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20.媚を売るべきか、否か、
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20.媚を売るべきか、否か、
テオをそばに置いて分かったこと。
俺の魔力はやっぱり消えてはいないこと。だけど使えない状況にあること。その原因と解決策を模索するには魔力が足りないこと。
テオは日に一度仲間に会っていること。好奇心旺盛なこと。見かけに寄らず人付き合いが上手いこと。
自分とテオのことで分かったことは以上だ。
正直、思っていたよりも事が進まず焦る。
このまま進めるよりも、テオと契約でもして好きなだけ魔力を取り込ませてもらう方が良いかもしれない。契約に守秘を加えればテオの口から俺の状態がバレることもないし。
俺は唸りながら、その方法をどう進めるか悩む。
「ルネ様、入って良いですか?」
「うん」
研究室に入って来たのはテオだ。その手にはお茶と軽食が乗ったトレーを持っていた。
「朝も昼も食べていないんですね?」
「え? あぁ、忘れてた」
テオがテーブルにトレーを置き、朝と昼に用意してもらってから一口も手を付けていない皿を見下ろす。ここ最近、悩み事のせいで食欲を後回しにしていた。一日くらい食べなくてもあまり減らないのだ。
「ルネ様はただでさえ細いんですから、最低でも三食はしっかり召し上がってくださいよ」
「うん」
「朝と昼の分は冷めているので、俺が食べちゃいますね」
テオは冷めたそれを口に放り込む。俺が三口くらいで食べるものを一口で食べる姿を意味もなくじっと見つめた。
「どうしました?」
「何かしたいことでもある?」
「急ですね」
確かに。契約として進めたいが故にテオに媚を売ろうと無意識に思ってしまった。
俺はこほんと咳払いをして立ち上がる。用意してもらった軽食を摘みながら続けた。
「この国に来て結構慣れただろ? 日常生活も問題なく送れているし。何かしたいことがあるなら付き合おうと思って」
「ルネ様は優しいですね。つけ上がりますよ?」
「俺に出来ることなら良いよ」
「はは、ルネ様は簡単に騙されそうだな」
テオの言葉にふいにレオニーたちに言われたそれを思い出す。まだ付き合って日が浅いテオにまでそう言われると、自分は単純に見えるのだろうか。少し落ち込むな。
「そんなことないから。俺だって人を見るし」
「なら俺は優しくしても良いという判断をもらえたってことですか」
「まあ」
「大魔法使い様に認められたようで嬉しいですね。付き合ってくれるなら、少し外に出ませんか?」
「良いけど、買い物? もう店閉まってると思うけど」
時刻は夜の九時を過ぎたところだ。殆どの店は今日の営業を終えているだろう。
「いいえ。ルネ様との時間を増やしたいと思って」
テオに連れられた先は国立公園だった。季節の花々が楽しるところで、貴婦人やデートに人気のスポットだ。ただ、今は夜ということもあり人の姿はない。
「花好きなの?」
「好きみたいです。日常生活を送れるようになって、色々見たり経験したりするようになって、初めて自分が何が好きで嫌いか、考えられるようになりました」
花々の道を進む。色とりどりの花々の中には花の形をした魔道具が設置されている。仄かに灯るそれは、夜でも歩くくらいには問題ない光量を発していた。魔塔の先輩が作った代物だ。いつ見ても幻想的で美しい。
「常に死と隣り合わせだったから、俺には不安と絶望しかありませんでした。やらなければならないことが多かったから、自分のその不安や絶望を忘れるにもそれに没頭ばかりして」
テオの話に相槌を打ちながら、その半生を静かに聞く。
「だから、今みたいに穏やかに過ごせることも、不安もなく自分に向き合えていることも、俺にとっては奇跡みたいなものなんです」
途中テオに手を取られる。立ち止まれば真っ直ぐと見つめられた。
初めて顔を見た時よりも、随分と顔色が良くなったと思った。殺伐としていた雰囲気も消えた気がする。
「ルネ様のおかげで、俺は自分を知ることが出来ました」
「自分のことって?」
「何が好きで何が嫌いか、何が得意で不得意か。そういった、皆が当たり前のように知っている自分自身のことです。俺は、何も知らなかった」
