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17.欲
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「そう?」
「そうでしょう? 自分の気持ちを素直に口に出来る人だ。俺が知る魔法使いは癖が強い人間ばかりだったし、普通の人も媚びや下心ばかりだった。こんなに素直に接してもらうのは、記憶にないくらいです」
魔法使いに関してはこちらの魔法使いたちもそうだ。皆癖が強い。媚びや下心は知らないけど。
「なんか、面倒そうな人生だったんだな」
「そうですね。だからルネ様が素直だと安心します。わざわざ言葉の裏を読む必要も、合わせる必要もないので」
「良かったね」
「はは」
会話は終わりなのか、テオが目を閉じ口を開ける。両頬に手を添えて唇を合わせた。
変換された魔力が流れてくる感覚に安心する。自分の中に上手く保管されていく。この程度であれば、大丈夫だろう。
「はい、終わり」
「ありがとうございます」
キスが終わればテオは「お茶を淹れますね」と席を立った。
「そういえば、聞いてなかったけどテオって恋人とかそういう人はいないの?」
「いませんよ。どうしてですか?」
湯気が立ったカップが目の前に置かれる。香りからセルジュがいつも淹れてくれる茶葉と同じだと思った。
「もしいたら可哀想じゃん。処置だからって男とキスしてるなんて」
「あぁ、確かに。じゃあルネ様にもそういう人はいないんですか?」
「いないよ」
もしもいたら……いや、いないのに仮定を考えても仕方ないか。作るつもりもないし。
「ルネ様って、清廉ってイメージですよね」
「初めて言われた」
お茶はまだ熱く、一緒に出された洋菓子を食べる。魔塔で大量購入しているやつだ。誰かから分けてもらったのかもしれない。俺の分はとっくに食べ終わって、次に入荷するのを待っているところだから。
「そう? ルネ様には匂いがない」
「匂い?」
不思議な言い回しだ。俺は自分の体に鼻を寄せて嗅いでみるが、石鹸の香りがするだけだ。
「そういう香りじゃなくて、欲の匂いがしないってことです。五日そばにいただけだけど、ルネ様みたいな人間は珍しい」
「欲か~」
言われ、考えてみる。言いたいことは分かるが人並みに欲はある。
「俺だって普通に欲塗れだけど」
「お腹いっぱい甘いものが食べたいとか?」
「はは、微妙に馬鹿にしてない?」
まあそういう欲望……しかないけど。
だって権力にも金にも名誉にも興味がない。恵まれている今がこれからも続けば充分過ぎる。
「馬鹿になんかしていませんよ。皇帝も神父も平民も欲があるのに、ルネ様からはそれが感じられないから不思議だなと思って」
そんなことを言われたのは初めてだ。俺が思う欲は他人が感じられる程は強くないということだろうか。
「望めば何でも手に入るからかな」
自分自身を改めて考えたことはないが、敢えて挙げるとしたらそれが理由だ。
魔法は完璧ではなく、出来ないことだってある。だが、俺にとっては出来ることの方が多い。自分が望めば何でも手に入ると分かっているからこそ、満たそうという欲が湧かないのかもしれない。
「なんてね。テオは見た目だけなら欲しかないような感じだよね」
「はは、本当に素直だなルネ様は。確かに欲塗れだけど」
「どんな欲があるの?」
純粋な好奇心だった。
「皆が経験している当たり前のことを同じように経験したい、ですかね」
「当たり前のこと」
何だろう。当たり前のこと。分からない。分からないけど、皆が経験していることなら今のテオも問題なく経験出来るだろう。
「最低でも五日間は普通に日常生活送れるだろうから、色々経験したら良いよ」
「ありがとうございます。本当に、ルネ様と出会えて良かった」
「俺も。テオがいてくれて楽しいよ」
俺にとっても、テオがいてくれて一応は変わらない日常を送れている。
「ルネ様、いらっしゃいますか?」
