130 / 190
第三章
意外な繋がり
しおりを挟む
カーティス大尉の家族に、今回のデイジーの件を説明し、大尉の父、ロックウィル伯爵にも協力を要請した。
突然、やってきたアルバート殿下に、大尉の家族は面食らい、ワイン塗れの大尉とすっかり怯えたその婚約者に仰天、さらにデイジーの不倫話に、人のよさそうなロックウィル伯爵夫人は卒倒寸前であった。しかし、大尉の父、ロックウィル伯爵は冷静だった。
「ミセス・デイジーの不倫騒ぎは、私は知っていました。お恥ずかしい話ですが、我が家も長男クリスの不祥事があり、彼女に負い目もあって相手の男については把握しておりません。……そうでしたか。ご迷惑をおかけしました」
ロックウィル伯爵は神妙に頭を下げる。大尉によく似た実直そうな人で、この家族の長男が高級娼婦に狂って刃傷沙汰の上、死亡するなんて、全く信じられなかった。
「クリスの件では、デイジーに申し訳なくて。でも実を言えば、デイジーがジョナサンの嫁になるのは、わたくしは反対でしたの。ですからジョナサンのプロポーズが断られたと聞いた時は、正直、ホッとしたのですわ。ジョナサンには、大人しいシャーロットのようなタイプが良いと思って……」
伯爵夫人が末娘のドロシーと二人でシャーロットを宥め、殿下とわたしにお礼を言って下がる。夜遅いこともあり、デイジーとダグラス・アシュバートンの件については、改めて話し合うことにして、わたしたちはロックウィル伯爵邸を辞した。
王都のアパートメントに着いたときはもう、深夜を回っていた。待ちくたびれて眠ったらしいユールの寝顔を見て、わたしはホッとする。
「事情があって、ラルフをリンドホルムにやった。代わりの護衛を兼ね、お前もアパートメントとオーランド邸を往復してくれ」
わたしにホットワインを、殿下にブランデーを持ってきたジュリアンに、殿下が言う。
「承知いたしました。……このアパートメントの維持だけなら、母と妹で十分です。例の、元中尉の動向も不気味ですしね」
「……全くだな。魔性と言うよりは、厄介な男に好かれ過ぎなんだ、エルシーは」
殿下がブランデーを一口飲み、煙草に火を点けながら言うのに、わたしはカチンと来た。
「失礼な! 一番厄介な男のくせに!」
「ほんと、その通りですよ! 殿下が一番、厄介ですよ!」
ジュリアンも同調し、殿下が肩を竦める。
「やれやれ……明日は早々にオーランド邸に戻る予定だったが、先にロベルトを呼び出してくれ。それから、マクガーニにも一報を。……ジェラルドが王都に戻ってくるのは年明けか?」
「三日には戻ると言っていました。戦地から戻って、初めての帰省ですからね」
ジェラルド・ブルック中尉は南部の大都市カールトンの出身だ。ジェニングス侯爵家は南部の有力貴族なのだそうだ。
殿下は煙草を一本吸い終わり、ブランデーを飲み干すと、わたしに言った。
「言いたいことはあるだろうが、今夜はもう、休もう。エルシーのピアノは本当に素晴らしかった!」
殿下はわたしを抱き寄せて頬にキスをする。
わたしは、シモンズ大尉をリンドホルムにやった事情が気になっていたけれど、とても疲れていたし、もはや反対しても無駄なのだろうと思い、言葉を飲み込んだ。
でも――。
ビリーの安らかな眠りを妨げることで、わたしの胸は重く塞がれた。
翌朝、わたしが目を覚ました時には、殿下はもう、とっくに起きて仕事にかかっていた。
さんさんと、冬の陽の差し込むベッドで、朝食を摂る。アンナはわたしの好みを完全に把握していて、朝はマーマレードのトーストにハムエッグ、林檎のコンポートに熱いミルクティー。お気に入りの料理につい頬が緩む。
昨夜は疲れたけれど、朝までぐっすり眠って元気も回復した。
一日、放置されてお冠のユールが、ベッドの上に上がろうとするのを、ノーラが懸命に押さえつけている。
「ダメ! ベッドの上はダメ!」
「ユールはもう、ご飯は食べたのかしら?」
「ええ、もう食べましたよ! 専用の食事をね!」
わたしも急いで食事を終え、ベッドを降りて身支度にかかる。ユールが嬉しそうに走り回るので、なかなかはかどらない。
