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8.神秘の薬
希望の灯火
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俺が調理台の上へと出したアイテムに、マリーシェ達の興味は惹き寄せられていた。
「これは、昨日使ったエキスってやつか?」
セリルがその小瓶を摘まみ上げて、目の高さでユラユラと振って見せた。
おいおい、そのアイテムもかなり高価なものなんだけどなぁ。希少価値でいえば、上級回復薬よりも遥かに高いんだぜ?
「……昨日のは……深い紫色。……これは……緋色?」
昨日も同席していたセリルとバーバラは、その違いに当然気付いているみたいだ。
でも今日初めてそれを目にするマリーシェとカミーラは、不思議そうにその液体を見つめている。
「ああ。昨日の『マナエキス』は主に魔力や魔法力を回復させる液体で、これは『体力』や『生命力』の回復を促す効果があるんだ」
俺はその場の全員に向けて、簡単に「ヴァイタルエキス」について説明してやった。もっとも、そう言われてもピンと来ないだろうけどなぁ。
「ほんと、あんたって色々珍しい物持ってるのねぇ」
どこか訝しんでいる様なジト目を向けて、マリーシェが俺にそんな台詞を向けて来た。
まぁこういう疑問も今更だし、彼女の方も別にその事を詮索しているみたいな素振りには見えない。どちらかと言うと……どこか呆れている?
「まぁなぁ。俺の親父は、色んな書物とアイテム収集が趣味だったみたいだからなぁ」
今はまだ、俺が「記録」を使って15年の時間を遡った元上級冒険者で勇者だなんて言えないからなぁ。当然、俺の持つ「魔法袋」の事も言えないし、そこに無数のアイテムが入っているのも秘密だ。
もうすでに疑われているとは言え、この設定は崩す訳にはいかないからな。
「……ふむ。今回は、アレクの御父上の嗜好に感謝すべきと言う処か……」
そんな俺の苦しい良い訳を、わざわざ補完してくれるカミーラが本当に有難いな。
そしてカミーラがそう結論付ければ、他にその事に付いて突っ込んで来る様な奴もいない。
「それでぇ、その小瓶の中の液体をぉ、どうするのぉ?」
俺のアイテムに興味を示すマリーシェ達だったが、シャルルーはそれよりも「薬」の生成の方に意識が向いているみたいだ。と言うよりも、気持ちが急いているって言った方が良いかもなぁ。
そりゃそうだ。
俺の作る薬によって、エリンの容態が左右されるかも知れないんだからな。
俺は昨日用意しておいた手鍋を棚から取り出して、布巾を使って薬草の葉だけを濾し取った。移し替えられた器の中には、何とも毒々しい濃い緑色の液体が抽出されている。
「うえぇ。見るからに不味そうだな。まさかこれを、エリンちゃんに飲ませるのか?」
ウェッと舌を出して、セリルが嫌そうな顔をして感想を述べる。まぁもしもそうだとしても、お前が飲む訳じゃないだろうに。
でもその意見にはシャルルーも同意の様で、不安そうな表情を俺に向けていた。
「いや、もしもこのまま飲むとしても、それが薬だから。色とか臭いで判断するなよな」
勿論これで完成と言う訳では無かったんだけど、俺は一同の不安を払拭する為にそう前置きをし、小瓶に入ったヴァイタルエキスを数滴、器へと垂らしたんだ。……すると。
「うわぁ。なんともぉ、綺麗な色ねぇ……」
器の中の液体が、みるみる美しい赤へと変わって行く。
その液体だけを見れば、とても先ほどまで毒々しい色合いだったとは思えない程だ。
「……これが、『活力の調剤』だ。服用した者の体力……特に『生命力』を回復してくれる。これを、エリンに飲ませようと思う」
感心している様に器を見つめる一同に、俺はこの液体に付いての説明を加えた。
「……『生命力』……って?」
でも、バーバラは俺の説明の中に疑問があったみたいだな。
まぁ、中々「生命力」に働きかけるアイテムってのはお目に掛らないだろうからなぁ。彼女の疑問は、その場にいた全員も同様だったんだろう。
早くエリンにこの「活力の調剤」を与えてその効力を確認したい処だったんだが、とりあえず俺は彼女たちの疑念に答える事にした。
「『生命力』ってのは、『生きる力』と言い換えても良いな。どれだけ怪我が無くて元気に見えても、『生命力』が枯渇していたら動き出す原動力にはなり得ないんだ。逆に『生命力』が十分だったら、疲労の極致でも重傷であっても、それを回復させようと体が働き掛けるだろうな」
