嵌められ勇者のRedo Life

綾部 響

文字の大きさ
7 / 33
2.嵌められて、戻されて

決心……出来る訳ねぇよ

しおりを挟む
「……それで、どうするのよ? 15年前に戻るの? それともこのまま、永眠決め込んじゃうの?」

 フィーナに、かなり以前行った「記録場所セーブ・ポイント」の情報を聞いたのは、今から大体10分前……。
 勿論、時間の概念が現実世界と同じであり、尚且つ俺の体感時間が正しければ……だけどな。
 兎に角俺はその場に膝を抱えて、フィーナの問いかけに答えを出せず半ば不貞腐れる様に蹲っていた。
 確かに、あのまま天に召されるしかない状況で、古かろうとセーブ・ポイントがあった事は奇跡に近かった。
 なんせ、当事者である俺でさえ忘れていた事なんだからな。
 でもその場所が、今から15年前……。
 しかも始まりの街「ジャスティア」って事は……。
 それは俺が、冒険を始めて間もないと言う事に疑いの余地なんかなかった。

 選べる選択肢なんか、今の俺には全くない。
 死にたくないんだ。
 なら、15年前だろうが何だろうと、そこへ転生されるに任せるしかない。
 ……そんな事は、誰に言われるまでもなく分かっている。

 ただ、そう簡単に「再開リスタート」をする踏ん切りがつかないのも確かだ。

「ねぇ―――……。もう諦めて、セーブしている処からリスタート切れば良いじゃない。たかが15年ほど人生が巻き戻るだけでしょ? 死んで消えちゃうより、よっぽどマシだと思うけどな―――……」

 既にこの状況を飽きてしまったのだろう、半球体ワーキング・デスクで頬杖を突いているフィーナは、それはもう面倒くさそうに俺へと声を掛けてきた。

「……分かってるよ。分かってるけど……でも……」

 15年と言う月日が、フィーナにとってどれほどの長さと感じているのかは分からない。
 神様の分身とでも言うべき彼女は、恐らく悠久の刻を生き続ける事が出来るのかもしれない。
 そんな彼女にとって、高々15年と言う月日は取るに足らない、あっという間の出来事なのだろう。

 でも俺にとってはそうじゃない。
 15年前と言えば、俺は駆け出し冒険者でレベルもまだ5くらいだったと思う。
 そして俺は、その15年をかけて「レベル85」と言う強さを手に入れたんだ。
 その中で様々な条件をクリアして、漸く“勇者”と言う職業ジョブに辿り着いたりもした。
 それは、辛かったなんてたった一言では言い表せないほど、苦痛と苦渋に満ちた日々だったんだ。

 同行者のシラヌスがそれはもう慎重派だった事で、命の危機に関わる様な事は少なかった。
 でもそれだけに、何かと手間暇が掛かったのも事実だ。
 レベル上げ一つとっても、恐らく他の冒険者より時間が掛かっているだろう。
 万事その調子なもんだから、当然職業変更クラス・チェンジに必要な条件を満たすのも、随分と面倒だったことは覚えている。
 そうまでして今の地位に辿り着き、恐らくは人類でも最強クラスの強さを身に付け、最高と誉れの高いジョブにまで上り詰めたんだ。
 それを手放すのが惜しくないなんて、すぐには考えられない。

 そして……俺が死の直前まで身に付けていた装備の数々。
 そのどれもが、到底店売りでは手に入らない代物ばかり。
 どれ程の艱難辛苦を乗り越えて手に入れたと思ってるんだ。
 そう易々と、諦める気になんてなれる訳もないだろう。

「……あら?」

 一向に自分の運命を決められない俺を半ば呆れ顔で見ていたフィーナが、不意に驚いた様な声を上げた。

「……これって」

 暫し手元を見つめていた彼女は、驚いた様子を隠す事無く俺に話し掛けてきた。

「ちょっとっ! 凄いわよ、これっ! 今フェスティス様から伝言メールが入ったわっ! あなたの功績を加味して、リスタートするにあたってはあなたが最後まで持っていた『魔法袋』をそのまま持って行って良いんだってっ! 本当なら道具アイテム能力スキルの持ち越しなんて許されてないんだから、これはすっごい特例と言えるわよっ!」

 半ば興奮気味に、フィーナは今届いた連絡を俺に伝えた。
 彼女の喜びように俺は思わず顔を上げて笑顔を浮かべかけたが、すぐに真実を理解して再び沈んだ気分となりまたまた俯いてしまったんだ。



 確かに、アイテムの持ち越しはとても魅力的な話だった。
 レベル5の冒険者なんて弱い事この上ないのは勿論、兎に角年中金欠状態で、宿に泊まるのも薬草一つ買うのですら四苦八苦しているものだ。
 ましてや高価な「ポーション」なんておいそれと買えないし、買っても使う事を躊躇してしまう程だ。
 その他にも、冒険や戦闘で役に立つアイテムなんてわんさかあるにはあったが、そのどれもが当時としてはそこそこの値段がする代物ばかりだった。

 大抵の冒険者は、依頼報酬や地下迷宮の宝箱からそれらを手に入れても使う事もせず大事に取って置き、結局は使わないまま売り払ったり、道具袋の肥やしにしてしまうものだ。
 だが今の俺が持っている魔法袋には、そんな低レベル冒険者なら垂涎のアイテムがそれこそ使い切れない程入っている。
 もし、15年前のレベル5からやり直せば、それはそれは楽に進んで行けるだろう。
 それに俺の「道具袋」にはアイテムだけじゃなく、武器防具にお金まで入っている。
 はっきり言って冒険始めの頃に苦労した様な事は、全く考えなくても良いと言える状態だった。

