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13.天宮旺祐の機嫌取り
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13.天宮旺祐の機嫌取り
ヘッドハンティングが成功してから旺祐には報告するつもりだったが、旺祐の機嫌が底辺にいる今、隠し事は悪手だ。旺祐の機嫌は怜次第であり、怜がご機嫌取りをすれば大抵のことはどうにかなるが、今の旺祐は怜にとってのスパダリを目指している。そのため怜の前であからさまに不機嫌で横柄で自己中然とした姿は見せられない。と言うことは、怜にご機嫌取りをさせることは出来ない、ということで、怜以外の、旺祐をよく知る自分がご機嫌取りをしなくてはならない。
『ヘッドハンティング? 誰を?』
「寵人様のお世話係です」
旺祐は仲原の言いたいことを正しく理解したらしい。間を開けて『はは』と軽く笑った。怜には見せない、せせら笑いだ。
仲原は頭に入れた情報を読み上げる。
「名前は犬飼章吾、二十五歳。高卒。両親を事故で亡くし、五歳下の妹と二人暮らし。お金と人との縁に恵まれず借金を抱えながら昼夜問わず働いている。妹は病気を患っているので、医療費や入院費が嵩んでいます。学はないですが体力と体を使うことには長けています。一言で言えばほぼ過去と変わらない生活と性格をしていますね」
『それで? そいつをヘッドハンティングして何の業務をやらせるつもりだ? お前に人事権なんてないだろうが』
「雇うのは旺祐さんです。業務は怜さんの犬」
犬飼章吾。彼は過去、寵人の世話係として存在していた。基本は寵人の世話は王が担っていたが、出来ない日も少なくなく、そんな日は彼が担っていた。寵人に触れられることが許された唯一である。王の最側近だった自分でさえ寵人に触れることは許されていなかった。何故、彼だけが許されたか、理由は彼の覚悟を王が認めたからだ。彼は寵人へ懸想することも下心も持たない、純粋な忠誠心のみを生涯持つことを示すために自ら去勢してみせたのだ。妹関連で王に恩があったから、王のためなら何でもする忠犬になっており、寵人の従者に頭を悩ませていた王の憂いを取り除きたいがために。意志が強い彼は寵人に絆されることも同情することもなかった上、親兄妹に向けるような純粋な気持ちで寵人を慕い敬っていた。故に王も彼の存在を認めていた。
『怜の犬が欲しいとは、言った覚えはないが?』
「そろそろ必要でしょう? 怜さんのお友達が」
友達、部分を強調する。
すぐに反応が返ってこなかったため仲原は続けた。
「旺祐さんのことはよく分かっていますが、怜さんのこともよく分かっていますよ。怜さんは元々アウトドア派だし人との関係を大切にする方ですから。旺祐さんとの二人きりの世界に満足していますが、時折息抜きのように他人との時間も必要になります。ですが学生時代の友人はそれとなく切らせたでしょう? 旺祐さんのお眼鏡にかなう人材がいなかったから。今から新しい人間関係を作るよりは、一度決めたことは絶対に貫く彼を使う方がマシじゃないですか?」
怜には記憶がない。だが、ふと過去を覚えているのでは? と思う時がある。それはきっと、魂に刻まれた記憶が体に影響を与えているのだろう。だから、旺祐が嫉妬しそうな気配を感じたら、緊張気に、切迫詰まったように、自分へ意識を向けたがる。何せ過去では旺祐は嫉妬から使用人を亡き者にしたこともあるくらいだから。素直に専業主夫をしている理由もそれだろう。だが、一生旺祐との二人きりの世界では怜の精神上良くない。絶対に。心身を貪られるだけの人生はどこかで綻びが起きる。時折息抜きをさせることは必要だ。
旺祐は仲原の意見に、小さく息を吐いた。
『怜のこともよく分かっていて腹が立つくらいだな』
「褒め言葉として受け取ります。私は昔から怜さんに対して同情心しか持っておりませんのでご安心を」
『お前のそれは一貫しているな』
でなければ過去も今も旺祐に重宝されることはない。怜のことは驚くほど美しいなと思うが、それ以上に旺祐に狂気的に愛され可哀想だな、という同情心がどうしても上回る。きっと怜が普通の生活を送っていたら、見惚れあわよくば特別な目で見られたいと思ったかもしれないが、今も過去もその前提はあり得ない。
「で、いかがですか? 犬飼に記憶はありませんが、心身には根付いていると思われます。警戒心が強いはずなのに、私と関わって心を開く時がありますから。きっと過去と変わらない働きを見せてくれると思います。怜さんのことも大切にしてくれるでしょう」
『いいだろう。その件はお前に任せる。片付くまでは誰もここには寄越すな』
「かしこまりました」
慣れたように恭しく頭を下げてから通話ボタンを押す。途端に静まり返った室内で、仲原は怜と犬飼の筋書きを脳内で描き始めることにした。
