【R18】光と影のはざまで~平凡な若妻は貴公子たちの悦楽の檻に堕ちる

無憂

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二、不釣り合いな婚約者

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 実際、フランシスとの婚約が公になると、エドナはあちこちの社交場で令嬢たちの敵意と陰口にさらされることになった。
 
『特に美女でもないくせに……』
『たいした家柄でもありませんのにね……』
『いったいどんな手を使ったのかしら』
『田舎の人はなりふり構わないと言うから』

 同時に、フランシスの派手な女関係の噂が耳に入ってくる。どうやら、フランシスは相当、遊んでいたらしいのだ。
 学院在学中から女が途切れたことはないと――
 
(まあ、それはそうよね……ずいぶんおモテになるみたいだし……)

 美貌と地位にあかせて好き放題していたが、ようやく身を固める気になった。その相手として選ぶなら、当たり障りなく地味な女がよかったのか。

 ――そういうことか。
 
 不思議なことに、エドナの不安は泡が融けるように解消された。
 一分の隙もない完璧な男に、平凡な自分が選ばれるのはいかにも裏がありそうで恐ろしかったのだ。女遊びが収まらない身持ちの悪い男だった、という欠点に、エドナはかえって安心した。
 遊び人が身を固めるに及んで、地味な女を敢えて選んだというなら、むしろ納得だ。
 平凡な自分は浮気されるかもしれないが、貴族の家ではよくあることだし――
 
 ちょうど、王太子殿下も幼少からの婚約者と結婚した。
 側近であるフランシスも、妻帯する必要を感じたのだとすれば、不自然ではなかった。

 

 結婚式を間近に控えたある時、フランシスはやや改まってエドナに言った。

 「エドナ、これから君は僕の妻として、いずれはウォートン侯爵夫人として我が家を切り盛りしていくことになる。知っていると思うが、うちは代々、王家の側近を務める家だ」
 
 紫色の瞳は穏やかだが、いつもより真剣なまなざしでエドナを見つめている。
 エドナは姿勢を正し、フランシスをまっすぐに見返す。

「はい。存じております」
「我が家の家訓は、王家には絶対の忠誠を――我が身のすべてを捧げる覚悟で、というものだ。王家にはすべて、命も、命より大切なものもすべて差し出す。その覚悟でお仕えしている」
「……そうなのですね」

 エドナは頷いた。田舎の緩い伯爵家に育ったエドナは、王家に忠誠心がないわけではないが、そこまで真剣に考えたことはない。代々側近を務める家ならではの覚悟なのだろう。
 フランシスは黒く長い睫毛を伏せる。

「すべてにおいて、王家の意向を尊重し、自分を犠牲にすることもある。……もちろん、王家に近しい我々は、それだけの恩恵も受けているけれど。王家のためならに自分の一番大切なものを差し出すのは、幼い頃から叩き込まれていて、習い性になっている。君も戸惑うことはあると思うけれど、我が家に嫁ぐ以上は覚悟してほしい」
 
 そう言われて、エドナは少々不安になった。

「そんな、無茶な要求があるのですか? ……突然、死ねとか……」

 フランシスが笑った。

「殿下はそんなことはおっしゃらないよ。ただ――僕にとってはなんでもない殿下の命令が、僕の身近にいる人には理解できないこともあるかもしれない」
「はあ……」
「僕のものは、殿下のものなんだよ。大切にしているものならばなおのこと、殿下が欲しいと言えば差し上げることになる。それに、戸惑う人もいるから……」

 少し困ったように眉尻を下げるフランシスに、エドナは微笑んだ。

「わかりました。何事も、殿下に対して惜しんだりはいたしません。フランシス様が思う通り、殿下のご希望に添うよう、なさってください」
「そう、ありがとうエドナ。やはり君は僕が思う通りの素晴らしい女性だ」
   
 フランシスの眩しいほどの微笑みに、エドナはすでに魅了されていた。
 どんな理由であれ、こんな美しく素敵な人に伴侶として選ばれた。
 自身の幸福をようやく、素直に喜ぶ気持ちになっていた。
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