我が身可愛さに行動したら取り返しのつかない結果になった。

かんだ

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21.魔法の弊害(受けの失禁有)

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 21.魔法の弊害
 
「どうかしましたか?」
 俯く俺に、テオが覗き込んで目線を合わせる。真っ黒な瞳が至近距離にきた。
 冷や汗が流れる。
「ルネ様?」
「……も、れる」
「は?」
 漏れる。漏れる。漏れる。頭の中がそれに占められる。
 一歩でも動けば漏れる。
 何故突然そんなことを言い出したのか、テオはきっと意味が分からないだろう。俺だってこのタイミングで? と思っている。原因は分かる。昨夜自分に組み込んだ構築式を全て解除したことを忘れていたせいだ。普段トイレに行く必要がないからと、こんな風になるまで気付かない自分が信じられない。
「ルネ様、漏れるって、トイレ行きたいってこと? 我慢出来ないのか?」
 小さく頷く。
「トイレ、俺はこの辺の地理を知らない。近くにあるか?」
「わ、かんない。今、動いたら、多分漏れる」
 それだけは分かる。魔法でどうにか出来るかと考えるが、無理だ。今日テオから取り込む予定日だったため、魔力はほぼ使い切っている。何か行使するほどの量は残っていない。
「おしっこ?」
「うん……テオ」
「なに?」
「俺が、漏らしても、みんなには、内緒にして」
「漏らすしかないのか」
 排泄に関わる構築式だけは解除しなければ良かった。今更後悔しても仕方がないけど。
「ルネ様、絶対他の人には言わないから、安心して。とりあえずさっさと家に帰りましょうか」
「……ぇ?」
 ふわっと、体が浮く。
 理由はテオが俺を抱き上げたからだ。親が子を抱き上げるような格好だ。テオが着ていた上着を頭から掛けられ、下半身をテオの腹に押し付けられる。
「ぇ、なに」
「漏らして良いですよ。お互いの服に吸わせれば、まあ零れることはないかもしれない」
「漏らす……テオ、に?」
「ルネ様は命の恩人ですからね。ルネ様のおしっこくらい大したことない」
 そんなことはないだろう。
 一人夜の公園で漏らすのも、人を汚すのも、どちらも嫌だ。
「ルネ様、大丈夫」
「……っ」
 だが、いくら我慢しても、限界はある。
 テオは振動がないようゆっくり歩いてくれたが、体は十年振りの排泄を我慢出来ない。
 俺はテオにしがみ付きながら、体を震わせて出すしかなかった。じんわりと、下半身が冷たくなる。テオにも十分伝わったはずだ。
「ルネ様、泣かないでください」
「……なく」
 これは、泣くしかない。人は許容を超える羞恥を感じると涙が出るらしい。初めて知る人間のメカニズムである。恥ずかしくて情けなくて嫌になる。こんなにも自己嫌悪に陥るのは子どもの頃以来だ。あやすように背中を撫でられるのもツラい。
 テオは魔塔に着くと私室の浴室へと直行した。そこでようやく降ろされる。
「脱がしますよ」
「……」
 されるがまま、俺はテオに身を任せる。ボロボロと涙を溢すしか出来ず、放心状態だったからだ。今の全てが恥ずかしくて辛い。
 裸になると頭からシャワーを掛けられる。テオの手には泡立ったボディタオルがあり、全身を洗われる。優しい手付きだったが、下半身ではより丁寧になった。他人の手で全身を洗われるなんて、子どもの頃以来だ。
「大丈夫です。誰にも言わない」
「……ありがとう」
 湯船に浸かると、ようやく気持ちが落ち着いてくるようだった。テオは濡れることを気にしていないのか、バスタブの縁に直に座る。
「そんなに泣かないでください」
「泣くよ。恥ずかしい。大人にもなって、漏らして」
「これからは定期的にトイレに行ったか聞きますよ。だから安心して」
