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インターバル2
第35話 ぶっちゃけ! ジャパニーズ・ティーパーティー!
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からん――――静寂の庭に、透き通った鹿威しの音が響く。
茶室にひっそりと入り込む太陽の橙の光。外を見れば、広がる懐かしき日本庭園。
石庭にはひらりひらりと紅に染まった楓の葉が落ちていく。庭石には苔が色よくつき、草花には朝露が輝いていた。
落ち着いたその情景は、全てを忘れさせてくれる私の前世の文化の象徴。前世が日本でよかった嬉しさあり、もう少しあちらで過ごしてみたかったという後悔あり。
内心そんなことを考えつつ、インターバル2に入った私は舞い散る花々が大胆に描かれた黒の着物を着て、茶室でお点前を披露していた。もちろん、客はエイダン、ハンナ、ベン、カイロス、そしてセイレーン。
セイレーンは呼び出した覚えがないけど、まあいい。
茶室で水着など言語道断、ハンナは淡い桃色の着物を、男性は着物か羽織袴を着てもらっていた。彼らは慣れない場所なのか、それとも先ほどのデスゲームで疲れ果てているのか分からないが、じっと黙って私の所作を眺めていた。
やっぱり国宝は違うわね………………。
前世で茶道を習っていたこともあり、茶碗には詳しい方で………今、私が手にしているのは曜変天目茶碗――――前世では国宝とされる茶碗だ。
曜変天目茶碗には3つ存在するのだが、今持っているのはその中でも一般ではまずお目にかかれない京都の寺で所蔵されているもの。
他の曜変天目茶碗よりも輝きは地味だと評価されるが、この落ち着いた輝きは前世の私を魅了させた。
黒に近い紺の上に、星の輝きのような斑紋。
森羅万象の宇宙を描いたような茶碗。
永遠に眺めていられるほどに美しい…………。
私はその膝前に置かれた国宝の茶碗へ、緑の茶を入れ、湯を入れる。茶筅を手にして、静かに湯の中へつける。そして、手首を振って、茶を点てた。
「お茶をどうぞ」
出来上がると、お茶碗を回し、自分の前へ置く。初めて何も分からないのだろう、声をかけても止まったままのエイダンに目くばせをして、取ってもいいと促した。
初めて緑色のお茶を見たエイダン。彼は不器用に茶碗を取り、茶碗の中を見て一瞬ぎょっとしたが、私が笑顔で促すと、渋面を浮かべながらもようやく飲んでくれた。
「いかがでしょうか?」
「…………」
エイダンは苦さに慣れていないのか、一瞬眉間に皺を寄せるが。
「……………普通だ」
と強がって感想を言ってくれた。苦いのなら、苦いって言えばいいのに。
そうして、私は他の人たちにもお茶を入れていく。
「いやぁ、見事なお点前だよねー。綺麗だよー」
何一つしゃべらない空間をぶち壊していくように、明るい声で感想を述べてくれたセイレーン。
「僕も何度か東国のお姫様のお点前を見させてもらったことがあるけど、アドヴィナは彼女以上に美しかったよー」
「ありがとう、セイレーン」
「どういたしましてー。アドヴィナって、東の国に行ったことがあるのー?」
「ないわね」
簡潔な私の返答に、セイレーンはコトンと首を傾げた。
「んー? じゃあ、東国出身の誰かに教えてもらったの?」
「いいえ。この世界では誰にも教わっていないわ」
「この世界ー?」
「ええ、私って前世の記憶があるのよね。」
「前世の記憶………つまり、君は転生者ってことー?」
「ええ」
「は!? 転生者だと!?」
沈黙を保っていたエイダン。彼は驚きを隠せなかったのか、大声を上げていた。彼だけでなく、他の人たちも目を開いている。セイレーンは………微笑んでいたのだが。
「ええ、言ってませんでしたっけ? 私、前の世界では東の国と似たような場所で暮らしていたのですよ。茶道を習ってしましたが、随分とブランクが空いたもので、少し雑になってはしまいましたが」
私の前世の話など今はどうでもいい。彼らに話すことではない。私はすぐに話題を変えた。
