嵌められ勇者のRedo Life

綾部 響

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2.嵌められて、戻されて

記録されていないって

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「……は?」

 俺の動きは完全にストップし、頭は真っ白で何も考えられなかった。

「だからぁ、あなたの記録はされていませんよ? 少なくとも最近では」

 そんな俺に気を使う事も無く、フィーナは淡々と同じセリフを繰り返したんだ。
 放っておけばいつまでも動きを止めてしまいそうな俺だったが、彼女の追撃で何とか意識を取り戻す事が出来た。

「いや……いやいやいや、待て待て待て! だって、この間俺達は記録所セーブ・ポイントに来てるんだよな!? それは知ってるんだよな!?」

 もっとも、フィーナの言った言葉を俺は受け入れる事なんて出来なかったんだけどな。
 って言うか、信じられなかったんだ。

「ええ、確かに。記録映像デジタル・レコーダーにも、あなた達の姿は残されていますから……記録所に訪れてはいますね」

 ……は? デジ……なんだって?
 フィーナが謎の言葉を発し、それを俺が理解出来ていないのだが、大体何を言ったのかは察しがついた。
 恐らくは、彼女の持つ装置には俺が記録したと言う痕跡が残っていなかったんだろう。

「……いいかしら」

 そしてその想像は、次にフィーナの起こしたアクションで実証された。
 彼女が手元のボタンを操作すると、どこか見た事のある部屋を天井から見ている様な画が浮かび上がったんだ。

「な……っ! 何だよ、この画はっ!?」

 それは、俺の良く知る絵画とは全然違う。
 まるで俺が今そこにいるようなほど精密に再現されてるし、しかもその画は……動いてるんだ!

「……ほら、これを見て」

 そんな俺の疑問なんて華麗にスルーして、フィーナは画像に映った5人の集団を映し出したんだ。

「こ……これは……グローイヤ!? そ……それにシラヌス!? ヨウに……スークァヌ!? って事は……これが俺か!?」

 そう……そこに映っていたのは、俺と俺のパーティメンバーだったんだ。
 それがまるで、演劇でも見ている様に動いている。
 もっとも……俺はと言えば酔い潰れて、武闘家のヨウに背負われているんだがな。

「ね? あなた達は間違いなく、記録所に来てるでしょ? 因みにこの映像が記録されたのは、『天輝歴233年8月19日23時37分』……今から5日前の深夜ね」

 う……日にちは合ってる……。
 確かに俺達は5日前の深夜、ゴッデウス教会に訪れていたんだ。

「じゃ……じゃあ、俺達はやっぱり記録してるんじゃねぇか! それに、あいつ等はもう先に来て、とっくに転送されてるんだろ!?」

 はっきりとは覚えていないが、辛うじて残っている俺の記憶と彼女の見せた映像、そして日時は合致してるんだ。
 それにフィーナは俺にこう言った。
 仲間達はもう先に来て、記録した先へと転送されていると。

「ええ、それは間違いないわ。確かにあの人達は、記録されていた場所へと転送しました。実際にそう処置をした私が言うんだから間違いないわね」

 なるほど、それは間違いない様だ。
 そう思う根拠は、彼女の嘘偽りが感じられない自信満々な表情と、座ってるんだろう半球体の中であってもふんぞり返っているその態度による。

「それじゃあ、あいつ等の送られた先ってのは……」

 だが問題はその先にあったんだ。
 確かに奴らは既に転送されている。
 でもその先が俺の言われた様な15年前ってなら……。あいつら、一体何しに教会まで行ったんだって話になる。

「あの人達は、5日前の深夜……この映像に映し出されている通り、記録した時間と場所に転送したわ」

 フィーナがそう言ってくれた事で、俺は少なからず安堵していた。
 良かった……やっぱりちゃんと記録してたんだ。
 ただし、俺が一息付けたのはそこまでだ。
 それが事実ならば、もう一つの疑問が浮かび上がるからな。

「そ……それで? あいつ等は5日前で、何で俺だけ15年前になるんだよ?」

 そう……そこだ。一番にして最大の問題はそこにあるんだ。

 ……んだが!

「何故って……あなたは5日前に記録されていないからなんですけど?」

 返って来た答えは、凄まじく単純明快だった。

「あ……そっか―――……。記録されてないなら、あいつ等と同じ場所には戻れないわな―――……」

 その余りに疑問の余地さえ入り込まない言葉に、俺は思わずすんなりと納得して……しまいそうになり。

「……って、いや、待てよっ! おかしいだろっ!? 俺はあいつ等と一緒に教会へ行ってるんだぞっ!? 何で俺だけ記録されてないって事があるんだよっ!?」

 そして俺は、即座にフィーナへとツッコんだ。
 でもそれも仕方ない事だ。
 何故なら、フィーナの言っている事はメチャクチャなんだからな。

「そう言われてもねぇ……。それじゃあ聞くけど、あんた……記録セーブした記憶って……あるの?」

 ああ……。とうとう俺の事をあんた呼ばわりか……。
 もっとも、頬に手を当て片ひじを付いて、半ば呆れたように俺を見る彼女の姿は、ちょっと変な言い回しだけど年相応に見えたんだ。……女神の年齢なんか知らないけどな。
 そんな事よりも。

