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第3ラウンド
第54話 幻想を抱いて
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私はずっと夢を見ていた。
世界中の人間が幸せに暮らせる、魔族の人たちも全員笑って平和に生きることができる、そんな世界の夢。
優しさを持って接すれば、相手はそれに答えてくれる。それが伝染していけば、みんなが優しい人間になる。
実際私の周りの人たちは優しかった。最初こそ冷たかったカイロスも徐々に優しくなり、柔らかな笑顔を見せるようになっていた。
でも、デスゲームの世界に入って、その考えは一転した。状況が変われば、人の心も変わってしまう。みんなの心に優しさは消え、生き残るために心を殺していく。
「………」
私が望む、世界中全ての人間が幸せになれる世界。
それは幻想だったのでしょうか――――?
★★★★★★★★
『今までごめんなさい。あなたには本当に酷いことをしたわ』
以前聞いたアドヴィナさんの謝罪。
彼女の本音だと思っていた。
謝罪を受けたあの日から彼女は仲良くできる、そんな明るい未来も遠くないと思っていた。
『庶民の女が殿下の近くにいるなんて、身分しらずにもほどがあるわ。消えてなさい』
でも、アドヴィナさんからの嫌がらせが続いた。いじめが継続している以上、罪からは逃れられない。エイダン様にアドヴィナさんから受ける嫌がらせのことを話した。
それからはエイダン様はいつも私についてくれていたけど、やっぱり1人になると罵倒されたり、暴力を振るわれることがあった。
可哀そうだけど、アドヴィナさんの断罪と婚約破棄を了承した。これで反省して改心してくれるって思っていた。
『あなたたちは、私が謝罪したのにも関わらず、逆に無視などの嫌がらせをした。何もしていないのに、身に覚えのない罪を着せられた。それでこちらが何も思わないと思った? 何もしないとでも思ったの?』
『謝罪してからは、私は誠実に生きてきた。ハンナさんに危害を加えたこともないし、酷い言葉を言ったこともない』
でも、私は間違えていたのかもしれない。「私はしていない」というアドヴィナさんの主張が本当なら、私は何か見落としていたのかもしれない。
だけど、デスゲームをするのは違う気がする。殺したところで復讐はできても、アドヴィナさんには何も残らない。憎しみと虚しさが残るだけだ。
それに、復讐を望んでいるのなら、私たちだけにすればよかった。他の人を巻き込むなんて間違ってる。
アドヴィナさんは全員殺すと宣言している。
でも、もう私にデスゲームを止める力はない。
覚悟を決めて、私。
アドヴィナさんを殺す、その覚悟を――――。
★★★★★★★★
覚醒したのだろう。
「あなたを倒すっ――――!!」
これまで防戦一方だったハンナが好戦的に攻撃を繰り広げる。彼女が解き放った光の龍が暴れまわり周囲の建物を壊していく。ガラスを豪快に割っていく。
私は龍に追われ、壁を走り、建物から建物へジャンプ。西棟へ走っていく。
ハンナがマリーのなりすましに気づけていたら、もう少しルートが違った。
彼女たちが気づいて、私に何らかの形でいじめのことを話していれば、すぐにマリーを犯人として捕まえれた。それでいじめはなくなっていただろうし、私たちは関わらずに済んだ。
それもこれも調査の杜撰さが招いたこと。
調べていれば、マリーのことは気づけていたはずだ。
おごった思い込みが今の状況を引き起こした。
物語では主人公であるハンナが世界を切り開いていく。勇気と愛情を持つ彼女が攻略対象者を癒していく。夢を持って、みんなに希望を与えていく。
でも、それは物語の中の話で。
現実はみんなそんな善人じゃない。現実にはヴァンデライやマリーみたいな歪みまくった人間がいた。そんなやつがいる中で平和な世界を作るなど、まず無理だ。
たとえ、そんな世界ができたとして、表向きの顔だけがよく、裏では何か企んでいるそんな人間がわんさか沸くに違いない。
その想定もできない。おまけに、マリーの計画に気づけなかった。そんなあなたは私がいてもいなくてもいつか貶められていた。
「だから、あなたは負ける――――」
主人公補正?
