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アカミミガメ

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影斗

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俺は裏田影斗ウラタエイト31歳。
中央商店街にある、中央商店街探偵事務所に勤めて6年になる。

1階はコンビニ、2階が事務所。
3階は税理士事務所だ。
お隣には弁護士事務所のビルがあり、不倫調査と離婚手続きが1度に進められる、非常に効率的な配置になっている。

職場のスタッフは、事務所所長を筆頭に、調査員が10名、事務のパートが2人。
俺と2個下の谷さん、そして3年前に入社した闇乃夜空ヤミノヨゾラも調査員だ。

最近、この夜空のスキンシップが非常に増えた。

昨夜、一晩中、迷子の犬を探し求めて線路沿いや堤防を歩き回ったせいで、体が汗でベタベタだ。
早く帰って風呂に入りたい。

今回の迷い犬の依頼は1件だった。
しかし、そんな迷子犬スポットを一晩中歩き回れば、出会う犬は1頭では済まされない。

結局、予備も含めた職場のキャリー8個に、1頭ずつ犬を保護することになった。
ちなみに保護した総数は10頭。
すでに1頭は飼い主の元に戻り、もう1頭は安定の所長の膝の上にいる。

職場に戻って汗だくの俺のそばに、夜空がぴったり貼り付くように座った。

「自分でも汗臭いと思うから、離れていただいてもよろしいでしょうか」とお伺いを立てたら、
「全然汗臭くないです」と返事が返ってきた。

「いやいや、汗びっしょりなんだけど。」
「え? そうですか? ほんとに?」
「見りゃわかんだろうが。」
「確かめてみていいですか?」

言われて、俺の顔を覗き込む夜空にドキッとする。
何を確かめるのかと思ったら、腕を回してしっかり抱きしめられた。
体温と距離の近さに、思わず息を止める。夜空は無邪気な顔で俺の匂いを嗅いでいる。

これはダメだと気がつき、隙を見て離れ、机で事務処理に取りかかった。

迷子犬の引き渡しもすでに終わり、後は書類だけだ。キリがついたのでソファーでコーヒーを飲む俺にピッタリくっついて座っている。いくらお前がデカいと言ってもコレ3人がけなんだけど!

「所長、セクハラされてるから助けて。」
「いや、隣に座ってるだけだろ。」

所長はそう俺に半笑いで返事をすると、何事もなかったかのようにパソコンに向き直り、依頼の報告書作成の続きに取り掛かった。

事務のパートはどうかと見れば、2人とも俺たちなど眼中にないようで、平然と事務作業をこなしている。
一瞬、そのうちの1人、三上さんという女性と目が合ったが、「お構いなく」と言われてしまった。

いや構うわ。
だいたい目の前で会社のソファーに大の男が2人密着してたら普通におかしい。

「おい、これセクハラ。」
「隣に座ってるだけです。」

夜空に文句を言っても、軽くあしらわれた。

「近い!狭い!あとお前若いから暑い!」

何を言っても涼しい顔をしてコーヒーを飲んでいる。
タイミングよく出勤してきた谷さんに助けを求めたが、こちらも軽くあしらわれた。

「このクソ暑いのにピッタリくっついて仲良いな。羨ましいわ。」

夜空はコーヒーを飲み終わるとようやく少し距離を空けてくれた。
遅れてコーヒーを飲み終わった俺は事務所から逃げ出した。





外に出た俺は、帰宅前に商店街の中にある一軒の民家に立ち寄った。
事務所に戻ったとき、所長から電球交換の依頼を受けていたからだ。

「白石さん、おはようございます。中央商店街探偵事務所の裏田です。」

奥から高齢の女性が出てきた。
「朝早くからすみません」と謝られるのを押し止め、切れている電球の場所を聞き出す。

木造のつるつるした狭い階段を上り、いちばん上の天井についていた電球を新しいものに交換して家を出た。

商店街の中でのこういった小さな依頼は、基本無償で行っている。
今日保護した犬だって、正式な依頼として受けていれば1頭95,000円の売り上げになったはずだ。

だがこちらも、基本は無料で引き渡す。
幸いペット関係は飼い主からお気持ちの謝礼をもらうこともあり、本当にただ働きということは滅多にない。



自宅にたどり着き、シャワーを浴びようと服を脱いだ。洗濯機に放り込む前に匂いを嗅いでみると、汗と雑菌のひどい臭いがした。いかん、目に染みる。
これを平気で嗅げる夜空は嗅覚が壊れてるんじゃないのか?