俺の説明を受けて、全員が感心した様にまた器の方へと目をやる。
まるで初めて耳にしたって顔だが、実はすごく身近にその効力を持っているアイテムがあるんだよなぁ。
それは「薬草」だ。
実際「薬草」ってのは、即効性が望めないから余り使用の機会が少ない。まぁ軽い打撲やら切り傷を回復させる為に、患部に張り付けるって用法が殆どだろうな。
でも実は、この「薬草」を煎じて飲むと随分と「生命力」の回復に役立つのは殆ど知られていない。その結果、幹部に直接貼り付けるよりも、遥かに高い効果を齎してくれる。
俺が今回作ったのは、その効力を何十倍も引き上げたものなんだ。
「……今エリンは、大きな傷を負った事でその『生命力』が著しく弱まっている状態にある。だからその『生命力』自体の治癒力を高めようって考えているんだ。そしてこれは、その効果がかなり期待出来るアイテムって訳だな」
ここまで説明して、全員が納得顔で頷いていた。
それでもシャルルーは不安顔ではあるし、セリルはどこか渋い顔を作っている。
この調剤で効果が出なければもう打つ手が無いんだから、シャルルーの気持ちは痛いほど分かった。
それにセリルは、エリンの事で少なからず罪悪感があるんだろう。
手傷を負った時に意識も失っていれば、セリルもここまで気に病む事は無かっただろうなぁ。少なくともこいつは、あの場では最善を尽くしたんだから。
でもその弁解さえ相手にさせて貰えないと言うのは、前に進むにはどうしても障害になる。この薬である程度の効果が出れば、そういった悔恨も随分と軽減させてやる事が出来るだろう。
そして多少の違いはあれど、この場の全員が同じ様な気持ちでいるんだからなぁ。
そういった意味でこの薬は、これからの俺たちパーティの在り方さえ左右する物だと言っても良かったんだ。
「……それじゃあ、エリンの部屋へ向かうか」
すでにサリシュの件もあり、医者の手配はついている。改めてその事を、シャルルーに願い出る必要も無いだろう。
それなら、その医者が到着する前にこの調剤を試しておいた方が良いからな。
俺は全員にそう声を掛けて、調理室を後にしたんだ。
ピクリとも動かず、蒼い顔をしたエリンを前にする。
せめてもの救いは、その呼吸が規則正しいという事か。これでもしも苦しそうな表情で喘いでいたなら、流石に俺も居た堪れなくなっただろうなぁ。
実際この部屋に入ると同時に、シャルルーとセリルは苦渋に満ちた表情になっている。
……いや、マリーシェとカミーラ、バーバラも同じ様な顔をしているんだ。誰一人として、平静を装えている者なんて居やしなかった。
……あれ? ……って事は、比較的平静な俺って人でなしなんだろうか?
こういう修羅場は何度も潜って来たし、すっかり慣れてしまっているのは確かなんだが。
そう考えると、なんだか悲しくなって来たな……。
「……アレク。大丈夫か?」
そんな表情を何か勘違いしたんだろうか? カミーラが心配そうに俺に声を掛けて来た。
「……ああ」
俺はそれだけを答えて、早速エリンの横に腰を掛けた。
勿論、俺だってエリンには元気になって貰いたい。助けられるなら、どんな事だってやってやるって気概は嘘じゃない。
でも、無理なものは無理。出来ない事は出来ないって、どこかで割り切ってるんだなぁ。
そんな事を考えながら、スプーンで掬った「活力の調剤」をゆっくりと、そして少しずつエリンに与えて行く。
今のエリンに、自発的にこれを飲む事は出来ない。それでもこの薬は、少量が口の中に含まれさえすれば効果を期待出来るんだ。それを何度か繰り返せば、必要なだけの量を摂取させる事が可能だ。
暫く与え続けると、エリンの身体からは淡い赤色の光が発し出された。サリシュの時と同様、これはエリンの身体に効果が現れている兆候なのだ。
「エ……エリンの顔がぁ」
殆ど涙声で、シャルルーがそう呟く。
光が消えると同時に、エリンの顔色が随分と良くなって来ていた。土気色だった顔色は肌の色を差し、薄っすらと頬に赤みが戻って来た。
「……よし。とりあえずこれを定期的に与えれば、それで彼女の『生命力』に力を与えられる。後は、医者の診断待ちと……」
俺はこれにて、ここで出来る事の終了を口にしたんだが。
問題は、これで終わりじゃあない。
って言うか、むしろこれからが重要なんだよなぁ。
「これは、昨日使ったエキスってやつか?」
セリルがその小瓶を摘まみ上げて、目の高さでユラユラと振って見せた。
おいおい、そのアイテムもかなり高価なものなんだけどなぁ。希少価値でいえば、上級回復薬よりも遥かに高いんだぜ?
