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ひとり
陽気な舵取り
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私は地域巡回バスを運転するしがないバスの運転手です。
毎日決められた巡回ルートをぐるぐると回って、お客さんを目的地へと送るのが私の仕事です。
「次は~○○~・・・。」
この仕事を始めて早10数年、何度も何度も繰り返してきたこのアナウンスも無意識で出来るようになってきました。
でも、これが困ったことに、余りにも無意識でアナウンスするものだから、たまに何とアナウンスしたか、わからなくなる時があります。
でも、これまで大きな問題も起こらなかつたし、多分無意識でも正しい停留所の名前を言えてたんだと思います。
私がバスの運転手になったきっかけは、もともと私は乗り物の運転が好きだったことが影響しているんだと思います。
いま走っているこの道も、学生時代によく車やバイクで通っていました。
彼女とデートに行く時も、友達とツーリングに行く時も、基本的に自分たちの運転がベースとなっていたことをよく覚えています。
そういった乗り物の運転好きが、気がついたらたくさんの人を運ぶ仕事をしている、というのが私がバスの運転手になった経緯です。
ある意味天職なのかも知れませんね。今までこの仕事で不満を持ったことはありません。
でも、よく考えたら、乗り物の運転が好きという経緯から、なぜバスの運転手になったんだろうと思うんですよね。
乗り物を運転する仕事なら他にもたくさんあるのに、なんでなんでしょう。
大型自動車に乗ってみたかったから?
よくわかりませんね。おそらく成り行きでしょう。
学生時代にただなんとなく勢いで決めてしまったのかも知れません。
「次は~、○○~・・・。」
あれこれ考えていたら、また自分が何とアナウンスしたのかよくわからなくなってしまいました。まあ、よくあることです。
あ、いつもこの時間に見かけるお爺さんが乗車してきました。
顔は結構なお年に見えるのに、背筋がピンとしていてとても若々しく見えるんですよねえ。
あれだけ外見が若々しく見えると優先座席に座っているお客さんもどう声をかけていいかわからなくなってしまいますよね。
急ブレーキに気をつけながら運転するとしましょう。特に、次の角を曲がると歩行者の交通量が増えるので。
しかも、今の時間は17時を回っているので学生がよく通るんですよねえ。
彼らは信号がない道路でも平気で横断したりするので、こっちとしては勘弁してくれって感じです。気持ちはわかりますが・・・。
あれ、この前まで工事中だった所に新しくお店ができたようですね。
見たところ、カフェのようですが・・・。
私はコーヒーよりも紅茶派なので、カフェといっても場所を選びます。
コーヒーの香りは好きなのですが、飲むのはどうにも・・・。
人通りもいいところなので、是非賑わって欲しいですね。私ももし機会があれば一度訪れてみようと思います。
そういえば、最近、この時間帯でも暗くなり始めましたね。
少し前までは、こんな時間帯ならまだ昼間のように明るかったのに。
秋の訪れでしょうか。
そろそろエアコンの温度も高めに設定しないとお客さんに寒い思いをさせてしまいますね。気をつけておきます。
「次は~、○○~。」
おや、随分前の駅から乗っていたお客さんが目覚めました。
どうやら不審な動きで窓の外を見ていますが、もしかして寝過ごしたのかな・・・?お気の毒に・・・。
でも、まだまだバスは巡回します、次こそはちゃんと下車できるように祈りますよ。
次の停留所では電車との乗り換えがあるので、たくさんの人が降りるんですよね。
私としては少しほっとするような、少し寂しいような気分になります。
なので、お客さんが下車される際は、ありがとうございました、という声掛けと共に、心の中ではまたご利用くださいという気持ちでご挨拶しています。
よく利用して下さるお客さん、初めて見るお客さん、ちょっと浮かない顔をしているお客さん、慌てているお客さん。
それら全ての方が目的地へ目指してこの巡回バスを利用しています。
私はバスの運転手として、そんなお客さんの希望をつなぐ仕事をしているのです。
明日はどんなお客さんが乗ってくるのでしょうか。
「ありがとうござました~。」
私はほとんどからっぽになったバスをまた走らせます。
この時間帯だと、次の停留所ではたくさんの人が乗ってくるでしょう。
その停留所の先にある坂の上から見る夕焼けは何度見ても絶景なんですよねえ。今日ぐらいの天気だと特に綺麗に見えるはずです。
仕事疲れのお客さんが少しでも癒されればいいなと思います。
・・・なるほど、私がなぜバスの運転手をしているのか、なんとなくわかったような気がします。
バスはまだかと心待ちにしてるお客さんのためにも、安全運転第一で今日ももう少しの間私がこのバスの運転手を務めますよ~。
陽気な舵取り【完】
毎日決められた巡回ルートをぐるぐると回って、お客さんを目的地へと送るのが私の仕事です。
「次は~○○~・・・。」
この仕事を始めて早10数年、何度も何度も繰り返してきたこのアナウンスも無意識で出来るようになってきました。
でも、これが困ったことに、余りにも無意識でアナウンスするものだから、たまに何とアナウンスしたか、わからなくなる時があります。
でも、これまで大きな問題も起こらなかつたし、多分無意識でも正しい停留所の名前を言えてたんだと思います。
私がバスの運転手になったきっかけは、もともと私は乗り物の運転が好きだったことが影響しているんだと思います。
いま走っているこの道も、学生時代によく車やバイクで通っていました。
彼女とデートに行く時も、友達とツーリングに行く時も、基本的に自分たちの運転がベースとなっていたことをよく覚えています。
そういった乗り物の運転好きが、気がついたらたくさんの人を運ぶ仕事をしている、というのが私がバスの運転手になった経緯です。
ある意味天職なのかも知れませんね。今までこの仕事で不満を持ったことはありません。
でも、よく考えたら、乗り物の運転が好きという経緯から、なぜバスの運転手になったんだろうと思うんですよね。
乗り物を運転する仕事なら他にもたくさんあるのに、なんでなんでしょう。
大型自動車に乗ってみたかったから?