あなたにあるものですか。
ここはデスゲーム世界。私の世界。
私が主人公であり、あなたたちは敵。
死んでいくべき敵。
エイダンを生き残らせる――そんな幻想を抱いて、そのまま死んでいけばいい――――。
龍から逃げつつ、私はハンナへと炎の玉を投げる。
同時に彼女が立つ場所を液状化。
「くっ」
沼がハンナの足を地下へと引き込んでいく。
その間に自分の足元から水を湧きおこし、水の上に乗って4階へと上昇。ちらりと後ろを向けば、眼光鋭い龍の顔。今にも食べられそうな近さだった。4階につくと、背後の龍に攻撃を加えつつ、全力ダッシュ。
ハンナは沼を抜け出せたのか、エスカレーターを走って、追って来ていた。
よしっ、このままついてきてくれてるわね。なら、私は入り口のドアにあの子には見えない“あれ”を仕掛けて、っと――――。
出入口のドアに魔法を仕掛け、私はそのままホールの中へ入っていく。そして、すぐに翻し、龍がホールに入る前に闇魔法を一発撃ちこむ。
さらに毒を塗った氷を投げ、龍の体に刺した。
「あぁ………龍さん苦しんでるわぁ」
毒が回り、ドタバタと暴割れ回る龍。
尻尾や体がぶつかり周囲の壁や地面が壊れていく。
「ハクリュウっ!!」
龍は必死に苦しみもがく。ようやく着いたハンナだが、彼女の治療は間に合わず、息絶えた。
「死んじゃったわね」
「………」
煽りにさらに覇気を強める。怒りを押し殺そうとしているようだが、隠しきれていなかった。
「こんなことをして楽しいですか」
「ええ、楽しい」
楽しくって仕方がない。私の脳はもうハイ状態よ。
笑みを浮かべる私とは逆に、眉間に皺を寄せるハンナ。彼女は私に杖先を向け。
「イーリス・プリミラ!!」
光魔法の呪文を叫ぶ。すると、光の津波が出現。
七色の光が波のように襲い、ホールに流れ込む。
でも、私は立ち止まったまま。周囲を闇の炎で囲み、笑って、向かい来る波を待つ。
「ハアァ――――ッ!!」
その波とともに走るハンナ。追加の攻撃を入れるつもりなのか、詠唱を開始。ホールの中へと入った。
――――アハッ。かかった、かかった♡
ハンナがホールに入ったと同時に、私は手に持っていた透明な紐をくいっと引っ張る。波が襲ってくるが、闇の炎が蒸発させた。
「っ!!」
威勢よくホールへ入り走っていたハンナ。
彼女は異変に気付いたのか立ち止った。
「………………」
「………………どうしたの、ハンナ」
「アドヴィナさん、何をしたんですか?」
「教えてほしい?」
にひっと笑って、解答をじらす。
「じゃ、ハンナ。ブレイクダンスをしましょうか」
私がピアノを弾くように指を動かす。
「!?」
すると、ハンナは私の言う通り激しくブレイクダンス。逆さまになって、ジョーダンまでかましていた。
綺麗にダンスを決めたハンナだが、彼女は困惑。信じられないのか、自分の体を見つめた。
「あなたは私の操り人形よ、ハンナ」
「………………」
「よかったわね♡」
ハンナの手足、首、頭などマリオネットのように紐が付けられていた。紐をたどると、私の手に行きつく。
入り口に仕掛けていたのは通った人間を操ることができる魔法。ハンナはその罠に引っかかり、私の手に繋がる糸を体に巻き付けられていた。
この糸は特定の場合を除き、術者にしか見えない。
「はーい、ハンナお辞儀して」
手を動かし操ると、ハンナは私の命令通りにお辞儀。
「………っ」
普通に戦って殺し合うとでも思っていたのだろう、彼女は苦渋の顔を浮かべていた。ふん、ざまぁない。
そうして、私たちは並んで歩き、転送装置があった会議棟の真下へと向かう。その間、ハンナが抵抗してくることはなく、静かに移動。
最初にハンナと対面した転移装置へと到着。まだ新しい敵が来ていないのか、無人のまま。準備として、私はハンナから杖を取り上げ、代わりに剣を2つ持たせた。
そうして、ハンナを躍らせながら、敵が来るのを待った。
「あっ、来たわ」
会議棟から離れ、西棟の屋上から転送装置の前で待つハンナを監視していた時だった。2人の男女が転移してきた。
「え、ハンナさん?」
「ああ、よかった。いたのがハンナさんで…………」
