我が身可愛さに行動したら取り返しのつかない結果になった。

かんだ

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19.家族

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 19.家族

「ねえ聞いてくださいルネ様。お父様がもう私の婚約者を見付けてきたんですよ? 早くないですか?」
 ぷりぷりと丸みのある頬を膨らませるのは王女のレオニー。今年十歳になったばかりだが、女性は早熟と言われるだけあって口から出てくる言葉は大人たちと変わらない。
「へー、そうなんだ。嫌なの?」
「嫌よ! 私は家族とこの国が大好きですもの。私だけ他国にお嫁に行くなんて」
 相手は他国の王族か貴族か。レオニーはこの国唯一の王女だが、今までも女性王族は他国に嫁いでいる。
「どこの国なの?」
「大帝国です。そこの皇孫の一人ですって。皇太子の第一皇子」
「大帝国か~。隣国だね。毎日会いに行くよ」
「ルネ、勝手な約束をするんじゃないよ。あと、まだ話し合いの途中だから」
 勝手に話を進めていれば、陛下に咎められる。まだ確定したわけではないらしいが、その確率は高いだろう。
 大帝国と王国は長年同盟国として手を繋いできた。人事や文化、軍事、経済など、多くの分野で対等な条約を交わしている。国力だけで見るなら大帝国は全てにおいて王国とは差があり普通なら相手にされるないが、その全てを無視してでも向こうが同盟を結び続ける理由は、この国の魔法使いのレベルが高いこと、魔石鉱山を所有していることに他ならない。俺も唯一、大帝国だけは陛下と共に訪問している。
 それだけ、お互い結び付きを重要視しており、数世代置きに嫁ぎ嫁がせている。
 頃合いとしては婚姻を結んでもおかしくはないし、恐らく大帝国としては今、王国から嫁いで欲しいと思っているはず。王族が大帝国に嫁げば、必ず俺が大帝国を訪問する回数が増えるから。
「ならお父様、この婚約の話が消えるって可能性もありますの?」
「あり得るだろうな」
「向こうから熱烈に求められているのに?」
「本気でお前が無理なら考えるさ」
 陛下の言葉に、レオニーは不貞腐れたようにプイッと横を向いた。
「嘘です。王族としての責務は果たします。ただ、ルネ様と離れたくないなって、思っただけ」
「レオニー、大丈夫だよ。陛下が何て言っても毎日会いに行くから」
「本当に?」
「ルネ」
「良いじゃん。レオニーたちは俺の家族でもあるもん」
 陛下は溜め息を吐きながら嫌な顔をする。何故そんな顔?
「お前、最近殆ど王宮に来ないじゃないか。呼び出さなきゃ来ないくせに嫁ぎ先には毎日行くのか?」
「……あ、あ~、はいはい」
「なんだその返事は」
 王宮に近寄らない最近を指摘され、誤魔化すようにステーキを口に放る。確かに魔力がなくなってから今日が初めての登城だ。以前は頻繁とまではいかなくても王宮に顔を出しては誰かしらと時間を過ごしていた。
「ルネ、また馬鹿なことをしているわけではないよな?」
「してないって」
「お前だけは私に嘘を吐いても隠し事をしても良いが、私のそばを離れることだけは許さないからな?」
「知ってるよ。そんなつもりもないってば」
 陛下は俺にとって一言では表せない存在だ。何があっても離れるつもりはないし、そもそも離れたくもない。
 俺と陛下がいつものように軽く言い合っていれば、じっと見つめていたレイハンが呟いた。彼は第二王子であり、レオニーの双子の弟だ。
「お父様は、ルネ様と結婚できないんですか?」
 思ってもいなかった問い掛けに、思わず反応が遅れる。表情から冗談を言っているようには見えない。何て答えようかと思っていれば、陛下が代わりに答える。……だがそれも、また反応に困るものだった。
「ルネと結婚しても良いが、王妃としての責務を果たす力量がないだろう?」
「……子ども相手に馬鹿なこと言うなよ」
 陛下の回答が気に入ったのか、子どもたちが次々に口を開く。
「ルネ様とお父様が結婚したら良いじゃない! 同性婚は禁止ではないでしょう?」
「お姉様も良いと思いますよね? 僕もそうなったら嬉しいな~」
「私たちがいるから跡継ぎは作らなくても良いし、王妃の勤めは何とかやってもらえば良いし」
 レオニーやレイハンだけじゃなく、第一王子のアレクシまでもそれに加わる。アレクシは十二歳だが、同年代よりも成熟しておりその考え方も王族らしく立派だ。普段は妹弟を窘めることが多いのに、今のアレクシは援護をしだす。
「二人の言う通り、ルネ様と再婚するのは良い案ではないですか? そうすれば再婚や側妃を迎えるよう煩い周りを黙らせられますし。大魔法使い様を伴侶に迎えればより強固な繋がりを他国に見せ付けられますし」
「お兄様天才。その通りですわ」
「確かに三人の言う通りだな」
「なぁ、そんなつもりないくせに何で話に乗るんだよ」
 悪乗りする陛下を睨む。アレクシは置いておいて、レオニーとレイハンは本気にしそうで怖い。もし外で口を滑らせたらどうなるか分からない。
「お前をたかだか正妃に収めるつもりはないが、テキトーな女が王族入りするよりはマシかなと」
「マシじゃないって。どうせ再婚も側妃を迎えるつもりもないじゃん」
 しかも、人をダシにしてその話を断っていることを知っている。
 ――大魔法使い様とソリが合わないとだからな~。
 そんな風に濁しているのだ。
「でもルネ様が誰かも分からない人と結婚するより、お父様が結婚した方が良いのでは?」
「アレクシ、もう俺たちの話は良いから」
「ルネ様は騙されやすそうですし。情が厚いでしょう?」
「確かにそうね。ルネ様は人を疑わなさ過ぎるわ」
「強過ぎるが故の弊害ですよね」
 急に俺の悪口が始まってしまった。子どもたちの会話はあちこち飛ぶからついていけない。
 食事も終わったので俺はそろそろ帰ろうかと席を立つ。
「あ、ルネ様が逃げる」
「別に逃げるわけじゃないって。良い人が出来たら皆に見てもらうから安心して」
 テキトーに返して、俺は王宮を後にした。泊まって行けと言われたけど、テオを長い時間一人にさせておくのも怖いし、予定もない結婚などの話を聞かされるのも面倒だった。
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