 ―――でも、それだけだ……。

 俺の「道具袋」に入っている物は駆け出し冒険者なら嬉しくなる代物ばかりだが、上級冒険者となってしまえば使わない物ばかり。
 そして上級冒険者で使える様な道具は、お金で手に入れる事が出来ない様な逸品ばかりだった。
 それが分かっているだけに、素直に喜ぶ事なんて出来ない。

 いや、15年前に戻った先で冒険者なんてせずに、どこかで悠々自適な生活をすると言う手もある。
 道具や武器防具を全て売り払えば、道具袋の中に放り込んでいる金と併せてかなりの額になるはずだった。
 恐らく郊外に小さな屋敷を立てて、一生を遊んで暮らせる程にはなるはずだ。

 だけど、そんな生活に魅力は無い。

 15年前と言えば、俺はまだ15歳だ。
 それ程若くして生きているのかどうかも分からない生活に甘んじる気は、俺にはなかった。
 そこまで分かっていて、そう考えていても尚、俺にはまだ15年前に戻る踏ん切りがつかなかった。
 だってレベル85だぜ!?
 それに身に付けていた武器防具は、この世の中でも類を見ない程の希少品だぜ!?
 身に着けていた道具やアクセサリーも、それは便利な物ばかりだった……。
 それらを手に入れる為に苦労した日々が、そして手に入れた時の喜びが、俺をこの場に括り付けていたんだ……。
 そう……お菓子を強請ねだる駄々っ子の様に……。



「な―――に? これだけの事をして貰って、まだ躊躇してるの?」

 フィーナの声音には、だんだんと苛立ちめいたものが含まれ出していた。いや、これは本当に呆れ返ってるのかもしれない。
 でも、どれだけ苛立たせていようと、どんなに呆れ返られようとも、中々踏ん切りってやつはつかないものなんだ。

 そんなウジウジとしている俺の前方に、突然二つの大きな穴が出現した。
 一つは白い光が洩れ出しており、もう一つは引き込まれそうな闇黒を宿している。

「な……なんだよ……これ?」

 大体想像は出来ていたものの、俺は確認を込めてフィーナにそう問いかけた。

「……時間切れよ……アレックス。流石に寛大な主神であっても、そう長々とここに留まる事を許しては下さらないの。見ての通り、光が洩れ出している穴はリスタートを、黒い闇の穴は終了エンドを意味しているわ。あなたの意志でどちらかを選びなさい」

 溜息交じりに、フィーナはそう説明した。
 我ながら何とも情けない限りだったが、流石にこれ以上引き延ばす事は無理そうだ。
 俺は四つん這いになって二つの穴に近づき、その中を覗き見た。
 白い光の漏れ出している穴は、どこか温かさを感じる。
 それに比べて黒い闇の穴は、どうにも薄ら寒い。
 どっちを選ぶかなんて、そんな事は聞くまでもないだろう。

「それからもう一つ、これは私からの餞別として、あなたに能力スキルを一つ、付与してあげたわ」

 いつの間に半球体から降りて来ていたのか、フィーナは俺の後ろに立ってそう言った。

「そ……そんな権限がお前にはあったのか?」

 俺は首だけで彼女の方を見やり、そう聞き返した。
 彼女はあくまでも主神の代理人で、与えられた権限以外の事は出来ないと思っていたんだ。

「安心して、あなたの冒険を飛躍的に手助けする様なスキルじゃないから。スキルの名は……え―――っと……『ふぁたりてーと』? 『ふぁくすたーる』? どっちだったかしら? 兎も角、そんな名前のスキルよ。効果は、あなたがスキルを発動して見つめた相手の“近い将来の強さ”を見る事が出来るわ。どんな成長をして何に適応があるか、それで判別がつくはずよ。パーティを組む時の目安にはなるでしょ?」

 なる程、冒険を始めたばかりの新米は、自分が何に適性を持っているかなんて分からない者が多い。
 そう言った事は冒険を進めていくうちに気付き、多少時間が掛かっても修正して行くものだが、その能力があればかなり効率は良くなると言えるだろう。

「……でも、最初だけしか役に立たねぇじゃんか」

 そう……この能力は、パーティを選ぶ最初の時だけしか意味がない。その後の戦闘にも、何かしらの行動にも全く役には立たないんだ。

「だ―――か―――ら、今のあなたに付与してもお咎めなしなのよ。これだけサービスしてあげてるんですから、2回目の人生はさぞかし楽に歩んで行けるんじゃないかしらね?」

 フィーナの言う事はもっともだ。
 ここまで御膳立てされれば、上手く立ち回れば前回のパーティよりも楽に、そして楽しくやっていけるだろう事は簡単に想像出来る。

「でもな―――……」

 それでもまだ、俺の心には未練が募っている。
 簡単に諦められない程に、俺は濃密な15年を過ごして来たんだと、ここで気付かされた。

「あなたねぇ―――……。まぁだグジグジ……」

「なぁ……」

「……何よ?」

 フィーナの説教が始まる前に、俺は彼女の口を質問で閉ざした。
 発言を途中で遮られた彼女は、幾分不満顔を湛えている。

「何とか武器防具、道具とレベルはそのままで15年前からリスタートするって……出来ないか……なっ!?」

 最後まで言葉を言い切る前に俺はケツを思いっきり蹴られて、白い光の発する穴へと落とされていた。

「うっ……うわぁ―――っ!」

 ―――俺が最後に見たもの……それは……。

 ―――こめかみにくっきりと青筋を浮かび上がらせて、鬼の様な形相をした女神フィーナの姿だった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

処理中です...