こころの花

抹茶犬

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ひとり

いつものリズムで

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しと・・・しと・・・。

窓の外では静かな雨音を鳴らしながら夏の暑さを冷ますように、いつの間にか雨が降り出していた。

「あぁ、雨か。」

パソコンに向かって作業をしていた僕は自室の窓を見ながらそう呟く。

雨が降り出したにも関わらず窓を閉めようとせず、作業の手をとめ、しばらく雨音に耳を澄ませていた。
雨音は早まることもなく、突然強くなることもなく、一定のリズムで町全体に音を奏でていた。

どこにでも起こりうる当たり前の自然現象だが、この雨音は今、町全体に広がり僕と同じようなことを考えている人がいるのかもしれない。
そういう風に考えてみると、普段はうっとうしく感じる雨でも、幻想的な風景に思えてくる、そんな気がした。

僕はもっと、この雨音をしっかりと聞いてみようと思い目を閉じた。

「雨って結構いろんな音がするんなんだなあ。」

地面にぶつかる音。窓を叩きつける音。車に跳ね飛ばされる音。
いろんな音の情報が耳を通して頭に響かせてくる。
頭の中で反射する音の情報によってだんだんと意識が奪われていき、真っ暗だった視界に風景が浮かび上がってきた。

雨宿りをするために小さな喫茶店に駆け寄る人たち。少しでも濡れまいと屋根のある道を率先して通行しようとする人たち。小さな傘の中でくっつきながら歩く人たち。

大都会の真ん中でも、遠い大自然と変わらず雨が降り、それぞれの場所それぞれのドラマを描いていく。
頭に浮かんだドラマは次々に現れては消え、また新たなドラマが現れてくる。それが何度も繰り返されていった。

僕は見えないはずの世界を上空から見下ろしながら、色々な世界を旅していった。

しかし、その視界が次第にぼやけてきておかしいな、という感覚に陥ったが、不思議と悪くない。
この微睡みに身を任せてしまいたいという心地よささえ感じてしまっていた。

ぼやけていたはずの頭の中の世界が鮮明になっていき、僕はまた新しい世界へと落ちていった。

その世界は、今まで見てきた世界と比べて支離滅裂で、まったくもって意味不明な世界なのに、どうしてか納得してしまう自分がいた。
なぜ納得してしまうのかを深く考えようとしたが、何故だかそれができない。

そんな、まどろみの世界を彷徨ううちに、それまでの感じていた心地よさとは裏腹に体を締め付けるような感覚が現れ、気分が悪くなっていった。

その苦痛は徐々に広がっていき、これは本当にイメージの世界なのか、と疑いたくなるほどのリアルな感覚。

僕はまどろみをかき分けながら、やっとの思いで目を開けることができた。

目を開けた先には、誰もいない見慣れた部屋があった。僕の部屋だ。
目を開けたことによってだんだんと頭の中にかかったモヤも晴れていき、正常な思考ができるようになったきた。

どうやら僕はいつのまにか眠ってしまっていたらしい。

「すごい寝汗だな・・・。」

部屋の窓が開けたままになっていた。
通りで部屋全体が湿度まみれで居心地が悪いわけだ。

雨は変わらず早くもなく、弱くもなく降り続いている。

僕はふわふわとした感覚のまま立ち上がり、窓を閉めた。
すぐ近くに置いてあったエアコンのリモコンを取り除湿モードで電源を入れた。

エアコンはいつもと変わらない起動音と共に冷たい風を吹き出し始め、次第に部屋全体が快適な環境になっていった。

エアコンも雨音と同様、ただひたすら同じリズムで冷たい風を吹き出し続けている。

僕は先ほどまでのジメジメされた環境から開放され、さて、もう一眠り、と横になろうとしたが、もう夢の世界に導入するためのまどろみは僕の頭の中にはなくなってしまっていた。

僕は惰眠をむさぼるだけの非生産的な選択を避け、重い腰を持ち上げた。

「さて、始めるか。」

僕は締め切りという名の絶壁を崩すための作業に取り掛かるため、スリープ状態になっていたパソコンを立ち上げた。

僕はおそらく今日中には片付くだろうなという心持ちで作業に取り掛かった。

キーをタイプする音は不規則で早くなったり遅くなったりする。

外では相変わらず一定のリズムが刻み続けられていた。


いつものリズムで【完】
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