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【番外編】モーガン公爵夫人アイリス・ローレンソン
不穏な午後
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「かあさま! 早く早く!」
「マリカ、お待ちなさい、走らないの!」
色づく楓の葉が散り舞う中を、駆けていく子供の背に呼びかけ、わたくしはため息をつく。
六年ぶりの王都の繁華さに、わたくしは少しばかり気疲れしていた。
「エマ、マリカを捕まえてちょうだい。王都は人が多すぎるわ」
「はい、奥様」
エマが駆けだそうとするが、彼女とてわたくしと似たりよったりの年齢だから、子供の足には追い付けない。
――やっぱり、王都に戻ってくるのは早かったかしら。
やんちゃ盛りのマリカにもそろそろ淑女らしい教育を、と帰国を決意したけれど、時期尚早だったかもしれない。
齢四十を超えての出産は、想像を超えて大変だった。医師はギリギリまで産むのを止めた。
でも、わたくしは産みたかった。
初めて愛して、そして抱いてくれた人の子だ。
ただ、わたくしも醜聞は恐ろしかった。
わたくしは未亡人であり、現モーガン公爵の母親として、先代から遺産と、さらに莫大な年金を得ている。再婚すればモーガン公爵夫人を名乗ることはできず、年金も失う。
二十年にわたる理不尽な献身を強いられた身としては、今の地位を手放すつもりはない。
わたくしは誰にも知られぬように秘密裡に出産し、養女をもらい受けたように取り繕い、息子のベネディクトにもそう伝えた。
自身の結婚話に夢中だった彼は、幼い子を育てたいというわたくしの説明を、疑うこともせず、好きにすればいいと言った。
――そうして、わたくしは五歳になったマリカとともに、王都に戻ってきたのだ。
マリカはやや赤みがかった茶色の髪にヘーゼルの瞳で、どちらの色もハミルトン先生からは受け継がなかった。親のひいき目にも整った顔だちは先生似かもしれない。
どのみち、もう五十に近いわたくしが、この幼子の母だと見て気づく人はほぼおらず、養女だという説明を誰もが信じている。
もう少し成長すれば、本当の母でないとどこからか耳に入り、マリカは傷つくかもしれない。
でも、未亡人のわたくしが、誰とも明かせぬ男との間に産んだ子だと知れるよりはいい。
植物園の並木道に、ちょっとしたカフェのようになった場所で、わたくしたちは休憩することにした。
「エマもそちらにお座りなさい。一人でお茶を飲んでもむなしいわ」
遠慮するエマに強いて向かい側の椅子に座らせ、やってきたウェイターにコーヒーを二杯注文する。
マリカは先ほどから、同じくらいの年ごろの男の子と、二人で遊んでいる。
紺色のセーラー服に紺の半ズボンを穿いた、裕福そうな金髪の少年。並木の下にベンチがあり、一人の女性が座っていた。少年が時々、彼女に話しかけている。
ワインカラーのドレスが上品な、彼女が母親なのだろう。
遠くから眺めていると、落ち葉を踏みしめて背の高い紳士が一人ベンチに近づく。少年がその紳士に駆け寄り、飛びついた。輝く金髪に、パリッと着こなした三つ揃いのスーツ。
わたくしは、思わず息を呑んだ。
見間違えるはずもない。彼は――わたくしが愛したただ一人の人、ハミルトン先生だった。
心臓の鼓動がドクドクと頭に響く。彼が、マリカに何か話しかけ、その頭を撫でる。
マリカが照れたように微笑み、また少年の手を取って駆けだしていく。
ベンチに並んで腰かけ、隣の女性に微笑みかける。女性が少し歪んだ彼のタイを直し、二人は親密そうに寄り添い合う。
わたくしの、胸の鼓動はまだ、収まらない。