……王都の催しにはこのアパートメントが便利なのだが、走り回りたくてたまらないユールにとっては、広い庭のある、郊外のオーランド邸の方がいいだろう。
「悪さはしなかった?」
「まあ、仔犬としてはこんなものでしょう。噛み癖もありませんし、性格もいいですわ。でも、アパートメントじゃあ、狭いんでしょうねぇ。もう少し大人になれば、落ち着いてくると思いますけど」
「そうね。……年明けに、オーランド邸の方にマクガーニ閣下のご家族を招待すると、殿下が仰っているの。娘のアグネスはよく知っているけど、ご子息のアレックスはまだ会ったことがなくて。仔犬が子供たちに悪さしなければいいけれど」
わたしがユールを抱き上げて腹毛を撫でていると、背後に回って髪を梳かしながら、ノールが言う。
「どっちかと言うと、子供が仔犬に悪さしないか気を付けるべきですね。うちの息子なんかに会わせたら、とんでもないことになりますよ!」
実家のリンドホルム城では、庭師と森番が犬を飼っていて、時々遊ばせてもらったけれど、祖母が動物嫌いだったから、屋内に犬を入れたことはない。
ユールを抱いて居間に入っていくと、ちょうど呼び鈴が鳴って、ロベルトさんが到着したらしかった。――彼も聖誕節の休暇に入っていたので、数日ぶりだ。
「うわ、それが噂の番犬? ていうか、聞いたよ、エルスペス嬢。ハートネルだけじゃなく、ダグラスまで出てきたって? モテモテだよね」
「モテても嬉しくない相手ばっかりですわ。……ダグラスは本人じゃなくて、不倫相手が出てきたのよ」
ロベルトさんの軽口にわたしが切り返し、腕の中のユールがグルグルと威嚇する。
「うわ、こわー! ワンちゃん、俺は殿下の秘書官だから! 威嚇やめて!」
「ユールは実直な人が好きみたいですわ。カーティス大尉やシモンズ大尉にはすぐに懐いたのに」
「それって、飼い主であるエルスペス嬢の信頼度が現れているだけなんじゃ……」
ロベルトさんが呟いていると、殿下が居間に入ってきた。シャツの上にニットのプルオーバーを着た、少し砕けた服装だ。
「ロベルト、休暇中に悪いな」
「いいえ、宮仕えの宿命っす」
ロベルトさんは片目をつぶり、もってきた鞄から書類の束を出す。
「特務の半分も休暇に入って、残りのほとんどがリンドホルムに向かっているんで、新たな調査は年明けしか無理です。ただ、以前の調査をもう一度見直してみました。特に重要じゃないと思っていたんで、見落としていたんですね」
わたしと殿下は暖炉の前のソファに座り、ロベルトさんは対面の一人がけに座る。
「……ダグラス・アシュバートンの、王都での勤務先は、リーマンロッド法律会計事務所。ここ、なんとフランク商会の会長の、顧問弁護士も務めていました」
「つまり、デイジー・フランクと接点があった……」
「はい。ダグラスは顧客の妻と不倫関係になり、顧客の遺言状を妻にこっそり見せ、変わりに金品を貢がせていたことがバレて、当たり前ですがクビになりました。この時の調査では、不倫相手までは必要ないかと思ったので、裏は取ってないですが、さっき、殿下から電話貰った後で、俺はバーナード・ハドソンに電話で聞いたんです。彼はフランク商会の前会長と個人的に親しかったっすから。で、ドンピシャですよ」
殿下はロベルトさんが差し出す、ダグラスの勤務先に関する調査報告書を見ながら、眉を顰める。――こんな詳細な調査をしているなんて、想像もしていなかった。
「……フランク商会の前会長は二年前に死んだと言う話だが、いくつだったんだ?」
「バーナードより年上だそうですから、六十くらいじゃないっすかね? そのミセス・デイジーってのが、ジョナサンの死んだ兄貴の婚約者だなんて、世の中狭いですよねえ」
「デイジーはジョナサンより一、二歳上だというから……」
「うげぇ~! 三十も若い女房もらって、しかも不倫されちまうって、晩節汚しまくりだね」
ロベルトさんが大げさに肩を竦めて見せる。わたしは首を傾げた。
「……カーティス大尉はロックウィル伯爵を継ぐことが決まっていたんですよね? そのプロポーズを断って、三十も上の男性のところに後妻に行くなんて……」
