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【蛇足編】マクミラン侯爵夫人ローズマリー・ハミルトン
専属*
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夕食も書斎に運ばせて籠っていたイライアスだが、夜遅くにようやく、コネクティング・ドアを開けて寝室に入ってきた。入浴を済ませ、シャツ型の寝巻の上に東洋のキモノ風のガウンを羽織っている。
「……イライアス?」
寝台に入らずにソファで編み物をしていた私を見て、彼が目を見開く。
「まだ、起きていたのか」
「起きて待ってたのよ。……あなたの様子が普通じゃないから」
イライアスは眉を顰め、わたしの隣に腰を下ろし、言った。
「ごめん、少し気になることがあって……ジョージ殿下の病状について、マールバラ公爵を通して諮問を受けたのでね」
「そうでしたの。……でも、悩みはそれではないでしょ?」
ズバリと聞いてやると、彼はわたしの肩口に顔を埋める。
「その……ごめん。正直に言うと――」
「あの人は、昔の恋人だったのね?」
「……」
無言は、要するに肯定だ。
「昔のことは、わたしは気にしないわ。……わたしだって人のことを言えた義理じゃないし」
「違うんだ」
イライアスは顔を上げ、わたしを見る。
「恋人じゃない。……僕は、特に好きじゃなかった。ただ、同情しただけで」
「でも、寝たんでしょ?」
「……寝た。気の毒で、縋られた手を振り払うことができなかった」
イライアスは、例の公爵夫人との過去をぽつぽつと語った。
白い結婚で二十年も処女まま捨て置かれた夫人が、ようやく夫が死んで解放され、一度だけでも女の歓びを知りたいと彼の手に縋りった。
「……断る、べきだと思ったけど……」
そう言って目を伏せる彼をわたしはそっと抱きしめた。
「あなたは気の毒な女性を振りほどけないタイプだものね……」
「患者と、それも好きでもない女性と寝ている罪悪感に堪えられなくなって、軍医を募集しているチラシを見て衝動的に病院を辞め、戦地に向かった。……彼女には何も言わずに」
わたしに抱き着く彼の指は微かに震えていて、わたしは思わず彼の髪を撫で、頬を両手で包み込んで額にキスをした。
「夫人は高齢だったし、万一妊娠したら大変なことになると、僕は避妊には気をつけていたけど、絶対ではないから、だから――あの子を見て、もしかしてって思ったら、震えが止まらなくて……」
不安な心情を吐露するイライアスを、わたしは勇気づけるように言った。
「養女だって、夫人も言っていたじゃない」
「でも――」
「母親が養女だって言っているんだから養女なんでしょ」
「でも、時期が一致する……」
「特にあなたに似ている風でもなかったわ」
「そうかな……顔を見るのも怖くて……」
わたしは殊更に笑って、ぎゅっと夫を抱きしめた。
「母親が違うと言っているのよ。あなたに何ができると言うの」
「うん……」
彼もまたわたしをギュッと抱きしめ返し、ため息を吐く。わたしの耳元に唇を寄せ、囁いた。
「ごめん、ありがとう……君に軽蔑されるじゃないかと、それも怖くて……」
「お義母さまも言っていたわ。年上の未亡人や、老嬢に妙にモテるって」
「否定はしない。……寄宿学校時代に、町の未亡人に誘い込まれて関係を持ったのが初体験だったし」
「え……」
「僕は十四歳で……彼女は四十に手が届くくらいの年齢で、関係を持ったことを学校にバラすって脅されて、結局卒業までズルズル――」
思わぬ告白に、わたしはガバリと身を起こし、夫の顔をまじまじと見た。
「イライアス……そんな目に遭っていたの!」
「うん、まあね……その後にも学生時代に未亡人や人妻と何人か。よく考えたら、自分より年下の女性と寝たのは、君が初めてだ」
「年上が好きなの?」
「いや……特に意識したことはない。向こうから寄ってくるのを拒めないだけ」