「花以外に何が好き?」
「甘いものや肉が好きです。体を動かすことも。でも考えることも好きですね」
「一緒だ。俺も好きだよ」
俺の答えにテオが笑う。
「あと、俺は目的のためなら何でも出来るタイプだってことも分かりました」
「へー。俺もだよ」
何かと共通点が多いらしい。
普通に出会えていたらもしかしたら友人になれたかもしれない。
「それに、俺は結構理想が高く好き嫌いが激しいみたいです」
テオが再び歩き出す。取られていた手はいつのまにか握られており、繋いだまま真横を歩くことになった。手を繋ぐなんて、陛下と子どもたちを除けば初めてだ。変な気分である。
「そうなの?」
「はい。仲間はそんな俺のことを知っていたみたいで、今更気付いたのかと呆れていました。死に掛けのくせに理想だけは高いとか、自分でも笑えましたよ」
少し自嘲のように聞こえた。周りから「死に掛け」と言われてきたのだろうか。
「でも、死に掛けてても、テオは死ぬつもりなかったじゃん」
「……」
「死ぬつもりがなかったからここまで来て、俺の言うことを聞いて、普通、とは言い難いけどまあ普通の日常を送っているじゃん。普通なら理想が高くてもおかしくないんじゃないの?」
「そうかな?」
「そうだよ」
「高い理想を諦めなくても良いと思う?」
問われ、考える。
高い理想を追い求め、届かない時、人は絶望を感じるだろうか。それなりのところで妥協した方が良いのだろうか。
多分、俺なら諦められない。妥協するよりも一番の理想を追い求めたい。『届かなかった』という結果は自分が死ぬ時まで出ないから。
「死ぬまで追い求められるなら、高くても良いんじゃないの?」
「ルネ様は絶対妥協しなさそうですよね」
「しないね」
「ルネ様と話していると、……本当に楽だな」
間を開けてのそれは、俺に言うというよりも独り言に近かった。心底出た言葉、のように聞こえてしまったが、素直に納得は出来ない。
「魔塔の奴らも楽だろ? 気を使わなくても良いし」
「癖は強いですが良い人たちばかりですからね。でも、俺が感じる楽というのは、そういうのではないんです」
じゃあどういうの?
そう聞こうとしたけど、俺はピタッと動きを止めた。止まる俺に合わせてテオも止まる。
テオをそばに置いて分かったこと。
俺の魔力はやっぱり消えてはいないこと。だけど使えない状況にあること。その原因と解決策を模索するには魔力が足りないこと。
テオは日に一度仲間に会っていること。好奇心旺盛なこと。見かけに寄らず人付き合いが上手いこと。
自分とテオのことで分かったことは以上だ。
正直、思っていたよりも事が進まず焦る。
このまま進めるよりも、テオと契約でもして好きなだけ魔力を取り込ませてもらう方が良いかもしれない。契約に守秘を加えればテオの口から俺の状態がバレることもないし。
俺は唸りながら、その方法をどう進めるか悩む。
「ルネ様、入って良いですか?」
「うん」
研究室に入って来たのはテオだ。その手にはお茶と軽食が乗ったトレーを持っていた。
「朝も昼も食べていないんですね?」
「え? あぁ、忘れてた」
テオがテーブルにトレーを置き、朝と昼に用意してもらってから一口も手を付けていない皿を見下ろす。ここ最近、悩み事のせいで食欲を後回しにしていた。一日くらい食べなくてもあまり減らないのだ。
「ルネ様はただでさえ細いんですから、最低でも三食はしっかり召し上がってくださいよ」
「うん」
「朝と昼の分は冷めているので、俺が食べちゃいますね」
テオは冷めたそれを口に放り込む。俺が三口くらいで食べるものを一口で食べる姿を意味もなくじっと見つめた。
「どうしました?」
「何かしたいことでもある?」
「急ですね」
確かに。契約として進めたいが故にテオに媚を売ろうと無意識に思ってしまった。
俺はこほんと咳払いをして立ち上がる。用意してもらった軽食を摘みながら続けた。
「この国に来て結構慣れただろ? 日常生活も問題なく送れているし。何かしたいことがあるなら付き合おうと思って」
「ルネ様は優しいですね。つけ上がりますよ?」
「俺に出来ることなら良いよ」
「はは、ルネ様は簡単に騙されそうだな」
テオの言葉にふいにレオニーたちに言われたそれを思い出す。まだ付き合って日が浅いテオにまでそう言われると、自分は単純に見えるのだろうか。少し落ち込むな。