金髪の少年は、明らかにマリカより一、二歳は大きい。――あの頃、彼はまだ独身だったはず。あの子の父親ではないはず。ならば、彼は誰か。他人の空似? それとも親族の誰か……
じっと見つめているわたくしの様子に気づき、エマがわたくしの視線を辿り、アッと顔色を変える。
「あれは、ハミルトン先生?」
「……やっぱり、そうよね……?」
わたくしと先生の関係を知るエマは、どうしたものかと周囲を伺っている。
「……エマ、マリカは、わたくしの子だけど、養女ということにしているの。それを、覆すつもりはないの。そうでなければ――」
「わかっております、奥様」
エマが力強く頷く。
ベンチの二人にマリカが何か話しかけ、わたくしの方を指さした。先生が立ち上がり、隣の女性の手を取って立ち上がらせる。――そこで、初めて、女性のお腹が大きいことに気づいた。
そうこうするうちに、少年とマリカが手を繋いで、わたくしの方に駆けてきた。
「ルーカスと、せっかくお友達になれたの。今度、おうちに呼んでもいい?」
マリカが言い、ルーカスが帽子を取って挨拶する。
「こんにちは、僕、ルーカス・ハミルトンと言います。今日は遊んでくれてありがとう! 僕の家はすぐ近くだから、今度遊びにきて! マクミラン侯爵家だから!」
「行ってもいいでしょ、かあさま?」
ハミルトンという姓に、やはり本人だったとわたくしが思う間に、彼は女性を守るようにして、私たちのテーブルに近づいてくる。と、先生がわたくしに気づいたのか、足を止めた。
「……イライアス?」
凍り付いたハミルトン先生を、女性が不思議そうに見上げる。
「……モーガン公爵夫人……?」
「イライアス、お知り合い?」
「……ああ、昔の、患者さんだ、ローズ」
「まあ!」
ローズと呼ばれて女性が紫色の目を見開いた。
「そうでしたの、偶然ですわね、こんなところで――」
優雅に会釈をする女性のあまりに無邪気な微笑に、わたくしは覚悟を決め、腹の底に力を込めて口角を上げた。
「本当に、お久しぶりですこと、先生。戦争に行かれたと聞いて、驚きましたのよ。ご無事でご帰還なさって何よりですわ」
「そちらもお元気そうで。マダム」
「かあさまのお友達なの?」
マリカの言葉に、先生の頬は引きつる。
「マリカ、二人であちらで遊んでいらっしゃい。少しだけ、昔のお話がしたいから」
わたくしがマリカに言えば、マリカの顔が喜びに輝き、ルーカスと手を取ってその場を離れた。
「……お嬢さん……? でも……」
明らかに動揺している先生を安心させるように、わたくしは微笑んでみせた。
「よろしければお座りになりませんこと?」
先生はためらうが、女性は素直に頷いて椅子に腰を下ろす。椅子が足りなかったので、ウェイターが椅子を運んできて先生が座り、先生はコーヒーを二杯、注文した。
「……その、突然、診療を放り出すようなことになりまして、申し訳ありません。医療事情がひっ迫して、今すぐに戦地に入れる医師が必要だと言われましたので――」
先生が額の汗を手の甲でぬぐう。
「いえ、わたくしの体調もだいぶ持ち直しておりましたし。……あの後、わたくし、ランスに参りましたのよ」
「ランス……」
首を傾げる女性に、先生が慌てて言う。
「ランスはルーセンの海辺の保養地だよ。――あ、これは、妻のローズマリーです。昨年結婚しました」
「昨年?」
わたくしは思わず、遠くでマリカと遊ぶルーカス少年を見た。
「ルーカスはわたしの連れ子なんです」
ローズマリー夫人がにっこり微笑み、ハミルトン先生が補足説明する。
「僕の……戦死した戦友の息子でして、彼の遺産の引き渡しなんかの関係で知り合ったのです。戦地から戻ってすぐに兄が事故で亡くなり、爵位を継ぐことになりました」