「……いらないよ」
 俺は言い訳をしなければと、何故漏らすことになったのか一から説明をする。二十二にもなって排泄が出来ないと思われては堪らない。
「へー? そんなことも出来るなんてすごいですね。なんでいきなり解除してしまったんですか?」
「式を、見直そうと思って」
 本当は魔力喪失を解決出来るかと思い、もう一度自分に組み込んだ式を全て解除してみただけだ。ただ、掛け直すほどの魔力量はなかったため後回しにしていた。
「なるほど。じゃあまた掛け直すんですか?」
「うん。もう二度と、解除しない」
「そうか」
 テオは俺の頭を撫でてから、その手を頬へ移動させる。温かくて思わず擦り寄ってしまった。
「ルネ様、俺から魔力を減らす時は、必ず調整が必要なんですか? 調整しなくても繋がるだけで減らす方法はありませんか?」
 ……この時の俺は、初めて排尿から全身清拭までをさせてしまったことに大きなショックを受けており、頭の中は真っ白だった。だから、素直に、答えてしまった。
「調整は、変換式を掛けたすぐならいらないけど。変換式は、十日掛けて神力に食われるのが分かったから。神力の具合によって、調整は必要だよ」
「なるほど」
 神力は強い。神力から魔力へと変換する式は十日しか保たず、段々と神力に食われていく。いつ取り込むかによって、その調節具合は変わる。
「経口以外に方法はないんですか?」
「遺伝子を交換し合えるような方法なら良いよ。唾液とか体液とか。それを基に受ける側の魔力と同じ魔力に変換する仕組みだから」
「なら今はルネ様の魔力に変換されているってことか」
 そうだ。俺が受けたいから、俺の魔力に変換している。魔力は魔法使いによって異なり、別の魔力を取り込むと衝突し合い問題が起きる。過去に自分の魔力を増やすために他者から魔力を奪った魔法使いがいたが、体内で魔力の衝突と暴走が起こり死んだという記録もあるからだ。そのため、テオの魔力は自分の魔力に変換する必要がある。
「だから、俺以外に渡しちゃだめだよ」
「大丈夫。そんなつもりは一切ないから。それに、変換式は極秘でしょう?」
 テオの顔が近付く。何だろうと見ていれば、耳元に唇を寄せられた。密やかな声が鼓膜を優しく震わす。
「他者から魔力を奪うことは相手の命を脅かすことに繋がるから禁止されている。もしも自身の魔力へ変換出来ると知られたら、各地で魔法使い狩りが始まるだろう」
「……」
 だが、内容は優しくはない。
 俺は肯定も否定もせず目を閉じた。
 テオの言うことは正しい。魔力を他者から取り込める方法が知られたら、実行する魔法使いは必ず現れる。一人現れればその後に続く者は多くなり、奪われないために奪う者も現れるだろう。
 だから、俺がその式を作れること、行使出来ることは、誰にもバレてはならない。
「ルネ様、大丈夫」
 目を閉じていれば、唇に柔らかな感触が落ちてきた。それは最初軽くて勘違いかと思えたが、何度も続けばそれも難しい。
「なに?」
 感触の理由を確かめるため目を開ければ、ぼやけるほどの距離にテオの顔がある。想像通り唇への感触はテオの唇だった。目が合う今も重なっている。ただ唇同士が触れ合うだけのそれには何の意味もない。
「目を閉じたから、キスを求めているのかなって」
「ふは、目閉じたら、キスの合図なの?」
「みたいですよ。男なら応えないとでしょう?」
 理解出来ない言い訳に笑いながら、わざわざ拒絶する必要もないかと好きにさせる。散々唾液を交換するキスをし、今日は排尿の処理までさせてしまった。今更テオ相手に嫌がる行為はないに等しい。
「口を開けてください」
「……ん」
 それに、テオの口付けは慣れたからか気持ち良さしか感じない。
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