気弱そうな表情を見て、わたしは不意に不安になる。
「その……例えば公爵夫人にまた迫られたら……」
「それはない! 絶対拒否する!」
イライアスが慌てて首を振る。
「昔は決まった相手もいなかったから断る口実が思いつかなかった。今は妻がいるからってちゃんと断るよ。……というか、もう近づかない。個人での診療はやめる。患者と寝るのも二度としない」
早口でまくし立てる夫を見て、わたしはホッとしてまた抱き着いた。
「モテる夫を持つと大変なのね」
「……自分から好きになった相手にはあまりモテないな。君を口説くのには苦労した」
「そうね。わたし、あなたに好かれていると思わなかったし……」
「むしろ最初は嫌われていたじゃないか」
「気障で胡散臭い貴族男だと思ったんだもの」
わたしの言葉に、イライアスが苦笑して、そして啄むようなキスをする。
「ひどいな、僕は一目ぼれだったのに」
わたしは顔中にキスを受けながら尋ねる。
「……わたしの、気の毒な境遇に同情したの?」
「同情というか……デニスから話を聞いたときに義憤を感じていた。その後のリントン伯爵の話もひどくて……妊娠している少女を追い出すなんて、医者として許し難い。きっとその女性も子供も生きていないだろうと。だから――」
イライアスは顔を離し、私の顔を正面からじっと見た。
「君がちゃんと生きてルーカスを育てているのを見て、女性というのはこんなに強いのかと感動したんだ。……僕はずっと、男に踏みつけられている弱くて不幸な女性ばかり見てきた。そういう女性たちは僕以外に助けを求められる相手もいない。だから助けを求めて伸ばされた手を、僕は拒めなかった。でも君は違った。デニスの金なんていらない、あんな家潰れてしまえ、って言われた時に、きっと君のことが好きになったんだ」
「イライアス……」
イライアスがもう一度わたしにキスをして、口づけを深める。ソファの上で角度を変えて互いに唇を貪り合い、わたしの息が上がったところで彼が囁く。
「……抱いていい?」
「ん……」
彼がわたしを抱き上げ、ベッドに運んで横たえ、でも圧し掛からずに身体を横向きにするような形で首筋に顔を埋める。金色の髪が顔や首筋に触れて、くすぐったくて身をよじった。彼の大きな手が、わたしの膨らんだ腹を撫でる。
――以前に、彼の従妹のせいで流産しているからか、彼はわたしの妊娠以後は慎重になって、ここのところ、あまり夜の営みはない。それでも、時折、狂おしいほどに求められることがあって――
ネグリジェを脱がされて素裸にされる。大きく膨らんだお腹が恥ずかしくて、わたしは明かりを消して欲しいと頼む。
「ここに僕の子がいると思うとそれだけで愛おしい。ちゃんと見たいから……」
彼の手がわたしの太ももをなぞり、長い指が秘所を辿る。敏感な尖りを擦られて、わたしの息が上がる。彼の指がぬかるんだ蜜口に侵入し、ゆっくり出し入れされて、わたしを追い上げていく。
「はっ……ああっ……」
「ローズ……」
耳朶を甘噛みされて、熱い息で脳が溶けそうになる。
「イアイ、アス……それ、もうっ……あっあ―――――っ」
奥の感じる部分を彼の長い指にグリグリと責められて、わたしほとうとう、四肢を突っ張って達する。
ぐったりしていると、彼がすばやく衣服を脱ぎ捨てて裸になり、わたしの中心に彼の熱い昂りが宛がわれ、背後からゆっくりと穿たれる。
「あ、あ、……ああっ……」
「ローズ……愛してる……本当に君だけ……僕は……」
奥まで満たされて、背中から包み込むように抱きしめられ、肌と肌をぴったりと合わせて熱を分け合う。愛されている実感に心の底から満たされていく。
「ローズ、我慢できない……動くよ……」
耳元で囁いた彼がわたしの片膝の裏を掴んで脚を開かせるようにして、グズグズと腰を動かす。奥を突かれるたびにわたしの脳裏に白い閃光が走り、わたしはあっけなくもう一度高められて、彼もまたわたしの中で果てた。