妙に早口な先生に、わたくしは頷き、ことさらにゆったりと自身の状況を述べた。
「そうでしたの。無事に戻っていらして、本当によかった。……ランスで別荘を借りましてね、数年過ごすうちに、とあるルーセンのご夫婦と知り合って。……まあその、事情のあるお子さんを引き取ることにいたしましたの。女の子も育ててみたくて。年寄りばかりでは張り合いがございませんでしょう?」
「そう、でしたか」
マリカが養女であると聞いて、露骨にホッとしたため息を漏らす先生に、わたくしは吹き出しそうになるのを必死で堪える。――そんな態度では、奥様に気づかれてしまいましてよ――
わたくしは奥様の気を引くように、話しかけた。
「もうすぐご出産ですの?」
「ええ、まあ……」
はちきれそうなお腹を無意識に撫でて微笑む彼女に、先生が向けるまなざしは甘く、慈愛に満ちている。かつて、わたくしに向けたのは同情でしかなかったと改めて思い知らされ、胸がチクリと痛む。ルーカスの父親は戦死しているというから、ローズマリーという女性も不幸な境遇から先生と出会い、愛し合うようになったのだ。どのようなドラマがあったにしろ、年老いたわたくしは二人を祝福するべきだ。
「年寄りが甘やかしたせいか、マリカは少々我が侭で、友達がおりませんの。養女ということは今のところは説明しておりませんが、いずれは世間に知られ、あの子の耳にも入るでしょう。お聞きしたところでは、ルーカス少年も似たような境遇と言えなくもないわ。もしよろしければ仲良くしてやってくださいませ」
「ええ、もちろん。また、遊びにいらしてください」
「奥様のご負担になるといけないから、今度、屋敷の方から迎えを寄越しますわ。タウンハウスにおりますので、わりかし近くですわね」
そんな取り決めを交わすわたくしと奥方を、しかし先生は微かに眉を寄せて見ていた。
秋晴れの青空に、黄色く色づいた楓の葉が揺れる。どこまでも爽やかで、そして不穏な午後――
FIN.
「マリカ、お待ちなさい、走らないの!」
色づく楓の葉が散り舞う中を、駆けていく子供の背に呼びかけ、わたくしはため息をつく。
六年ぶりの王都の繁華さに、わたくしは少しばかり気疲れしていた。
「エマ、マリカを捕まえてちょうだい。王都は人が多すぎるわ」
「はい、奥様」
エマが駆けだそうとするが、彼女とてわたくしと似たりよったりの年齢だから、子供の足には追い付けない。
――やっぱり、王都に戻ってくるのは早かったかしら。
やんちゃ盛りのマリカにもそろそろ淑女らしい教育を、と帰国を決意したけれど、時期尚早だったかもしれない。
齢四十を超えての出産は、想像を超えて大変だった。医師はギリギリまで産むのを止めた。
でも、わたくしは産みたかった。
初めて愛して、そして抱いてくれた人の子だ。
ただ、わたくしも醜聞は恐ろしかった。
わたくしは未亡人であり、現モーガン公爵の母親として、先代から遺産と、さらに莫大な年金を得ている。再婚すればモーガン公爵夫人を名乗ることはできず、年金も失う。
二十年にわたる理不尽な献身を強いられた身としては、今の地位を手放すつもりはない。
わたくしは誰にも知られぬように秘密裡に出産し、養女をもらい受けたように取り繕い、息子のベネディクトにもそう伝えた。
自身の結婚話に夢中だった彼は、幼い子を育てたいというわたくしの説明を、疑うこともせず、好きにすればいいと言った。
――そうして、わたくしは五歳になったマリカとともに、王都に戻ってきたのだ。
マリカはやや赤みがかった茶色の髪にヘーゼルの瞳で、どちらの色もハミルトン先生からは受け継がなかった。親のひいき目にも整った顔だちは先生似かもしれない。
