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3.誤りのスキル
再びの「始まりの街」
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ゆっくりと、視界が映像を取り戻してゆく……。
……あ……れ?
それと同時に、薄れていた意識も急速に覚醒して行く。
どうやら俺の意識は、フィーナにあの穴へと蹴り落とされてから途切れていたようだ。
今回の覚醒は、さっきまで「再開」の為にいた空間で目覚めた時みたいに嫌な感覚では無く、どちらかと言えば眠りから覚める時の極自然なものに近かった。
ただ、何かの拍子に気絶して意識を失ったのではないとハッキリ分かったのは、正気となった俺が既に立っていたからに他ならない。普通なら気を失えば、その場に立ってはいられない筈だからな。
「……戻った……のか?」
現実を実感する為に、俺はあえて声にしてそう呟いた。
ただその呟きは正確さを欠いたものだった事を、俺はすぐに気付く事となった。
―――声が……ちょっと違う……。
俺の記憶にある自分の声。その声と、今しがた自分の口から漏れ出した声に僅かな違和感が生じていたんだ。
……そう言えば俺……15年前に戻って来たんだな―――……。
15年前と言えば、俺はもう声変わりを終えていた筈だ。
だから厳密に言えば、今の俺と15年後の俺は殆ど同じ声をしている筈だった。
だが長きに亘る冒険を経た俺の声は、今よりも掠れて野太くなってしまっていたんだろう、明らかに違いが分かる程変質していたんだ。
こうして元の声を聴くと、その事が良く分かった。
ヒンヤリとどこか静謐な雰囲気を感じて、俺は周囲に視線を巡らせてみた。
そこはそれなりに広さの有る、薄暗い石室の中だった。
何処か礼拝堂の様な、それでいて人が好んで寄り付かない空気を醸し出している。
そんな窓一つない石室が真暗でないのは、所々で不可思議な光がぼんやりと灯っているからだ。
この光は、以前の冒険で見た事がある。
魔法に近い効果を与えられた石が発光してるんだ。
大抵は神殿や、魔王の手が加えられた所なんかで用いられている技術だった。
そしてその光で浮かび上がる様に、俺の目の前にはこの部屋にたった一つの彫刻品、ゴッデウス教団の主神である女神フェスティスの像が柔らかい笑みを湛えてこちらを見つめていた。
元に戻った……と言うのは語弊がある。
俺の人生は、どちらかと言えば巻き戻されたと言った方が正しいだろう。
確かに、「生か死か」と言う選択を迫られたあの空間からは、無事に現世へと戻る事が出来た。
でもそれは、それまでに得た殆ど全ての物をかなぐり捨てての生還と言って良かった。
この世の何よりも大切で尊いもの……それは「命」だ。
そんな事は、改めて考えるまでもない。
もっともそれは、あくまでも倫理観に基づけば……だけどな。
だけど世の中には、命と同じくらい価値のあるものが存在する。
―――それは時間だ。
決して短くない時をかけて俺はゆっくりと成長して行き、最後には魔王と対峙するだけの力とそれに見合った装備を手に入れた。
こればっかりは、どれ程の大富豪でもすぐには手に入れる事なんて出来ない。
人間界でもトップクラスの、高いレベル。
どんな工匠でも再現できない、美しく強力な武器。
あらゆる攻撃から耐え、それでいて消耗する事のない不思議な防具。
世界中の商家を巡っても見つける事の出来ない、道具の数々。
これらは、俺が僅かずつ歩み、15年の歳月をかけて手にして来たものばかりだ。
そんな大切なものを、俺は命を長らえる為に捨て去ったのだ。
「はぁ―――……」
知れず深い溜息が漏れる。
よく冗談で「もう一度人生をやり直せるなら―――」なんて話をしたっけ……。
あの時はまさかこんな事になるなんて思ってもみなかったから、酒の肴として思った事を口にしていたな―――……。
俺の歩んできた道は、何処を切っても完全で間違いないものばかりじゃない。後悔も失敗も、多々含んでいた。
でもそれは、人が人生を歩んでいく上で当たり前の事だ。
そして人は、そう言った経験から次に活かして歩みを進めるんだ。
―――じゃあ、これは格好のチャンスッ!? 二度目の人生では、失敗なく後悔しない人生を送れるじゃんっ!