「次のラウンドで、生存プレイヤーが2人になります」
第3ラウンド終了時、ここにいる6人のうち、多くても2人しか生きれない。その事実に、神妙な顔持ちになる4人。焦燥が顔ににじみ出ていた。
私はプレイヤー全員を自分の手で殺すつもりではある。だが、次のラウンドは今までのとは違う。天使のこともあり、計画通りには進めれない可能性もある。
ここにいる5人は、もしかしたら私ではない誰かに殺されるかもしれない。会うことなく、彼らは死んでいくかもしれない。
「なので、最期に挨拶ができないかもしれないと思い、招待させていただきました」
私の挨拶に、眉間に皺をよせ不安そうな顔を浮かべるハンナ。彼女は振り絞ったような声で懇願した。
「アドヴィナさん………もう一度考えなおしていただけませんでしょうか」
「お断りしますわ」
だが、彼女の願いを断ち切るように、私はぴしゃりと言い放った。いくら訴えてももう変わらない。考え直すなどそんな時間はもうとっくに過ぎている。
「生きたいのであれば、最後まで勝ち抜いてください。そうすれば、生きて元の世界に戻れますよ」
茶碗を受け取った私はお湯を入れ、左脇に置いていた建水へ捨てる。
「本音を少し言えば……私もこうしてゆったりとした時間を過ごしたかったものです」
「なら、デスゲームをやめましょう」
「うふふ、そうですね…………」
覆水盆に返らず――――一度起きたことは二度と戻らない。
私の意志はもう『彼らと仲良く過ごしてみたい』という望みはない。「もし、こうなっていれば…………」という後悔はあるが、それは幻想。現実ではない。
ただ彼らに消えてもらって、彼と眩しい日々を送ってみたい。今の望みはそれだけだ。
「デスゲームが始まった時点で、皆様はもう戻れない所まで来ていたのです。そうなった原因はあなたたちの落ち度にありますわ。今までの自分の行いをどうぞ振り返ってくださいませ」
そう。彼らが気づけていたら、私の言葉を信じていてくれたら……………。
――――――――デスゲームを仕掛ける相手が違った。
少なくとも私がエイダンたちの敵対することもなかったはずだ。まぁ、エイダンのことなんてこれっぽちも好きではないのだけれど。でも、それでも…………記憶を思い出すまでのアドヴィナの意思を尊重し、彼らの元に残っていただろう。
「まぁ…………今更振り返ったからといって、この状況が変わることはありませんが」
たとえ、今過ちに気づいても、もう引き返せない………デスゲームも、私の意思も。
「こうして、ゆっくりできるのは最後です。どうぞ皆様でおくつろぎくださいませ」
そうして、私は片付けると一礼し静かな茶室を出た。その間、誰も私に声をかけてくることはなく、落ち着いて彼らを見るのは最後だろうと一瞥。
だが、誰とも目を合わせることもなく、下駄を履いて、からんからんと石畳の上を歩き、門をくぐった。
残り時間は街をぶらぶらと散策して、時間を潰そう。
そう決め街を歩いていると、後ろから足音がした。振り返ると、セイレーンが追いかけてきていた。
「死ぬというのに、あなたは随分と余裕ね」
「まぁねー、僕は生きるからー」
「………………………そう」
横を見ると、彼の瞳にあったのは揺るぎない自信。
生きる、か………………。
赤の紅葉が散り、さぁと私たちの間を風が通る。夕暮れの空が広がる、京都の街並み。赤や黄色、橙に染まっている木々は美しく、ひらひらと葉が舞う。郷愁にかられた。
だが、前世のように観光客でごった返しているということはない、誰1人として人がいない。閑散としていた。そんな静かな道を、からんからんと下駄を鳴らしながら、2人で歩いていく。
「ねぇ、アドヴィナが話してくれた先約の人ってどんな人なのー?」
「そうね…………私の唯一の理解者かしら…………」
そう答えると、セイレーンはどこか寂しそうな、でも嬉しそうな柔らかな笑みを浮かべる。
「理解者かー、その人とてもいい人なんだろうね」
「ええ。それはもう」
目を閉じ、彼の背中を、彼の温もりを思い出す。
