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アカミミガメ

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不倫の結末

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朝、目覚めると安定のプロテクタースタイルだった。

しってた。
多分これ一生続くやつ。

夜空ヨゾラ、起きろ。朝だ。」

ベッドの端に座ってから夜空を起こしたら、ベッドの中に引き込まれた。

「ん、、、影斗エイトさん、、、、。」
「寝ぼけてる?!夜空!夜空!」

流石にその辺りで目が覚めた夜空は、慌てて俺を解放した。






いつもより疲労感を感じながら、張り込みの場所に向かう。
ターゲットは朝からラブホに来ていた。

なんだコイツ。
性欲がオーバーフローしてんのか?!

こっちは朝から仕事でお疲れだってのに。朝からラブホ。

仕事はどうしているのかと調べたが、勤務態度は良好で成績も極めていいらしい。
今日も浮気相手と一戦交えてから、定刻に間に合うよう出勤するそうだ。
化け物か。

まぁ仕事でどれだけいい成績を収めていても、家庭一つ守れていないんじゃ意味もないが。

「○ねっ!こんな奴○ねっ!」
「夜空くん、心の声ダダ漏れ、、、」
「あ、すみません。」

うちにこもって後々まで尾を引くよりも、外に出した方がいいんだろうが、さすがに「○ね」はいただけない。

イケメンが目を血走らせて暴言垂れ流してる姿も見るに忍びないし。

コンビニの袋から買っておいたコーヒー牛乳を手渡す。

「ほら、これでも飲んで落ち着け。」

そのまま待機して、出てくる時の証拠写真もしっかりと確保する。
正直、まだ追跡を始めて1週間なのに、充分すぎるほどの証拠が揃っていた。

約束の2週間で一体どれほど証拠が集まるのか。
呆れを通り越してだんだん楽しくなってきた。

「#/&@!#/&@!」
「ほら夜空、帰るよ。」

イケメンが言葉にならない呪詛を吐き始めたので急いで連れ帰った。





証拠は気持ちがいいほど順調に集まっている。報告書の中で、時間と場所を一覧表にした。

カモフラバッチリ。プライベートでは驚くほど家庭中心の生活だった。

やってる事はクズなんだが不倫自体は早朝、日中だけにして、夜はちゃんと定時帰宅。土日祝日は家族と過ごしてる。上辺はキッチリ取り繕ってる。

そういえば、張り込みの時間帯も朝か昼間だ。

夜空はこの一覧を見て不機嫌そうにPCに向き直った。




夜空の不倫を憎む気持ちはいいとして、暴言、呪詛はさすがに心配になった。
それとなく谷さんたちに確認したところ、俺以外の人の前では表には出してないようだ。

仕事の後、落ち込んでいる姿も俺以外には見せていないらしい。

「あいつ、影斗だけに心を許してそうだもんな。」

並んでPC操作をしていた谷さんが俺をチラ見してそう言った。






調査も最終段階。

経過報告のため、依頼人の家を訪れた。所長、俺、夜空で瀟洒な自宅の前に立ち、インターホンを押す。契約時には滝さんに同行してもらったが、今回はどうしても都合がつかず、男ばかりになった。

出迎えてくれた依頼人の奥様は、2歳の男の子と、ようやく腰の座った赤ちゃんを抱えていて、どことなくやつれた様子だった。

化粧っけもなく、髪もボサボサ。それを誤魔化すように一つに結び、ジャージのような服を着ている。家がおしゃれな新築で、外構もかなり凝っていたので、そのギャップがすごい。

リビングに案内される。床にはおもちゃが散乱し、どことなくほこりっぽい。

続くフロアにはオープンキッチンとダイニングテーブルがあり、意識せずとも視界に入る。テーブルの上には使用済みの子供用食器や哺乳瓶が置かれたままだ。大人用の食器も二人分置かれており、ひとつは空になっていたが、もうひとつは手付かずのままだった。

「すみません、散らかっていまして。」
「いえいえ、お構いなく。」

2歳の男の子が持ってくるおもちゃを、所長がニコニコ笑顔で受け取りながら楽しくおしゃべりしている。合間に手際よく経過報告を行い、揃えた資料を手渡す。

奥様は赤ちゃんを抱えたまま、不自由な体勢で熱心に報告を聞いていた。時折、男の子が俺たちにまとわりつくのをたしなめていたが、所長は「気にしないで」と言い、話し合いの間ずっと遊んでいた。

夜空は説明の間、ずっと硬い表情だ。

「これだけしっかり証拠が揃っているので、慰謝料は確実です。」

所長が、微妙に胡散臭い、それでいて安心感のある表情で奥様を励ます。

奥様はその言葉に憂い顔で頷く。
突然、夜空が立ち上がった。

「奥様、大丈夫です!搾り取れるだけ搾り取りましょう!」

どした?!

