嵌められ勇者のRedo LifeⅡ

綾部 響

文字の大きさ
39 / 75
6.禍殃とまみえて

不安の的中

しおりを挟む
 俺は前世でも、多くのクエストを熟して来た。

 ―――討伐、探索、採集……暗殺。

 シラヌスの持ってくる依頼を、それこそ山の様に完遂して来た実績があった。
 そんな中で、特に依頼が……護衛だ。
 護衛はその難しさと長い拘束時間で、極力避けていたんだ。……シラヌスが。
 勿論、全く無かった訳じゃあ無い。王侯貴族や豪族などの依頼で、向かう先と合致していれば積極的に受けていたなぁ。
 なんせそう言った場合俺たちは数合わせで、基本的には彼らの従えている護衛集団がその守護を請け負ってくれていたからな。
 実質、俺たちは何もしなくて良かったし。それで大枚が手に入るんだから、そりゃあ金にがめついグローイヤやシラヌスが逃す筈は無いよな。
 とにかく、俺の経験で〝一抹の不安〟があるとすればそれは……少人数での要人の護衛……これに尽きる。
 そしてそれが今、俺の目の前に最悪の形で現れていたんだ……。




「な……なにっ!?」

 突然、周囲をつんざく悲鳴! 
 動揺、苦痛、恐怖、悲哀、哀願、血流、死別、助命、逃避……そして僅かに憎悪、絶望、諦念。
 そんな感情……正確には雰囲気や気配がその叫び声と共に周囲へと充満し、マリーシェが誰ともなしに問い掛けていた。
 もうそれだけで、後方で何があったのか見なくても理解出来る様だった!

「ア……アレクッ! 後ろ……後ろにも、オーグルがっ!」

 俺は前方から来るゴブリンに集中していたんだが、マリーシェは気になって仕方がなかったんだろう。
 振り向いた先で、彼女はその巨体を見て絶句していたんだ!
 俺ももう、その一言によって後方で何が起こっているのかは察していた。
 たかがゴブリンが1匹や2匹現れた程度では、バーバラとセリルがやられる事は無い筈だ。勿論、それが原因でシャルルー達に危害が及ぶ事も……な。
 もしもシャルルー達が傷つけられる様な事でもあるとすれば、それは2人が後れを取り戦闘不能となった時だけだろうからな。
 しかし……完全に裏を掻かれちっまったなぁ。

 オーグルに高い知性が備わっている事は広く知られているが、まさか気配を薄くして大きく回り込み後方を襲う……なんて真似が出来るとは思いも依らなかった。
 前方に潜んでいたオーグルが全然気配を隠す素振りを見せなかっただけに、その効果は猶更だ。
 そして結果としては、俺は後方を襲うのは数匹のゴブリンだろうとの予測を信じ込んでしまい、オーグルが複数存在している事も、そのオーグルを遊撃に使うと言う可能性も失念してしまっていたんだ!

「ちぃっ!」

 後方を伺ったマリーシェの隙をついて襲い掛かるゴブリンの攻撃を、俺は左手に装備している盾で防いだ!
 残念ながら、俺たちに他人を心配している余裕は無い!
 仲間なんだから「赤の他人」じゃあないにしろ、自分の命と秤に掛ける様な事でもないからな。

「バ……バーバラッ!」

 後ろの状況を見たマリーシェが、バーバラの名を叫ぶ。その声は、もはや悲鳴だ!
 それから推察するに、果敢にもバーバラがオーグルへと挑み掛かったか。
 だが、レベルの違いは歴然だろう。
 恐らくは圧倒的な力の差に依り吹き飛ばされたか……打ち倒されたか……。
 でもそのお陰で、シャルルー達はまだ無事だろうな。
 ……いや……シャルルーは……か。
 このままじゃあ、シャルルーを傷つけてしまうどころか全滅の憂き目に会っちまう!
 ……くそっ! 仕方がない!

「マリーシェ、サリシュ! 後方のオーグルに対処してくれ! ……これを使え!」

 俺は腰袋から、「ボデルの実」、「ドゥロの実」、「ベロシダの実」、「マジアの実」、「エチソの実」を取り出し、それぞれ2人に投げ渡した。
 これは、攻撃力、防御力、素早さ、魔法攻撃力、魔法浸透力を一時的に引き上げる効果がある。
 それでもレベル差は如何ともしがたく、今の彼女達では攻撃を防ぎ躱すだけで精一杯だろう。でもマリーシェとサリシュが共闘すれば、時間稼ぎにはなる筈だ!

「うん、分かった! アレク、ここをお願いね!」

 そう言い残して、マリーシェは後方へと駆けて行く!

「……火球フェフ・ホール

 そしてサリシュもまた、オーグルに向けて攻撃を開始した!
 それまでバーバラに向いていた奴の関心は、すぐにサリシュへと向いた……んだが!

