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13、世界樹

世界樹*

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 シウリンはアデライードを巨木に押し付けるようにして口づけ、舌を差し入れて歯列の裏をなぞる。アデライードはぞくぞくした感覚に襲われて、必死にシウリンの首筋に両腕を回し、縋りつく。そうしなければ、両脚が震えて立っていられない。さっきまで、額へのキスしか知らなかった彼だが、アデライードが「大人のキス」を教えれば、すぐにそれを覚えてしまった。――すでに彼のキスは、記憶を失う前と変わらない。

(身体は、ぼんやりと覚えているのかしら――)

 アデライードは唇を蹂躙されながら、そんなことを思う。だとしたら、さっきはあんなに初心うぶだったけれど、あっと言う間にアデライードを翻弄するようになってしまうのだろうか。――それはそれで、なんだか勿体ない気もする。

 気がすむまで唇を堪能して、シウリンがようやく、彼女の唇を解放する。黒い瞳が愛おしそうに彼女を見下ろす。優しい、穏やかな黒い瞳。――あの日の、シウリンと同じ、静かな瞳。それがゆっくり閉じられて、今度は唇が首筋に下りていき、黒い前髪がさらりと彼女の頬を撫でる。首筋をたどり、ゆっくりと鎖骨の上に滑り、胸へと流れる。その手順もかつてのまま――記憶はなくても、癖は変わらないことに、アデライードはこっそりと笑う。そう思う間もなく、シウリンはアデライードの胸への愛撫に没頭し始める。

 相変わらず胸への執着は凄まじくて、シウリンはアデライードの立ち上がった乳首を口に含み、舌で転がし、甘噛みして、さらに吸い上げ、執拗に愛撫を繰り返す。

「ん……あっ……やっ……んんん……ああっ……やあっ……も、もうっ……あん、あああっ」

 胸だけを愛撫され続けることは、正直に言えば少し辛い。イくにイけない中途半端な刺激で身体には放熱されない熱が溜まり、疼く身体を持て余してアデライードは悶える。

「お願い……もうっ……」

 思わず口に出した言葉に、シウリンは真面目に反応する。

「え?……ごめん、ダメだった?」

 シウリンが、胸に顔を埋めた状態から、上目遣いにアデライードを見上げて言う。黒い前髪の間から覗く瞳は、情欲に煌めく肉食獣のそれだった。

「あっ……そんな……んん……いじ、わる……」
「僕、意地悪かな……? 気持ちよくない? 胸よりも下の方が好き?」

 そう言うと、シウリンは胸に顔を埋めたまま、両手を胸からするりと下に滑らせて、腰から太ももの線を辿った。

「ふっ……ううん……あっ」

 彼は膝裏に手を入れて、足を広げるように片足を持ち上げ、もう片方の手でアデライードの秘所をまさぐる。すでにびっしょりと濡れたその場所を、わざと水音をたてるように指を動かして、言った。

「不思議だね、どっから湧いてくるのかな。……こんなに、びしょびしょ」
「や、ああっ……言わ、ないで……ああっ、ぁああああっ」

 そこが潤っているのは、シウリンがさっき出したもののせいでもあると、アデライードは反論したかったが、そんな余裕は一瞬で吹き飛んでしまう。

「もう一度、れていい? 今度は、さっきよりも長く頑張るから……」

 アデライードの返答も聞かずに、熱く滾ったシウリンの肉楔が、アデライードの蜜口から侵入してくる。

「ふっ……んっ……あっ……ああっ……ぁああっ」
「くっ……はああっ……すごく、気持ちいい……あああ」

 ゆっくりと貫かれて最奥まで満たされる。巨木の幹に押し付けられ、シウリンが小刻みに腰を動かして、アデライードを揺すりたてる。シウリンの逞しい肩に両手で縋り、片足を持ち上げられた不安定な身体を何とか支えるけれど、シウリンの熱い楔に内壁を擦られ、甘い痺れがアデライードの背骨を駆け上って、アデライードは我知らず、あられもない嬌声を上げていた。
 
「ああっ……あっ、んんっ……ああん、……ふっ……ふぁ……ぁああっ、あっ」
「ああ……最高……今まで生きてきた中で、一番、幸せ……もう、ここから抜けだしたくない……」

 大きなストロークで腰をぶつけながら、シウリンがアデライードの耳元で囁く。下から突き上げられるように、奥の感じるところを幾度も幾度も刺激され、痺れるような快感がアデライードを走り抜ける。自分の中がシウリンの楔を絞めつけているのがわかる。シウリンもまた端麗な眉を快楽に歪め、アデライードの肩口で荒い息を吐いている。
 結合部が立てる淫靡な水音と、自分の口から零れ出る、聞くに堪えない嬌声に、アデライードは羞恥で耳を塞ぎたいくらいだったが、シウリンの汗ばんだ肩に縋りつかなければ、腰から砕けてしまいそうで、それもできない。
 
 ぐりっと奥を突かれ、アデライードは瞼の奥が快感でチカチカして、喉を反らして天を仰いだ。空に届きそうな梢の先から光が降り注ぎ、淫らに貪り合う二人を照らしている。

 アデライードの目には、金銀の〈王気〉が絡まり合うのが視える。アデライードの〈王気〉と混じり合い、シウリンの〈王気〉が朝よりもうんと強くなっていた。アデライードの快楽を吸い上げて輝きを増し、自身の快楽に溶けて形を失い、金銀の光の二重螺旋となって大樹の幹を取り巻き、旋回を始める。

(光……が……?)

 奥の感じる場所を絶え間なく突き上げられて、アデライードは波のように襲いくる快楽に、もう、何も考えられない。身体の奥からせりあがる快感に、アデライードは我を忘れ、ひっきりなしに甲高い喘ぎ声をあげて、全身で甘い責め苦を受け止めるだけ。男の動きがさらに激しくなる。

「あっああっ……いっ……いあっ……あああっ……ああぁぁあ――――――っ」

 汗ばんだ身体を弓なりに仰け反らせ、がくがくと全身を痙攣させてアデライードが長い絶頂に翻弄される。銀の〈王気〉が光の粒になって弾け、大樹の幹に纏わりつくようにしながら、一気に上空に昇っていく。

「ああっあああっ……あっああっ」
「アデライード、アデライード……中、すごい、……喰いちぎられ、そう……」

 シウリンも蠕動する内壁の動きに呻き声をあげ、歯を食いしばって射精を堪える。

「ああ、もう少し……まだ、我慢……ああっいいっ……くっ……」

 絶頂に硬直するアデライードの肩口に顔を埋め、まとわりつく媚肉を振り切るようになおも抽挿を続ければ、達したばかりの内壁を擦られて、アデライードがさらに悲鳴を上げる。

「ああ――っ……あっあっ……やあぁあっ」
「くっ……ううううっ……僕も……もうっ……あっううっ……あああああっ」

 限界を超えた快感に、シウリンの肉楔が大きく膨張して弾け、熱い飛沫しぶきを吐き出す。その刺激でもう一度絶頂したアデライードは、朦朧とした意識の中で、金の〈王気〉が光の粒子となって弾け飛ぶのを視た。金銀の光は大樹の幹の周囲を螺旋状に旋回して上昇し、樹上から四方に飛び散って大気に溶けていった。
 

 その巨木が、太古より人々の崇拝を集めてきた天の柱――世界樹――であることなど、二人は知る由もなかった――。
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