情事の後で、気怠くその胸にもたれているわたしの髪を、彼が繊細な手で梳きながら言った。
「やっぱり、僕は君のことをすごく愛しているんだと思う」
「え……?」
彼がわたしの額に口づけ、もう一つの手で肩を抱き寄せる。
「……たぶん、君に出会う以前の僕は誰も愛していなかったから、どんな女性にも平等に優しくできて、そして、不幸な女性から縋られると手を振りほどく勇気がなかった」
「イライアス……」
「僕は君に出会って君を好きになった。君と、君の大切なものを守るだけで、僕の両手はもういっぱいいっぱいだ。他の女に差し伸べる余裕などないし、今なら、平気で他の女の手も振り解ける。それでも寄ってきたら、足で踏みつけても――」
「極端すぎよ!」
わたしは体の向きを変え、夫の整った顔をまじまじと見ながら言った。
「イライアス、あなたはとても優しい人よ。わたしを拾いあげてくれたもの。その優しさは間違いなくあなたの長所で、おかげで、公爵夫人や他の女性たちも、あなたに救われたのよ。だから、昔の自分を責めないで」
「ん……」
彼の唇を唇で塞げば、彼の大きな手がわたしのうなじを支え、口づけが深められる。わたしは彼に微笑んで見せた。
「でも、これから先、あなたの手はわたしだけのものよ。そうでしょ?」
「ん……これから先、僕の自慢の技術は君ひとりためのものだ。僕は君の専属として、君をめいっぱい気持ちよくさせてあげる、ローズ」
そういう意味で言ったわけではなかったのだが、イライアスはわたしを両腕でぐっと抱きしめ、唇を塞いでくるので反論もできない。
――昼間に見た公爵夫人と女の子の姿が脳裏によぎる。女のカンだけれど、あの子は夫人の実子のような気がする。根拠なんてない。夫の子だと言わないことで、優位に立っているつもりかもしれないけど。でも――
残念ながら、イライアスはわたしのものよ。誰にも渡さないわ。……別にそっちの技術が目当てなわけじゃないけど。
わたしはイライアスの胸に顔を埋め、力強い腕の中で目を閉じる。
彼の繊細な指がわたしの髪を撫でるうち、わたしは温もりに心の底からやすらいで、うとうとと眠りに引き込まれていく。彼の寝息が聞こえるのと、わたしが眠りに落ちるのと、ほぼ同時だった。
「……イライアス?」
寝台に入らずにソファで編み物をしていた私を見て、彼が目を見開く。
「まだ、起きていたのか」
「起きて待ってたのよ。……あなたの様子が普通じゃないから」
イライアスは眉を顰め、わたしの隣に腰を下ろし、言った。
「ごめん、少し気になることがあって……ジョージ殿下の病状について、マールバラ公爵を通して諮問を受けたのでね」
「そうでしたの。……でも、悩みはそれではないでしょ?」
ズバリと聞いてやると、彼はわたしの肩口に顔を埋める。
「その……ごめん。正直に言うと――」
「あの人は、昔の恋人だったのね?」
「……」
無言は、要するに肯定だ。
「昔のことは、わたしは気にしないわ。……わたしだって人のことを言えた義理じゃないし」
「違うんだ」
イライアスは顔を上げ、わたしを見る。
「恋人じゃない。……僕は、特に好きじゃなかった。ただ、同情しただけで」
「でも、寝たんでしょ?」
「……寝た。気の毒で、縋られた手を振り払うことができなかった」
イライアスは、例の公爵夫人との過去をぽつぽつと語った。
白い結婚で二十年も処女まま捨て置かれた夫人が、ようやく夫が死んで解放され、一度だけでも女の歓びを知りたいと彼の手に縋りった。
「……断る、べきだと思ったけど……」
そう言って目を伏せる彼をわたしはそっと抱きしめた。
「あなたは気の毒な女性を振りほどけないタイプだものね……」
「患者と、それも好きでもない女性と寝ている罪悪感に堪えられなくなって、軍医を募集しているチラシを見て衝動的に病院を辞め、戦地に向かった。……彼女には何も言わずに」
わたしに抱き着く彼の指は微かに震えていて、わたしは思わず彼の髪を撫で、頬を両手で包み込んで額にキスをした。