「こっちよっ! デカ物っ!」

 すぐさま斬り掛かったマリーシェの攻撃を受け止める事で、その意識が今度は彼女へと向かった!
 そうやって奴の注意を散漫にすれば、常にこちらが優位に立ち回る事が出来る。
 流石に2人は、その事を分かってるみたいだな。
 そして俺の役目は、此処から1匹たりともゴブリンを通さない事だ!

「絶対、行かせない!」

 俺もまた幾つもの「実」を口に含み、決意を込めてそう叫んだんだ!




 力が拮抗しているとは言え、カミーラがそう長い時間掛けるとは思っていなかった。

「つああぁぁっ!」

「ゴウッ!」

 でもまさか、ここまでとは思わなかったのも事実だ。
 さっきからカミーラは、決着を急いでいた。だからその攻撃は単調で……直線的になっている。
 そうなったら、オーグルの方が底力で上回っちまう。
 如何に素早く攻撃を繰り出しても、その殆どが受け止められ躱されてしまっていた。そしてその防御を抜けた幾つかの斬撃も、オーグルの強靭な肉体を斬り割くまでにはいかなかったんだ。
 これでは結果として、オーグルを倒すのにより長い時間が掛かってしまう。
 それが分からない彼女じゃない……いや、分かっていても実行出来ない処はまだまだ少女だという事か。

「カミーラァッ! 隠忍自重いんにんじちょうだっ!」

 俺はゴブリンに集中しつつ、大声で彼女へと檄を飛ばした!その意味は倭の国の「四字熟語」で、「今はぐっと堪え、大事に備えろ」だ。
 ビクリ、とカミーラの身体が震える。そして一端オーグルから距離を取り……俺の方を見て薄く笑みを浮かべていた。
 カミーラの耳には、他のどんな言葉よりも「倭の国の言葉」が浸透するだろう。それを見越して、頭に血の昇っている彼女へと向けてこの言葉を使ったんだ。
 倭国の出である彼女には、当然この意味が理解出来ている筈だ。
 そして……俺が何を言いたいのかも。

「……すまぬな、アレク」

 そして彼女は、小さな声でポツリと呟いた。
 その声は、とても俺の所にまで届く様な声量じゃあない。俺は俺でゴブリンと斬り合ってるんだから、聞こえなくて当然の筈だ。
 でもなぜだか……俺の耳には彼女の声が聞こえた……気がしたんだ。
 そして。

 それは……一瞬だった。

 小さく嘆息したカミーラは、スッと刀を鞘へと納め!

「ヒュッ……」

 大きく踏み出したと思うと、一足の元にオーグルとの距離を詰め、そしてそのまま……怪物の背後に立っていたんだ!
 刀は……鞘に収まったままだ。いや、……と言うべきだな。
 目にも止まらぬ……とは、正にこの事だ。
 その動きは、とは段違いに……速い!
 多分今の俺たちのレベルじゃあ、彼女の動きを追う事は出来ないだろう。多くの経験をして来た俺だからこそ、彼女の烈風の如き動きを捉える事が出来たんだ。
 そして、だからこそ……分かる!
 あの時と比べれば、先ほどの彼女の動きは遥かに滑らかで洗練されていた。それは、レベルが上がったからだけじゃあない。
 日々の鍛錬が……彼女の高い志が、その動きを更なる高みに昇華させていた!

 俺は彼女の使った技……それを知っている。そして、彼女のその技を見るのはこれで2度目だった。

 その技の名前は……「居合」。

 倭の国にいる「侍」が得意とする、そしてその「侍」集団が修めようと努力している奥義の一つだ。
 彼女の持つ武器「刀」は、剣速が速まれば速まる程にその切れ味を増す。だが高速で放つ薄い刃は、ほんの僅かなブレで斬れなくなるんだ。
 そして、「居合」の型や動作は
 しかしそれを「技」や「奥義」にまで昇華させようとすれば、そこに至るまでには多分な努力と類まれなる才能が必要となるだろうな。

 オーグルの首に、ゆっくりと1筋の赤い線が引かれる。
 確認するまでも無くそれは、
 そして……静かにオーグルの頭は地面に落ち、大きな音を立ててその身体が地に沈んだんだ!

「カミーラッ! すぐに後方の援護をっ!」

 余韻……いや、残心を決めているカミーラに、俺はすぐさま指示を与えた!
 残念ながら、ここは試合会場では無いからな。技を出し終えた状態の彼女が納得し、次に動き出すまで待ってやる事は出来ない。

「……はっ! ……承知した!」

 意識の手綱を握り締めた彼女は俺の言葉に頷いて応え、疾風の様に駆けて後方へと向かって行った。これで、後方の事は安全だ。
 マリーシェとサリシュ、バーバラに加えてカミーラも参戦したんだ。オーグル1体ぐらい、どうとでもなるだろう。
 それよりも問題は!

「残りはお前らだけだ!」

 俺の眼前に未だ数の多い、だろうな!
 俺は気合を込める為に、迫り来るゴブリンどもに向けて裂帛の声をぶつけた!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...