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ひとり
ストレスデトックス
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『お風呂が湧きました~♪』
爽快なBGMが鳴り止んだ後、もう何度も聞いた音声が風呂にお湯がはれたことを告げた。
私は待ってましたと言わんばかりの勢いで立ち上がり急ぎ足で浴室へと向かった。入浴は私の一日の楽しみなのである。
さて、やっと一日の疲れを癒せるぞ!という段階になったわけだが、焦ってはいけない。私は入浴前の恒例行事を着実に済ませるために、洗面台の下の棚に手を伸ばした。
棚の中には複数の入浴剤が並べられており、今日はどれを入れてみようかと悩んでいた。この迷っている瞬間も至高の時間なのである。
最近はゆずの香りの入浴剤がお気に入りでほかの入浴剤に比べ減りが早い。そろそろ買い足しておかなければならないと考えていたが、今日はゆずの入浴剤の減りも考慮して、随分とご無沙汰になっていたヒノキの入浴剤を入れることにした。
私は指定された分量の入浴剤をお湯の中に投入し、入浴剤がお湯全体に混ざるように湯かき棒を使ってぐるぐると浴槽をかき回した。
入浴剤がお湯全体に広がり透明だったお湯がだんだんとオレンジ色に近くなり、お湯の蒸気にのせてヒノキのいい香りも立ち込めてきた。
およそ全体に混ざりきったかなというところで居てもたってもいられず、これで大丈夫だろうと自己判断し、手早く入浴の準備をすることにした。
私は入浴後に完全にラフな格好になれるような着替えを用意し、それまで着ていた堅苦しい服を脱ぎ、洗濯かごに投げいれた。
入浴前に体にお湯の温度を慣らすためゆっくりとかけ湯をし、片足ずつ浴槽に入っていく。
エアコンの風で若干冷え性気味になっている右足にほっこりとしたお湯の暖かさが伝わり、足だけでなく心まで暖かくなったような気がした。
体全体をお湯に沈めると、少しぬるま湯に設定したお湯が体全体に包み込み、体の内側から震えるほどの快感が全身に走った。
お湯からはヒノキの優しい香りが立ち込め、自然と心まで暖かくなる。
この入浴剤の効能の欄には肩こり解消と冷え性予防と書かれていたが、本当にそんな気がするほど暖かで、体が次第にホカホカと暖かくなってきた。
お湯に浸かっているこの瞬間だけは、一日の中で起こった嫌なことを忘れることができる。これは入浴剤の効能ではなく、お湯につかるということが引き起こしていることだと思うが。
春から上京し一人暮らしを始めてからというもの、仕事上のストレスだけでなく、溜まっていく家事にイライラし、この鬱蒼とした気分を晴らす時間もろくに取れずにいた。
もともと、実家暮らしだったころはそこまでお風呂好きではなかったが、ストレス発散の回数も質も下がってきた今では、入浴という短い時間で比較的効率よくストレスの発散ができることに気づきそれ以来、入浴の質を高めることに徹底している。
入浴グッツを買い揃えるようになったのも、一人暮らしを初めて気づいた私の新たな趣味の1つである。
私はただ黙々とヒノキのお湯の心地よさに身を寄せていた。
いつのまにか浴槽から巻き上がった蒸気が天井に水滴を作っていた。
自重に耐えられなくなった雫が落下し、無音だったバスルームにぽちゃんという音が響いた。
「今日もいろんなことがあったなあ・・・。」
最近は自分が任されている仕事もある程度そつなくこなせる様になってきてはいるが、それゆえに失敗できないというプレッシャーが大きくなってきている。
それに、1つの仕事が満足にできるようになってくると新たな仕事が降ってきて、自分のキャパシティを超えない程度に常に限界ギリギリまで仕事を抱え込まないといけない。
今日新たに得た仕事内容をぼんやりと思い出しながら、明日は今日よりもうまくこなさないとなあ、と思いながら天井に張り付いた水滴を見つめた。
いろいろと思考を巡らせているうちにぬるま湯に設定したとはいえ少しのぼせ気味になってきた。私はお風呂好きではあるが、決して我慢強いタイプではないので、長湯はできないのだ。
そろそろ上がるかと思った時に、冷蔵庫にアイスを冷やしていたこと思い出し、湯上りの火照った体で食べるアイスは最高だろうなあという妄想をしながら最近増え始めた体重への懸念をよそに立ち上がった。
その時、また天井からしびれを切らした水滴がぽちゃんと一粒頭の上に落ちてきて、私の「ひゃっ」という驚きの声が部屋全体に反響した。
頭にぶつかった冷たい水滴と想像以上に大きく発せられた自分の声によって少しだけ思考が冷静になり、今日は時間も遅いしやっぱりアイスはやめておこうかという考えに至った。
しかし、お風呂後のアイスの誘惑はそう簡単には振り切ることができないんだということを私は経験的に知っている。
私はとりあえず、今日はがんばろうという意気込みで体を洗い始めたが、結果としては、洗い物は体だけでは済まなかった。
