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六竅
29、暗黒三皇子
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尾行けられている。そう気づいたスールーは、骨董街へ向かう途中の路地でふっと折れて、振り向いて尾行が追って来るの待った。追ってきたのは予想と違い、いかにも堅気風の、だが特徴のない影のような男だった。
「スールーさんですね。主があなたに会いたがっておられます。一緒に来ていただきたいのです」
どこから出たかわからないひそやかな声。言葉は穏やかだが、有無を言わせぬ雰囲気があった。スールーが本能的に嗅ぎ取る、只者ではない匂い。断ることは許さない程の相手、なのだろう。
スールーが諦めて肩を一つ竦めると、男の後についていった。
男が連れて行ったのは意外にも骨董街にほど近い、一軒の瀟洒な料理茶屋だった。道ならぬ男女が逢引に使うような、そんな小洒落た店だが、上流の客層が主な客なのでスールーは来たことがない。
その高尚な店の中でも、目当ての客は最上級の部類なのだろう。奥の奥へと導かれる。
帝都の中の店とは思えぬほど広い庭に、人の目を遮るように木々が植えられ、竹林が茂り、池が穿たれ、奇岩が配される。それを見ながら曲がりくねった廊下を渡っていく。通されたのは、離れの二階の部屋であった。
「お連れいたしました」
扉の外から自分を尾行していた男が中に告げると、奥からまだ若い男の声がした。
「ご苦労だったね。下がっていいよ」
「は」
中から扉が開かれ、若い男がスールーを見、入るように促す。連れて来た男に目で促され、ぺこりと頭を下げて部屋に入れば、若い男が扉を閉めた。
「君がスールー? 先日は獣人の件で世話になったよ」
部屋の奥から、さっきの若い声がスールーに声をかけた。見ると、大きく窓を開いて露台まで開け放ち、露台に卓と椅子を出して数人がくつろいでいるのが見えた。薄暗い部屋の中からは逆光になって人物の姿は影のように見える。
「ご身分の高い方だから、失礼のないように」
扉まで迎えにきた若い男が、スールーに言う。獣人の件、と言われて思いだした。獣人十人を早急に揃えろ、と無茶を言った辺境大都督の放蕩息子。
皇子は評判を聞いてスールーに渡りをつけてきたが、使いを介してのやり取りのみで、スールーも実際のご身分は知らないことになっている。もちろん、高額の商売なので、スールーは使いの跡をつけて顧客の身分の確認を怠らなかった。放蕩息子と評判だが、支払いはきっちり、祝儀までつけてくれた。いい客だったと思う。
さてその皇族サマがこの俺に何の用かね? どうせ女の話には違いないだろうが。
スールーが貴人への作法(なんてものは知る訳もないが)として視線を下げつつ露台へと近づく。
「さあ、遠慮はいらない。俺たちは今日はお忍びだから、ちょっと相談があるんで、そこにかけてくれ」
さっきの声とは別の、若いけれど低くてよくとおる声が豪放に言い、背もたれに彫刻を施した木の椅子を薦める。さっと脇から別の若い大男が進みでて、スールーに椅子に座るように言った。スールーが居心地悪く椅子に座ると、先ほどの若い男がその前にお茶の入った湯呑を置く。貴人の前でお茶によばれるとは、図太いスールーでも些か手に汗を握った。
見ないようにして周りを見回すと、卓の周りに座っている若い男は三人。いずれもまだ少年と言ってもいい年頃だ。だが皆な平均的な男よりすでに背が高く、均整の取れた体つきをしている。中央にいるのが髪色の薄い少年で、これがスールーに最初に声をかけた放蕩息子らしい。軽薄そうな口調に負けず劣らず、身なりも容姿も整ってこじゃれているが、とにかく軽薄な印象。花花公子といった趣だ。
スールーに近い方に座っている男が、椅子を薦めた豪放な性格らしく、短髪で大柄、いかにも凛々しい眉をして、腕っぷしも強そうだ。最後、反対側に端然と脚を組んで座り、優雅な手つきで扇を弄んでいる少年に、スールーは柄にもなく目を奪われた。
