嵌められ勇者のRedo Life

綾部 響

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2.嵌められて、戻されて

裏事情、公開

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 勇者ってのは、本当なら尊敬される存在だ。
 実際、各国の権力者たちから、様々な恩恵を得る事が出来るんだからな。

 しかし有用なのは……それだけだった。

 勇者イコール強力な職業クラスと言う訳では無く。
 勇者の使える様々な技や魔法は、現状俺達が知っていたジョブと比べて何ら優位性のあるものじゃあなかったんだ。
 その上、勇者に職業変更クラス・チェンジした途端に、レベルが半分に減衰した。他のジョブではそんな事は起こらないと言うのに……だ。
 職業自体が強い訳では無く。
 名声を得たからと言って、それがすぐにこちらの利益になる訳じゃあない。
 その上、レベルが減衰すると言う事は……俺がレベルを上げるまで、その他の奴らの行動が制限される事になるんだ。
 クラス・チェンジする為に様々な条件を熟したりアイテムが必要だった事を考えれば、勇者と言うクラスが特殊なのは容易に考えつく。
 勇者と言うクラスに強さは無い。
 それでも、クラス・チェンジする為の手間暇には何かあると思わされ。
 それを考えれば、俺をパーティから放り出す事は出来なかったこいつ等の不満や苛立ちと言ったら……想像に難くないだろう?
 それでも「勇者がこの世界で最強の職業」だと言われているのには訳がある。
 この世界のだれもが知っているおとぎ話や、ゴッデウス教団が出来る前から存在する古文書。これらには、勇者の華々しい活躍が記されていたんだ。
 世界中のだれもが知る話や逸話を、さしものゴッデウス教団も無下には出来ない。
 実際はともかくとして、職業としての勇者が畏敬の念を集めるのも、この世界では当然なんだ。
 そう……現実はともかく……な。

 そして、そんな虐げられた立場でも、俺の方もこいつ等から離れる事は出来なかった。

「まぁ……確かにしゃべり過ぎで喉が渇いたな。この続きは、酒でも飲んでするか」

「ふむ……。一理あるな」

「いいですなぁ―――……。それでは、いつもの酒店へと行きますかな」

「……この……生臭が」

 俺自身は彼等に嫌悪されていても、俺の意見は採用された様だ。
 熱くなっていたグローイヤがそう口にすると、酒や女が何よりも好きなシラヌスがそれに賛同し、次いで僧侶である筈のスークァヌが同意した。
 もっとも、酒は好きだがどこか潔癖な所もあるヨウ・ムージは、そんなスークァヌに聞こえないくらいの小声でそう毒づいていたんだが。

 俺が彼等から離れない理由、それは……その羽振りの良さだった。
 彼等が、この世界でも指折りの強者である事は間違いない。
 こいつ等に付いて行けば、俺は安全に落ちたレベルを上げる事が出来、事実レベル85にまで戻す事が出来たんだ。
 そんな事を除いても、彼等の生活は高水準で、今から行く「酒店」も超高級酒場なんだ。
 こんな生活に慣れてしまったら、今更生活レベルを落とす事なんて考えつかない。

 例え……こいつ等から罵られようとな。

 どうせ俺達は、協力関係でしか無いんだ。
 俺が「勇者」と言う稀有なクラスである以上、こいつ等もおいそれと俺を追い出したりは出来ないからな。
 そして俺達は意気揚々と酒場へ向かい、その夜もドンチャン騒ぎと洒落込んだんだ……。



 その後酒に酔った俺達は、とりあえず「記録」する事で同意して更に盛り上がり。
 そして俺には、それからの記憶がごっそりと抜け落ちてしまっていたんだ……酔い潰れてな。

「それで……。結局は肝心な部分を覚えてないって事なのね?」

 俺の回想を聞いたフィーナは、半ばあきれ顔でそう口にした。
 そして俺はと言えば、そんな彼女の台詞に反論する事など出来なかったんだ。
 とは言え。

「そ……それでもあの時、『記録』するって事で全員意見は一致したんだ! 俺だけされてないなんてそんな……そんな事は……」

 何か言い返さなければと思い口にした言葉だったが、それも最後まで言い切る事が出来なかった。
 よく考えれば……いや、よく考えなくとも、俺だけが「記録」されなかった可能性はある。

 しかし……しかしだ。

 俺達は“一応”仲間であり、俺は稀有な「勇者」だ。
 奴らが、そう安易に俺を手放す筈はない。
 そんな想いが俺の顔に滲み出ていたんだろうか、それを見ていたフィーナが再び溜息を付いて言葉を綴り出す。

「……仕方ないわね。本当は禁止されてるんだけど、あんたには“その時”を見せてあげる。……特別よ。それを見て転生するのか、そのまま生を終えるのか決めなさい」

 そう言うが早いか、フィーナはさっきの不思議な映像を出した。
 そこには、教会の受付にたむろしているグローイヤ達と……グデングデンに酔い潰れて引き摺られる様に連れてこられた俺の姿が映っていた。
 フィーナの台詞に言葉を挿もうとした俺だったけど、すぐに意識はその映像に釘付けとなったんだ。