「……昨日のは……深い紫色。……これは……緋色?」
昨日も同席していたセリルとバーバラは、その違いに当然気付いているみたいだ。
でも今日初めてそれを目にするマリーシェとカミーラは、不思議そうにその液体を見つめている。
「ああ。昨日の『マナエキス』は主に魔力や魔法力を回復させる液体で、これは『体力』や『生命力』の回復を促す効果があるんだ」
俺はその場の全員に向けて、簡単に「ヴァイタルエキス」について説明してやった。もっとも、そう言われてもピンと来ないだろうけどなぁ。
「ほんと、あんたって色々珍しい物持ってるのねぇ」
どこか訝しんでいる様なジト目を向けて、マリーシェが俺にそんな台詞を向けて来た。
まぁこういう疑問も今更だし、彼女の方も別にその事を詮索しているみたいな素振りには見えない。どちらかと言うと……どこか呆れている?
「まぁなぁ。俺の親父は、色んな書物とアイテム収集が趣味だったみたいだからなぁ」
今はまだ、俺が「記録」を使って15年の時間を遡った元上級冒険者で勇者だなんて言えないからなぁ。当然、俺の持つ「魔法袋」の事も言えないし、そこに無数のアイテムが入っているのも秘密だ。
もうすでに疑われているとは言え、この設定は崩す訳にはいかないからな。
「……ふむ。今回は、アレクの御父上の嗜好に感謝すべきと言う処か……」
そんな俺の苦しい良い訳を、わざわざ補完してくれるカミーラが本当に有難いな。
そしてカミーラがそう結論付ければ、他にその事に付いて突っ込んで来る様な奴もいない。
「それでぇ、その小瓶の中の液体をぉ、どうするのぉ?」
俺のアイテムに興味を示すマリーシェ達だったが、シャルルーはそれよりも「薬」の生成の方に意識が向いているみたいだ。と言うよりも、気持ちが急いているって言った方が良いかもなぁ。
そりゃそうだ。
俺の作る薬によって、エリンの容態が左右されるかも知れないんだからな。
俺は昨日用意しておいた手鍋を棚から取り出して、布巾を使って薬草の葉だけを濾し取った。移し替えられた器の中には、何とも毒々しい濃い緑色の液体が抽出されている。
「うえぇ。見るからに不味そうだな。まさかこれを、エリンちゃんに飲ませるのか?」
ウェッと舌を出して、セリルが嫌そうな顔をして感想を述べる。まぁもしもそうだとしても、お前が飲む訳じゃないだろうに。
でもその意見にはシャルルーも同意の様で、不安そうな表情を俺に向けていた。
「いや、もしもこのまま飲むとしても、それが薬だから。色とか臭いで判断するなよな」
勿論これで完成と言う訳では無かったんだけど、俺は一同の不安を払拭する為にそう前置きをし、小瓶に入ったヴァイタルエキスを数滴、器へと垂らしたんだ。……すると。
「うわぁ。なんともぉ、綺麗な色ねぇ……」
器の中の液体が、みるみる美しい赤へと変わって行く。
その液体だけを見れば、とても先ほどまで毒々しい色合いだったとは思えない程だ。
「……これが、『活力の調剤』だ。服用した者の体力……特に『生命力』を回復してくれる。これを、エリンに飲ませようと思う」
感心している様に器を見つめる一同に、俺はこの液体に付いての説明を加えた。
「……『生命力』……って?」
でも、バーバラは俺の説明の中に疑問があったみたいだな。
まぁ、中々「生命力」に働きかけるアイテムってのはお目に掛らないだろうからなぁ。彼女の疑問は、その場にいた全員も同様だったんだろう。
早くエリンにこの「活力の調剤」を与えてその効力を確認したい処だったんだが、とりあえず俺は彼女たちの疑念に答える事にした。
「『生命力』ってのは、『生きる力』と言い換えても良いな。どれだけ怪我が無くて元気に見えても、『生命力』が枯渇していたら動き出す原動力にはなり得ないんだ。逆に『生命力』が十分だったら、疲労の極致でも重傷であっても、それを回復させようと体が働き掛けるだろうな」
俺の説明を受けて、全員が感心した様にまた器の方へと目をやる。
まるで初めて耳にしたって顔だが、実はすごく身近にその効力を持っているアイテムがあるんだよなぁ。
それは「薬草」だ。
