだけだ。俺もルディに夢中なだけで愛だの恋だの可愛らしい話じゃない。ルディほど楽しくさせてくれる相手はいないから」
愛でないのに命を賭けたというのか。
「だから賭けをしたんだよ。俺が欲しいなら卒業までに俺の評価と俺自身に傷一つ付けず堂々と自分のものにしてみろって。もし成功したら飽きるまでルディの物になるって」
「それ、失敗の場合は死ですよね? 対価が大き過ぎませんか?」
「いいんだよ。アリーナ王女と結婚するくらいなら自害した方が自分のためになる」
「そんなに嫌いだったんですか?」
「人間族は欲深いし傲慢なところがある。彼女にとって俺は所有物という前提があったし、既成事実を作ろうという思考が気持ち悪い。貴族として務めを全うする気持ちはあったが、ルディが面白くて。賭けに値するなと思ったんだよ。死にたくはなかったから、なるべくルディが勝つようお膳立てもしたけど、上手くいって良かったね」
とても軽いノリだった。つい最近まで死んでいたとは思えない。
死とノービレ先輩との結婚なら死が勝ち、死とマリグノ先輩ならマリグノ先輩が勝ち、貴族の務めと好奇心なら好奇心が勝ったということだろう。単純に天秤にかけ、重い方を取った結果なのだろう、『今』は。
「お膳立てとは、僕があなたに夢中になること?」
「うん。ルディが君に俺の痴態を覗かせたいことを知って、俺に夢中にさせたいんだなって思ったからね。俺はどうだった?」
「……最高に、夢中になりました。僕と接していたのは僕好みに演技していたのですか?」
「うん」
肘置きに頬杖をついて、リリオン先輩は悪びれなく笑う。
この人の本質はきっと間違いなく悪だ。私欲のためなら善悪など関係ない。人を騙すことも誘惑することも面白さがあれば厭わない。
「あの日、図書室と約束していたのにいませんでした」
「ルディは観察が好きなんだ。盲点がないから何でも見通せるし。君に見せたいんだなと思って図書室はすぐに出たよ。何でもルディの思い通りさせるのは癪だから、君が通らないはずの廊下にある部屋に入った。そしたら、君が来た。違う道を通って部屋に戻ることをルディは予想していたみたい」
全て、この二人の手のひらで踊っていたということだ。自分の馬鹿さ加減に頭が痛くなる。
「で? どうするの? 俺に幻滅したか?」
「……」
「君は商才と人脈、信頼がある。ルディにはないし、他の同年代の生徒にもないものだ。俺の足に触れるくらいなら許してあげようか。俺のものでいるなら」
本当に僕は大馬鹿者らしい。
リリオン先輩の前に跪き、組まれた足を手に取る。柔らかいスリッパを脱がして、白い足に口付けた。足の裏に鼻先や唇を寄せ、スンと鼻を鳴らす。……なぜ、甘い花のような香りがするのだろうか。
見上げれば、リリオン先輩が驚いた顔をしている。いつも余裕綽々な顔しか見たことがなかったから、珍しいそれを自分が引き出したのだと思うと頭が喜ぶようだった。
「リリオン先輩の足になら、触れてもいいんですよね」
「うん」
「ありがとうございます。もっと、許されるように頑張ります」
「一応言っておくけど、俺と恋仲になれるとかは期待しないでね」
「期待していません。ただ、触れさせてください。近くに置いてください。僕の雇用主になるんでしょう?」
「……君は思い切りがいいね。全部演技だってことも利用されただけってことも分かったのに」
少し呆れたような言い方だった。
正論過ぎて否定できない。
「あなたの性質に惹かれてしまったんです」
僕はリリオン先輩の足を好きなだけ堪能し、スリッパを履かせる。
「マリグノ先輩には負けますが、十分楽しませられるように頑張ります」
聖人族の妖精に魅了された僕は、この先の人生で『妖精の腹心』として名を馳せることになる。
人間族のアリーナ・ノービレ王女が、婚約者のリリカ・リリオンに魔法薬を盛った。それを原因とした魔力暴走を起こし仮死状態に陥ったが、ルディ・マリグノが治療に当たったおかげで奇跡的に生還し、今は療養している。聖人族は強く抗議し、婚約を破棄、賠償を求めた。アリーナ王女及び計画に加担した者は即刻強制送還となった。
流れていた噂は真実として、学園中で話題に上がった。
……本来の真実は、あの場にいた者だけの胸にあるだけだ。
だが、どうしても確認したいことがあった僕は、深夜のマリグノ先輩の部屋を訪ねた。
快く、とはいかないが、予感していたのか素直に中へと案内される。
よくある二人部屋、のはずが、相当な広さの部屋が広がっている。相方がいないため好きに魔法で部屋をいじったのだろう。
「久しぶり、ユヌ君」
「リリオン先輩」
これも予想していた。この部屋にリリオン先輩がいるだろうことも。
リリオン先輩は一人掛けの椅子に座り足を組んでいた。もう寝るだけなのか、ラフな格好をしている。
「何を聞きたいの? 俺? それともルディ?」
「リリオン先輩です。どこからが、リリオン先輩の計画ですか?」
単刀直入に、僕は確認したいことを投げ付けた。
「多分、君が想像しているのが合っていると思うよ」
「そうなると、先輩方が賭けをして魔法に制限を掛けたことも計画のうちになりますが」
「うん、正解。よく分かったね。良い子だ」
嬉しそうな反応に、僕はふうっと息を吐いた。
「制限魔法が掛けられていることが、魔法薬が使えるとアリーナ・ノービレ先輩の背中を押したんですね。きっと本来のあなたなら服用しても簡単に解除できてしまうから。魔力暴走を起こすほど抵抗するとはノービレ先輩も思っていなかったでしょう」