警戒していた2人だったが、いた相手がハンナでほっとする。一方、ハンナの顔は険しいままで。
「逃げてください! 皆さん私から離れてっ!!」
2人に向かって叫んでいた。
………………あはは、忠告したって無駄よ。
「はーい、ハンナ。あの2人やってね~」
屋上で呟きながら、私は両手を動かし、ハンナを操る。彼女の意志とは関係なしに剣を掴む手を振りまわし、操られているとは思えないほど、人間らしい柔らかな動きをしていた。
「ハンナさんっ!?」
「俺たちは別にあんたを殺そうとはしてないんだっ!」
「分かってます! 私も殺すつもりはないんです! ですから、私から逃げて! 早くっ!!」
ふっ、逃がすものですか。
逃げる2人を追わせ、相手が魔法展開する前に、ハンナに2人のコアを破壊させる。何も防御魔法をかけていなかったのか、剣で簡単に壊れた。
「あ、あ、あっ………」
そして、腹の中にあったコアを壊し、相手の返り血がハンナに散る。
「あーあ、あなた人を殺しちゃったわね?」
「………………止めて、アドヴィナさん。こんなの酷いです……やめてください………」
「えー。まぁ、そう言わずに。あ、ほら次の敵来たわよ?」
そうして、操り人形ハンナは、のこのことやってきた敵を倒していく。その度にハンナの瞳から光が消えていく。
気づけば、転移装置周辺は血だらけ。体は消えてくれるとはいえ、血は消えず、そのまま残っていた。
うーん、乙ゲーヒロインが人殺しなんていいわね。
ギャップあって、素敵よ。
「やめてください………アドヴィナさんっ!」
「はーい、次の人」
「お願いっ! 誰も殺したくない!」
敵に操られて、仲間を殺していく。バッドエンドのような無様な乙ゲーヒロインの手は血に染まる。
存分に苦しむがいいわ、ハンナ…………。
途中、やってきた敵が強く苦戦し、戦闘中に東棟へと繋がる廊下へと移動。ハンナだけでは難しいと判断し、私も参戦して男を拘束。
ハンナを動かし、彼の最後のコアを壊させた時だった。
「………………ハンナ?」
振り返れば、いたのは燃えるような赤髪の青年。彼は信じられない光景でも見るかのように、目を見開いていた。
「エイダン様、逃げて――――っ!!」
必死に叫ぶハンナ。彼はそれだけ察したのか、ハンナに向かって走り出す。私はハンナを操って、エイダンを襲わせた。
「エイダン様! 逃げて! 私はいいんです!」
「逃げない! 安心しろっ! 魔法を解く!」
「無理です!」
「無理じゃないっ!! 絶対に解く」
魔法を解くですって?
解かせるものですかっ………。
ハンナを動かし、エイダンが魔法を使う隙がないほど斬撃を与える。エイダンはギリギリのところでハンナの剣を杖で受け止める。
「逃げて! お願いです!」
「お前を置いていけるかっ!!」
「お願いですっ!! エイダン様を殺したくないんです! 逃げてください!」
「大丈夫だ! そんなこと、させない!」
………………はぁーあ、なんてお暑いこと。
愛って素敵ねー。
2人のやり取りに白けた目を送りつつ、徐々にエイダンを追い込む。後方から魔法攻撃を入れて、エイダンのコアを壊した。
「エイダン様!! コアがっ!!」
「大丈夫だ、1つぐらい」
その瞬間、エイダンの瞳がカッと光る。
こちらの糸が見えたのだろう。気づいた彼は。
「ウェールス・オクルスッ!!」
と、自分の目に魔法をかける。
そして、糸に向かって、手を伸ばした。
うふふ。
あなたの思い通りにさせるものですか――――。
彼が触れる前に、私はくいっとハンナの体に繋がる糸を操る。
グサッ――――。
「…………えっ?」
困惑の声を漏らすハンナ。
彼女はゆっくりと下を見て、確かめる。
彼女の腹に刺さっていた2つの剣。
それは自分が持っていたもの。
私が操り、ハンナが自ら腹のコアを破壊させた。
パリンっ――――。
コアの破壊音が小さく響く。
「……………エイダン、様……かはっ………」
「ハンナっ!!」
ハンナは血を吐き、駆け寄るエイダン。
ハンナのコアはすでに2つ壊していた。
残り1つだった。
いつでも自害できるようにしていた。