「そんなことないから。俺だって人を見るし」
「なら俺は優しくしても良いという判断をもらえたってことですか」
「まあ」
「大魔法使い様に認められたようで嬉しいですね。付き合ってくれるなら、少し外に出ませんか?」
「良いけど、買い物? もう店閉まってると思うけど」
時刻は夜の九時を過ぎたところだ。殆どの店は今日の営業を終えているだろう。
「いいえ。ルネ様との時間を増やしたいと思って」
テオに連れられた先は国立公園だった。季節の花々が楽しるところで、貴婦人やデートに人気のスポットだ。ただ、今は夜ということもあり人の姿はない。
「花好きなの?」
「好きみたいです。日常生活を送れるようになって、色々見たり経験したりするようになって、初めて自分が何が好きで嫌いか、考えられるようになりました」
花々の道を進む。色とりどりの花々の中には花の形をした魔道具が設置されている。仄かに灯るそれは、夜でも歩くくらいには問題ない光量を発していた。魔塔の先輩が作った代物だ。いつ見ても幻想的で美しい。
「常に死と隣り合わせだったから、俺には不安と絶望しかありませんでした。やらなければならないことが多かったから、自分のその不安や絶望を忘れるにもそれに没頭ばかりして」
テオの話に相槌を打ちながら、その半生を静かに聞く。
「だから、今みたいに穏やかに過ごせることも、不安もなく自分に向き合えていることも、俺にとっては奇跡みたいなものなんです」
途中テオに手を取られる。立ち止まれば真っ直ぐと見つめられた。
初めて顔を見た時よりも、随分と顔色が良くなったと思った。殺伐としていた雰囲気も消えた気がする。
「ルネ様のおかげで、俺は自分を知ることが出来ました」
「自分のことって?」
「何が好きで何が嫌いか、何が得意で不得意か。そういった、皆が当たり前のように知っている自分自身のことです。俺は、何も知らなかった」
「花以外に何が好き?」
「甘いものや肉が好きです。体を動かすことも。でも考えることも好きですね」
「一緒だ。俺も好きだよ」
俺の答えにテオが笑う。
「あと、俺は目的のためなら何でも出来るタイプだってことも分かりました」
「へー。俺もだよ」
何かと共通点が多いらしい。
普通に出会えていたらもしかしたら友人になれたかもしれない。
「それに、俺は結構理想が高く好き嫌いが激しいみたいです」
テオが再び歩き出す。取られていた手はいつのまにか握られており、繋いだまま真横を歩くことになった。手を繋ぐなんて、陛下と子どもたちを除けば初めてだ。変な気分である。
「そうなの?」
「はい。仲間はそんな俺のことを知っていたみたいで、今更気付いたのかと呆れていました。死に掛けのくせに理想だけは高いとか、自分でも笑えましたよ」
少し自嘲のように聞こえた。周りから「死に掛け」と言われてきたのだろうか。
「でも、死に掛けてても、テオは死ぬつもりなかったじゃん」
「……」
「死ぬつもりがなかったからここまで来て、俺の言うことを聞いて、普通、とは言い難いけどまあ普通の日常を送っているじゃん。普通なら理想が高くてもおかしくないんじゃないの?」
「そうかな?」
「そうだよ」
「高い理想を諦めなくても良いと思う?」
問われ、考える。
高い理想を追い求め、届かない時、人は絶望を感じるだろうか。それなりのところで妥協した方が良いのだろうか。
多分、俺なら諦められない。妥協するよりも一番の理想を追い求めたい。『届かなかった』という結果は自分が死ぬ時まで出ないから。
「死ぬまで追い求められるなら、高くても良いんじゃないの?」
「ルネ様は絶対妥協しなさそうですよね」
「しないね」
「ルネ様と話していると、……本当に楽だな」
間を開けてのそれは、俺に言うというよりも独り言に近かった。心底出た言葉、のように聞こえてしまったが、素直に納得は出来ない。
「魔塔の奴らも楽だろ? 気を使わなくても良いし」
「癖は強いですが良い人たちばかりですからね。でも、俺が感じる楽というのは、そういうのではないんです」
じゃあどういうの?
そう聞こうとしたけど、俺はピタッと動きを止めた。止まる俺に合わせてテオも止まる。
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