死霊術士むーたんのしあわせごはん~カーバンクル妻は不器用夫に「むぐぐ」と言わせたい

マロンちゃん

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第20話 幸運のつくね鍋②

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# 第20話 幸運のつくね鍋②

 MR.ハウスマスターから渡された大量の赤いコインを前に、私は考えた。前回の自暴自棄な賭け方では、また全部失ってしまう。

「みんな、これを分けて持って」

 私はコインを4等分し、チココ、エリアナ、クルーシブに配った。

「え? ムウナ様の分だけでいいんじゃ...」

 エリアナが遠慮がちに言う。

「私の運じゃ心もとないから、みんなの力を借りるわ」

 そして、重要な指示を出す。

「別々の賭博場で勝負して。同じ場所にいたら、チココの強運に全部吸い取られそうだから」

「はは、そんなことないよ」

 チココが苦笑いしながらも、私そっくりのバニーガールの頭を撫で続けている。

 イライラ...いえ、集中しなさい、ムウナ。

---

 私が選んだのは、最も地味な「ビンゴルーム」だった。派手さはないが、運だけでなく戦略も必要なゲーム。

「B-7」

 アナウンスを聞きながら、私は手堅く最小単位でベットし続ける。大勝ちは狙わない。とにかく赤いコインを青いコインに変換することが目的だ。

「N-42」

 また外れ。でも、焦らない。ゆっくり、確実に。

 30分後、私の手元には使用済みを示す青いコインが少しずつ増えていた。大きな勝利はないが、壊滅的な負けもない。

「G-55...リーチ!」

 初めてのリーチ。心臓がドキドキする。次の数字は...

「O-71」

 違った。でも、これでいい。地道に、コツコツと。

 その時、入り口から情けない声が聞こえてきた。

「ムウナ様...」

 振り返ると、そこには見るも無残な姿のクルーシブがいた。上着もベルトも靴も、全て質に入れたのか、薄汚れたシャツ一枚。

「全部...全部なくなりました...」

「あんた、暗殺者でしょう? なんでギャンブルなんかで身ぐるみ剥がされてるのよ」

 私は呆れ返った。

「スロットで...目押しは完璧にできるんです。暗殺者として鍛えた動体視力と反射神経があれば...」

 クルーシブが力なく続ける。

「でも、最近の機械は確率機になってて...目押ししても、内部で当たりが決まってないと揃わない仕様で...」

「知識不足ね」

「最後は特大スロットに全部賭けたんですが...リールが早すぎて、さすがの俺でも...」

 なんとも情けない。でも、私も人のことは言えない。

「ほら」

 私は青いコインを数枚渡した。

「これで装備を返してもらいなさい。それと...」

 遠くから黄色い歓声が聞こえてくる。間違いなくチココのいるカジノからだ。

「あっちに行って、チココからもらってきなさい! きっと山ほど勝ってるから」

「でも、この格好で...」

「知らないわよ! さっさと行く!」

 クルーシブが肩を落として去っていった後、私は再びビンゴに集中した。

---

 2時間後、ギャンブルタイムが終了した。

 景品交換所に集まると、それぞれの成果が明らかになった。

 私の籠には、高級な挽き肉、新鮮なタケノコ、上質な昆布、そして普通の野菜類。基本的だが、良質な食材たち。地道に稼いだ青いコインでは、これが精一杯だった。

 エリアナは私と同じくらい。彼女も堅実にスロットを回していたようだ。

「私も派手な勝利はなかったですけど、負けもしませんでした」

 エリアナが安堵の表情で報告する。

 そして...

「チョコちゃーん! すごかったね!」

「チココ様、私たちのヒーローよ!」

 チココが現れた瞬間、場の空気が一変した。

 大量のスタッフが、信じられないほどの食材を運んでいる。

 巨大なドラゴンの肉塊、宝石のように輝く古代魚の卵、伝説級の怪鳥の鶏肉、そしてSランクモンスターの豚肉。どれも滅多に手に入らない超高級食材ばかり。

「やあ、みんな! 今日は本当についてたよ!」

 チココの周りには、バニーガール姿の幼女たちがまとわりつき、高級ドレスを着た女性たちが腕に絡みついている。

 私そっくりのバニーガールに至っては、チココの肩に乗っている始末。

 カチン。

「ムウナ、見て見て! こんなに勝っちゃった!」

 無邪気に自慢するチココ。悪気はないのは分かっているけど...

 その時だった。

『緊急アナウンス! 緊急アナウンス! 本日、10年に1度の超特大ジャックポットが出ました! 場所は特大スロットコーナー! 当選者は...』

 会場中が静まり返る。

『クルーシブ様です! おめでとうございます!』

「は?」

 全員が同時に声を上げた。

 しばらくして、成金趣味全開の黄金のローブを着て、金塊のアクセサリーをジャラジャラつけたクルーシブが現れた。

「いやー、人生何が起こるか分かりませんね」

 さっきまでの情けない姿はどこへやら、完全に舞い上がっている。

「チココ様から借りたコインで、ダメ元で特大スロットに挑戦したんです。リールが高速すぎて目押しは無理でしたが...」

 クルーシブが興奮気味に続ける。

「適当にボタンを押したら、まさかの大当たりで...確率機だからこそ、完全に運だけで当たったんです!」

 そして信じられない光景が起きた。

 チココに群がっていた女性たちが、蜘蛛の子を散らすようにクルーシブへと走っていく。

「きゃー! クルーシブ様素敵!」

「お金持ちって最高!」

「私、前から狙ってたんです~」

 あっという間に、クルーシブは女性たちに囲まれてしまった。

 チココがポカンと口を開けて、その様子を見ている。私そっくりのバニーガールだけが、不思議そうに肩に残っていた。

「現金なものね...」

 私は小さくため息をついた。でも、少しスッキリした気分も否めない。
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