そして、今その最後のコアが破壊された。
「エイダン、様っ………」
「待て、行くな」
「どうか生きて、くださいっ………」
「そんなこと言うな。お前も生きるんだ」
必死に横に首を振るエイダン。
だが、ハンナの体は金色に光始める。
退却の合図だった。
「私の分まで、生きてっ――――」
ゲーム終了のブザー音とともに、金の塵となって消えていくハンナの体。消失した彼女の先に見えた絶望顔のエイダン。
「はーい! これで人形劇はおーしまいっ!」
「………………」
「うーん!! ハンナ、とっても素敵なお人形さんだったわー!! アハハッ!!」
静かな廊下に響く私の拍手と笑い声。
私とエイダンの間に残ったハンナの血。
「………っ」
歯切りをして顔を俯けるエイダン。
そして、顔を上げると、カッと私を睨みつけた。
「アドヴィナァ――――ッ!!!!!」
「何ですかァ――!? 殿下ァ――――!!」
「よくもハンナをやってくれたなッ!!」
眼光を不気味に光らせ、潰れるほど叫ぶエイダン。ハンナの死亡で怒り狂っていた。
いいわね、最高の顔よ…………♡
――――最後の1人だったハンナが死亡し、第3ラウンド終了。生き残ったのは宿敵エイダンと私。
「お前をッ、絶対に苦しませて殺してやるッ!!」
「アハハッ!! できるのなら、やってみなさいなァ――――ッ!!」
絶叫し合いながら、私たちは次の会場へと移動した。
――――――
これで第3ラウンド終了です。インターバル1話を挟み、最終ラウンドに入ります。
今日はもう1話更新したいんですが、間に合わないかもしれません。すみません。
あと、多分今日中には最終回迎えれなさそうです。すみません<(_ _)>
世界中の人間が幸せに暮らせる、魔族の人たちも全員笑って平和に生きることができる、そんな世界の夢。
優しさを持って接すれば、相手はそれに答えてくれる。それが伝染していけば、みんなが優しい人間になる。
実際私の周りの人たちは優しかった。最初こそ冷たかったカイロスも徐々に優しくなり、柔らかな笑顔を見せるようになっていた。
でも、デスゲームの世界に入って、その考えは一転した。状況が変われば、人の心も変わってしまう。みんなの心に優しさは消え、生き残るために心を殺していく。
「………」
私が望む、世界中全ての人間が幸せになれる世界。
それは幻想だったのでしょうか――――?
★★★★★★★★
『今までごめんなさい。あなたには本当に酷いことをしたわ』
以前聞いたアドヴィナさんの謝罪。
彼女の本音だと思っていた。
謝罪を受けたあの日から彼女は仲良くできる、そんな明るい未来も遠くないと思っていた。
『庶民の女が殿下の近くにいるなんて、身分しらずにもほどがあるわ。消えてなさい』
でも、アドヴィナさんからの嫌がらせが続いた。いじめが継続している以上、罪からは逃れられない。エイダン様にアドヴィナさんから受ける嫌がらせのことを話した。
それからはエイダン様はいつも私についてくれていたけど、やっぱり1人になると罵倒されたり、暴力を振るわれることがあった。
可哀そうだけど、アドヴィナさんの断罪と婚約破棄を了承した。これで反省して改心してくれるって思っていた。
『あなたたちは、私が謝罪したのにも関わらず、逆に無視などの嫌がらせをした。何もしていないのに、身に覚えのない罪を着せられた。それでこちらが何も思わないと思った? 何もしないとでも思ったの?』
『謝罪してからは、私は誠実に生きてきた。ハンナさんに危害を加えたこともないし、酷い言葉を言ったこともない』
でも、私は間違えていたのかもしれない。「私はしていない」というアドヴィナさんの主張が本当なら、私は何か見落としていたのかもしれない。
だけど、デスゲームをするのは違う気がする。殺したところで復讐はできても、アドヴィナさんには何も残らない。憎しみと虚しさが残るだけだ。
それに、復讐を望んでいるのなら、私たちだけにすればよかった。他の人を巻き込むなんて間違ってる。
アドヴィナさんは全員殺すと宣言している。
でも、もう私にデスゲームを止める力はない。