どのみち、もう五十に近いわたくしが、この幼子の母だと見て気づく人はほぼおらず、養女だという説明を誰もが信じている。
もう少し成長すれば、本当の母でないとどこからか耳に入り、マリカは傷つくかもしれない。
でも、未亡人のわたくしが、誰とも明かせぬ男との間に産んだ子だと知れるよりはいい。
植物園の並木道に、ちょっとしたカフェのようになった場所で、わたくしたちは休憩することにした。
「エマもそちらにお座りなさい。一人でお茶を飲んでもむなしいわ」
遠慮するエマに強いて向かい側の椅子に座らせ、やってきたウェイターにコーヒーを二杯注文する。
マリカは先ほどから、同じくらいの年ごろの男の子と、二人で遊んでいる。
紺色のセーラー服に紺の半ズボンを穿いた、裕福そうな金髪の少年。並木の下にベンチがあり、一人の女性が座っていた。少年が時々、彼女に話しかけている。
ワインカラーのドレスが上品な、彼女が母親なのだろう。
遠くから眺めていると、落ち葉を踏みしめて背の高い紳士が一人ベンチに近づく。少年がその紳士に駆け寄り、飛びついた。輝く金髪に、パリッと着こなした三つ揃いのスーツ。
わたくしは、思わず息を呑んだ。
見間違えるはずもない。彼は――わたくしが愛したただ一人の人、ハミルトン先生だった。
心臓の鼓動がドクドクと頭に響く。彼が、マリカに何か話しかけ、その頭を撫でる。
マリカが照れたように微笑み、また少年の手を取って駆けだしていく。
ベンチに並んで腰かけ、隣の女性に微笑みかける。女性が少し歪んだ彼のタイを直し、二人は親密そうに寄り添い合う。
わたくしの、胸の鼓動はまだ、収まらない。
金髪の少年は、明らかにマリカより一、二歳は大きい。――あの頃、彼はまだ独身だったはず。あの子の父親ではないはず。ならば、彼は誰か。他人の空似? それとも親族の誰か……
じっと見つめているわたくしの様子に気づき、エマがわたくしの視線を辿り、アッと顔色を変える。
「あれは、ハミルトン先生?」
「……やっぱり、そうよね……?」
わたくしと先生の関係を知るエマは、どうしたものかと周囲を伺っている。
「……エマ、マリカは、わたくしの子だけど、養女ということにしているの。それを、覆すつもりはないの。そうでなければ――」
「わかっております、奥様」
エマが力強く頷く。
ベンチの二人にマリカが何か話しかけ、わたくしの方を指さした。先生が立ち上がり、隣の女性の手を取って立ち上がらせる。――そこで、初めて、女性のお腹が大きいことに気づいた。
そうこうするうちに、少年とマリカが手を繋いで、わたくしの方に駆けてきた。
「ルーカスと、せっかくお友達になれたの。今度、おうちに呼んでもいい?」
マリカが言い、ルーカスが帽子を取って挨拶する。
「こんにちは、僕、ルーカス・ハミルトンと言います。今日は遊んでくれてありがとう! 僕の家はすぐ近くだから、今度遊びにきて! マクミラン侯爵家だから!」
「行ってもいいでしょ、かあさま?」
ハミルトンという姓に、やはり本人だったとわたくしが思う間に、彼は女性を守るようにして、私たちのテーブルに近づいてくる。と、先生がわたくしに気づいたのか、足を止めた。
「……イライアス?」
凍り付いたハミルトン先生を、女性が不思議そうに見上げる。
「……モーガン公爵夫人……?」
「イライアス、お知り合い?」
「……ああ、昔の、患者さんだ、ローズ」
「まあ!」
ローズと呼ばれて女性が紫色の目を見開いた。
「そうでしたの、偶然ですわね、こんなところで――」
優雅に会釈をする女性のあまりに無邪気な微笑に、わたくしは覚悟を決め、腹の底に力を込めて口角を上げた。
「本当に、お久しぶりですこと、先生。戦争に行かれたと聞いて、驚きましたのよ。ご無事でご帰還なさって何よりですわ」
