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(完結)27.はじまりのおわり
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王宮内、シンプルな造りの会談室。壇上に鎮座するのは陛下のみで、普段待機している騎士団員や護衛騎士はいない。完全に、俺と、陛下と、テオのみ。室内の空気が冷え冷えしているのは勘違いではないだろう。
俺はテオを伴い、定型の口上を伝える。
陛下は肘掛けに頬杖をついて、不機嫌丸出しの表情をしていた。
「まさか、うちのルネが愛人を作るとはね」
「……それは、またちょっと長い話になるって言うか」
「まずは愛人までの経緯を教えてごらん」
ここで、どこまで本当のことを話すべきか躊躇いが生まれる。本当なら全てを話した方が良いと分かっているが、自分でも原因も解決法も分からないことを伝え、不安や混乱を無駄に与えて良いのかと思う。
俺はこの国、いや世界随一の魔法使いだ。俺がいるからこそ発展してきたこともあるし、他国への牽制にもなっている。その魔法使いが一般人になったとどこからか漏れた場合、洒落にならない。陛下の口からバレることは絶対にないが、会談室には幾つかの魔法を掛けてある。例えば映像記録装置だったり、保護結界だったり。俺の現状を映像に残すべきではない。
「……困っていたから、俺が助けた。珍しい症状で、治すことが出来ない。今よりマシにさせるくらいで、それも俺にしか出来ないんだよ。だから、世話を焼いてた」
「報告書通りだね。助けた理由は?」
「それは、珍しい症状だから、研究に役立てそうだと思ったから」
「なるほど。ルネは研究熱心だもんね」
この場を離れた後、陛下と二人きりになったところで全てを話そうと決める。
「世話を焼いているうちに愛人にしたくなったの?」
「それは、ちょっと違うんだけど」
「じゃあ何の関係もない? 触れ合うようなことも、愛を交わすようなことも、何もないんだね?」
頷こうとしたが、今まで黙っていたテオがまさかの発言をした。
「ルネ様に代わりお答えします。恥ずかしながら、恋人と愛人を言い間違えてしまったのです。情を交わし、愛の言葉を交わしました。ルネ様にとって俺は何ものにも代え難い存在だと言ってくださいました」
「……」
言葉を失うということを初めて体験する。自分は予測不可能な事態に陥ると頭が真っ白になるタイプなのだと初めて知る。
「俺はルネ様の言葉を信じ、ルネ様について生きていこうと決めました。ね?」
指同士を絡めるように手を繋がれ、綺麗な笑みを向けられる。
血の気が引く思いをしていれば、陛下から「ルネ、おいで」と手招きをされた。
壇上を上がり陛下の前まで行くと手を引かれ、膝の上に座らされる。体温と匂いに小さい頃が思い出され変に落ち着きそうだった。
「ルネ、恋人は彼が良いの? もし寂しいなら私が相手をするよ」
「…………いや、いやいや。何言ってんだよ。恋人とか、本当に色々あるんだって。ちゃんと話すから」
逃げようとしたが腹に腕を回されて強い力で拘束される。無理に逃げようとすれば絶対に「怪我した」と難癖をつけられ余計面倒なことになる。俺は諦めて「本当に色々あるんだよ」と念押しをするに留める。
「私はルネを愛している。抱くくらい問題ないし、ルネなら恋人にしても誰も文句言わないよ」
「今冗談とかいいから」
陛下との会話が進む度に、テオから殺気を向けられるような気がしてならない。
――俺の機嫌を損ねるな。
ベッドでのテオの言葉が聞こえてきそうで、もう嫌になる。
「ルネも私が相手なら何でも受け入れられるでしょ?」
「それは、まあ」
陛下は大切だし大好きだ。小さい頃から常にそばで大事にされてきたおかげで刷り込みもあるが、今後も陛下とずっと一緒にいるだろうなと確信もある。肉欲を伴った愛情を持っているわけではないけど、陛下なら何をされても別に何とも思わないし普通に受け入れられる。
思わず素直な反応をしてしまったせいか、テオからあからさまに睨まれた。肌を刺すような殺気に、俺は逃げるようにふいっと視線を外す。
「……まぁ、でも、陛下は家族だから。そういう話は、ちょっと違うけど」
「で、結局は彼が良いんだね」
「そういうわけでも」
「ここですっぱりと関係を切ってくれない?」
「それもちょっと」
自分の煮え切らない返事に自分で嫌気がさす。テオという存在が今の自分にとってとても複雑になっているせいだ。
魔法使いとしては絶対に手放せないし、男としては無体を強いられたことで縁を切りたいし、理性としては惹かれていた部分を忘れられず上手く付き合っていきたいし、世間体としては愛人と宣言された手前事態収拾のためにも恋人としてそばに置かなければならない。愛人問題は魔法を使って全員の記憶を消しなかったことに出来なくもないが、そのためにも相当量の魔力が必要になり、今すぐどうにかすることは出来ない。
手放したくないし縁を切りたいしもっとお互いを知って良い関係性になりたい、複雑な感情を持ってしまっている。一つ嫌なことがあったからと全てを切り捨てられるほどの切り替えは出来ない。……だが、また好き放題体を弄られるのは怖いし嫌だ。
俺の心情を何となく察知したのか、陛下は大袈裟なほどの溜め息を吐いた。俺がテオとの関係性を切り捨てられないのだと諦めたのだろう。
このまま有耶無耶に終わってくれないかなと祈っていれば、陛下は爆弾発言をした。
「大帝国皇帝の甥であるテオドール・アルベール大公閣下を恋人にするなんて。国際問題に発展しちゃうよ」