『……しっかし、やっぱりメチャクチャ高いな』

『……うむ。教会への貢献度が上がってスークァヌの株は上がるであろうがな。我等としては大損だ』

『そ……それでも……命の保険には……なる』

 眠りこけてる俺をソファーに寝かせたまま、グローイヤとシラヌス、ヨウの「記録」が終わった様だ。
 勿論スークァヌも既に済ませており、奴は何か話がある様で教会の奥に行っている。

『さて……残るは……』

『ああ……こいつだけだなぁ……。しかし……こいつにあそこまで大金掛ける価値って……あるかぁ?』

 背後の長椅子に横たわる俺を見る事無く、グローイヤが親指で俺を指してそう口にした。
 それを聞いたシラヌスとヨウが、釣られる様に俺の方へと視線をやる。
 そんな会話が交わされてるなんて知らない俺は、でかいイビキを掻いて夢の中だ。

『べ……別に……。あいつは必要ないんじゃ……無いのか?』

 真っ先に意見を述べたのは……ヨウッ! しかも、俺に「記録」は必要ない……延いては、俺なんて必要ないと言いやがった!
 今でこそこいつは俺を見下しているが、俺がクラス・チェンジするまでは随分とコイツのフォローをしてやってたってぇのに……。
 立場が変わった今は、俺に向ける眼はまるで虫けらでも見るようだ。

『そうだな。此奴が居らんでも、我等の冒険には何ら問題など無い。まぁ確かに、魔族相手に効果の高い攻撃を繰り出せる事は魅力だが……。それでも、我等の今の攻撃力でも同じ結果が出せるからのぅ』

 それに同意したのは言うまでもなく……シラヌスッ!
 こいつの思考は単純に有益無益、有用無用、有効無効……と、完全に2択でしかない。
 そして奴の出した結論は、俺は無用だと……要なしだと言うものだった。

『なら、決まりだな。こいつに「記録」は行わない。1人分浮いて、だいぶ支出を抑えられるしな』

『しかし……だ。明日からの魔王城攻略はどうするのだ? 此奴は連れて行かないと、そう言う事か?』

『ああ? そんなもん、連れて行きゃあ良いんだよ。それで死んだらそれはそれ、こいつの命運が尽きたって事でいいだろが』

『な……なるほど』

 グローイヤッ! この守銭奴がっ!
 こいつとは、出会った時からソリが合わなかったが、ここまで俺を軽んじていたとは……。
 だいたい、勇者になる資格ならグローイヤも、ヨウも持っていたんだ!
 それを固辞するもんだから俺が引き受けたってのに……この仕打ちか!
 そして一同は、戻って来たスークァヌに事情を説明した。
 最初は難色を示していたスークァヌだったが、彼の中で何かとの折り合いがついたんだろう、最後はグローイヤ達の提案を受け入れていたんだ。
 もちろん、スークァヌの奴が懸念したのは、教会への寄付金で会って俺の安否じゃあない。
 そんな奴も、今ごねてメンバーの気分を損ねるよりも、今後も恒久的に寄付させるほうを選んだんだろう。
 そして結局、俺だけがその場での「記録」をされる事無く……今に至る。



 俺は呆然と、その映像を見ていた……いや、見終えた。
 確かに、俺が勇者となってからはこのパーティのお荷物的存在となっていた。
 それでも、俺達は長年旅を一緒にして来た……同志だ。
 そんな俺を、俺の意思も聞かずに切り捨てるなんて……何て奴らだ!

「……ねぇ、アレックス。あんたの世界で、勇者ってどう思われてるのよ?」

 一緒に映像を見ていたフィーナが、何事か思案を巡らせながら俺に問いかけてきた……んだが。
 頭に血が上ってる俺は、今は冷静に返答できる状態じゃあなかった。だから。

「ああ!? 見てた通り、勇者なんて誰もやりたがらない、パーティのお荷物だよ! 今まではその存在が稀有で、勇者になる条件も謎な部分が多かっただろうが……それもシラヌスが公表しちまうだろうな! そして勇者を手に入れた他のパーティたちが勇んで魔王城に行くのを観察して、その犠牲の上に攻略法を確立する! そんなとこだろ!」

 つい喧嘩腰の言い方をしちまったんだ。
 もっとも、そんな俺のきつい言い方を受けても、フィーナの方には何のリアクションも無かったんだが。
 それが逆に、熱くなった俺の頭の温度を下げる結果となった。

「……ったく。ラフィーネってば、一体何やってるのよ……」

 そんな俺の怪訝に窺う視線など気にした様子もなく、フィーナは独り言をつぶやいていた。
 それに漸く気付いたんだろう。

「……ああ、そうだった。そんな事より、まずはあんたの事ね。とりあえず、この時に記録されていないって事実は今見てもらった通り。で、あんたには2つの道がある。1つは、15年前に転生されるのか。そしてもう1つは、このまま生を終えて天に召されるか……ね」

 彼女は俺に、改めて選択を迫って来たんだ。
 ウインクしながらそう語るフィーナだが、俺としては何処にも嬉しい要素なんて無かったんだが……。
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