「夫人は高齢だったし、万一妊娠したら大変なことになると、僕は避妊には気をつけていたけど、絶対ではないから、だから――あの子を見て、もしかしてって思ったら、震えが止まらなくて……」
不安な心情を吐露するイライアスを、わたしは勇気づけるように言った。
「養女だって、夫人も言っていたじゃない」
「でも――」
「母親が養女だって言っているんだから養女なんでしょ」
「でも、時期が一致する……」
「特にあなたに似ている風でもなかったわ」
「そうかな……顔を見るのも怖くて……」
わたしは殊更に笑って、ぎゅっと夫を抱きしめた。
「母親が違うと言っているのよ。あなたに何ができると言うの」
「うん……」
彼もまたわたしをギュッと抱きしめ返し、ため息を吐く。わたしの耳元に唇を寄せ、囁いた。
「ごめん、ありがとう……君に軽蔑されるじゃないかと、それも怖くて……」
「お義母さまも言っていたわ。年上の未亡人や、老嬢に妙にモテるって」
「否定はしない。……寄宿学校時代に、町の未亡人に誘い込まれて関係を持ったのが初体験だったし」
「え……」
「僕は十四歳で……彼女は四十に手が届くくらいの年齢で、関係を持ったことを学校にバラすって脅されて、結局卒業までズルズル――」
思わぬ告白に、わたしはガバリと身を起こし、夫の顔をまじまじと見た。
「イライアス……そんな目に遭っていたの!」
「うん、まあね……その後にも学生時代に未亡人や人妻と何人か。よく考えたら、自分より年下の女性と寝たのは、君が初めてだ」
「年上が好きなの?」
「いや……特に意識したことはない。向こうから寄ってくるのを拒めないだけ」
気弱そうな表情を見て、わたしは不意に不安になる。
「その……例えば公爵夫人にまた迫られたら……」
「それはない! 絶対拒否する!」
イライアスが慌てて首を振る。
「昔は決まった相手もいなかったから断る口実が思いつかなかった。今は妻がいるからってちゃんと断るよ。……というか、もう近づかない。個人での診療はやめる。患者と寝るのも二度としない」
早口でまくし立てる夫を見て、わたしはホッとしてまた抱き着いた。
「モテる夫を持つと大変なのね」
「……自分から好きになった相手にはあまりモテないな。君を口説くのには苦労した」
「そうね。わたし、あなたに好かれていると思わなかったし……」
「むしろ最初は嫌われていたじゃないか」
「気障で胡散臭い貴族男だと思ったんだもの」
わたしの言葉に、イライアスが苦笑して、そして啄むようなキスをする。
「ひどいな、僕は一目ぼれだったのに」
わたしは顔中にキスを受けながら尋ねる。
「……わたしの、気の毒な境遇に同情したの?」
「同情というか……デニスから話を聞いたときに義憤を感じていた。その後のリントン伯爵の話もひどくて……妊娠している少女を追い出すなんて、医者として許し難い。きっとその女性も子供も生きていないだろうと。だから――」
イライアスは顔を離し、私の顔を正面からじっと見た。
「君がちゃんと生きてルーカスを育てているのを見て、女性というのはこんなに強いのかと感動したんだ。……僕はずっと、男に踏みつけられている弱くて不幸な女性ばかり見てきた。そういう女性たちは僕以外に助けを求められる相手もいない。だから助けを求めて伸ばされた手を、僕は拒めなかった。でも君は違った。デニスの金なんていらない、あんな家潰れてしまえ、って言われた時に、きっと君のことが好きになったんだ」
「イライアス……」
イライアスがもう一度わたしにキスをして、口づけを深める。ソファの上で角度を変えて互いに唇を貪り合い、わたしの息が上がったところで彼が囁く。
「……抱いていい?」
「ん……」
彼がわたしを抱き上げ、ベッドに運んで横たえ、でも圧し掛からずに身体を横向きにするような形で首筋に顔を埋める。金色の髪が顔や首筋に触れて、くすぐったくて身をよじった。彼の大きな手が、わたしの膨らんだ腹を撫でる。