「そちらもお元気そうで。マダム」
「かあさまのお友達なの?」
マリカの言葉に、先生の頬は引きつる。
「マリカ、二人であちらで遊んでいらっしゃい。少しだけ、昔のお話がしたいから」
わたくしがマリカに言えば、マリカの顔が喜びに輝き、ルーカスと手を取ってその場を離れた。
「……お嬢さん……? でも……」
明らかに動揺している先生を安心させるように、わたくしは微笑んでみせた。
「よろしければお座りになりませんこと?」
先生はためらうが、女性は素直に頷いて椅子に腰を下ろす。椅子が足りなかったので、ウェイターが椅子を運んできて先生が座り、先生はコーヒーを二杯、注文した。
「……その、突然、診療を放り出すようなことになりまして、申し訳ありません。医療事情がひっ迫して、今すぐに戦地に入れる医師が必要だと言われましたので――」
先生が額の汗を手の甲でぬぐう。
「いえ、わたくしの体調もだいぶ持ち直しておりましたし。……あの後、わたくし、ランスに参りましたのよ」
「ランス……」
首を傾げる女性に、先生が慌てて言う。
「ランスはルーセンの海辺の保養地だよ。――あ、これは、妻のローズマリーです。昨年結婚しました」
「昨年?」
わたくしは思わず、遠くでマリカと遊ぶルーカス少年を見た。
「ルーカスはわたしの連れ子なんです」
ローズマリー夫人がにっこり微笑み、ハミルトン先生が補足説明する。
「僕の……戦死した戦友の息子でして、彼の遺産の引き渡しなんかの関係で知り合ったのです。戦地から戻ってすぐに兄が事故で亡くなり、爵位を継ぐことになりました」
妙に早口な先生に、わたくしは頷き、ことさらにゆったりと自身の状況を述べた。
「そうでしたの。無事に戻っていらして、本当によかった。……ランスで別荘を借りましてね、数年過ごすうちに、とあるルーセンのご夫婦と知り合って。……まあその、事情のあるお子さんを引き取ることにいたしましたの。女の子も育ててみたくて。年寄りばかりでは張り合いがございませんでしょう?」
「そう、でしたか」
マリカが養女であると聞いて、露骨にホッとしたため息を漏らす先生に、わたくしは吹き出しそうになるのを必死で堪える。――そんな態度では、奥様に気づかれてしまいましてよ――
わたくしは奥様の気を引くように、話しかけた。
「もうすぐご出産ですの?」
「ええ、まあ……」
はちきれそうなお腹を無意識に撫でて微笑む彼女に、先生が向けるまなざしは甘く、慈愛に満ちている。かつて、わたくしに向けたのは同情でしかなかったと改めて思い知らされ、胸がチクリと痛む。ルーカスの父親は戦死しているというから、ローズマリーという女性も不幸な境遇から先生と出会い、愛し合うようになったのだ。どのようなドラマがあったにしろ、年老いたわたくしは二人を祝福するべきだ。
「年寄りが甘やかしたせいか、マリカは少々我が侭で、友達がおりませんの。養女ということは今のところは説明しておりませんが、いずれは世間に知られ、あの子の耳にも入るでしょう。お聞きしたところでは、ルーカス少年も似たような境遇と言えなくもないわ。もしよろしければ仲良くしてやってくださいませ」
「ええ、もちろん。また、遊びにいらしてください」
「奥様のご負担になるといけないから、今度、屋敷の方から迎えを寄越しますわ。タウンハウスにおりますので、わりかし近くですわね」
そんな取り決めを交わすわたくしと奥方を、しかし先生は微かに眉を寄せて見ていた。
秋晴れの青空に、黄色く色づいた楓の葉が揺れる。どこまでも爽やかで、そして不穏な午後――
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