全員が呆気に取られるなか、夜空が力説しだした。

「こんな可愛い奥さんと子どもが二人もいるのに、自分は不倫三昧とか許せません!」

奥様が無表情で夜空を見上げた。

「たとえ家が散らかってほこりだらけだろうが、奥さんが子育てに追われてみすぼらしくなっていようが、不倫する理由にはなりません!」
「ほ、ほこりだらけ……みすぼらしい……」

――ちょ、ちょ、ちょ。待って待って。

夜空のどストレートな言葉に、奥様は絶句する。
慌てふためく所長と俺が両側から夜空の袖を引っ張るが、夜空は止まらない。

「家が寛げないなら自分で掃除すればいいし、奥さんの容姿が衰えてるなら、エステでも何でも連れて行けばいいんですよ!」

奥様は驚きのあまり、両目を見開いている。

「そんなこともわからない無能な旦那に思い知らせてやりましょう!」

とりあえず、夜空を引きずって帰った。
奥様がどんな顔をしていたのかは、知らない。







証拠集め最終日。
正直、写真はもう充分だ。
それでも契約があるため、ホテルの出入り口で待ち構える。

今回も、慎重に相手の目に映らない場所を選んだつもりだった。
だが、確認ミラーに自分たちの姿が映ってしまった。
移動するより先に、ターゲットと目があった。

気がついたターゲットが、薄ら笑いを浮かべて俺たちの前に立ちはだかる。

「僕の妻にでも頼まれましたか?」

その一言で、調査がなぜこんなにも簡単だったのか納得がいった。
この人にとって、不倫は大した問題ではないし、隠す必要すらない。

「お前!不倫しといてよくそんな強気でいられるな!」

ちょ、夜空くん?!
夜空が不倫男に突っかかった。

「不倫?どちらかというと、コレはスポーツとかコンディショニングみたいなものです。」

いやいや、ターゲットさん?!

こんな時の対処法は完全無視でシラを切り通し、強引に帰るくらいだ。
それなのに夜空は正面からターゲットに喧嘩を売っていた。

ターゲットも、自分の不倫相手がすぐ隣にいるのに、スポーツだのコンディショニングだの言いたい放題。

被害を最小限にしようと、俺は夜空を無理矢理車に押し込んだ。ターゲットも不倫相手に車に詰め込まれていたので、その隙に急いで車を出す。

車をしばらく走らせたら、落ち着いた夜空に謝られた。

「すみません。」
「ホント、こないだといい今日といい、こっちの寿命が縮むわ。」

助手席を見れば、夜空は高身長を小さく折りたたみ、申し訳なさそうにしている。

「ま、今更だ。」

証拠は充分集まった。
今から結果が変わることなんてない。




話し合いは探偵事務所で行われた。
応接室にはターゲットの不倫男とその相手、対面に弁護士と所長、離れて俺と夜空が座っている。

「妻は?!」
「遅れていらっしゃいます。」

弁護士の言葉に「コレだから専業主婦は!」と嘲るように吐き捨てる。

「こっちは離婚してやってもいいんだ。」
「不貞行為がある場合、それを決めるのは配偶者様の方です。」
「どうせ子持ちの専業主婦なんて行くあてもないくせに。」

男は決定権はあくまでも自分だと主張している。

「もー、いつまで待たせるの!」

その隣の、見なりを整え爪まで着飾ったコンディショニングの資材がイライラと吐き捨てた。
結構香水の匂いが強くて苦しい。
俺はそっと立ち上がって、事務所の窓をほんの少し開けた。