よくわかりませんね。おそらく成り行きでしょう。
学生時代にただなんとなく勢いで決めてしまったのかも知れません。
「次は~、○○~・・・。」
あれこれ考えていたら、また自分が何とアナウンスしたのかよくわからなくなってしまいました。まあ、よくあることです。
あ、いつもこの時間に見かけるお爺さんが乗車してきました。
顔は結構なお年に見えるのに、背筋がピンとしていてとても若々しく見えるんですよねえ。
あれだけ外見が若々しく見えると優先座席に座っているお客さんもどう声をかけていいかわからなくなってしまいますよね。
急ブレーキに気をつけながら運転するとしましょう。特に、次の角を曲がると歩行者の交通量が増えるので。
しかも、今の時間は17時を回っているので学生がよく通るんですよねえ。
彼らは信号がない道路でも平気で横断したりするので、こっちとしては勘弁してくれって感じです。気持ちはわかりますが・・・。
あれ、この前まで工事中だった所に新しくお店ができたようですね。
見たところ、カフェのようですが・・・。
私はコーヒーよりも紅茶派なので、カフェといっても場所を選びます。
コーヒーの香りは好きなのですが、飲むのはどうにも・・・。
人通りもいいところなので、是非賑わって欲しいですね。私ももし機会があれば一度訪れてみようと思います。
そういえば、最近、この時間帯でも暗くなり始めましたね。
少し前までは、こんな時間帯ならまだ昼間のように明るかったのに。
秋の訪れでしょうか。
そろそろエアコンの温度も高めに設定しないとお客さんに寒い思いをさせてしまいますね。気をつけておきます。
「次は~、○○~。」
おや、随分前の駅から乗っていたお客さんが目覚めました。
どうやら不審な動きで窓の外を見ていますが、もしかして寝過ごしたのかな・・・?お気の毒に・・・。
でも、まだまだバスは巡回します、次こそはちゃんと下車できるように祈りますよ。
次の停留所では電車との乗り換えがあるので、たくさんの人が降りるんですよね。
私としては少しほっとするような、少し寂しいような気分になります。
なので、お客さんが下車される際は、ありがとうございました、という声掛けと共に、心の中ではまたご利用くださいという気持ちでご挨拶しています。
よく利用して下さるお客さん、初めて見るお客さん、ちょっと浮かない顔をしているお客さん、慌てているお客さん。
それら全ての方が目的地へ目指してこの巡回バスを利用しています。
私はバスの運転手として、そんなお客さんの希望をつなぐ仕事をしているのです。
明日はどんなお客さんが乗ってくるのでしょうか。
「ありがとうござました~。」
私はほとんどからっぽになったバスをまた走らせます。
この時間帯だと、次の停留所ではたくさんの人が乗ってくるでしょう。
その停留所の先にある坂の上から見る夕焼けは何度見ても絶景なんですよねえ。今日ぐらいの天気だと特に綺麗に見えるはずです。
仕事疲れのお客さんが少しでも癒されればいいなと思います。
・・・なるほど、私がなぜバスの運転手をしているのか、なんとなくわかったような気がします。
バスはまだかと心待ちにしてるお客さんのためにも、安全運転第一で今日ももう少しの間私がこのバスの運転手を務めますよ~。
陽気な舵取り【完】
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