花街に出入りする商売柄、美しい女も男も見慣れているが、これほどの美少年は滅多にいない。花街の陰間茶屋で一番の美貌を誇る男娼でも、この少年の前では色あせるであろう。艶やかな黒髪に切れ長の黒曜石の瞳、象牙のように滑らかな肌、黒い睫毛が長くびっしりと黒目がちの目の周囲を覆って、鼻筋は通り、やや薄い唇は清潔感と同時に冷たい雰囲気さえ醸し出している。少年ぽさを少し通り過ぎて、しかし大人の男というにはまだ青い、少年と青年の中間のような、微妙な色香。他の二人も十分に整った容姿をしているが、この少年は別格であった。ただ、彼の甘い雰囲気は花花公子と、凛々しい眉の風情は豪放な男とそれぞれ似通うところがある。
スールーはこの三人の身元にピンときた。親戚なのだ。つまり――。
「お前たちは下がれ」
豪放な男が手で合図すると、控えていた男たち三人が無言で頭を下げ、露台から出ていく。だが見えないところに離れているだけで、ずっと警戒しているのは明らかだった。
(過保護ですねー。そんなことしなくても、俺の腕っぷしでは勝てませんよ。暗黒三皇子様がたには)
「お前がスールーか。あの獣人は確かに具合がいい。噂は伊達じゃねぇな」
豪放な男が――スールーの推測が正しければ、彼もまだ少年の年頃だが、少なくともこの男だけは成長が早く、青年と呼んでもいいくらいだ――スールーに笑いかけた。放蕩息子の家で獣人奴隷の味見をしたらしい。獣人と寝る趣味のないスールーは曖昧に微笑んだ。
「お気に召したようで何よりです。……で、今回はまた、どんなご用件で?」
「調達したい女がいるんだ。あんたの協力を頼みたいと思ってね」
薄茶色の髪の放蕩息子がニヤリと笑った。
「獣人ではなく、女でございますか……。恐れながら、皆さまはその……」
皇族であれば、貴族以外の女は抱けない。それを確認しておく必要があった。
「女は決まっているんだ。……貴族の血を引いているから、問題ない」
「さようで」
あの女が欲しい、と言う場合は大概、困難が予測される。スールーは内心、面倒だなと思った。貴族令嬢を無理矢理攫ってこいとか、そんな話だろうか。
「まず確認したいんだけど、ソールからはいくらで請け負ってるの?」
予想外の名前を聞いて、スールーが目を瞠る。
「ソール……とは?」
「やだなあ。誤魔化しっこなしだよ。さっきもソールの店から出て来たくせに。なかなかソールとあんたが繋がっている確証が取れなくて、イライラしたよ」
放蕩息子が卓に肘をついて、薄茶の髪を掻き上げる。豪放な男はにやにやと笑いながら茶を啜り、美少年は相変わらず無言で扇を弄んでいる。
「彼女、欲しいんだよね。……俺たちの新しい玩具にさ」
放蕩息子が茶色い瞳をきらりと光らせながら軽薄に言うのに、スールーはなぜか背中がぞくっとした。まるで無邪気な子供が「子犬が欲しい」とでも言うようなその言い方。彼らにとって、下々の者の人生など塵芥にも等しいのだ。
「彼女……なぜ……」
背中に冷たい汗が流れる。スールーとソールの繋がりを知っているということは、ソールの企みまで知っているということだ。その時、彼女から稀覯本を買った貴族が、見惚れるような美貌だったという話を思い出した。
さっきから一言もしゃべらず、長い睫毛の目を伏せて扇を弄んでいる美少年をスールーはじっと見つめた。視線に気づいたのか、少年は扇から目を上げ、切れ長の瞳でスールーを見返す。無表情だったその口の端が静かに弧を描く。とたんに、花が綻ぶような邪気のない微笑がその美しい顔に現れた。
「彼女を落とす策は、君が考えたのか? なかなか、悪辣だね。経済的に追い込んで、助けを差し伸べる手に縋らざるを得ないように仕向ける。……でもね、砒素を使ったのはよくなかったね。診察した医者を抑えたから、証拠はこちらにあるんだ。賄賂で握りつぶしたようだけれど、僕たちが証拠を出して再調査を命じれば、動かざるを得ないだろう」
初めて口を開いた美少年は、静かな声でそう言った。少女のような外見なのに、声はしっとりと低めの、艶のある美声だ。しかしその声が紡ぎ出す内容は、無邪気で優し気な微笑みとは全く相容れない、死刑宣告のような情け容赦ないものだ。スールーはその美しい顔から眼を離すことができなかった。