ボロボロになった私を救ってくれて、私の意思を尊重してくれた人。
どうしようもない私の提案を『面白い』と言ってくれた人。
私はあの人のために、デスゲームを完遂する。
正々堂々生き残って、彼の元に笑って帰るの――――。
茶室にひっそりと入り込む太陽の橙の光。外を見れば、広がる懐かしき日本庭園。
石庭にはひらりひらりと紅に染まった楓の葉が落ちていく。庭石には苔が色よくつき、草花には朝露が輝いていた。
落ち着いたその情景は、全てを忘れさせてくれる私の前世の文化の象徴。前世が日本でよかった嬉しさあり、もう少しあちらで過ごしてみたかったという後悔あり。
内心そんなことを考えつつ、インターバル2に入った私は舞い散る花々が大胆に描かれた黒の着物を着て、茶室でお点前を披露していた。もちろん、客はエイダン、ハンナ、ベン、カイロス、そしてセイレーン。
セイレーンは呼び出した覚えがないけど、まあいい。
茶室で水着など言語道断、ハンナは淡い桃色の着物を、男性は着物か羽織袴を着てもらっていた。彼らは慣れない場所なのか、それとも先ほどのデスゲームで疲れ果てているのか分からないが、じっと黙って私の所作を眺めていた。
やっぱり国宝は違うわね………………。
前世で茶道を習っていたこともあり、茶碗には詳しい方で………今、私が手にしているのは曜変天目茶碗――――前世では国宝とされる茶碗だ。
曜変天目茶碗には3つ存在するのだが、今持っているのはその中でも一般ではまずお目にかかれない京都の寺で所蔵されているもの。
他の曜変天目茶碗よりも輝きは地味だと評価されるが、この落ち着いた輝きは前世の私を魅了させた。
黒に近い紺の上に、星の輝きのような斑紋。
森羅万象の宇宙を描いたような茶碗。
永遠に眺めていられるほどに美しい…………。
私はその膝前に置かれた国宝の茶碗へ、緑の茶を入れ、湯を入れる。茶筅を手にして、静かに湯の中へつける。そして、手首を振って、茶を点てた。
「お茶をどうぞ」
出来上がると、お茶碗を回し、自分の前へ置く。初めて何も分からないのだろう、声をかけても止まったままのエイダンに目くばせをして、取ってもいいと促した。
初めて緑色のお茶を見たエイダン。彼は不器用に茶碗を取り、茶碗の中を見て一瞬ぎょっとしたが、私が笑顔で促すと、渋面を浮かべながらもようやく飲んでくれた。
「いかがでしょうか?」
「…………」
エイダンは苦さに慣れていないのか、一瞬眉間に皺を寄せるが。
「……………普通だ」
と強がって感想を言ってくれた。苦いのなら、苦いって言えばいいのに。
そうして、私は他の人たちにもお茶を入れていく。
「いやぁ、見事なお点前だよねー。綺麗だよー」
何一つしゃべらない空間をぶち壊していくように、明るい声で感想を述べてくれたセイレーン。
「僕も何度か東国のお姫様のお点前を見させてもらったことがあるけど、アドヴィナは彼女以上に美しかったよー」
「ありがとう、セイレーン」
「どういたしましてー。アドヴィナって、東の国に行ったことがあるのー?」
「ないわね」
簡潔な私の返答に、セイレーンはコトンと首を傾げた。
「んー? じゃあ、東国出身の誰かに教えてもらったの?」
「いいえ。この世界では誰にも教わっていないわ」
「この世界ー?」
「ええ、私って前世の記憶があるのよね。」
「前世の記憶………つまり、君は転生者ってことー?」
「ええ」
「は!? 転生者だと!?」
沈黙を保っていたエイダン。彼は驚きを隠せなかったのか、大声を上げていた。彼だけでなく、他の人たちも目を開いている。セイレーンは………微笑んでいたのだが。
「ええ、言ってませんでしたっけ? 私、前の世界では東の国と似たような場所で暮らしていたのですよ。茶道を習ってしましたが、随分とブランクが空いたもので、少し雑になってはしまいましたが」
私の前世の話など今はどうでもいい。彼らに話すことではない。私はすぐに話題を変えた。
「次のラウンドで、生存プレイヤーが2人になります」
第3ラウンド終了時、ここにいる6人のうち、多くても2人しか生きれない。その事実に、神妙な顔持ちになる4人。焦燥が顔ににじみ出ていた。
