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2、イフリートの野望

金龍の執着*

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 彼女の中で、男の欲望が爆ける。熱い滾りが彼女の最奥に叩きつけられ、同時に放出された彼の〈王気〉が全身を駆け抜け、アデライードの〈王気〉と交じり合い、純化される。〈王気〉の交合がもたらす快楽は、魂まで滾るように深い。アデライードは男の汗ばんだ腕に抱き留められるまま、長い絶頂の余韻に浸る。男の大きな手が彼女の顎にかかり、後ろ向きに首を捻るようにして、肩越しに唇を塞がれた。男の息も、荒く、熱い。薄っすらと細く開けた彼女の瞳には、金銀の〈王気〉が快楽に蕩けて光の帯となり、ニ重螺旋らせんを形作って絡み合う姿が視えた。

 しばらく唇を堪能してから、男はさっきまでの狂暴さが嘘のように、壊れ物か何かのようにアデライードを寝台に下ろす。アデライードは疲れ切っていて、両腕で自身の体重を支えることもできず、がくりと顔から羽毛の枕に突っ伏してしまう。男は敷布の上にくずおれたアデライードの背中に覆いかぶさるようにして、背後から彼女の細い身体を抱きしめ、耳元で深い吐息を洩らした。
 
(今日はまだ、愛していると言ってくれてない――)

 快楽と疲労でぼやけた頭で、アデライードはふと、そんなことを思う。半ば閉じた眼には、ちらちらと男の金色の〈王気〉が揺れるのが映る。金龍の姿を取り戻して、やはり銀色の龍に誘うように巻きついて、彼の執着を示している。
 彼の心を疑ったことはない。〈王気〉は嘘をつくことができないから、言葉がなくとも、彼が自分を愛していることは、わかる。
 でも抱かれる時には耳元で愛していると言って欲しい。それさえあれば、どんな激しい行為でもアデライードはそこから悦びを感じられるのに。

 だから、今夜、愛の言葉もないままに繰り返される凌辱にも等しい行為に、アデライードの胸は痛んだ。

 今夜は来ないと聞いていたのに、深更に及んで寝台に登ってきた彼からは、強い酒精の匂いがした。それに加えて、酒とは違う、何か甘ったるい香りも――。
 夜着を引き裂かれてアデライードは驚く。尋常でない様子におののいて、何かあったのと尋ねても、彼は答えてはくれない。

(何か、言いたくない、こと――)

 彼には、秘密がある。アデライードに、知られたくない、何か。
 口にできない大きな秘密が彼の中にわだかまり、アデライードとの間に見えない壁となって立ち塞がる。何となくだが、〈シウリン〉に関わることのような気がしていた。

 〈シウリン〉――聖地に捨てられた、彼の双子の兄弟。
 今では〈シウリン〉ではく、を愛していると自覚しているアデライードにとって、〈シウリン〉のことは気にはなるが、あくまで彼の方が大事だ。皇家の秘密であれば仕方のないことと思うけれど、それを理由に壁を作って欲しくない。

 あるいは、彼がずっと準備をしているナキアとの戦争のことで、アデライードには言いたくない何かが起きたのか。
 自分が女王としては頼りなさすぎるのは自覚しているけれど、やはり蚊帳かやの外は哀しい。

 話すことができなくても、全てを溜め込まないで欲しい。こんな風に暴走して、身体にぶつけられるのは、正直言って辛い。
 
 彼の熱い吐息を耳元で感じながら、アデライードはそっと溜息をつく。
 今夜の、彼の〈王気〉はずいぶんと荒ぶっていて、彼の心がささくれだって、どうしようもなくざわついているのがわかる。彼が望むならば、いくらでも受け止める。それができるのは、つがいである彼女だけだから。彼女を手荒く抱いて、それでしずまるのであれば、いくらでも――彼女は、彼のものだから――。

(でも、せめて、愛しているって言って欲しい――)

 アデライードのうなじに彼の唇が触れ、チリリときつく吸われて、アデライードが「ひっ」と声にならない悲鳴を上げる。男の唇が首筋をたゆたい、耳朶を甘噛みされてアデライードはびくりと身体を震わせた。身体は疲労の限界で、瞼がおりて今にも眠りに落ちそうだったのに、彼の愛撫に身体が勝手に快楽を拾ってしまう。