なんて、前向き過ぎる考えをする鳥頭を、どうやら俺は持ち合わせていない様だ。
そんな事は、ちょっと考えれば分かる。
15年をやり直す……なんて、普通の人間では耐えられる時間の長さじゃない。
望んで時間を遡る様な物好きなら兎も角、普通に考えれば15年と言う長い時間をやり直すなんて、正気の沙汰じゃない。
もしも記憶さえ完全に失っていたなら、俺は喜んでもう一度15年を生き直し、そしてその先にも進もうと思っただろう。
でも残念ながら、15年を辿った道筋を俺の記憶は確りと刻みつけている。
一度こなした経験……しかも、明らかにレベルの低い経験を再度やれと言われれば、誰だって面倒臭いと思う筈だ。
だけど、そんな愚痴をツラツラと考えていても仕方が無い。
もう賽は投げられた……15年を遡った俺は、若干15歳でありレベル5でもある駆け出し冒険者へと戻されたんだ。
自害でもしない限り歩んだ道を再び進まなければならないし、流石に自らの人生を意図的に終わらせるつもりなんて更々ない。
「……行くか」
誰が聞いている訳でも無く、それでも俺の口からは自らの背を押す様に知らずそう言葉が漏れ出していた。
「……おっと。……忘れる処だった」
女神像の安置されている場所と正対している処には、この部屋の外に唯一繋がっている出口らしきものが見て取れる。
俺は部屋の出口へ進もうとして、自分の足に急制動を掛けてその場に留まった。
こんなレベルの低い冒険初心者しか集まらない街で、上級冒険者しか持ち得ない「もの」をひけらかす事なんて出来ない。
まずはここでチェックしておかなくちゃな。
それは……「魔法袋」に他ならなかった。
魔法袋は、冒険を続けていけばいずれは辿り着くだろう「天界」にて授けられる「特殊な道具袋」である。
ただ、「袋」とは便宜上付けられた言葉で、実際は布袋とか麻袋の様な形あるものじゃあない。
どちらかと言えば「能力」に近いものだった。
「魔法袋」を与えられた者が空間に線をなぞれば、そこが魔法袋の入り口として口を開ける。
何もない中空に穴が開いた様な光景は、右も左も分からない新米冒険者が見れば恐らく大騒ぎになるのは間違いないだろう。
それ程常軌を逸した、不可思議な力なんだ。
俺は中空にスッと中指を走らせた。
すると空間に割れ目が入り、魔法袋の口が出現した。
俺はその口に両手を指し込み思いっきり左右へと広げると、その中へと頭を突っ込んだ。
天界人に聞いた話だと、この穴は「異空洞」と呼ばれる空間へと繋がっているそうだ。
人それぞれが持っている異空間らしく、他の者の異空洞と混ざる事は無いらしい。
出し入れ自由の、俺だけの異空間。
しかも、制限なしに好きなだけあらゆるものを放り込む事が出来る。
冒険も中盤以降となれば、何かと持っておきたいアイテムが増えて来る。
持ち歩くのが困難な大きさのものだって少なくなく、冒険を続けるのにこれほど心強い技能はない。
実際これを手に入れるまでは、バカでかい道具袋を背負って移動していたからな。
それだけでも重労働だったっけ。
俺は魔法袋に顔を突っ込んだまま、その空間に向けて意識を集中した。
こうする事で、頭の中にはその袋に収められている「品目」が浮かび上がる。
更に、そのリストに記されているアイテムを念じれば、手元まで引き寄せられるって寸法だ。
俺の頭の中に、夥しい数のアイテムとその個数が表示される。
「……うわ」
余りの数に、俺は思わずそう漏らしていた。
薬草各種、ポーション各種……。
これらは、一人では……どころか、大人数のパーティーでも使い切れないぐらいの数がストックされていた。
戦闘用消耗道具、移動用消耗道具もウジャウジャある。
最初の時はもったいなくて使わなかったけど、今回はどんどん使えばかなり危険を回避出来るはずだ。
武器多数、防具多数、装飾品多数……。
以前はもう使う事も無いと思っていたけど、まさかこんな形で役に立つとは思わなかったな。
更に驚きなのは……お金……「ギリー」だった。
ザックリと結構な額があるとは思っていたけど……まさかこれ程放り込んでいたなんて、思いも依らなかったな……。
以前のパーティでは、お金の管理はシラヌスが一手に引き受けていたっけ……。
クエストの褒賞や、王や領主の褒美は全てシラヌスが引き受け、ダンジョンなんかで手に入る「はした金」は他の面子で山分けしてたからな―――……。
普段の生活や装備関係でお金の事を考える必要も無かったから、まさかこれ程貯まってるとは思いも依らなかった。
少なくとも、今から始める冒険では当分お金に困るって事は無さそうだ。
新しく何かを買う必要もなさそうだし、お金を貯める為に下らないクエストを熟す必要もないって事はまだ気が楽だと言えた。
先に進む為に必要で、やりたいクエストだけ選んでいけば良いんだからな。
そこで俺は、一旦魔法袋から頭を引き抜き、自分の今の装備を確認してみた。
左腰に下げられているのは、何処の道具屋にでも置いている様な鉄の剣。
左手に装着されているのは、樫の木に獣皮のなめし皮が貼られた皮の楯。
体に装備しているのは、厚手の革で作られた革鎧。
何処からどう見ても、駆け出し冒険者の装備一式だ。
「……当分はこのままで良いか」
それを確認した俺は、少し思案したけど結局この装備のままでいる事にした。
実際、今装備可能な武器防具でもっと高価なものも魔法袋の中には放り込んであった。
でもそれをすぐに装着する事は出来ない。
見るからに駆け出しでレベルの低い俺が、分不相応な武器防具を身に付けてでもいようものならあっという間に絡まれてしまうだろう。
―――盗賊団なり、まだ弱い冒険者を狙った野党などに……だ。
女神フェスティスの与えてくれる力「レベル」は、必ずしも純粋な冒険者にのみ効果を発揮する訳じゃない。
祝福を受けたものなら、それが盗賊であろうが悪党であっても、みな平等にその効力を発揮するんだ。
そして「レベル」の差は、絶対的な力の違いとして現れる。
1つくらいの違いならばなんとか対処も出来るだろうが、3つも離れてしまえばもう太刀打ちできなくなる。
レベル5の俺が格好をつけて高価な武器防具を身に付けてでもいれば、そう言った輩が即座に目を付けて来るだろう。
それを防ぐ為には単純にレベルを上げるか、徒党を組んで行動するしかない。
つまり「パーティ」を組むと言う事だ。
そして俺がこれからしなければならないのは、正にパーティメンバーを探すと言う事に他ならない。
今の俺なら、魔法袋に入っている道具を駆使して、一人で冒険に出ても当分は大丈夫だろう。
可能な限り強力な武器を装備すれば、実際よりも幾つかレベルの底上げが出来る。
それに回復アイテムにも困らないんだ、問題など無いと言って良かった。
でも、面倒事に巻き込まれる可能性は少なくない。
暴漢や不逞の輩に襲われるのは勿論、一人でいればやたらとスカウトされたりしてそれを断るのにも面倒になる。
そう言った事を事前に回避するって意味合いもあるんだ、パーティ編成にはな。
俺は魔法袋から、100Gと薬草を数個、ポーションを数個だけ出して腰に付けた道具袋に入れた。
これ位なら、駆け出し冒険者が持っていてもおかしくない。
武器防具やアクセサリーについては、レベル上げ目的での戦闘やダンジョン探索前に装備し直すしかない。
面倒だけど、より大きな面倒を避ける為には仕方ない処置だった。
俺は簡単に準備を済ませた事を確認して、この部屋から出るべく出口らしき場所から屋外を目指し歩き出した。
……あ……れ?
それと同時に、薄れていた意識も急速に覚醒して行く。
どうやら俺の意識は、フィーナにあの穴へと蹴り落とされてから途切れていたようだ。
今回の覚醒は、さっきまで「再開」の為にいた空間で目覚めた時みたいに嫌な感覚では無く、どちらかと言えば眠りから覚める時の極自然なものに近かった。
ただ、何かの拍子に気絶して意識を失ったのではないとハッキリ分かったのは、正気となった俺が既に立っていたからに他ならない。普通なら気を失えば、その場に立ってはいられない筈だからな。
「……戻った……のか?」
現実を実感する為に、俺はあえて声にしてそう呟いた。
ただその呟きは正確さを欠いたものだった事を、俺はすぐに気付く事となった。
―――声が……ちょっと違う……。
俺の記憶にある自分の声。その声と、今しがた自分の口から漏れ出した声に僅かな違和感が生じていたんだ。
……そう言えば俺……15年前に戻って来たんだな―――……。
15年前と言えば、俺はもう声変わりを終えていた筈だ。
だから厳密に言えば、今の俺と15年後の俺は殆ど同じ声をしている筈だった。
だが長きに亘る冒険を経た俺の声は、今よりも掠れて野太くなってしまっていたんだろう、明らかに違いが分かる程変質していたんだ。
こうして元の声を聴くと、その事が良く分かった。
ヒンヤリとどこか静謐な雰囲気を感じて、俺は周囲に視線を巡らせてみた。
そこはそれなりに広さの有る、薄暗い石室の中だった。
何処か礼拝堂の様な、それでいて人が好んで寄り付かない空気を醸し出している。
そんな窓一つない石室が真暗でないのは、所々で不可思議な光がぼんやりと灯っているからだ。
この光は、以前の冒険で見た事がある。
魔法に近い効果を与えられた石が発光してるんだ。
大抵は神殿や、魔王の手が加えられた所なんかで用いられている技術だった。
そしてその光で浮かび上がる様に、俺の目の前にはこの部屋にたった一つの彫刻品、ゴッデウス教団の主神である女神フェスティスの像が柔らかい笑みを湛えてこちらを見つめていた。
元に戻った……と言うのは語弊がある。
俺の人生は、どちらかと言えば巻き戻されたと言った方が正しいだろう。
確かに、「生か死か」と言う選択を迫られたあの空間からは、無事に現世へと戻る事が出来た。
でもそれは、それまでに得た殆ど全ての物をかなぐり捨てての生還と言って良かった。
この世の何よりも大切で尊いもの……それは「命」だ。
そんな事は、改めて考えるまでもない。
もっともそれは、あくまでも倫理観に基づけば……だけどな。
だけど世の中には、命と同じくらい価値のあるものが存在する。
―――それは時間だ。
決して短くない時をかけて俺はゆっくりと成長して行き、最後には魔王と対峙するだけの力とそれに見合った装備を手に入れた。
こればっかりは、どれ程の大富豪でもすぐには手に入れる事なんて出来ない。
人間界でもトップクラスの、高いレベル。
どんな工匠でも再現できない、美しく強力な武器。
あらゆる攻撃から耐え、それでいて消耗する事のない不思議な防具。
世界中の商家を巡っても見つける事の出来ない、道具の数々。
これらは、俺が僅かずつ歩み、15年の歳月をかけて手にして来たものばかりだ。
そんな大切なものを、俺は命を長らえる為に捨て去ったのだ。
「はぁ―――……」
知れず深い溜息が漏れる。
よく冗談で「もう一度人生をやり直せるなら―――」なんて話をしたっけ……。
あの時はまさかこんな事になるなんて思ってもみなかったから、酒の肴として思った事を口にしていたな―――……。
俺の歩んできた道は、何処を切っても完全で間違いないものばかりじゃない。後悔も失敗も、多々含んでいた。
でもそれは、人が人生を歩んでいく上で当たり前の事だ。
そして人は、そう言った経験から次に活かして歩みを進めるんだ。
―――じゃあ、これは格好のチャンスッ!? 二度目の人生では、失敗なく後悔しない人生を送れるじゃんっ!
なんて、前向き過ぎる考えをする鳥頭を、どうやら俺は持ち合わせていない様だ。
そんな事は、ちょっと考えれば分かる。
15年をやり直す……なんて、普通の人間では耐えられる時間の長さじゃない。
望んで時間を遡る様な物好きなら兎も角、普通に考えれば15年と言う長い時間をやり直すなんて、正気の沙汰じゃない。
もしも記憶さえ完全に失っていたなら、俺は喜んでもう一度15年を生き直し、そしてその先にも進もうと思っただろう。
でも残念ながら、15年を辿った道筋を俺の記憶は確りと刻みつけている。
一度こなした経験……しかも、明らかにレベルの低い経験を再度やれと言われれば、誰だって面倒臭いと思う筈だ。
だけど、そんな愚痴をツラツラと考えていても仕方が無い。
もう賽は投げられた……15年を遡った俺は、若干15歳でありレベル5でもある駆け出し冒険者へと戻されたんだ。
自害でもしない限り歩んだ道を再び進まなければならないし、流石に自らの人生を意図的に終わらせるつもりなんて更々ない。
「……行くか」
誰が聞いている訳でも無く、それでも俺の口からは自らの背を押す様に知らずそう言葉が漏れ出していた。
「……おっと。……忘れる処だった」
女神像の安置されている場所と正対している処には、この部屋の外に唯一繋がっている出口らしきものが見て取れる。
俺は部屋の出口へ進もうとして、自分の足に急制動を掛けてその場に留まった。
こんなレベルの低い冒険初心者しか集まらない街で、上級冒険者しか持ち得ない「もの」をひけらかす事なんて出来ない。
まずはここでチェックしておかなくちゃな。
それは……「魔法袋」に他ならなかった。
魔法袋は、冒険を続けていけばいずれは辿り着くだろう「天界」にて授けられる「特殊な道具袋」である。
ただ、「袋」とは便宜上付けられた言葉で、実際は布袋とか麻袋の様な形あるものじゃあない。
どちらかと言えば「能力」に近いものだった。
「魔法袋」を与えられた者が空間に線をなぞれば、そこが魔法袋の入り口として口を開ける。
何もない中空に穴が開いた様な光景は、右も左も分からない新米冒険者が見れば恐らく大騒ぎになるのは間違いないだろう。
それ程常軌を逸した、不可思議な力なんだ。
俺は中空にスッと中指を走らせた。
すると空間に割れ目が入り、魔法袋の口が出現した。
俺はその口に両手を指し込み思いっきり左右へと広げると、その中へと頭を突っ込んだ。
天界人に聞いた話だと、この穴は「異空洞」と呼ばれる空間へと繋がっているそうだ。
人それぞれが持っている異空間らしく、他の者の異空洞と混ざる事は無いらしい。
出し入れ自由の、俺だけの異空間。
しかも、制限なしに好きなだけあらゆるものを放り込む事が出来る。
冒険も中盤以降となれば、何かと持っておきたいアイテムが増えて来る。
持ち歩くのが困難な大きさのものだって少なくなく、冒険を続けるのにこれほど心強い技能はない。
実際これを手に入れるまでは、バカでかい道具袋を背負って移動していたからな。
それだけでも重労働だったっけ。
俺は魔法袋に顔を突っ込んだまま、その空間に向けて意識を集中した。
こうする事で、頭の中にはその袋に収められている「品目」が浮かび上がる。
更に、そのリストに記されているアイテムを念じれば、手元まで引き寄せられるって寸法だ。
俺の頭の中に、夥しい数のアイテムとその個数が表示される。
「……うわ」
余りの数に、俺は思わずそう漏らしていた。
薬草各種、ポーション各種……。
これらは、一人では……どころか、大人数のパーティーでも使い切れないぐらいの数がストックされていた。
戦闘用消耗道具、移動用消耗道具もウジャウジャある。
最初の時はもったいなくて使わなかったけど、今回はどんどん使えばかなり危険を回避出来るはずだ。
武器多数、防具多数、装飾品多数……。
以前はもう使う事も無いと思っていたけど、まさかこんな形で役に立つとは思わなかったな。
更に驚きなのは……お金……「ギリー」だった。
ザックリと結構な額があるとは思っていたけど……まさかこれ程放り込んでいたなんて、思いも依らなかったな……。
以前のパーティでは、お金の管理はシラヌスが一手に引き受けていたっけ……。
クエストの褒賞や、王や領主の褒美は全てシラヌスが引き受け、ダンジョンなんかで手に入る「はした金」は他の面子で山分けしてたからな―――……。
普段の生活や装備関係でお金の事を考える必要も無かったから、まさかこれ程貯まってるとは思いも依らなかった。
少なくとも、今から始める冒険では当分お金に困るって事は無さそうだ。
新しく何かを買う必要もなさそうだし、お金を貯める為に下らないクエストを熟す必要もないって事はまだ気が楽だと言えた。
先に進む為に必要で、やりたいクエストだけ選んでいけば良いんだからな。
そこで俺は、一旦魔法袋から頭を引き抜き、自分の今の装備を確認してみた。
左腰に下げられているのは、何処の道具屋にでも置いている様な鉄の剣。
左手に装着されているのは、樫の木に獣皮のなめし皮が貼られた皮の楯。
体に装備しているのは、厚手の革で作られた革鎧。
何処からどう見ても、駆け出し冒険者の装備一式だ。
「……当分はこのままで良いか」
それを確認した俺は、少し思案したけど結局この装備のままでいる事にした。
実際、今装備可能な武器防具でもっと高価なものも魔法袋の中には放り込んであった。
でもそれをすぐに装着する事は出来ない。
見るからに駆け出しでレベルの低い俺が、分不相応な武器防具を身に付けてでもいようものならあっという間に絡まれてしまうだろう。
―――盗賊団なり、まだ弱い冒険者を狙った野党などに……だ。
女神フェスティスの与えてくれる力「レベル」は、必ずしも純粋な冒険者にのみ効果を発揮する訳じゃない。
祝福を受けたものなら、それが盗賊であろうが悪党であっても、みな平等にその効力を発揮するんだ。
そして「レベル」の差は、絶対的な力の違いとして現れる。
1つくらいの違いならばなんとか対処も出来るだろうが、3つも離れてしまえばもう太刀打ちできなくなる。
レベル5の俺が格好をつけて高価な武器防具を身に付けてでもいれば、そう言った輩が即座に目を付けて来るだろう。
それを防ぐ為には単純にレベルを上げるか、徒党を組んで行動するしかない。
つまり「パーティ」を組むと言う事だ。
そして俺がこれからしなければならないのは、正にパーティメンバーを探すと言う事に他ならない。
今の俺なら、魔法袋に入っている道具を駆使して、一人で冒険に出ても当分は大丈夫だろう。
可能な限り強力な武器を装備すれば、実際よりも幾つかレベルの底上げが出来る。
それに回復アイテムにも困らないんだ、問題など無いと言って良かった。
でも、面倒事に巻き込まれる可能性は少なくない。
暴漢や不逞の輩に襲われるのは勿論、一人でいればやたらとスカウトされたりしてそれを断るのにも面倒になる。
そう言った事を事前に回避するって意味合いもあるんだ、パーティ編成にはな。
俺は魔法袋から、100Gと薬草を数個、ポーションを数個だけ出して腰に付けた道具袋に入れた。
これ位なら、駆け出し冒険者が持っていてもおかしくない。
武器防具やアクセサリーについては、レベル上げ目的での戦闘やダンジョン探索前に装備し直すしかない。
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