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アカミミガメ

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猫探し

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夏の真夜中、アスファルトギリギリに顔を寄せて、路駐の車の下を覗き込む。
日中はまだまだ暑さが残るが、さすがに夜中の道路はヒンヤリとしてきた。

ペンライトで照らしながら、タイヤの裏や遠くの車体の下に生き物の気配を探る。
しばらく同じ姿勢でじっとしていたが、何も見つけることができず、諦めて両手と両膝の砂利を払いながら立ち上がった。

そばにいた夜空ヨゾラが、俺の腕をとって立ち上がるのを手助けしてくれた。

片手で俺の腰を支え、顔が近づく。
お互いの髪が触れ、夜空の髪からいい香りがした。そのまま密着して立ち上がった姿勢で数秒。
なぜ俺たちは見つめあってる?

「近い!近すぎるよ!?」

顔の近さに驚き、息が詰まりそうになった。

「え? 今、キス待ちの顔でしたよね?」
「そんなわけあるか! これは腰痛と戦ってた顔だ!」

おじさんのキス待ち顔って何?
俺が怒っても、当の夜空は笑っている。

「あはは、眉間に皺寄せて色っぽいから、つい。」

ついじゃない。
揶揄われた俺は動悸が半端ないのに、夜空は涼しい顔だ。
綺麗な笑顔が街灯の明かりに浮かんだ。

俺は痛む腰をさすりながら体を伸ばした。
横から夜空が手を伸ばして、一緒になって俺の腰をさすった。

「無理しないで、おじいちゃん。」
「うるせ。次行くぞ。」



「今時の子って怖いわ。相手がおじさんでも平気でキスしようとしてくる。」

昨夜から朝方までかけて迷い猫探しで粘ったものの、見事に空振り。
今しがた事務所に戻ったら、同僚の谷さんがいたのでそう愚痴った。

それを聞いた谷さんが、夜空にふざけて絡んで返り討ちにされた。

影斗エイトばっかりずるいー。夜空ちゃん、俺ともキスしよ~。」
「はあ?無理に決まってんじゃん。」

冷たく断られて、谷さんが泣きながらソファに座る俺の元に帰ってきた。
ホント、今時の子って容赦ない。

「で、探してる猫の名前なに?」

俺の隣に座り、腰に手を回して抱きついた谷さんが聞いてきた。
徹夜明けで頭が働かない。

「えーっと、おはぎ? ダイフク? どっちだっけ。」

俺から谷さんを引き剥がそうとする夜空と、なおもしがみつく谷さんの2人にもみくちゃにされながら答える。

「ダイフクですよ。おはぎは家にいた方。」

そうだった。

谷さんが引き剥がされる時、俺のシャツがバリッと音を立てた。
入れ替わりに夜空にダイブされ、俺は「ぐえっ」と情けない声を上げた。





俺が今いるのは古い探偵事務所だ。
探偵事務所の名前は中央商店街探偵事務所。
ここで働くようになって6年目になる。

依頼の大半は探し物だ。
人や犬、猫、インコなどのペット類に、落とし物、忘れ物など、いろいろな探し物の依頼がある。
残りの半分は不貞行為の調査だ。
最近は減ったが、たまに電球の交換やゴミ出しの手伝いなんてものもあり、正直街の便利屋さんの扱いだ。

今回の依頼は脱走した猫の捜索だった。
2匹飼っていた猫のうち、一匹が脱走防止のドアの隙間から飛び出してしまい、行方不明になったので探してほしいと連絡があった。

期限は5日。
捜索費用は35,000円。
成功報酬はさらに60,000円。

ちなみにこの手の捜索依頼はしょっちゅうあるので捕獲グッズは充実している。
各種フードにミルク、おもちゃ、捕獲用ネット、キャリーなど。

猫は夜探したほうが見つかりやすいので、日勤の連中に猫の情報だけ伝達して、一旦寝に帰ることにした。

「じゃ、夜6時に事務所に集合な。」

そう言って解散したはずなのに、何故か夜空がうちの玄関までついてきている。

疲れていたせいで、何も考えずに一緒にうちのマンションまで移動してた。
エントランスを通って一緒にエレベーターに乗り、玄関の鍵を開ける段になってふと違和感。

「あれ、夜空。お前、帰んなくていいの?」

後ろに立ってドアが開くのを待っている夜空にそう聞いたら、思わぬ返事が返ってきた。

「えー。泊めてくれるって言ったの忘れちゃったんですか?」
「いや、言ったか? そんなこと言った?」

全く記憶にない。

「言った言った。言いましたー。」
「ホントに? 全然覚えがないんだけど。」
「もー、すぐ忘れちゃうんだから。はい、これ今日の朝昼兼用のご飯です。」

夜空の手には、いつのまにかコンビニの袋が握られていた。

「ん、ありがとう。」

中身は2人分の食料だと言うので、お礼を言って家に招き入れた。

交代でシャワーを浴びて、袋の中のものを適当に食べる。
腹が膨れて一瞬で眠りに落ちた。
目が覚めたらベッドで夜空と抱き合っていた。
どうやら同じベッドでくっついて寝ていたらしい。なんで添い寝?!
ホント、ありえないんだけど!!

「おい、起きろ。」
「んん、何時?」

何時?じゃねーよ。
100歩譲って泊まる許可したとして、なんで一緒のベッドで抱き合って寝てるんだ。
お前は客間のベッドに案内しただろう!

