あなたの探し物手伝います

アカミミガメ

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日常風景

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朝、いつもの体勢で目が覚めて、違和感に気がついた。
俺とも夜空ヨゾラとも連動していない、何かの動く音。

寝ている時、身動きするとマットレスやシーツの擦れる音がする。
ところが今、俺たちの動きとは全くシンクロしない微かな音が聞こえていた。

なんだろう。

滑らかに移動し、重さを感じさせない音なのに、本能的に体が緊張するような異様さがあった。
音は部屋の中を横切ると、ベッドに上がることを決めたようで、足元から重さがかかる。
全身に鳥肌が立った。

「夜空! 起きろ!」
「ん……。」

夜空は寝ぼけてチュパチュパ吸いつく音を立てている。幼児か!

「バカ、起きろって!」

焦る俺とは反対に、夜空は足まで絡めて拘束してきた。
自由になる首だけ動かして音の方に目を向ける。
ある程度予想していたものの、信じたくない光景が目に映った。

ヘビだ。
それもかなり大きい。

よくテレビでニュースになるような巨大なヘビが、ベッドの上を足元から顔に向かって移動してきている。

目が合ったような気がして息を呑んだ。
ヘビは俺の顔の前まできて真正面から向かい合った。
縦に開いた瞳孔にじっとこちらを見つめ、きれいに並んだ鱗を時折煌めかせながら、舌先をチロチロと動かしている。

絶対絶命だ。

命の危険を感じて全身が硬直し、じっとりとした汗が滲んだ。
ヘビはなおも少しずつ間合いを詰めてきた。

ぺろっ。

不意に、先割れした青く細長い舌に鼻先を舐められて、思わずのけ反った。

「わあああ!」
「ぐうう~~~、いったああ!」

俺が叫ぶのと、のけ反った拍子に俺の後頭部に顔面をぶつけた夜空が叫ぶのが同時だった。






――今回、事務所に来ていた捜索依頼は、ペットショップから脱走したニシキヘビだった。

それ、今うちにいる。
うちの衣装ケースでとぐろ巻いて寝てる。

あのあと鼻を押さえて涙目になっている夜空の手を引いて寝室から移動し、警察に連絡した。
ヘビは警察が来る前に、俺1人必死になって衣装ケースに移動させた。

「ちょっと、夜空君も手伝ってよ。」
「いや、俺、長いものが苦手で。」

夜空はヘビが苦手だったようで、遠巻きに俺とヘビの行方を見守っている。

ヘビは割と大人しく、こちらの思惑を感じ取ったように衣装ケースに納まった。
しっぽの先まで無事詰め込んで、フタをぴっちりと閉めた。
ケースには事前に空気穴をいくつか開けてあるので、閉めても問題ない。

ーー諸々の対応のため、職場に遅刻すると連絡したら、昨晩のうちにペットショップのオーナーから捜索依頼が来ていたことが判明した。

「え? 影斗エイトくんちにいるの?」
「はい。写真送るので確認お願いします。」
「あ、これこれ。探してたやつだわ。お手柄だよ。」

メールを送ったらすぐに返事が来た。
こんなでかいヘビ、そうそういてもらっちゃ困るが、よく捜索対象のヘビだと判別できたなと思ったら、一応網目模様で見分けられるらしい。

警察諸々の対応に2人もいる必要はないので、家主の俺だけが残り、夜空は出勤させた。

……送り出すまでが大変だった。
早朝、ペットショップのオーナーが所長からの連絡を受けてうちにやってきた。
ドアを開けたら見知った顔だった。警察や職場との電話対応に追われながらアイコンタクトで待ってもらう。気づけば遅れてやってきた夜空がオーナーにイチャモンをつけて絡んでいた。
何してんの?!

「警察に連絡したのに、なんで警察じゃなくてこんなあやし、、、不審者が来たんですか?」
「いい直しておいてそれ?」

夜空の言う不審者とはペットショップのオーナーの事だ。

警察よりも先に到着したオーナーは、徹夜で捜索していたせいで疲れきった表情だった。さらにそのいでたちは、洗いざらしのTシャツに似たような感じのよれっとしたジャージ素材のパンツ、裸足にサンダル。髪もボサっとしてるし髭面で、確かに不審者と言えなくもない。

