教訓のある『今』は無敵

かんだ

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12.天宮旺祐という男

 12.天宮旺祐という男
 
 旺祐は頭脳明晰、容姿端麗、多芸多才の上、名家の嫡子で身内にはどの界隈にも影響力を大きく持つ人物が多く、完璧な人間と言われるが、怜が関わると途端に頭がおかしくなる。嫉妬深い、なんて一言で終わらせられないほどに。一人では外にも出させないし、交友関係も周囲に分からないように手を回し自分のいいように固めている。怜のそばにいられるようにどこでも出来る仕事として作家を選んだくらいだ。旺祐の怖いところは怜本人にさえ、自分が束縛され狭く作られた世界を生きていると気付かせないところだろう。怜の性格と思考回路を熟知し、旺祐の知能指数がアホみたいに高く、十分な富と人脈を持っているからこそ出来る芸当だ。でなければ、全てを管理されていることに違和感を持たないなんてあり得ない。だが、旺祐をよく知っている自分以外そのことに気付いていない。
 仲原は前世、もしくはパラレルワールド、とにかく別の人生を覚えている。一人分の長い人生だ。絶対王政の異国の地、仲原は王の側近だった。業務は多岐に渡り昼夜問わず舞い込んでくるが、メインは王の我が儘を叶えること。王は国を繁栄させ歴史的に見ても名君と評判が良かったが、寵愛する青年が関わると途端に頭がおかしくなる。苦労した事柄は数え切れない。これで王政が滞っていたら確実に反乱が起き、王には味方一人いなかったはずだ。だが、王はその塩梅も上手く、家臣が苦言を呈することも、民が不満を持つこともなかった。むしろ誰も引き摺り下ろせないほど、王としての手腕を発揮していた。
 今と全く同じ。
 王は旺祐、王の寵人は怜。
 王も旺祐も狂気的に怜を執愛している。
 ただ唯一違うとしたら、今は教訓に出来る過去があることだろう。
 過去の王は、本人も言っていたが最初を間違えた。寵人に救われた王は、寵人に執心し、寵人を手に入れるために王位継承争いに加わり勝ち残った後に寵人を監禁してしまった。毎日犯し、寵人の全てを手中に収め、管理した。手洗いに行くことさえも王の許可が必要だったし、排尿に関しては王の手によって行われていた。寵人にとっては地獄が続いた上、最期も悲惨なものだった。
 故に、今は王としての人生を教訓としたおかげで怜は地獄や絶望から程遠い世界の中で生きている、と、怜本人は思っている。旺祐に王としての記憶があり、怜に寵愛された記憶がないために『今』があると言える。もしも怜に記憶があればきっと死に物狂いで旺祐から逃げた。もしも逃げたら、きっと『今』ではなく『過去』に近い今になっているだろう。
 怜や周囲からは完璧人間、スパダリと評される旺祐だが、今も変わらず怜に狂気的に執愛しているため、自分以外が怜に触れただけでも許せないらしい。……本当に、一人の人間をそこまで愛し執心出来ることに驚くしかない。
「腰の細さは、見てるだけでも分かるのでは」
 とりあえず、仲原は過去にも似たような出来事があったなと思い浮かべつつも現在に集中する。
 怜に触れて腰の細さを知られた、ことに対する解決策だ。
 怜は過去と変わらず驚くほど美しい。誰もが絶対に二、三度見する。体は男とも女とも思えない線をしているし腰の細さは見て分かる。
『見て想像に留まることと触れて知ることは全く違う』
「それはそうですが。彼はとても優秀でしょう? 今まで何の問題もなかったんですし。私のイチオシですよ」
『マシなレベルだけだ。怜への興味が隠しきれていない』
「それに、もし彼が助けなければ怜さんは転んで怪我をしたかもしれないじゃないですか。そう考えたら下心はないのだし目を瞑っても良いのでは?」
『目を瞑って、出禁にするんだ』
 なるほど。出禁は旺祐にとって最大限譲歩した結果らしい。確かに過去を思えば随分と生易しい処遇だ。今の旺祐だって本気を出せば彼を社会的に抹殺することも出来る。それだけの金も人脈も持っている。
 本当に、嫌になるくらい完璧なステータスだ。
「確かに寛大になりましたね。ありがとうございます。ただ、他に良い人材がいないんですよね」
 過去を含め旺祐には逆らえない仲原は結局頭を悩ませる。旺祐が寛大になったことは喜ばしいが、旺祐の命令に従うには寺尾の代わりを見付けなければならない。今のところ代わりに成り得る人材はいない。高確率で、男性社員は怜に興味を持ち、女性社員は旺祐に興味を持ち、寺尾以上にそれを隠し通せないだろう。唯一寺尾がルールをしっかり守るタイプだったのだ。
『そもそもお前は何をしているんだ』
「あ、私ですか? 私は今ヘッドハンティング中なんです。通常業務もある中でのそれなのでとても忙しくてですね」
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