フランク商会は確かに富豪かもしれないが、ロックウィル伯爵家だって、立派なお屋敷で、金に困っているようには見えなかった。
「……どうだろう? ジョナサンの兄貴が死んだのは十年前、ジョナサンがまだ士官学校卒業前だと言っていた。伯爵の継承者になったところで、自由になる金なんかないだろう」
「バーナードの話じゃあ、フランク商会のオッサンは、若い後妻に夢中で、相当、貢いでいたらしいっす。金に目が眩んでも不思議はないと俺は思いますね」
何となくだが、わたしはカーティス大尉も、昔はデイジーのことが好きだったのではないかと思う。デイジーに苛められていると言ったシャーロット嬢に向かい、「デイジーはそんなことはしない」と即座に否定したからだ。
「……ずいぶん、猫を被るのが上手だったんですわね……」
わたしがまだデイジーのことを考えていると、ロベルトさんが別の書類を出して言う。
「実はですね、もう一個、重要なことに気づいたんですよ、俺」
「……ダグラス・アシュバートンについてか?」
「この、リーマンロッド法律会計事務所ですけどね、実はジェームズ・アシュバートンの資産管理もしていたんです」
「……なんだと?」
殿下が金色の瞳を見開く。
「もとは、ジェームズ・アシュバートンの母方の祖父の財産を管理していたんですが、その大半をジェームズが相続したんで、引き続き管理を任されていました。彼が東部戦線で戦死したという報せも、真っ先にこの事務所には入っているはずなんです」
「つまり――」
ロベルトさんが、わたしと殿下の二人を見比べながら言う。
「ダグラス・アシュバートンは、誰よりも早く、自分の父親サイモンの、リンドホルム伯爵の継承権が一つ繰り上がったのを知っていたんです」
突然、やってきたアルバート殿下に、大尉の家族は面食らい、ワイン塗れの大尉とすっかり怯えたその婚約者に仰天、さらにデイジーの不倫話に、人のよさそうなロックウィル伯爵夫人は卒倒寸前であった。しかし、大尉の父、ロックウィル伯爵は冷静だった。
「ミセス・デイジーの不倫騒ぎは、私は知っていました。お恥ずかしい話ですが、我が家も長男クリスの不祥事があり、彼女に負い目もあって相手の男については把握しておりません。……そうでしたか。ご迷惑をおかけしました」
ロックウィル伯爵は神妙に頭を下げる。大尉によく似た実直そうな人で、この家族の長男が高級娼婦に狂って刃傷沙汰の上、死亡するなんて、全く信じられなかった。
「クリスの件では、デイジーに申し訳なくて。でも実を言えば、デイジーがジョナサンの嫁になるのは、わたくしは反対でしたの。ですからジョナサンのプロポーズが断られたと聞いた時は、正直、ホッとしたのですわ。ジョナサンには、大人しいシャーロットのようなタイプが良いと思って……」
伯爵夫人が末娘のドロシーと二人でシャーロットを宥め、殿下とわたしにお礼を言って下がる。夜遅いこともあり、デイジーとダグラス・アシュバートンの件については、改めて話し合うことにして、わたしたちはロックウィル伯爵邸を辞した。
王都のアパートメントに着いたときはもう、深夜を回っていた。待ちくたびれて眠ったらしいユールの寝顔を見て、わたしはホッとする。
「事情があって、ラルフをリンドホルムにやった。代わりの護衛を兼ね、お前もアパートメントとオーランド邸を往復してくれ」
わたしにホットワインを、殿下にブランデーを持ってきたジュリアンに、殿下が言う。
「承知いたしました。……このアパートメントの維持だけなら、母と妹で十分です。例の、元中尉の動向も不気味ですしね」
「……全くだな。魔性と言うよりは、厄介な男に好かれ過ぎなんだ、エルシーは」
殿下がブランデーを一口飲み、煙草に火を点けながら言うのに、わたしはカチンと来た。
「失礼な! 一番厄介な男のくせに!」
「ほんと、その通りですよ! 殿下が一番、厄介ですよ!」
ジュリアンも同調し、殿下が肩を竦める。
「やれやれ……明日は早々にオーランド邸に戻る予定だったが、先にロベルトを呼び出してくれ。それから、マクガーニにも一報を。……ジェラルドが王都に戻ってくるのは年明けか?」