「どうやって出会うのがいいか。王好みの筋書きを考えなきゃな」
ヘッドハンティングが成功してから旺祐には報告するつもりだったが、旺祐の機嫌が底辺にいる今、隠し事は悪手だ。旺祐の機嫌は怜次第であり、怜がご機嫌取りをすれば大抵のことはどうにかなるが、今の旺祐は怜にとってのスパダリを目指している。そのため怜の前であからさまに不機嫌で横柄で自己中然とした姿は見せられない。と言うことは、怜にご機嫌取りをさせることは出来ない、ということで、怜以外の、旺祐をよく知る自分がご機嫌取りをしなくてはならない。
『ヘッドハンティング? 誰を?』
「寵人様のお世話係です」
旺祐は仲原の言いたいことを正しく理解したらしい。間を開けて『はは』と軽く笑った。怜には見せない、せせら笑いだ。
仲原は頭に入れた情報を読み上げる。
「名前は犬飼章吾、二十五歳。高卒。両親を事故で亡くし、五歳下の妹と二人暮らし。お金と人との縁に恵まれず借金を抱えながら昼夜問わず働いている。妹は病気を患っているので、医療費や入院費が嵩んでいます。学はないですが体力と体を使うことには長けています。一言で言えばほぼ過去と変わらない生活と性格をしていますね」
『それで? そいつをヘッドハンティングして何の業務をやらせるつもりだ? お前に人事権なんてないだろうが』
「雇うのは旺祐さんです。業務は怜さんの犬」
犬飼章吾。彼は過去、寵人の世話係として存在していた。基本は寵人の世話は王が担っていたが、出来ない日も少なくなく、そんな日は彼が担っていた。寵人に触れられることが許された唯一である。王の最側近だった自分でさえ寵人に触れることは許されていなかった。何故、彼だけが許されたか、理由は彼の覚悟を王が認めたからだ。彼は寵人へ懸想することも下心も持たない、純粋な忠誠心のみを生涯持つことを示すために自ら去勢してみせたのだ。妹関連で王に恩があったから、王のためなら何でもする忠犬になっており、寵人の従者に頭を悩ませていた王の憂いを取り除きたいがために。意志が強い彼は寵人に絆されることも同情することもなかった上、親兄妹に向けるような純粋な気持ちで寵人を慕い敬っていた。故に王も彼の存在を認めていた。
『怜の犬が欲しいとは、言った覚えはないが?』
「そろそろ必要でしょう? 怜さんのお友達が」
友達、部分を強調する。
すぐに反応が返ってこなかったため仲原は続けた。
「旺祐さんのことはよく分かっていますが、怜さんのこともよく分かっていますよ。怜さんは元々アウトドア派だし人との関係を大切にする方ですから。旺祐さんとの二人きりの世界に満足していますが、時折息抜きのように他人との時間も必要になります。ですが学生時代の友人はそれとなく切らせたでしょう? 旺祐さんのお眼鏡にかなう人材がいなかったから。今から新しい人間関係を作るよりは、一度決めたことは絶対に貫く彼を使う方がマシじゃないですか?」
怜には記憶がない。だが、ふと過去を覚えているのでは? と思う時がある。それはきっと、魂に刻まれた記憶が体に影響を与えているのだろう。だから、旺祐が嫉妬しそうな気配を感じたら、緊張気に、切迫詰まったように、自分へ意識を向けたがる。何せ過去では旺祐は嫉妬から使用人を亡き者にしたこともあるくらいだから。素直に専業主夫をしている理由もそれだろう。だが、一生旺祐との二人きりの世界では怜の精神上良くない。絶対に。心身を貪られるだけの人生はどこかで綻びが起きる。時折息抜きをさせることは必要だ。
旺祐は仲原の意見に、小さく息を吐いた。
『怜のこともよく分かっていて腹が立つくらいだな』
「褒め言葉として受け取ります。私は昔から怜さんに対して同情心しか持っておりませんのでご安心を」
『お前のそれは一貫しているな』
でなければ過去も今も旺祐に重宝されることはない。怜のことは驚くほど美しいなと思うが、それ以上に旺祐に狂気的に愛され可哀想だな、という同情心がどうしても上回る。きっと怜が普通の生活を送っていたら、見惚れあわよくば特別な目で見られたいと思ったかもしれないが、今も過去もその前提はあり得ない。
「で、いかがですか? 犬飼に記憶はありませんが、心身には根付いていると思われます。警戒心が強いはずなのに、私と関わって心を開く時がありますから。きっと過去と変わらない働きを見せてくれると思います。怜さんのことも大切にしてくれるでしょう」
『いいだろう。その件はお前に任せる。片付くまでは誰もここには寄越すな』
「かしこまりました」
慣れたように恭しく頭を下げてから通話ボタンを押す。途端に静まり返った室内で、仲原は怜と犬飼の筋書きを脳内で描き始めることにした。
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