「……え……と。記憶は確かに……無いけど……」

 そう……。フィーナにズバリ指摘された様に、俺にはあの夜の記憶がほとんど残っていなかったんだ。
 それもまぁ……仕方ない話だ。



 あの夜、俺は……俺達は、魔王城攻略を決めてその事について話し合っていた。
 レベルはまぁ……足りていた。
 俺のレベルでも、この世界ではトップクラスの85。
 はっきり言って俺達のパーティは、この世界で最強だったと言っても過言じゃあない。
 満を持して……と言う訳でも無いが、魔王城に居座る魔王の首には相当な額の報奨金と、各国から様々な賞品が懸けられている。
 それに目が眩んだ……んだが、兎に角俺達は全世界と敵対関係にある魔王討伐に乗り出したんだ。
 そこで、俺達の間で議論となったのが「記録セーブをしておくかどうか」だった。
 はっきり言って、俺達は強かった。
 控えめに言っても、魔王に負ける要素なんか欠片も無かったと思っていたんだ。

 もっとも……結果は惨敗だったんだが。

 兎も角、未だ殆どの者が乗り込んだ事の無い魔王城の攻略。そしてその先で待ち構える魔王と言う存在との戦いなんだ。万全を期しておいた方が良いと言う話になる。
 そこで話に上がったのが「記録」の是非だった。



「ふっざけんじゃあないよっ! なんでそんな大金払わなきゃなんないんだいっ!」

「確かに……。我等は十分に強くなった。情報不足は否めないが、それでも魔王城に行って帰って来る……。魔王を倒す事が叶わずとも、それくらいならば犠牲無く熟せる筈であろう」

 真っ先に反対の声を上げたのは、やはりと言おうかこの2人だった。
 女強戦士のグローイヤと賢者に転職したシラヌス。
 特に金への執着が強い2人は、俺達に飛び掛からん勢いで反対していた。
 もっとも火のような性格のグローイヤと、氷の様に冷酷なシラヌスとでは、その感情の出し方は正反対なんだがな。

「だがしかし。万一と言う事があるだろう? 如何に俺達が強くなったと言っても、不意を突かれては総崩れとなる事も考えられるのだ。ここは慎重を期して当然だと思うが?」

 そんな彼女達に反論したのは、武闘家であるヨウ・ムージだ。
 その言動はもっともなもので、噛みつく勢いのグローイヤや沈んだ悍ましい目を湛えるシラヌスに対する姿は立派なんものに見える。

「はっ! もっともらしい事を言ってるけどさぁ……『弱虫ヨウ』さんよぅ。あんた、ただ単に怖いだけだろが!」

 しかし彼に対してグローイヤが言った言葉は、その姿を真っ向否定するものであり……事実だったんだ。

 武闘家ヨウ・ムージ。
 今や高レベルの格闘家であり、無手での戦闘に並ぶものなしとまで言われている彼だが、その本質は慎重を通り越して臆病で逃げ腰……とても二つ名と同一人物とは思えないものだった。
 今も、グローイヤに正面から睨まれて、彼の身体は小刻みに震えている。

「まぁまぁ、そう剣幕を立てるものではありませんよ。ヨウ・ムージの言っている事も一理あるではありませんか。ここは慎重を期すべく、前向きに検討を……」

「ふん……。もっともらしい事を言うではないか、スークァヌよ。お主の魂胆などお見通し。我等に要らぬ記録をさせて、教会へのお布施を支払わせようと言う魂胆であろう?」

 穏やかな表情、優しい笑みを浮かべたパーティの回復役であるスークァヌの言葉を、目を半眼にして睨め上げるような視線を向けたシラヌスが封じ込めた。
 そして間違いなく的を射た意見に、スークァヌは言葉を詰まらせてしまった。
 表情こそ穏やかなままだけど、これは普段からこの様な顔つきであり、腹の底はどうだか分かったもんじゃあない。
 それが証拠に、彼のこめかみにはクッキリと青筋が浮かび上がってんだからな。
 このままじゃあ、何処まで言っても平行線でしかない。

「な……なあ……。ここで言い合っても答えが出ないだろう? どうだ? 酒でも飲みにいかないか?」

 だから俺は、場所を変える提案をした。
 酒でも入れば、少しは互いの気持ちも和らぐって思ったんだけどな。

「ああっ!? 役立たずが偉そうに意見してんじゃないよっ!」

「まったく……。お荷物なのだから、口を出す事は慎んでもらいたいですな」

「まぁまぁ、皆さん。如何に無能とは言え、我等の仲間なのですから」

「……ふんっ」

 そしてこのパーティ内で俺の立場はと言えば……この通りだった。
 グローイヤとシラヌスは、意見を出した俺にあからさまな非難を投げ掛け。
 スークァヌは物腰の柔らかい言い方ながら、辛辣な物言いをし。
 あのヨウ・ムージですら、俺に向けて蔑んだ視線を向けた。

 このパーティ内で俺は、勇者とは名ばかりに……蔑まれていたんだ。
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