覚悟を決めて、私。
アドヴィナさんを殺す、その覚悟を――――。
★★★★★★★★
覚醒したのだろう。
「あなたを倒すっ――――!!」
これまで防戦一方だったハンナが好戦的に攻撃を繰り広げる。彼女が解き放った光の龍が暴れまわり周囲の建物を壊していく。ガラスを豪快に割っていく。
私は龍に追われ、壁を走り、建物から建物へジャンプ。西棟へ走っていく。
ハンナがマリーのなりすましに気づけていたら、もう少しルートが違った。
彼女たちが気づいて、私に何らかの形でいじめのことを話していれば、すぐにマリーを犯人として捕まえれた。それでいじめはなくなっていただろうし、私たちは関わらずに済んだ。
それもこれも調査の杜撰さが招いたこと。
調べていれば、マリーのことは気づけていたはずだ。
おごった思い込みが今の状況を引き起こした。
物語では主人公であるハンナが世界を切り開いていく。勇気と愛情を持つ彼女が攻略対象者を癒していく。夢を持って、みんなに希望を与えていく。
でも、それは物語の中の話で。
現実はみんなそんな善人じゃない。現実にはヴァンデライやマリーみたいな歪みまくった人間がいた。そんなやつがいる中で平和な世界を作るなど、まず無理だ。
たとえ、そんな世界ができたとして、表向きの顔だけがよく、裏では何か企んでいるそんな人間がわんさか沸くに違いない。
その想定もできない。おまけに、マリーの計画に気づけなかった。そんなあなたは私がいてもいなくてもいつか貶められていた。
「だから、あなたは負ける――――」
主人公補正?
あなたにあるものですか。
ここはデスゲーム世界。私の世界。
私が主人公であり、あなたたちは敵。
死んでいくべき敵。
エイダンを生き残らせる――そんな幻想を抱いて、そのまま死んでいけばいい――――。
龍から逃げつつ、私はハンナへと炎の玉を投げる。
同時に彼女が立つ場所を液状化。
「くっ」
沼がハンナの足を地下へと引き込んでいく。
その間に自分の足元から水を湧きおこし、水の上に乗って4階へと上昇。ちらりと後ろを向けば、眼光鋭い龍の顔。今にも食べられそうな近さだった。4階につくと、背後の龍に攻撃を加えつつ、全力ダッシュ。
ハンナは沼を抜け出せたのか、エスカレーターを走って、追って来ていた。
よしっ、このままついてきてくれてるわね。なら、私は入り口のドアにあの子には見えない“あれ”を仕掛けて、っと――――。
出入口のドアに魔法を仕掛け、私はそのままホールの中へ入っていく。そして、すぐに翻し、龍がホールに入る前に闇魔法を一発撃ちこむ。
さらに毒を塗った氷を投げ、龍の体に刺した。
「あぁ………龍さん苦しんでるわぁ」
毒が回り、ドタバタと暴割れ回る龍。
尻尾や体がぶつかり周囲の壁や地面が壊れていく。
「ハクリュウっ!!」
龍は必死に苦しみもがく。ようやく着いたハンナだが、彼女の治療は間に合わず、息絶えた。
「死んじゃったわね」
「………」
煽りにさらに覇気を強める。怒りを押し殺そうとしているようだが、隠しきれていなかった。
「こんなことをして楽しいですか」
「ええ、楽しい」
楽しくって仕方がない。私の脳はもうハイ状態よ。
笑みを浮かべる私とは逆に、眉間に皺を寄せるハンナ。彼女は私に杖先を向け。
「イーリス・プリミラ!!」
光魔法の呪文を叫ぶ。すると、光の津波が出現。
七色の光が波のように襲い、ホールに流れ込む。
でも、私は立ち止まったまま。周囲を闇の炎で囲み、笑って、向かい来る波を待つ。
「ハアァ――――ッ!!」
その波とともに走るハンナ。追加の攻撃を入れるつもりなのか、詠唱を開始。ホールの中へと入った。
――――アハッ。かかった、かかった♡
ハンナがホールに入ったと同時に、私は手に持っていた透明な紐をくいっと引っ張る。波が襲ってくるが、闇の炎が蒸発させた。
「っ!!」
威勢よくホールへ入り走っていたハンナ。
彼女は異変に気付いたのか立ち止った。
「………………」
「………………どうしたの、ハンナ」
「アドヴィナさん、何をしたんですか?」
「教えてほしい?」
にひっと笑って、解答をじらす。
「じゃ、ハンナ。ブレイクダンスをしましょうか」
私がピアノを弾くように指を動かす。
「!?」
すると、ハンナは私の言う通り激しくブレイクダンス。逆さまになって、ジョーダンまでかましていた。
綺麗にダンスを決めたハンナだが、彼女は困惑。信じられないのか、自分の体を見つめた。
「あなたは私の操り人形よ、ハンナ」
「………………」
「よかったわね♡」
ハンナの手足、首、頭などマリオネットのように紐が付けられていた。紐をたどると、私の手に行きつく。
入り口に仕掛けていたのは通った人間を操ることができる魔法。ハンナはその罠に引っかかり、私の手に繋がる糸を体に巻き付けられていた。
この糸は特定の場合を除き、術者にしか見えない。
「はーい、ハンナお辞儀して」
手を動かし操ると、ハンナは私の命令通りにお辞儀。
「………っ」
普通に戦って殺し合うとでも思っていたのだろう、彼女は苦渋の顔を浮かべていた。ふん、ざまぁない。
そうして、私たちは並んで歩き、転送装置があった会議棟の真下へと向かう。その間、ハンナが抵抗してくることはなく、静かに移動。
最初にハンナと対面した転移装置へと到着。まだ新しい敵が来ていないのか、無人のまま。準備として、私はハンナから杖を取り上げ、代わりに剣を2つ持たせた。
そうして、ハンナを躍らせながら、敵が来るのを待った。
「あっ、来たわ」
会議棟から離れ、西棟の屋上から転送装置の前で待つハンナを監視していた時だった。2人の男女が転移してきた。
「え、ハンナさん?」
「ああ、よかった。いたのがハンナさんで…………」
警戒していた2人だったが、いた相手がハンナでほっとする。一方、ハンナの顔は険しいままで。
「逃げてください! 皆さん私から離れてっ!!」
2人に向かって叫んでいた。
………………あはは、忠告したって無駄よ。
「はーい、ハンナ。あの2人やってね~」
屋上で呟きながら、私は両手を動かし、ハンナを操る。彼女の意志とは関係なしに剣を掴む手を振りまわし、操られているとは思えないほど、人間らしい柔らかな動きをしていた。
「ハンナさんっ!?」
「俺たちは別にあんたを殺そうとはしてないんだっ!」
「分かってます! 私も殺すつもりはないんです! ですから、私から逃げて! 早くっ!!」
ふっ、逃がすものですか。
逃げる2人を追わせ、相手が魔法展開する前に、ハンナに2人のコアを破壊させる。何も防御魔法をかけていなかったのか、剣で簡単に壊れた。
「あ、あ、あっ………」
そして、腹の中にあったコアを壊し、相手の返り血がハンナに散る。
「あーあ、あなた人を殺しちゃったわね?」
「………………止めて、アドヴィナさん。こんなの酷いです……やめてください………」
「えー。まぁ、そう言わずに。あ、ほら次の敵来たわよ?」
そうして、操り人形ハンナは、のこのことやってきた敵を倒していく。その度にハンナの瞳から光が消えていく。
気づけば、転移装置周辺は血だらけ。体は消えてくれるとはいえ、血は消えず、そのまま残っていた。
うーん、乙ゲーヒロインが人殺しなんていいわね。
ギャップあって、素敵よ。
「やめてください………アドヴィナさんっ!」
「はーい、次の人」
「お願いっ! 誰も殺したくない!」
敵に操られて、仲間を殺していく。バッドエンドのような無様な乙ゲーヒロインの手は血に染まる。
存分に苦しむがいいわ、ハンナ…………。
途中、やってきた敵が強く苦戦し、戦闘中に東棟へと繋がる廊下へと移動。ハンナだけでは難しいと判断し、私も参戦して男を拘束。
ハンナを動かし、彼の最後のコアを壊させた時だった。
「………………ハンナ?」
振り返れば、いたのは燃えるような赤髪の青年。彼は信じられない光景でも見るかのように、目を見開いていた。
「エイダン様、逃げて――――っ!!」
必死に叫ぶハンナ。彼はそれだけ察したのか、ハンナに向かって走り出す。私はハンナを操って、エイダンを襲わせた。
「エイダン様! 逃げて! 私はいいんです!」
「逃げない! 安心しろっ! 魔法を解く!」
「無理です!」
「無理じゃないっ!! 絶対に解く」
魔法を解くですって?
解かせるものですかっ………。
ハンナを動かし、エイダンが魔法を使う隙がないほど斬撃を与える。エイダンはギリギリのところでハンナの剣を杖で受け止める。
「逃げて! お願いです!」
「お前を置いていけるかっ!!」
「お願いですっ!! エイダン様を殺したくないんです! 逃げてください!」
「大丈夫だ! そんなこと、させない!」
………………はぁーあ、なんてお暑いこと。
愛って素敵ねー。
2人のやり取りに白けた目を送りつつ、徐々にエイダンを追い込む。後方から魔法攻撃を入れて、エイダンのコアを壊した。
「エイダン様!! コアがっ!!」
「大丈夫だ、1つぐらい」
その瞬間、エイダンの瞳がカッと光る。
こちらの糸が見えたのだろう。気づいた彼は。
「ウェールス・オクルスッ!!」
と、自分の目に魔法をかける。
そして、糸に向かって、手を伸ばした。
うふふ。
あなたの思い通りにさせるものですか――――。
彼が触れる前に、私はくいっとハンナの体に繋がる糸を操る。
グサッ――――。
「…………えっ?」
困惑の声を漏らすハンナ。
彼女はゆっくりと下を見て、確かめる。
彼女の腹に刺さっていた2つの剣。
それは自分が持っていたもの。
私が操り、ハンナが自ら腹のコアを破壊させた。
パリンっ――――。
コアの破壊音が小さく響く。
「……………エイダン、様……かはっ………」
「ハンナっ!!」
ハンナは血を吐き、駆け寄るエイダン。
ハンナのコアはすでに2つ壊していた。
残り1つだった。
いつでも自害できるようにしていた。
そして、今その最後のコアが破壊された。
「エイダン、様っ………」
「待て、行くな」
「どうか生きて、くださいっ………」
「そんなこと言うな。お前も生きるんだ」
必死に横に首を振るエイダン。
だが、ハンナの体は金色に光始める。
退却の合図だった。
「私の分まで、生きてっ――――」
ゲーム終了のブザー音とともに、金の塵となって消えていくハンナの体。消失した彼女の先に見えた絶望顔のエイダン。
「はーい! これで人形劇はおーしまいっ!」
「………………」
「うーん!! ハンナ、とっても素敵なお人形さんだったわー!! アハハッ!!」
静かな廊下に響く私の拍手と笑い声。
私とエイダンの間に残ったハンナの血。
「………っ」
歯切りをして顔を俯けるエイダン。
そして、顔を上げると、カッと私を睨みつけた。
「アドヴィナァ――――ッ!!!!!」
「何ですかァ――!? 殿下ァ――――!!」
「よくもハンナをやってくれたなッ!!」
眼光を不気味に光らせ、潰れるほど叫ぶエイダン。ハンナの死亡で怒り狂っていた。
いいわね、最高の顔よ…………♡
――――最後の1人だったハンナが死亡し、第3ラウンド終了。生き残ったのは宿敵エイダンと私。
「お前をッ、絶対に苦しませて殺してやるッ!!」
「アハハッ!! できるのなら、やってみなさいなァ――――ッ!!」
絶叫し合いながら、私たちは次の会場へと移動した。
――――――
これで第3ラウンド終了です。インターバル1話を挟み、最終ラウンドに入ります。
今日はもう1話更新したいんですが、間に合わないかもしれません。すみません。
あと、多分今日中には最終回迎えれなさそうです。すみません<(_ _)>
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