「はうっ……それ、だめ……もう……」
「相変わらずここが弱いな……」

 耳の穴に舌をいれて舐られて、甘く立ち昇る官能にアデライードが思わず身を捩る。男はアデライードの中から抜け出ると、彼女を仰向けにして、体重をかけぬよう顔の横に肘をつき、首筋から胸に唇を這わせる。大きな手で片方の乳房を揉み込み、もう一つの乳首を口に含んで強く吸った。チリチリとした痛みとも快感とも知れぬものが駆け抜け、我知らず甘い悲鳴を上げてしまう。

 男が、彼女の細い足首を掴んで高く掲げ、大きく脚を開かせる。散々に嬲られ、貫かれ、掻きまわされた秘所が露わにされ、冷たい空気に触れてくぽりと水音を立てる。男が先ほど放ったものがあふれ出て、彼女の白い太ももを汚す。

「……あ……だめ……恥ずかし、い……」

 恥ずかしい場所を曝け出されて、しかし、もはや抵抗する力もなくアデライードが首を振る。男は長い指で秘裂を割って、早くも力を取り戻した肉楔を蜜口に押し当て、先端で敏感な部分をゆらゆらと刺激する。

「あっはあっ……もう、無理……」
「無理じゃないだろう……下の口がヒクヒクしている。まだ、足りないって言ってる」
「あああっ……だめっ……お願い……」
「そのお願いは欲しいって意味か?……勝手に吸い込まれていくぞ?」

 ゆっくりと焦らすように、男が熱い杭を打ち込んでいくと、アデライードの肉壁が意志を持つかのように蠢き、纏わりつき、内部に呑み込むように蠕動する。

「くっ、締まる……こっちの口は正直だな。私を全部、絞り取るように纏わりついて……淫らに喰いついている」
「ああっあああああっ……んんっ……ああっ」

 大きく脚を広げられ、水音を響かせながらじゅぽじゅぽと出し入れされる様子を見せつけられ、アデライードは羞恥で目じりに涙が浮かんでしまう。沸き上がる快感には抗うこともできず、アデライードの唇からは、甘い喘ぎ声が零れ落ちる。肌と肌のぶつかる音、寝台の軋む音、絶え間ない女の喘ぎ声と、男の荒い息遣いが寝台の紗幕の中で絡まりあい、快楽と熱量が高まっていく。

「ああっああっ、あああっ、……ふっ……ああっ、んんっ……あっあっ……ああっ……」
「ああ、またイきそうだな、こんなに締めつけて……何度目だ、この淫乱」
「ちが……やめ……ああっ、あっ……んんっ、いやっ……あっだめっ……おくっ……くるっ……」
「やっぱり奥が好きか……いくらでも突いてやる。イけっ、この淫乱」

 最奥を穿うがたれれば、アデライードの中がギリギリと男を締め上げてしまう。ひどい言葉で詰られているのに、身体はそれに反応して快楽に向かって暴走する。突き上げられるたびに揺れる白い胸の、頂きの蕾を男が口に含んで強く吸い上げた。

「ああっあ――――――っ」

 急激に訪れた白い波のような快楽に押し流され、アデライードが白い身体を仰け反らせる。男は木苺のように赤く色づいた蕾を口から出し、さらに身体を揺すりながらなおも詰った。

「またイったのか。本当に感じやすいな。ちょっと前の清純さはどこにいった、淫乱なアデライード」
「ちがっ……いん、らん……じゃな……ああっ……あああああっ」
「ウソをつけ、淫乱じゃなければ、こんなに感じるものか」

 胸を揉み込みながら揶揄するように言われ、アデライードはただ泣きたくなる。

「ちが……の……感じ、のは……あなた……が……」
「私? 私のせいだと? 違うだろう? 感じているのは、あなたの身体だ。……そうだろう?」
 
 そう言いながらずん、と一際奥深くを突かれ、アデライードが悲鳴を上げる。

「ひああっ……やめっ……あああっ……」
「感じるのは、あなたが淫乱だからだ。人のせいにするのは、よくないな」
「ち……ちが……そう、じゃ……な……」
「じゃあ、何だ、この淫乱が。……ほら、もっと奥がいいんだろう?」
 
 片足を肩に担ぐようにして、なおも奥深くに楔を捩じ込まれ、全身を貫く快感にアデライードは白い身体を反らして反応する。

「はああっ……やっあっ……すきっ……なのっ……あなたが、すきっ……だからっ……愛してるっの!」
 
 その言葉に、アデライードを見下ろしていた男が黒曜石の瞳を見開く。

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