私はプレイヤー全員を自分の手で殺すつもりではある。だが、次のラウンドは今までのとは違う。天使のこともあり、計画通りには進めれない可能性もある。
ここにいる5人は、もしかしたら私ではない誰かに殺されるかもしれない。会うことなく、彼らは死んでいくかもしれない。
「なので、最期に挨拶ができないかもしれないと思い、招待させていただきました」
私の挨拶に、眉間に皺をよせ不安そうな顔を浮かべるハンナ。彼女は振り絞ったような声で懇願した。
「アドヴィナさん………もう一度考えなおしていただけませんでしょうか」
「お断りしますわ」
だが、彼女の願いを断ち切るように、私はぴしゃりと言い放った。いくら訴えてももう変わらない。考え直すなどそんな時間はもうとっくに過ぎている。
「生きたいのであれば、最後まで勝ち抜いてください。そうすれば、生きて元の世界に戻れますよ」
茶碗を受け取った私はお湯を入れ、左脇に置いていた建水へ捨てる。
「本音を少し言えば……私もこうしてゆったりとした時間を過ごしたかったものです」
「なら、デスゲームをやめましょう」
「うふふ、そうですね…………」
覆水盆に返らず――――一度起きたことは二度と戻らない。
私の意志はもう『彼らと仲良く過ごしてみたい』という望みはない。「もし、こうなっていれば…………」という後悔はあるが、それは幻想。現実ではない。
ただ彼らに消えてもらって、彼と眩しい日々を送ってみたい。今の望みはそれだけだ。
「デスゲームが始まった時点で、皆様はもう戻れない所まで来ていたのです。そうなった原因はあなたたちの落ち度にありますわ。今までの自分の行いをどうぞ振り返ってくださいませ」
そう。彼らが気づけていたら、私の言葉を信じていてくれたら……………。
――――――――デスゲームを仕掛ける相手が違った。
少なくとも私がエイダンたちの敵対することもなかったはずだ。まぁ、エイダンのことなんてこれっぽちも好きではないのだけれど。でも、それでも…………記憶を思い出すまでのアドヴィナの意思を尊重し、彼らの元に残っていただろう。
「まぁ…………今更振り返ったからといって、この状況が変わることはありませんが」
たとえ、今過ちに気づいても、もう引き返せない………デスゲームも、私の意思も。
「こうして、ゆっくりできるのは最後です。どうぞ皆様でおくつろぎくださいませ」
そうして、私は片付けると一礼し静かな茶室を出た。その間、誰も私に声をかけてくることはなく、落ち着いて彼らを見るのは最後だろうと一瞥。
だが、誰とも目を合わせることもなく、下駄を履いて、からんからんと石畳の上を歩き、門をくぐった。
残り時間は街をぶらぶらと散策して、時間を潰そう。
そう決め街を歩いていると、後ろから足音がした。振り返ると、セイレーンが追いかけてきていた。
「死ぬというのに、あなたは随分と余裕ね」
「まぁねー、僕は生きるからー」
「………………………そう」
横を見ると、彼の瞳にあったのは揺るぎない自信。
生きる、か………………。
赤の紅葉が散り、さぁと私たちの間を風が通る。夕暮れの空が広がる、京都の街並み。赤や黄色、橙に染まっている木々は美しく、ひらひらと葉が舞う。郷愁にかられた。
だが、前世のように観光客でごった返しているということはない、誰1人として人がいない。閑散としていた。そんな静かな道を、からんからんと下駄を鳴らしながら、2人で歩いていく。
「ねぇ、アドヴィナが話してくれた先約の人ってどんな人なのー?」
「そうね…………私の唯一の理解者かしら…………」
そう答えると、セイレーンはどこか寂しそうな、でも嬉しそうな柔らかな笑みを浮かべる。
「理解者かー、その人とてもいい人なんだろうね」
「ええ。それはもう」
目を閉じ、彼の背中を、彼の温もりを思い出す。
ボロボロになった私を救ってくれて、私の意思を尊重してくれた人。
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