起きようとしたら、さらに抱き込まれた。
夜空の胸に顔を埋める形になる。細身のくせに、腕も胸も筋肉がしっかりついていて腕の中から逃げられない。動けないのをいいことに夜空は俺の頭の匂いを嗅ぎ出した。

「やめろ、加齢臭! 加齢臭するから!」
「ん~、いい匂いですよ?」

散々俺の頭の匂いを嗅いだ後で、ようやく解放された。
ベッドの端で弾む息を整えながら座り込む俺を尻目に、夜空は勢いよく立ち上がった。

「あー、酢豚か酸辣湯麺食べたいですね。」
「喧嘩売ってる?!」

しっかり加齢臭してんじゃん!



家を出て、中華屋に立ち寄り、早めの夕飯を済ませる。
事務所に寄ったが、猫はまだ発見されていなかった。

猫用のおやつや簡易ネットは身につけ、キャリーなどは車に乗せて、目的地近くに向かう。

車を止め、地図で確認しながら、手分けする場所とルート、落ち合う時間を決めた。

数歩歩き出したところで夜空が立ち止まって何か喋っている。
振り向いて確認すると、話しかけている相手は地域猫だった。

「2歳の白い猫で、ダイフクって名前だから。見かけたら教えて。」

地域猫は律儀ににゃあと返事をすると、フェンスを潜って消えた。



しらみつぶしに歩き回って、可能性のありそうなところを確認する。
落ち合っては移動して、同じ手順を繰り返し、真夜中になった。

「どうすっかな。」

いなくなって2日目。
飼い猫ならそろそろ飢えと乾きで疲れてくる頃だ。

ダメ元で、空き地に餌と水を容器に入れて置いてみた。
思ったより猫が集まってきたが、残念ながら白猫は見つからなかった。

「白猫、2歳、ダイフクです。ダイフク。よろしくお願いします。」

夜空の真似をして、猫たちに猫探しの協力を仰ぐ。

「選挙?」

夜空につっこまれた。

「お前の真似だ。」
「いやいや、絶対違うでしょ。」

笑いの止まらない夜空を放って、演説を続けた。
猫たちは聞いているのかいないのか、腹が膨れるとそれぞれ落ち着く場所で毛繕いを始めたが、白猫はとうとう現れなかった。

餌がなくなったので容器を片付けて、車に戻る。
車に戻ったら、知らない猫が乗っていた。

餌や水を運ぶ際、開け放していたドアから入り込んだらしい。
ダイフクとは似てもにつかぬ色合いの、ダイフクよりもずっと小さい子猫が3匹、キャリーの中で丸くなって寝ていた。

「うちのマンション、ペット禁止なんだけど。」
「うちもです。」

お互い途方に暮れたが、すやすや寝ている子猫を追い出す気になれない。仕方なくそのまま車を出した。

車を見送る猫がいたので、何気に見ると、夜空の話しかけていた猫だった。

「あれ、あの猫。」
「うわ、やられた!」

まんまと地域猫に子猫を押し付けられた。
不安になって空き地を見ると、何匹かの猫と目が合った。
しばらくこの空き地には近寄れなさそうだ。



そこからまた、猫の隠れていそうな隙間をくまなく覗き込むことを繰り返す。
明け方まで捜索したところで、携帯に連絡が入った。
SNSにあげた情報に返信だ。
どうやら依頼者の自宅近くに目撃情報が寄せられたらしい。

急いで向かい、少し離れたところに車を停めた。
大きな音を立てないよう慎重に歩み寄る。
家と家との間にある狭い敷地に、白猫がうずくまっているのを確認し、こちらもゆっくりとしゃがんだ。

「ダイフク。」

そっと呼びかけると、白猫はさらに姿勢を低くしながらこちらを伺う。
金色の瞳と目があったので、手元に用意したおやつを指先に乗せて

「こっちにおいで。」

と誘う。
おやつが効いたのか、それとも別の要因が働いたのか、ダイフク、と呼ばれた白猫はゆっくりとこちらに近づいてきた。差し出したペースト状のエサをペロっと舐める。少しずつ食べさせなが抱っこすると大人しく腕の中に収まった。猫を無事保護することができた。

毛布に優しくくるんでキャリーに詰め込む。
先にいた子猫に小声で抗議されたが、小さなキャリーに無理矢理4匹の猫を押し込んで事務所に戻った。

早朝だったが、依頼者とはすぐに連絡が取れ、ダイフクは飼い主のもとに戻った。

「おい、子猫どうすんだよ。」
「所長にお願いしましょう。」

まぁ、それが妥当だよな。

2日で95,000円。
人件費2人分を差し引いても、まずまずの成果だ。

「子猫の養育費入れたら赤字だ!」

所長に怒られた。
今は3匹とも所長の膝の上でくつろいでいる。
既に朝食とトイレの世話は手厚くなされた後だ。
明らかに3匹とも所長が引き取る気満々だったので、退勤の挨拶を済ませ、小言の続く所長を放置して事務所を出た。

「お疲れさん。」

事務所を出たところで、連れだって退勤した夜空に声をかける。

「影斗さんも、お疲れ様でした。」

さすがに今日は自分の家に帰るつもりらしい。

「、、、今日は泊めてくれないんですか?」

違った。全然、うちに泊まる気だった。
断る理由もない。かといって、泊める口実も思いつかない。
難しい顔で悩む俺に、夜空が思わず笑った。

「本当は毎日泊まりたいんですけどね。」
「んん?!」

思わず声が漏れるが、徹夜明けの頭は思った以上に働かない。

俺の慌てふためく様子を楽しそうな顔で見た後、夜空は手を振って帰っていった。





子猫たちは、商店街に引き取り手を募るチラシを貼り出したところ、すぐに貰い手が見つかった。
所長の元気がなくなった。















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