「おいしいものはおいしいと感じるタイミングで食べなきゃ逆に損でしょ!」
ストレスデトックス【完】
爽快なBGMが鳴り止んだ後、もう何度も聞いた音声が風呂にお湯がはれたことを告げた。
私は待ってましたと言わんばかりの勢いで立ち上がり急ぎ足で浴室へと向かった。入浴は私の一日の楽しみなのである。
さて、やっと一日の疲れを癒せるぞ!という段階になったわけだが、焦ってはいけない。私は入浴前の恒例行事を着実に済ませるために、洗面台の下の棚に手を伸ばした。
棚の中には複数の入浴剤が並べられており、今日はどれを入れてみようかと悩んでいた。この迷っている瞬間も至高の時間なのである。
最近はゆずの香りの入浴剤がお気に入りでほかの入浴剤に比べ減りが早い。そろそろ買い足しておかなければならないと考えていたが、今日はゆずの入浴剤の減りも考慮して、随分とご無沙汰になっていたヒノキの入浴剤を入れることにした。
私は指定された分量の入浴剤をお湯の中に投入し、入浴剤がお湯全体に混ざるように湯かき棒を使ってぐるぐると浴槽をかき回した。
入浴剤がお湯全体に広がり透明だったお湯がだんだんとオレンジ色に近くなり、お湯の蒸気にのせてヒノキのいい香りも立ち込めてきた。
およそ全体に混ざりきったかなというところで居てもたってもいられず、これで大丈夫だろうと自己判断し、手早く入浴の準備をすることにした。
私は入浴後に完全にラフな格好になれるような着替えを用意し、それまで着ていた堅苦しい服を脱ぎ、洗濯かごに投げいれた。
入浴前に体にお湯の温度を慣らすためゆっくりとかけ湯をし、片足ずつ浴槽に入っていく。
エアコンの風で若干冷え性気味になっている右足にほっこりとしたお湯の暖かさが伝わり、足だけでなく心まで暖かくなったような気がした。
体全体をお湯に沈めると、少しぬるま湯に設定したお湯が体全体に包み込み、体の内側から震えるほどの快感が全身に走った。
お湯からはヒノキの優しい香りが立ち込め、自然と心まで暖かくなる。
この入浴剤の効能の欄には肩こり解消と冷え性予防と書かれていたが、本当にそんな気がするほど暖かで、体が次第にホカホカと暖かくなってきた。
お湯に浸かっているこの瞬間だけは、一日の中で起こった嫌なことを忘れることができる。これは入浴剤の効能ではなく、お湯につかるということが引き起こしていることだと思うが。
春から上京し一人暮らしを始めてからというもの、仕事上のストレスだけでなく、溜まっていく家事にイライラし、この鬱蒼とした気分を晴らす時間もろくに取れずにいた。
もともと、実家暮らしだったころはそこまでお風呂好きではなかったが、ストレス発散の回数も質も下がってきた今では、入浴という短い時間で比較的効率よくストレスの発散ができることに気づきそれ以来、入浴の質を高めることに徹底している。
入浴グッツを買い揃えるようになったのも、一人暮らしを初めて気づいた私の新たな趣味の1つである。
私はただ黙々とヒノキのお湯の心地よさに身を寄せていた。
いつのまにか浴槽から巻き上がった蒸気が天井に水滴を作っていた。
自重に耐えられなくなった雫が落下し、無音だったバスルームにぽちゃんという音が響いた。
「今日もいろんなことがあったなあ・・・。」
最近は自分が任されている仕事もある程度そつなくこなせる様になってきてはいるが、それゆえに失敗できないというプレッシャーが大きくなってきている。
それに、1つの仕事が満足にできるようになってくると新たな仕事が降ってきて、自分のキャパシティを超えない程度に常に限界ギリギリまで仕事を抱え込まないといけない。
今日新たに得た仕事内容をぼんやりと思い出しながら、明日は今日よりもうまくこなさないとなあ、と思いながら天井に張り付いた水滴を見つめた。
いろいろと思考を巡らせているうちにぬるま湯に設定したとはいえ少しのぼせ気味になってきた。私はお風呂好きではあるが、決して我慢強いタイプではないので、長湯はできないのだ。
そろそろ上がるかと思った時に、冷蔵庫にアイスを冷やしていたこと思い出し、湯上りの火照った体で食べるアイスは最高だろうなあという妄想をしながら最近増え始めた体重への懸念をよそに立ち上がった。
その時、また天井からしびれを切らした水滴がぽちゃんと一粒頭の上に落ちてきて、私の「ひゃっ」という驚きの声が部屋全体に反響した。
頭にぶつかった冷たい水滴と想像以上に大きく発せられた自分の声によって少しだけ思考が冷静になり、今日は時間も遅いしやっぱりアイスはやめておこうかという考えに至った。
しかし、お風呂後のアイスの誘惑はそう簡単には振り切ることができないんだということを私は経験的に知っている。
私はとりあえず、今日はがんばろうという意気込みで体を洗い始めたが、結果としては、洗い物は体だけでは済まなかった。
「おいしいものはおいしいと感じるタイミングで食べなきゃ逆に損でしょ!」
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