「本人目の前にして酷くないっすか?!」

オーナーが半泣きで訴えてきた。

「なんで警察より先にくるかな。」
「スルーしてさらに嫌味?!」
「まぁまぁ。夜空だって少しでも早くヘビが持ち主の元に帰った方がいいだろ?」

早くきたのはうちの所長がれんらくしたからだ。
お前の苦手なヘビが早くいなくなって嬉しがるかと思ったらそうでもなかった。

オーナーを助けるために割って入ったら、「あの人、影斗さんを狙っているんじゃないですか?」とかとんでもない事言い出した。

「距離が近いんですよ!初対面で馴れ馴れしい。パーソナルスペースって知ってます?」
「そんなわけないって。」
「いや、あり得ませんから。」

俺たち2人が説明するよりも先に次々と言いがかりをつけてくる。

「まずは俺の話を聞いてくれる?」
「影斗さんも満更じゃないですよね?」
「ヘビか?ヘビのせいで気が動転してるのか?」
「ヘビは関係ありません。」

いや絶対あるだろ。
説明を諦め、早めに家から追い出すことにした。

「夜空は仕事に行ってもらっていいんだよ?」
「警察が来るまではこんな奴と影斗さんを2人っきりにさせられません。」

オーナーと俺がいかがわしい関係になるのではないかと本気で心配している。なぜだ。

「影斗さんもやけにこの人と親しげですよね?もしかして浮気、、、。」
「大丈夫です、夜空さん!」

オーナーが割り込んできた。

「初対面でいきなり下の名前呼ぶとかどんな教育受けてんの?」
「全てに揚げ足取られてる!!いや、これも愛ゆえ。要は恋人の事が心配なんですよね?」

おいお前、それ大きな勘違い!
オーナーは俺と夜空を恋人同士だと認識して話を進めてきた。

指摘されて夜空がオーナーを睨んだ。

「ほんと、絶対不埒な事とかしませんし、おふたりの間に割り込むとかあり得ませんから!」

ドアの外を何度も伺うが警察はまだ来ない。
ちょうど朝の引き継ぎの忙しい時間帯なのかもしれない。

「いきなりアンタの言葉を信用しろって?」
「あ、じゃあ誓います!うちのパパとママの名前に誓います!」
「ツッコミどころ多すぎ!誓う先がお前の両親の名前って何?!あとその見た目でパパママ呼び?!」
「パパはキヨシ、ママは正子マサコ。僕が不審者じゃないって清く正しい2人の名前に誓えるっす!」
「お前の両親そのオーソドックスな名前でパパママ呼びされてるんだ。」
「何かダメでした?!」

親の名前をディスられて流石にオーナーがキレた。タイミングよく警察が到着した。




警察官が数名やってきて、ようやく夜空は出かけていった。玄関を出る前に、オーナーが慌てて名刺を差し出した。受け取った夜空が怪訝そうな顔になった。

裏田奈院ウラタナイン......?」
「挨拶が遅れてすみません。僕、影斗の弟っす。」





警察の事情聴取を済ませ、ヘビの引き渡しも無事に終わり、遅れて出勤した。夜空は既に別の仕事に出かけて不在だった。

ホクホク顔の所長に依頼完了の書類を提出して、俺も別の仕事に出かけた。

一日中、不倫調査と犬の捜索で歩き回り、途中、白石さんちの切れた電球を交換して帰宅した。

夜空は先に帰宅して俺の帰りを待っていた。
いつものように二人羽織でパスタを作り、テレビを見ながら夕飯を食べる。

ーー白石さんちの電球いつもどれかが切れてるな。

次からはLEDを差し入れしようとか取り止めもない事を考えながら、ぼんやりテレビを眺めてたら、ペットショップから脱走し、行方不明になっていた大型ヘビが無事見つかったとニュースで流れた。

幸い、弟の名前までは晒されずに済んだ。

「そうそう、うちの弟、ペットショップのオーナーやってんだよね。」
「知ってます。それ、弟さんがうちにきた時点で教えてください。」
「いや、俺も警察や職場に連絡するので頭がいっぱいだったから。」

だいたい説明を聞こうとしなかったのは夜空なんだけど!
少しの間のあと、夜空が聞いてきた。

「影斗さんって何人兄弟なんですか?」
「ふたり。」
「え?2人?」

そうなんだよ。
長男の俺がエイトで次男がナイン。

「親がさ、2人とも昭和の色が濃い名前だから、どうもキラキラネームに憧れたらしくてさ。」
「厨二心にも寄り添ってますね。」
「そ、なのに八も九も縁起のいい数字だとかでそれにも因んでる。」
「詰め込みすぎです。」

今度夜空を実家に連れて行くか、と思って、そのあと、なんて紹介したらいいんだ?なんて頭の中でぐるぐる考え事をしながら夜空に

「夜空って何人兄弟?」

って聞いて失敗した。

「一人っ子です。」

口調は平静を装っているが目からハイライトが消えてる。

家族の話はタブーだと肝に銘じた。








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