「お前が俺たちに協力してくれるなら、ユイファの夫殺害の件は不問に付してもいいぜ」
声質が似ているけれど、より低く豪放な声が、スールーに追い打ちをかける。
「協力……とは、何をすればよろしいので?」
スールーは観念した。家柄も権力も、何もかも適う相手ではない。ただの皇族ではなく、北方の異民族を壊滅に追い込む知恵と武略を持った少年たちなのだ。
「話が早くて助かるよ。君はなかなか知恵者のようだからね」
スールーの目の前で、絶世の美少年が氷の月のような微笑を浮かべていた。
「個人的感情としては君を告発したいけれど、告発すれば真実を明らかにせざるを得ない。真実を知ればユイファは悲しむだろうから……。自分に横恋慕した男が夫を殺したなんて、知りたくはなかろう」
長い睫毛に縁どられた少年の黒曜石の瞳が悲し気に翳る。この少年だけは、ユイファその人に人間的な同情を寄せているらしい。
「彼女をソールの手から救いたいんだよね。その上で、俺たち三人の玩具になってもらうように仕向けたいんだ」
放蕩息子が薄茶色の髪を揺らしながら言うのに、美少年がほんの僅か眉を動かすのを、スールーが視界の端に留める。
「ソールは彼女を妻にするつもりです。お言葉ですが、あなた方の玩具になるよりはましではありませんか?」
スールー的にはかなりの勇気と世間の常識を振り絞って発言してみたが、放蕩息子は一笑に付した。
「自分の旦那とその父親を告発し、婚家を没落させるばかりか、財産まで奪い取った男の妻になるなんて、幸せなはずないだろう。俺たちと後腐れなく遊ぶ方がいいに決まってる」
「殺人及び財産奪取の上、意中の人妻と結ばれるなんて、虫が良すぎるだろう」
放蕩息子と豪放な男が口々に言う。
「……まあ、僕は本さえ無事に手に入れば……」
美少年は少しばかり気が乗らなさそうである。三人の身分からいって、スールーごときに抵抗できることではない。ユイファの運命はすでに決まっているのだ。スールーは溜息をついて、言った。
「では、先ほどの話に戻りますが、俺は何をすればよろしいので?」
放蕩息子が唇をぺろりと舐めると、計画を語り始めた。
「スールーさんですね。主があなたに会いたがっておられます。一緒に来ていただきたいのです」
どこから出たかわからないひそやかな声。言葉は穏やかだが、有無を言わせぬ雰囲気があった。スールーが本能的に嗅ぎ取る、只者ではない匂い。断ることは許さない程の相手、なのだろう。
スールーが諦めて肩を一つ竦めると、男の後についていった。
男が連れて行ったのは意外にも骨董街にほど近い、一軒の瀟洒な料理茶屋だった。道ならぬ男女が逢引に使うような、そんな小洒落た店だが、上流の客層が主な客なのでスールーは来たことがない。
その高尚な店の中でも、目当ての客は最上級の部類なのだろう。奥の奥へと導かれる。
帝都の中の店とは思えぬほど広い庭に、人の目を遮るように木々が植えられ、竹林が茂り、池が穿たれ、奇岩が配される。それを見ながら曲がりくねった廊下を渡っていく。通されたのは、離れの二階の部屋であった。
「お連れいたしました」
扉の外から自分を尾行していた男が中に告げると、奥からまだ若い男の声がした。
「ご苦労だったね。下がっていいよ」
「は」
中から扉が開かれ、若い男がスールーを見、入るように促す。連れて来た男に目で促され、ぺこりと頭を下げて部屋に入れば、若い男が扉を閉めた。
「君がスールー? 先日は獣人の件で世話になったよ」
部屋の奥から、さっきの若い声がスールーに声をかけた。見ると、大きく窓を開いて露台まで開け放ち、露台に卓と椅子を出して数人がくつろいでいるのが見えた。薄暗い部屋の中からは逆光になって人物の姿は影のように見える。
「ご身分の高い方だから、失礼のないように」
扉まで迎えにきた若い男が、スールーに言う。獣人の件、と言われて思いだした。獣人十人を早急に揃えろ、と無茶を言った辺境大都督の放蕩息子。