洗濯機はちょうど空っぽで脱いだ服だけが入っていた。
1人分の洗濯物で洗濯機を回すかどうか散々悩み、結局、結論が出ないまま先に食事を取ることにした。
冷凍食品を温めていると、インターホンが鳴る。
出てみれば、夜空だった。

「どうした?」

ドアを開けて家に入れると、夜空が
「帰るの面倒だから泊めてもらおうと思って」
などと恐ろしい事を言いだした。お前は俺の彼氏か?

「あ、これアイスです。」

手にはコンビニで買ったアイスが2人分。

「あ、ありがと。今から飯食うんだけど夜空も食べる?冷凍パスタだけど。」

食べると言うので、受け取ったアイスは一旦冷凍庫にいれて、夜空にシャワーを浴びに行かせる。
その間に俺は、二袋目を温めることにした。

夜空の着替えはうちに存在した。
気がつけば結構な頻度でうちに泊まっている。

洗濯物が増えたので、洗濯機を回した。

シャワーから戻った夜空と、テーブルで向かい合って食べた。パスタもアイスも徹夜明けの頭と体に沁みわたった。

食べ終わってボケーっと夜空を見る。まだ25だっけ。
今まで何の仕事をしていたんだろうな。

夜空も同じことを考えていたようで、俺に尋ねてきた。

「影斗さんは、今までどんなお仕事をされてたんですか?」
「ブラック企業の会社員。」

正直、その頃の記憶はあまりない。

腹が膨れると急に眠気が襲ってきた。
無駄な気もしたが、一応夜空を客間に押し込む。

俺は自室のベッドに倒れ込む。あっという間に深い眠りに落ちた。





夜、目が覚めたら安定の添い寝だった。
しかも今回は俺が夜空に抱きついて寝ている。
こんなところに都合よく抱き枕があるのが悪い。俺は悪くない。

この抱き枕、いつもより疲労回復していて癖になりそうだった。

夜空の腕から抜け出してから叩き起こした。

「おい、起きろ。」
「~~~。」

時計を見ると、夜の6時を回っている。

「夕飯どうする?」

寝ぼけている夜空に声をかけて肩をゆすったらベッドに引きずり込まれた。
あっという間に腕の中に絡め取られ、がっちり抱き込まれた。

どんなスキルだよ。

しかも2度寝するつもりだ!

「アホ!寝るな!今寝たら夜中に目が覚めるぞ!」

また泊まってくつもりか!

泊まるのはいいとして、うちには今ろくな食料がない。

顔を夜空の胸に押しつけられながらもモゴモゴ叫んだら夜空が起きた。

「あ、影斗さん、おはようございます。」

俺を解放して夜空は身軽に立ち上がった。
若い!
ベッドに転がったままの俺の手を夜空が引っ張って、ベッドの端に座らせた。



「飯食いに行くか。」
「行きます。」

外に出て、近所の定食屋に入る。
同じ唐揚げ定食を頼んだ。
こっちはノーマルな一人前。
夜空は大盛りを頼み、綺麗に平らげた。
総重量2kgほどはありそうなのに、食べ切るスピードも同じだった。
若いってすごい。

夕飯を食べ終え、二人並んで駅まで歩く。

「前の会社、どの辺にあるんですか?」
「潰れた。」

夜空には言わなかったが、匿名で労基にタレ込んでくれた人のおかげで、会社は無事潰れた。
他にも、PCに強いという白石さんのお孫さんをはじめ、弁護士さんや税理士さんの尽力で、俺は残業代や失業保険、各種手当を満額手にすることができた。

「あー、そうなんですね。」
「夜空はどんな仕事してた?」

たわいない会話を交わしながら、夜空を送るために最寄りの駅まで並んで歩く。どうせうちも同じ方向だ。

「あれ?影斗さん、駅に出ちゃいましたよ?」

不思議そうに夜空に言われてしばし見つめ合う。いや、お前今日はもう帰れ。





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