「そうだね。魔力暴走はほぼ死に繋がるから」
「だけど、あなたは魔力暴走が起きると分かっていてあえて起こしたんですね」
「うん」
「……どうして、そんな危険な賭けをしたのか。最初は分かりませんでしたが」
僕は二人を見る。リリオン先輩の斜めに位置した一人掛けの椅子に座るマリグノ先輩は、手にした本を読んでいる。題名は読めない。知らない文字で書かれているから。こちらには一切興味を持っていないようだった。
「聖人族は出生率が低いため、高位貴族は準成人になると必ず子を儲けると誓わされるようですね」
「正確には、聖人族の繁栄を義務とし果たす、だけどね」
「その誓いがある以上、正当な理由なく子を儲けることができない相手とは添い遂げられない。……お二人は、愛し合っているんですね」
僕が出した、今回の件の根底だ。
聖人族は子を儲ける必要があり、その誓いは正当な理由なく違えた場合、対価として魔力を失うことになる。子を儲けることができない、同性であるマリグノ先輩と愛し合い、添い遂げるために、誓いをした『リリカ・リリオン』を殺すことにした。死んだことで誓いは消えるから。二人には勝算があったから、そんな危険な賭けをしたのだろう。
リリオン先輩は大きく目を見開き、次いで少し嫌な顔をした。
「半分正解。そんなロマンティックな理由じゃないよ」
「え」
「ルディは俺に執着していて、俺を自分のものにしたいだけだ。俺もルディに夢中なだけで愛だの恋だの可愛らしい話じゃない。ルディほど楽しくさせてくれる相手はいないから」
愛でないのに命を賭けたというのか。
「だから賭けをしたんだよ。俺が欲しいなら卒業までに俺の評価と俺自身に傷一つ付けず堂々と自分のものにしてみろって。もし成功したら飽きるまでルディの物になるって」
「それ、失敗の場合は死ですよね? 対価が大き過ぎませんか?」
「いいんだよ。アリーナ王女と結婚するくらいなら自害した方が自分のためになる」
「そんなに嫌いだったんですか?」
「人間族は欲深いし傲慢なところがある。彼女にとって俺は所有物という前提があったし、既成事実を作ろうという思考が気持ち悪い。貴族として務めを全うする気持ちはあったが、ルディが面白くて。賭けに値するなと思ったんだよ。死にたくはなかったから、なるべくルディが勝つようお膳立てもしたけど、上手くいって良かったね」
とても軽いノリだった。つい最近まで死んでいたとは思えない。
死とノービレ先輩との結婚なら死が勝ち、死とマリグノ先輩ならマリグノ先輩が勝ち、貴族の務めと好奇心なら好奇心が勝ったということだろう。単純に天秤にかけ、重い方を取った結果なのだろう、『今』は。
「お膳立てとは、僕があなたに夢中になること?」
「うん。ルディが君に俺の痴態を覗かせたいことを知って、俺に夢中にさせたいんだなって思ったからね。俺はどうだった?」
「……最高に、夢中になりました。僕と接していたのは僕好みに演技していたのですか?」
「うん」
肘置きに頬杖をついて、リリオン先輩は悪びれなく笑う。
この人の本質はきっと間違いなく悪だ。私欲のためなら善悪など関係ない。人を騙すことも誘惑することも面白さがあれば厭わない。
「あの日、図書室と約束していたのにいませんでした」
「ルディは観察が好きなんだ。盲点がないから何でも見通せるし。君に見せたいんだなと思って図書室はすぐに出たよ。何でもルディの思い通りさせるのは癪だから、君が通らないはずの廊下にある部屋に入った。そしたら、君が来た。違う道を通って部屋に戻ることをルディは予想していたみたい」
全て、この二人の手のひらで踊っていたということだ。自分の馬鹿さ加減に頭が痛くなる。
「で? どうするの? 俺に幻滅したか?」
「……」
「君は商才と人脈、信頼がある。ルディにはないし、他の同年代の生徒にもないものだ。俺の足に触れるくらいなら許してあげようか。俺のものでいるなら」
本当に僕は大馬鹿者らしい。
リリオン先輩の前に跪き、組まれた足を手に取る。柔らかいスリッパを脱がして、白い足に口付けた。足の裏に鼻先や唇を寄せ、スンと鼻を鳴らす。……なぜ、甘い花のような香りがするのだろうか。
見上げれば、リリオン先輩が驚いた顔をしている。いつも余裕綽々な顔しか見たことがなかったから、珍しいそれを自分が引き出したのだと思うと頭が喜ぶようだった。
「リリオン先輩の足になら、触れてもいいんですよね」
「うん」
「ありがとうございます。もっと、許されるように頑張ります」
「一応言っておくけど、俺と恋仲になれるとかは期待しないでね」
「期待していません。ただ、触れさせてください。近くに置いてください。僕の雇用主になるんでしょう?」
「……君は思い切りがいいね。全部演技だってことも利用されただけってことも分かったのに」
少し呆れたような言い方だった。
正論過ぎて否定できない。
「あなたの性質に惹かれてしまったんです」
僕はリリオン先輩の足を好きなだけ堪能し、スリッパを履かせる。
「マリグノ先輩には負けますが、十分楽しませられるように頑張ります」
聖人族の妖精に魅了された僕は、この先の人生で『妖精の腹心』として名を馳せることになる。
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