皇子は評判を聞いてスールーに渡りをつけてきたが、使いを介してのやり取りのみで、スールーも実際のご身分は知らないことになっている。もちろん、高額の商売なので、スールーは使いの跡をつけて顧客の身分の確認を怠らなかった。放蕩息子と評判だが、支払いはきっちり、祝儀までつけてくれた。いい客だったと思う。
さてその皇族サマがこの俺に何の用かね? どうせ女の話には違いないだろうが。
スールーが貴人への作法(なんてものは知る訳もないが)として視線を下げつつ露台へと近づく。
「さあ、遠慮はいらない。俺たちは今日はお忍びだから、ちょっと相談があるんで、そこにかけてくれ」
さっきの声とは別の、若いけれど低くてよくとおる声が豪放に言い、背もたれに彫刻を施した木の椅子を薦める。さっと脇から別の若い大男が進みでて、スールーに椅子に座るように言った。スールーが居心地悪く椅子に座ると、先ほどの若い男がその前にお茶の入った湯呑を置く。貴人の前でお茶によばれるとは、図太いスールーでも些か手に汗を握った。
見ないようにして周りを見回すと、卓の周りに座っている若い男は三人。いずれもまだ少年と言ってもいい年頃だ。だが皆な平均的な男よりすでに背が高く、均整の取れた体つきをしている。中央にいるのが髪色の薄い少年で、これがスールーに最初に声をかけた放蕩息子らしい。軽薄そうな口調に負けず劣らず、身なりも容姿も整ってこじゃれているが、とにかく軽薄な印象。花花公子といった趣だ。
スールーに近い方に座っている男が、椅子を薦めた豪放な性格らしく、短髪で大柄、いかにも凛々しい眉をして、腕っぷしも強そうだ。最後、反対側に端然と脚を組んで座り、優雅な手つきで扇を弄んでいる少年に、スールーは柄にもなく目を奪われた。
花街に出入りする商売柄、美しい女も男も見慣れているが、これほどの美少年は滅多にいない。花街の陰間茶屋で一番の美貌を誇る男娼でも、この少年の前では色あせるであろう。艶やかな黒髪に切れ長の黒曜石の瞳、象牙のように滑らかな肌、黒い睫毛が長くびっしりと黒目がちの目の周囲を覆って、鼻筋は通り、やや薄い唇は清潔感と同時に冷たい雰囲気さえ醸し出している。少年ぽさを少し通り過ぎて、しかし大人の男というにはまだ青い、少年と青年の中間のような、微妙な色香。他の二人も十分に整った容姿をしているが、この少年は別格であった。ただ、彼の甘い雰囲気は花花公子と、凛々しい眉の風情は豪放な男とそれぞれ似通うところがある。
スールーはこの三人の身元にピンときた。親戚なのだ。つまり――。
「お前たちは下がれ」
豪放な男が手で合図すると、控えていた男たち三人が無言で頭を下げ、露台から出ていく。だが見えないところに離れているだけで、ずっと警戒しているのは明らかだった。
(過保護ですねー。そんなことしなくても、俺の腕っぷしでは勝てませんよ。暗黒三皇子様がたには)
「お前がスールーか。あの獣人は確かに具合がいい。噂は伊達じゃねぇな」
豪放な男が――スールーの推測が正しければ、彼もまだ少年の年頃だが、少なくともこの男だけは成長が早く、青年と呼んでもいいくらいだ――スールーに笑いかけた。放蕩息子の家で獣人奴隷の味見をしたらしい。獣人と寝る趣味のないスールーは曖昧に微笑んだ。
「お気に召したようで何よりです。……で、今回はまた、どんなご用件で?」
「調達したい女がいるんだ。あんたの協力を頼みたいと思ってね」
薄茶色の髪の放蕩息子がニヤリと笑った。
「獣人ではなく、女でございますか……。恐れながら、皆さまはその……」
皇族であれば、貴族以外の女は抱けない。それを確認しておく必要があった。
「女は決まっているんだ。……貴族の血を引いているから、問題ない」
「さようで」
あの女が欲しい、と言う場合は大概、困難が予測される。スールーは内心、面倒だなと思った。貴族令嬢を無理矢理攫ってこいとか、そんな話だろうか。
「まず確認したいんだけど、ソールからはいくらで請け負ってるの?」
予想外の名前を聞いて、スールーが目を瞠る。
「ソール……とは?」