――以前に、彼の従妹のせいで流産しているからか、彼はわたしの妊娠以後は慎重になって、ここのところ、あまり夜の営みはない。それでも、時折、狂おしいほどに求められることがあって――
ネグリジェを脱がされて素裸にされる。大きく膨らんだお腹が恥ずかしくて、わたしは明かりを消して欲しいと頼む。
「ここに僕の子がいると思うとそれだけで愛おしい。ちゃんと見たいから……」
彼の手がわたしの太ももをなぞり、長い指が秘所を辿る。敏感な尖りを擦られて、わたしの息が上がる。彼の指がぬかるんだ蜜口に侵入し、ゆっくり出し入れされて、わたしを追い上げていく。
「はっ……ああっ……」
「ローズ……」
耳朶を甘噛みされて、熱い息で脳が溶けそうになる。
「イアイ、アス……それ、もうっ……あっあ―――――っ」
奥の感じる部分を彼の長い指にグリグリと責められて、わたしほとうとう、四肢を突っ張って達する。
ぐったりしていると、彼がすばやく衣服を脱ぎ捨てて裸になり、わたしの中心に彼の熱い昂りが宛がわれ、背後からゆっくりと穿たれる。
「あ、あ、……ああっ……」
「ローズ……愛してる……本当に君だけ……僕は……」
奥まで満たされて、背中から包み込むように抱きしめられ、肌と肌をぴったりと合わせて熱を分け合う。愛されている実感に心の底から満たされていく。
「ローズ、我慢できない……動くよ……」
耳元で囁いた彼がわたしの片膝の裏を掴んで脚を開かせるようにして、グズグズと腰を動かす。奥を突かれるたびにわたしの脳裏に白い閃光が走り、わたしはあっけなくもう一度高められて、彼もまたわたしの中で果てた。
情事の後で、気怠くその胸にもたれているわたしの髪を、彼が繊細な手で梳きながら言った。
「やっぱり、僕は君のことをすごく愛しているんだと思う」
「え……?」
彼がわたしの額に口づけ、もう一つの手で肩を抱き寄せる。
「……たぶん、君に出会う以前の僕は誰も愛していなかったから、どんな女性にも平等に優しくできて、そして、不幸な女性から縋られると手を振りほどく勇気がなかった」
「イライアス……」
「僕は君に出会って君を好きになった。君と、君の大切なものを守るだけで、僕の両手はもういっぱいいっぱいだ。他の女に差し伸べる余裕などないし、今なら、平気で他の女の手も振り解ける。それでも寄ってきたら、足で踏みつけても――」
「極端すぎよ!」
わたしは体の向きを変え、夫の整った顔をまじまじと見ながら言った。
「イライアス、あなたはとても優しい人よ。わたしを拾いあげてくれたもの。その優しさは間違いなくあなたの長所で、おかげで、公爵夫人や他の女性たちも、あなたに救われたのよ。だから、昔の自分を責めないで」
「ん……」
彼の唇を唇で塞げば、彼の大きな手がわたしのうなじを支え、口づけが深められる。わたしは彼に微笑んで見せた。
「でも、これから先、あなたの手はわたしだけのものよ。そうでしょ?」
「ん……これから先、僕の自慢の技術は君ひとりためのものだ。僕は君の専属として、君をめいっぱい気持ちよくさせてあげる、ローズ」
そういう意味で言ったわけではなかったのだが、イライアスはわたしを両腕でぐっと抱きしめ、唇を塞いでくるので反論もできない。
――昼間に見た公爵夫人と女の子の姿が脳裏によぎる。女のカンだけれど、あの子は夫人の実子のような気がする。根拠なんてない。夫の子だと言わないことで、優位に立っているつもりかもしれないけど。でも――
残念ながら、イライアスはわたしのものよ。誰にも渡さないわ。……別にそっちの技術が目当てなわけじゃないけど。
わたしはイライアスの胸に顔を埋め、力強い腕の中で目を閉じる。
彼の繊細な指がわたしの髪を撫でるうち、わたしは温もりに心の底からやすらいで、うとうとと眠りに引き込まれていく。彼の寝息が聞こえるのと、わたしが眠りに落ちるのと、ほぼ同時だった。
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