「奥様がいらっしゃっても、離婚請求とお二方への慰謝料請求は変わりません。」

弁護士が冷静にそう伝えるが、2人は直接会えば奥様の要求を翻せると思っているようだった。
あんまり確信しているので不安になる。
あの、野暮ったい気の弱そうな、子育てに疲れきった奥様が戦えるんだろうか。

その時ドアがノックされた。
滝さんの「いらっしゃいました」の声と共にドアが開く。

カツン

ヒールの音に振り向くと、見た事もない美人が姿勢良く立っていた。

8センチはあるピンヒールにスリットの大きく開いたナロータイトスカートを合わせ、手首には華奢な時計がはまりモデルのようないでたちだ。
髪も艶々でメイクもしっかりしているが、顔立ちの良さと肌の美しさがさらにそれを際立たせている。

不倫男が呆然と見つめた。

先に立ち直ったのは不倫女のようだった。

「遅れてきて挨拶もないの?!」
「コンディショニングの資材のくせにうるさい。」

低い声で一喝され、その迫力に資材が黙る。
てか、やっぱこの人も不倫女の事、資材と思ってたんだ。

奥様が立ったままで言い放つ。
身体+8センチ。元々背が高めなせいで俺よりも上から、落ち着いた低めの声で宣言した。

「あなたとは離婚します。財産分与と養育費を請求します。慰謝料も2人に請求します。」

「お、お前、子ども2人も抱えた専業主婦が離婚なんかできると思ってんのか!」

不倫男がなんとか絞り出した第一声は、奥さんに鼻で嗤われた。

「できるに決まってるでしょ。あなたはそんなこともできないから家庭一つ守れない無能なのよ。」

夜空が立ち上がって拍手した。
その手をつかみ、そっと座らせる。

「子どもには父親が必要だろ!離婚なんてお前のわがままだ!」

子どもを引き合いに出されて、一瞬奥様が黙った。
それでも毅然と何か言おうとして、先に夜空が立ち上がった。
いや、もう座っとけって!

「お前みたいな!家庭を地獄にする奴、子どもだって要らねーんだよ!!」

止めようとしたが止められなかった。
だって、夜空、泣いてんだもん。
綺麗な顔を歪ませて、目に涙がみるみる溢れてくる。両手を握り、腕で頬を擦りながら続ける。

「ほこりとか、散らかってるとかじゃない!
地獄って分かるか!?
2歳にだって赤ん坊にだって、家の中が地獄だって分かるんだよ!!」

涙と共に鼻水も垂らして、高身長のイケメンが訴えてる様は本物の地獄だった。
とりあえずティッシュ!

目を真っ赤にしてしゃくり上げる夜空を、ティッシュの箱ごと部屋から出す。
ドアの向こうで待ち構えていた谷さんに受け渡し、部屋に戻ると全員が黙りこくっていた。

まぁあれが子どもの率直な思いだよな。
夜空はこの家の子どもたちの想いを代弁したまでだ。

その後は、弁護士主導のもと淡々と手続きが進んだ。

手続きが全て終わり、資材女は逃げるように帰って行った。
不倫男は力なく、ソファにへたり込んでいる。

「お前が、、、そんな、、そんな美人だったなんて。」
「知らなかった?それに私、あなたにはもったいないくらい優秀なの!」

そこにいたのは、以前の気弱そうで疲れ果てていたあの奥様ではなく、気高く強い女性だった。





不倫男も帰ったあと、夜空が奥様に謝罪した。
目も鼻も真っ赤で、顔が腫れぼったい。

「俺、なんの役にも立てなくて、、、
すみません。」
「2度も助けられたのに?」

助けられた、という内容の「2回目」は、さっき子どもの気持ちを代弁したことだ。

「1回目」は、意外にも、夜空が奥様の家をほこりだらけと言い、容姿の衰えを指摘したことだった。

「あなたが本当の事を言ってくれた時、思い出したの。」

奥様の手が夜空を励ますように、そっと背中に添えられる。

「私に、自分が幸せになる力があるって事。」

夜空が弾かれたように顔を上げ、奥様を見た。
あっけらかんと笑う奥様とは対照的に、夜空から再び涙と鼻水が溢れた。



鼻水が垂れていてもイケメンはイケメンだ。
美男美女の寄り添う姿に、俺の心がチクリと傷んだ。

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