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2、銀龍の孤独
書斎
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マニ僧都がアデライードを連れ出したのは、何と恭親王の書斎であった。
放出系魔法の指導を頼んでいたマニ僧都がアデライードを連れて現れたことで、執務中の恭親王は驚いて立ち上がる。
「どうかしたのか?」
マニ僧都は青い目をニヤニヤと笑わせながら、恭親王に言った。
「いやなに、気にしないでくれ。封じられた記憶を取り出す方法に必要だから来ただけだ」
「……この部屋に、それに必要な書籍でもあるのですか?」
「いや、必要なのは、書籍じゃなくて、この部屋全体……というか書庫だね」
「書庫?」
恭親王が黒い瞳を見開く。
ちょうど決裁の必要な書類を届けにきたエンロンと、十五日のお披露目の準備の最終チェックをしていたゲル、恭親王の署名のための墨をすっていたトルフィンも不思議そうにマニとアデライードを見ている。
「そう。ちょっとだけ、奥の書庫を借りるよ?」
「アデライードを書庫に連れていくのですか?」
初めて恭親王の執務室に足を踏み入れたアデライードは、少し口を開けて周囲を見回している。
書斎は南側の壁に高い天井までびっしりと本が詰まった本棚が並んで、北側に窓が開いている、一部執務机とソファセットが置かれる場所だけは、南側に窓が開けてあり、書き物に十分な光が当たり、かつ、書物が日に焼けないようになっていた。その本棚の前、北側の腰高の窓の下には、小さな引き出しがいくつも並ぶ。本棚が途切れるところに扉があり、その奥が書庫だという。
「すごく、本がいっぱいあるのですね」
思わず感嘆の声をあげるアデライードに、恭親王が誇らしそうに言う。
「以前の総督が本好きだったらしくて、かなりのコレクションだ。西方の書籍中心では、大陸でも指折りだと思う。東方風の糸綴じの本は、私が帝都から持って来た分だ」
「こんなにあったら、どこにどんな本があるか、わからなくなりませんか?」
アデライードの問いかけに、恭親王が書棚のプレートを指差して言った。
「書棚に、番号がついているだろう?分類して、並べてある。今ここにあるのは、辞書と人名録、地理書、それに百科事典だ。もし、欲しい本のタイトルが分かれば、そこのカード目録で調べればいい」
そう言って長い脚で大股に歩いて窓の下の抽斗を開ける。
薄い板状のカードが立てて入っていて、カタカタと音を立てる。
「ここに……ほら、見て見ろ。書名と、この番号が書棚の番号だ。これが、書棚の上から何段目か。こうやって、ちゃんと目的の本は見つけられる」
慌てて恭親王の側にいって、カード目録を覗き込む。
アデライードは目を見開いた。
「名前……分類……番号……」
「この記号は、奥の書庫のどの棚の何段目か、書いてある」
アデライードは思わずマニ僧都の方を振り向き、その顔を見た。
「伯父様、これって……」
マニ僧都がにんまりと微笑んで言った。
「そう!書物ってのは、記憶の集成のようなものだからね。記憶の入れ物も、書庫のような形をしているかもしれないよ?……実は、太陽神殿にも月神殿にも、そしてナキアの王宮も、書籍の分類方法は同じで、似たような書庫があるんだよ。なに、ユウラがイメージした書庫とそっくり同じでなくていい。アデライードなりの、書庫を詳細にイメージできればいいんだ。そこから、分類された記憶を取り出す。……ちょうど、欲しい本を取り出すみたいにしてね」
恭親王がアデライードに尋ねる。
「書庫に、入ってみるか?」
アデライードが翡翠色の瞳を輝かして、大きく頷いた。
「はい!」
放出系魔法の指導を頼んでいたマニ僧都がアデライードを連れて現れたことで、執務中の恭親王は驚いて立ち上がる。
「どうかしたのか?」
マニ僧都は青い目をニヤニヤと笑わせながら、恭親王に言った。
「いやなに、気にしないでくれ。封じられた記憶を取り出す方法に必要だから来ただけだ」
「……この部屋に、それに必要な書籍でもあるのですか?」
「いや、必要なのは、書籍じゃなくて、この部屋全体……というか書庫だね」
「書庫?」
恭親王が黒い瞳を見開く。
ちょうど決裁の必要な書類を届けにきたエンロンと、十五日のお披露目の準備の最終チェックをしていたゲル、恭親王の署名のための墨をすっていたトルフィンも不思議そうにマニとアデライードを見ている。
「そう。ちょっとだけ、奥の書庫を借りるよ?」
「アデライードを書庫に連れていくのですか?」
初めて恭親王の執務室に足を踏み入れたアデライードは、少し口を開けて周囲を見回している。
書斎は南側の壁に高い天井までびっしりと本が詰まった本棚が並んで、北側に窓が開いている、一部執務机とソファセットが置かれる場所だけは、南側に窓が開けてあり、書き物に十分な光が当たり、かつ、書物が日に焼けないようになっていた。その本棚の前、北側の腰高の窓の下には、小さな引き出しがいくつも並ぶ。本棚が途切れるところに扉があり、その奥が書庫だという。
「すごく、本がいっぱいあるのですね」
思わず感嘆の声をあげるアデライードに、恭親王が誇らしそうに言う。
「以前の総督が本好きだったらしくて、かなりのコレクションだ。西方の書籍中心では、大陸でも指折りだと思う。東方風の糸綴じの本は、私が帝都から持って来た分だ」
「こんなにあったら、どこにどんな本があるか、わからなくなりませんか?」
アデライードの問いかけに、恭親王が書棚のプレートを指差して言った。
「書棚に、番号がついているだろう?分類して、並べてある。今ここにあるのは、辞書と人名録、地理書、それに百科事典だ。もし、欲しい本のタイトルが分かれば、そこのカード目録で調べればいい」
そう言って長い脚で大股に歩いて窓の下の抽斗を開ける。
薄い板状のカードが立てて入っていて、カタカタと音を立てる。
「ここに……ほら、見て見ろ。書名と、この番号が書棚の番号だ。これが、書棚の上から何段目か。こうやって、ちゃんと目的の本は見つけられる」
慌てて恭親王の側にいって、カード目録を覗き込む。
アデライードは目を見開いた。
「名前……分類……番号……」
「この記号は、奥の書庫のどの棚の何段目か、書いてある」
アデライードは思わずマニ僧都の方を振り向き、その顔を見た。
「伯父様、これって……」
マニ僧都がにんまりと微笑んで言った。
「そう!書物ってのは、記憶の集成のようなものだからね。記憶の入れ物も、書庫のような形をしているかもしれないよ?……実は、太陽神殿にも月神殿にも、そしてナキアの王宮も、書籍の分類方法は同じで、似たような書庫があるんだよ。なに、ユウラがイメージした書庫とそっくり同じでなくていい。アデライードなりの、書庫を詳細にイメージできればいいんだ。そこから、分類された記憶を取り出す。……ちょうど、欲しい本を取り出すみたいにしてね」
恭親王がアデライードに尋ねる。
「書庫に、入ってみるか?」
アデライードが翡翠色の瞳を輝かして、大きく頷いた。
「はい!」
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