実際「薬草」ってのは、即効性が望めないから余り使用の機会が少ない。まぁ軽い打撲やら切り傷を回復させる為に、患部に張り付けるって用法が殆どだろうな。
でも実は、この「薬草」を煎じて飲むと随分と「生命力」の回復に役立つのは殆ど知られていない。その結果、幹部に直接貼り付けるよりも、遥かに高い効果を齎してくれる。
俺が今回作ったのは、その効力を何十倍も引き上げたものなんだ。
「……今エリンは、大きな傷を負った事でその『生命力』が著しく弱まっている状態にある。だからその『生命力』自体の治癒力を高めようって考えているんだ。そしてこれは、その効果がかなり期待出来るアイテムって訳だな」
ここまで説明して、全員が納得顔で頷いていた。
それでもシャルルーは不安顔ではあるし、セリルはどこか渋い顔を作っている。
この調剤で効果が出なければもう打つ手が無いんだから、シャルルーの気持ちは痛いほど分かった。
それにセリルは、エリンの事で少なからず罪悪感があるんだろう。
手傷を負った時に意識も失っていれば、セリルもここまで気に病む事は無かっただろうなぁ。少なくともこいつは、あの場では最善を尽くしたんだから。
でもその弁解さえ相手にさせて貰えないと言うのは、前に進むにはどうしても障害になる。この薬である程度の効果が出れば、そういった悔恨も随分と軽減させてやる事が出来るだろう。
そして多少の違いはあれど、この場の全員が同じ様な気持ちでいるんだからなぁ。
そういった意味でこの薬は、これからの俺たちパーティの在り方さえ左右する物だと言っても良かったんだ。
「……それじゃあ、エリンの部屋へ向かうか」
すでにサリシュの件もあり、医者の手配はついている。改めてその事を、シャルルーに願い出る必要も無いだろう。
それなら、その医者が到着する前にこの調剤を試しておいた方が良いからな。
俺は全員にそう声を掛けて、調理室を後にしたんだ。
ピクリとも動かず、蒼い顔をしたエリンを前にする。
せめてもの救いは、その呼吸が規則正しいという事か。これでもしも苦しそうな表情で喘いでいたなら、流石に俺も居た堪れなくなっただろうなぁ。
実際この部屋に入ると同時に、シャルルーとセリルは苦渋に満ちた表情になっている。
……いや、マリーシェとカミーラ、バーバラも同じ様な顔をしているんだ。誰一人として、平静を装えている者なんて居やしなかった。
……あれ? ……って事は、比較的平静な俺って人でなしなんだろうか?
こういう修羅場は何度も潜って来たし、すっかり慣れてしまっているのは確かなんだが。
そう考えると、なんだか悲しくなって来たな……。
「……アレク。大丈夫か?」
そんな表情を何か勘違いしたんだろうか? カミーラが心配そうに俺に声を掛けて来た。
「……ああ」
俺はそれだけを答えて、早速エリンの横に腰を掛けた。
勿論、俺だってエリンには元気になって貰いたい。助けられるなら、どんな事だってやってやるって気概は嘘じゃない。
でも、無理なものは無理。出来ない事は出来ないって、どこかで割り切ってるんだなぁ。
そんな事を考えながら、スプーンで掬った「活力の調剤」をゆっくりと、そして少しずつエリンに与えて行く。
今のエリンに、自発的にこれを飲む事は出来ない。それでもこの薬は、少量が口の中に含まれさえすれば効果を期待出来るんだ。それを何度か繰り返せば、必要なだけの量を摂取させる事が可能だ。
暫く与え続けると、エリンの身体からは淡い赤色の光が発し出された。サリシュの時と同様、これはエリンの身体に効果が現れている兆候なのだ。
「エ……エリンの顔がぁ」
殆ど涙声で、シャルルーがそう呟く。
光が消えると同時に、エリンの顔色が随分と良くなって来ていた。土気色だった顔色は肌の色を差し、薄っすらと頬に赤みが戻って来た。
「……よし。とりあえずこれを定期的に与えれば、それで彼女の『生命力』に力を与えられる。後は、医者の診断待ちと……」
俺はこれにて、ここで出来る事の終了を口にしたんだが。
問題は、これで終わりじゃあない。
って言うか、むしろこれからが重要なんだよなぁ。
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