途中、セルジュの声が聞こえ、俺は部屋を後にすることにした。
「そうでしょう? 自分の気持ちを素直に口に出来る人だ。俺が知る魔法使いは癖が強い人間ばかりだったし、普通の人も媚びや下心ばかりだった。こんなに素直に接してもらうのは、記憶にないくらいです」
魔法使いに関してはこちらの魔法使いたちもそうだ。皆癖が強い。媚びや下心は知らないけど。
「なんか、面倒そうな人生だったんだな」
「そうですね。だからルネ様が素直だと安心します。わざわざ言葉の裏を読む必要も、合わせる必要もないので」
「良かったね」
「はは」
会話は終わりなのか、テオが目を閉じ口を開ける。両頬に手を添えて唇を合わせた。
変換された魔力が流れてくる感覚に安心する。自分の中に上手く保管されていく。この程度であれば、大丈夫だろう。
「はい、終わり」
「ありがとうございます」
キスが終わればテオは「お茶を淹れますね」と席を立った。
「そういえば、聞いてなかったけどテオって恋人とかそういう人はいないの?」
「いませんよ。どうしてですか?」
湯気が立ったカップが目の前に置かれる。香りからセルジュがいつも淹れてくれる茶葉と同じだと思った。
「もしいたら可哀想じゃん。処置だからって男とキスしてるなんて」
「あぁ、確かに。じゃあルネ様にもそういう人はいないんですか?」
「いないよ」
もしもいたら……いや、いないのに仮定を考えても仕方ないか。作るつもりもないし。
「ルネ様って、清廉ってイメージですよね」
「初めて言われた」
お茶はまだ熱く、一緒に出された洋菓子を食べる。魔塔で大量購入しているやつだ。誰かから分けてもらったのかもしれない。俺の分はとっくに食べ終わって、次に入荷するのを待っているところだから。
「そう? ルネ様には匂いがない」
「匂い?」
不思議な言い回しだ。俺は自分の体に鼻を寄せて嗅いでみるが、石鹸の香りがするだけだ。
「そういう香りじゃなくて、欲の匂いがしないってことです。五日そばにいただけだけど、ルネ様みたいな人間は珍しい」
「欲か~」
言われ、考えてみる。言いたいことは分かるが人並みに欲はある。
「俺だって普通に欲塗れだけど」
「お腹いっぱい甘いものが食べたいとか?」
「はは、微妙に馬鹿にしてない?」
まあそういう欲望……しかないけど。
だって権力にも金にも名誉にも興味がない。恵まれている今がこれからも続けば充分過ぎる。
「馬鹿になんかしていませんよ。皇帝も神父も平民も欲があるのに、ルネ様からはそれが感じられないから不思議だなと思って」
そんなことを言われたのは初めてだ。俺が思う欲は他人が感じられる程は強くないということだろうか。
「望めば何でも手に入るからかな」
自分自身を改めて考えたことはないが、敢えて挙げるとしたらそれが理由だ。
魔法は完璧ではなく、出来ないことだってある。だが、俺にとっては出来ることの方が多い。自分が望めば何でも手に入ると分かっているからこそ、満たそうという欲が湧かないのかもしれない。
「なんてね。テオは見た目だけなら欲しかないような感じだよね」
「はは、本当に素直だなルネ様は。確かに欲塗れだけど」
「どんな欲があるの?」
純粋な好奇心だった。
「皆が経験している当たり前のことを同じように経験したい、ですかね」
「当たり前のこと」
何だろう。当たり前のこと。分からない。分からないけど、皆が経験していることなら今のテオも問題なく経験出来るだろう。
「最低でも五日間は普通に日常生活送れるだろうから、色々経験したら良いよ」
「ありがとうございます。本当に、ルネ様と出会えて良かった」
「俺も。テオがいてくれて楽しいよ」
俺にとっても、テオがいてくれて一応は変わらない日常を送れている。
「ルネ様、いらっしゃいますか?」
途中、セルジュの声が聞こえ、俺は部屋を後にすることにした。
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