「三日には戻ると言っていました。戦地から戻って、初めての帰省ですからね」
ジェラルド・ブルック中尉は南部の大都市カールトンの出身だ。ジェニングス侯爵家は南部の有力貴族なのだそうだ。
殿下は煙草を一本吸い終わり、ブランデーを飲み干すと、わたしに言った。
「言いたいことはあるだろうが、今夜はもう、休もう。エルシーのピアノは本当に素晴らしかった!」
殿下はわたしを抱き寄せて頬にキスをする。
わたしは、シモンズ大尉をリンドホルムにやった事情が気になっていたけれど、とても疲れていたし、もはや反対しても無駄なのだろうと思い、言葉を飲み込んだ。
でも――。
ビリーの安らかな眠りを妨げることで、わたしの胸は重く塞がれた。
翌朝、わたしが目を覚ました時には、殿下はもう、とっくに起きて仕事にかかっていた。
さんさんと、冬の陽の差し込むベッドで、朝食を摂る。アンナはわたしの好みを完全に把握していて、朝はマーマレードのトーストにハムエッグ、林檎のコンポートに熱いミルクティー。お気に入りの料理につい頬が緩む。
昨夜は疲れたけれど、朝までぐっすり眠って元気も回復した。
一日、放置されてお冠のユールが、ベッドの上に上がろうとするのを、ノーラが懸命に押さえつけている。
「ダメ! ベッドの上はダメ!」
「ユールはもう、ご飯は食べたのかしら?」
「ええ、もう食べましたよ! 専用の食事をね!」
わたしも急いで食事を終え、ベッドを降りて身支度にかかる。ユールが嬉しそうに走り回るので、なかなかはかどらない。
……王都の催しにはこのアパートメントが便利なのだが、走り回りたくてたまらないユールにとっては、広い庭のある、郊外のオーランド邸の方がいいだろう。
「悪さはしなかった?」
「まあ、仔犬としてはこんなものでしょう。噛み癖もありませんし、性格もいいですわ。でも、アパートメントじゃあ、狭いんでしょうねぇ。もう少し大人になれば、落ち着いてくると思いますけど」
「そうね。……年明けに、オーランド邸の方にマクガーニ閣下のご家族を招待すると、殿下が仰っているの。娘のアグネスはよく知っているけど、ご子息のアレックスはまだ会ったことがなくて。仔犬が子供たちに悪さしなければいいけれど」
わたしがユールを抱き上げて腹毛を撫でていると、背後に回って髪を梳かしながら、ノールが言う。
「どっちかと言うと、子供が仔犬に悪さしないか気を付けるべきですね。うちの息子なんかに会わせたら、とんでもないことになりますよ!」
実家のリンドホルム城では、庭師と森番が犬を飼っていて、時々遊ばせてもらったけれど、祖母が動物嫌いだったから、屋内に犬を入れたことはない。
ユールを抱いて居間に入っていくと、ちょうど呼び鈴が鳴って、ロベルトさんが到着したらしかった。――彼も聖誕節の休暇に入っていたので、数日ぶりだ。
「うわ、それが噂の番犬? ていうか、聞いたよ、エルスペス嬢。ハートネルだけじゃなく、ダグラスまで出てきたって? モテモテだよね」
「モテても嬉しくない相手ばっかりですわ。……ダグラスは本人じゃなくて、不倫相手が出てきたのよ」
ロベルトさんの軽口にわたしが切り返し、腕の中のユールがグルグルと威嚇する。
「うわ、こわー! ワンちゃん、俺は殿下の秘書官だから! 威嚇やめて!」
「ユールは実直な人が好きみたいですわ。カーティス大尉やシモンズ大尉にはすぐに懐いたのに」
「それって、飼い主であるエルスペス嬢の信頼度が現れているだけなんじゃ……」
ロベルトさんが呟いていると、殿下が居間に入ってきた。シャツの上にニットのプルオーバーを着た、少し砕けた服装だ。
「ロベルト、休暇中に悪いな」
「いいえ、宮仕えの宿命っす」
ロベルトさんは片目をつぶり、もってきた鞄から書類の束を出す。
「特務の半分も休暇に入って、残りのほとんどがリンドホルムに向かっているんで、新たな調査は年明けしか無理です。ただ、以前の調査をもう一度見直してみました。特に重要じゃないと思っていたんで、見落としていたんですね」
わたしと殿下は暖炉の前のソファに座り、ロベルトさんは対面の一人がけに座る。