「…………え?」
ミスを隠蔽すると更に状況を悪化させるのだなと、俺はこの時初めて知ったのだった。
俺はテオを伴い、定型の口上を伝える。
陛下は肘掛けに頬杖をついて、不機嫌丸出しの表情をしていた。
「まさか、うちのルネが愛人を作るとはね」
「……それは、またちょっと長い話になるって言うか」
「まずは愛人までの経緯を教えてごらん」
ここで、どこまで本当のことを話すべきか躊躇いが生まれる。本当なら全てを話した方が良いと分かっているが、自分でも原因も解決法も分からないことを伝え、不安や混乱を無駄に与えて良いのかと思う。
俺はこの国、いや世界随一の魔法使いだ。俺がいるからこそ発展してきたこともあるし、他国への牽制にもなっている。その魔法使いが一般人になったとどこからか漏れた場合、洒落にならない。陛下の口からバレることは絶対にないが、会談室には幾つかの魔法を掛けてある。例えば映像記録装置だったり、保護結界だったり。俺の現状を映像に残すべきではない。
「……困っていたから、俺が助けた。珍しい症状で、治すことが出来ない。今よりマシにさせるくらいで、それも俺にしか出来ないんだよ。だから、世話を焼いてた」
「報告書通りだね。助けた理由は?」
「それは、珍しい症状だから、研究に役立てそうだと思ったから」
「なるほど。ルネは研究熱心だもんね」
この場を離れた後、陛下と二人きりになったところで全てを話そうと決める。
「世話を焼いているうちに愛人にしたくなったの?」
「それは、ちょっと違うんだけど」
「じゃあ何の関係もない? 触れ合うようなことも、愛を交わすようなことも、何もないんだね?」
頷こうとしたが、今まで黙っていたテオがまさかの発言をした。
「ルネ様に代わりお答えします。恥ずかしながら、恋人と愛人を言い間違えてしまったのです。情を交わし、愛の言葉を交わしました。ルネ様にとって俺は何ものにも代え難い存在だと言ってくださいました」
「……」
言葉を失うということを初めて体験する。自分は予測不可能な事態に陥ると頭が真っ白になるタイプなのだと初めて知る。
「俺はルネ様の言葉を信じ、ルネ様について生きていこうと決めました。ね?」
指同士を絡めるように手を繋がれ、綺麗な笑みを向けられる。
血の気が引く思いをしていれば、陛下から「ルネ、おいで」と手招きをされた。
壇上を上がり陛下の前まで行くと手を引かれ、膝の上に座らされる。体温と匂いに小さい頃が思い出され変に落ち着きそうだった。
「ルネ、恋人は彼が良いの? もし寂しいなら私が相手をするよ」
「…………いや、いやいや。何言ってんだよ。恋人とか、本当に色々あるんだって。ちゃんと話すから」
逃げようとしたが腹に腕を回されて強い力で拘束される。無理に逃げようとすれば絶対に「怪我した」と難癖をつけられ余計面倒なことになる。俺は諦めて「本当に色々あるんだよ」と念押しをするに留める。
「私はルネを愛している。抱くくらい問題ないし、ルネなら恋人にしても誰も文句言わないよ」
「今冗談とかいいから」
陛下との会話が進む度に、テオから殺気を向けられるような気がしてならない。
――俺の機嫌を損ねるな。
ベッドでのテオの言葉が聞こえてきそうで、もう嫌になる。
「ルネも私が相手なら何でも受け入れられるでしょ?」
「それは、まあ」
陛下は大切だし大好きだ。小さい頃から常にそばで大事にされてきたおかげで刷り込みもあるが、今後も陛下とずっと一緒にいるだろうなと確信もある。肉欲を伴った愛情を持っているわけではないけど、陛下なら何をされても別に何とも思わないし普通に受け入れられる。
思わず素直な反応をしてしまったせいか、テオからあからさまに睨まれた。肌を刺すような殺気に、俺は逃げるようにふいっと視線を外す。
「……まぁ、でも、陛下は家族だから。そういう話は、ちょっと違うけど」
「で、結局は彼が良いんだね」
「そういうわけでも」
「ここですっぱりと関係を切ってくれない?」
「それもちょっと」
自分の煮え切らない返事に自分で嫌気がさす。テオという存在が今の自分にとってとても複雑になっているせいだ。
魔法使いとしては絶対に手放せないし、男としては無体を強いられたことで縁を切りたいし、理性としては惹かれていた部分を忘れられず上手く付き合っていきたいし、世間体としては愛人と宣言された手前事態収拾のためにも恋人としてそばに置かなければならない。愛人問題は魔法を使って全員の記憶を消しなかったことに出来なくもないが、そのためにも相当量の魔力が必要になり、今すぐどうにかすることは出来ない。
手放したくないし縁を切りたいしもっとお互いを知って良い関係性になりたい、複雑な感情を持ってしまっている。一つ嫌なことがあったからと全てを切り捨てられるほどの切り替えは出来ない。……だが、また好き放題体を弄られるのは怖いし嫌だ。
俺の心情を何となく察知したのか、陛下は大袈裟なほどの溜め息を吐いた。俺がテオとの関係性を切り捨てられないのだと諦めたのだろう。
このまま有耶無耶に終わってくれないかなと祈っていれば、陛下は爆弾発言をした。
「大帝国皇帝の甥であるテオドール・アルベール大公閣下を恋人にするなんて。国際問題に発展しちゃうよ」
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ミスを隠蔽すると更に状況を悪化させるのだなと、俺はこの時初めて知ったのだった。
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