「やだなあ。誤魔化しっこなしだよ。さっきもソールの店から出て来たくせに。なかなかソールとあんたが繋がっている確証が取れなくて、イライラしたよ」
放蕩息子が卓に肘をついて、薄茶の髪を掻き上げる。豪放な男はにやにやと笑いながら茶を啜り、美少年は相変わらず無言で扇を弄んでいる。
「彼女、欲しいんだよね。……俺たちの新しい玩具にさ」
放蕩息子が茶色い瞳をきらりと光らせながら軽薄に言うのに、スールーはなぜか背中がぞくっとした。まるで無邪気な子供が「子犬が欲しい」とでも言うようなその言い方。彼らにとって、下々の者の人生など塵芥にも等しいのだ。
「彼女……なぜ……」
背中に冷たい汗が流れる。スールーとソールの繋がりを知っているということは、ソールの企みまで知っているということだ。その時、彼女から稀覯本を買った貴族が、見惚れるような美貌だったという話を思い出した。
さっきから一言もしゃべらず、長い睫毛の目を伏せて扇を弄んでいる美少年をスールーはじっと見つめた。視線に気づいたのか、少年は扇から目を上げ、切れ長の瞳でスールーを見返す。無表情だったその口の端が静かに弧を描く。とたんに、花が綻ぶような邪気のない微笑がその美しい顔に現れた。
「彼女を落とす策は、君が考えたのか? なかなか、悪辣だね。経済的に追い込んで、助けを差し伸べる手に縋らざるを得ないように仕向ける。……でもね、砒素を使ったのはよくなかったね。診察した医者を抑えたから、証拠はこちらにあるんだ。賄賂で握りつぶしたようだけれど、僕たちが証拠を出して再調査を命じれば、動かざるを得ないだろう」
初めて口を開いた美少年は、静かな声でそう言った。少女のような外見なのに、声はしっとりと低めの、艶のある美声だ。しかしその声が紡ぎ出す内容は、無邪気で優し気な微笑みとは全く相容れない、死刑宣告のような情け容赦ないものだ。スールーはその美しい顔から眼を離すことができなかった。
「お前が俺たちに協力してくれるなら、ユイファの夫殺害の件は不問に付してもいいぜ」
声質が似ているけれど、より低く豪放な声が、スールーに追い打ちをかける。
「協力……とは、何をすればよろしいので?」
スールーは観念した。家柄も権力も、何もかも適う相手ではない。ただの皇族ではなく、北方の異民族を壊滅に追い込む知恵と武略を持った少年たちなのだ。
「話が早くて助かるよ。君はなかなか知恵者のようだからね」
スールーの目の前で、絶世の美少年が氷の月のような微笑を浮かべていた。
「個人的感情としては君を告発したいけれど、告発すれば真実を明らかにせざるを得ない。真実を知ればユイファは悲しむだろうから……。自分に横恋慕した男が夫を殺したなんて、知りたくはなかろう」
長い睫毛に縁どられた少年の黒曜石の瞳が悲し気に翳る。この少年だけは、ユイファその人に人間的な同情を寄せているらしい。
「彼女をソールの手から救いたいんだよね。その上で、俺たち三人の玩具になってもらうように仕向けたいんだ」
放蕩息子が薄茶色の髪を揺らしながら言うのに、美少年がほんの僅か眉を動かすのを、スールーが視界の端に留める。
「ソールは彼女を妻にするつもりです。お言葉ですが、あなた方の玩具になるよりはましではありませんか?」
スールー的にはかなりの勇気と世間の常識を振り絞って発言してみたが、放蕩息子は一笑に付した。
「自分の旦那とその父親を告発し、婚家を没落させるばかりか、財産まで奪い取った男の妻になるなんて、幸せなはずないだろう。俺たちと後腐れなく遊ぶ方がいいに決まってる」
「殺人及び財産奪取の上、意中の人妻と結ばれるなんて、虫が良すぎるだろう」
放蕩息子と豪放な男が口々に言う。
「……まあ、僕は本さえ無事に手に入れば……」
美少年は少しばかり気が乗らなさそうである。三人の身分からいって、スールーごときに抵抗できることではない。ユイファの運命はすでに決まっているのだ。スールーは溜息をついて、言った。
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