「……ダグラス・アシュバートンの、王都での勤務先は、リーマンロッド法律会計事務所。ここ、なんとフランク商会の会長の、顧問弁護士も務めていました」
「つまり、デイジー・フランクと接点があった……」
「はい。ダグラスは顧客の妻と不倫関係になり、顧客の遺言状を妻にこっそり見せ、変わりに金品を貢がせていたことがバレて、当たり前ですがクビになりました。この時の調査では、不倫相手までは必要ないかと思ったので、裏は取ってないですが、さっき、殿下から電話貰った後で、俺はバーナード・ハドソンに電話で聞いたんです。彼はフランク商会の前会長と個人的に親しかったっすから。で、ドンピシャですよ」
殿下はロベルトさんが差し出す、ダグラスの勤務先に関する調査報告書を見ながら、眉を顰める。――こんな詳細な調査をしているなんて、想像もしていなかった。
「……フランク商会の前会長は二年前に死んだと言う話だが、いくつだったんだ?」
「バーナードより年上だそうですから、六十くらいじゃないっすかね? そのミセス・デイジーってのが、ジョナサンの死んだ兄貴の婚約者だなんて、世の中狭いですよねえ」
「デイジーはジョナサンより一、二歳上だというから……」
「うげぇ~! 三十も若い女房もらって、しかも不倫されちまうって、晩節汚しまくりだね」
ロベルトさんが大げさに肩を竦めて見せる。わたしは首を傾げた。
「……カーティス大尉はロックウィル伯爵を継ぐことが決まっていたんですよね? そのプロポーズを断って、三十も上の男性のところに後妻に行くなんて……」
フランク商会は確かに富豪かもしれないが、ロックウィル伯爵家だって、立派なお屋敷で、金に困っているようには見えなかった。
「……どうだろう? ジョナサンの兄貴が死んだのは十年前、ジョナサンがまだ士官学校卒業前だと言っていた。伯爵の継承者になったところで、自由になる金なんかないだろう」
「バーナードの話じゃあ、フランク商会のオッサンは、若い後妻に夢中で、相当、貢いでいたらしいっす。金に目が眩んでも不思議はないと俺は思いますね」
何となくだが、わたしはカーティス大尉も、昔はデイジーのことが好きだったのではないかと思う。デイジーに苛められていると言ったシャーロット嬢に向かい、「デイジーはそんなことはしない」と即座に否定したからだ。
「……ずいぶん、猫を被るのが上手だったんですわね……」
わたしがまだデイジーのことを考えていると、ロベルトさんが別の書類を出して言う。
「実はですね、もう一個、重要なことに気づいたんですよ、俺」
「……ダグラス・アシュバートンについてか?」
「この、リーマンロッド法律会計事務所ですけどね、実はジェームズ・アシュバートンの資産管理もしていたんです」
「……なんだと?」
殿下が金色の瞳を見開く。
「もとは、ジェームズ・アシュバートンの母方の祖父の財産を管理していたんですが、その大半をジェームズが相続したんで、引き続き管理を任されていました。彼が東部戦線で戦死したという報せも、真っ先にこの事務所には入っているはずなんです」
「つまり――」
ロベルトさんが、わたしと殿下の二人を見比べながら言う。
「ダグラス・アシュバートンは、誰よりも早く、自分の父親サイモンの、リンドホルム伯爵の継承権が一つ繰り上がったのを知っていたんです」
41
あなたにおすすめの小説
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
辺境伯と幼妻の秘め事
睡眠不足
恋愛
父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。
途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。
*元の話を読まなくても全く問題ありません。
*15歳で成人となる世界です。
*異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。
*なかなか本番にいきません
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる