冷血青年

海月大和

文字の大きさ
23 / 23

エピローグ

しおりを挟む
 明くる日の朝、6人の教会の狩人(ハンター)たちがケネス・オルブルームの元居城に辿り着き、悪しきヴァンパイアを討伐せんと突入した。しかし、屋敷の中はもぬけの殻。彼らは既に対象が逃走したと考え屋敷内とその周辺の捜索を開始した。

「隊長! 少しいいですか? ちょっと見てもらいたいものが」

 白い衣の上に外套を羽織った若い狩人が年長の狩人に呼びかける。

「分かった。今行く」

 屋敷前で部下の報告を待っていた隊長格の男が、別の狩人からの報告を切り上げて頷いた。

 馬に乗って案内された場所は村のはずれにある開けた場所で、そこには木の十字架を刺して作った墓と思わしきものが多数あった。その数、ざっと30弱。

「まだ新しいな。というより作ったばかりといったところか」

 墓に彫られた名前をなぞり、隊長格の男は呟いた。無人の村に作られたばかりの墓。今回の事件に関係しているとみて間違いないだろう。

「村の責任者の家に行って名簿を探してこい。生存者の情報が分かるかもしれん」
「ハッ!」

 若い狩人は歯切れの良い返事を返して馬に飛び乗った。そうして村長宅と思われる家から住人の名簿を持って帰ってきて、さっそく照合を行った。

「どうだ? なにか分かったか?」
「それが……」

 照らし合わせが終わった頃を見計らって声をかけた隊長に、若い狩人は困ったような顔で言う。

「いないんです」
「なに?」
「ここには住人全ての墓があります。村人の生存者はいない……と考えられます」
「なんだと?」

 隊長は軽く目を見開いた。それはおかしなことだ。墓がある以上、それを作った者がいなければならない。てっきり生き延びた村人の誰かだと思ったのだが。

「自分の墓を作った奴でもいたのか? いや、まさかな」

 それとも村人でない何者かが墓を建てたか。だとしたら、それは一体誰だ?

 隊長は村と屋敷を振り返り、遠くを見るように目を眇めた。



 同時刻、一本の街道を幌馬車が走っていた。御者の男は商品を別の街に売りに行くため、朝早くから自分の住む街から出てきていた。

 途中、道の真ん中で大きく手を振る男がいて、御者は仕方なく馬を止めることになった。

 男は年の頃20半ばといったところで、紺色のスラックスに白いシャツ、スラックスと同色のベストの上に外套を羽織っていた。

「兄ちゃん、道の真ん中にいたら危ないよ」
「やあ、すみません。馬の足音が聞こえたのでつい」

 淡い金髪の男は申し訳無さそうに眉尻を下げて謝った。御者の男はまあ、いいがね、と男の身なりを確かめる。物取りの類ではなさそうだが。

「申し訳ありませんが次の街まで乗せていってもらえませんか? 駄賃はきちんとお支払いしますので」

 そう言って男は胸元からちゃりちゃりと音を立てる小袋を取り出した。

「金はあるんだな?」
「はい」
「分かった。乗ってきな」
「ありがとうございます」

 いささか軽率かと思ったが、その分多めに運賃を取ってやろうと御者の男は企んだ。金を払わずに逃げようとしたらふん捕まえて憲兵にでも突き出してやろう。

「あんた、名前は?」

 名を聞かれた男は人好きのする笑みを浮かべて答える。

「リチャードといいます。どうぞよろしく」
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

crazy’s7@体調不良不定期更新中

続き

【物語の魅力】
この物語では前述したように、主人公が際立っている。周りの登場人物一人一人と対峙しているというよりは、何かを企んでいる村人たちという印象が強く、名前はあるものの主人公に焦点が合った物語だと感じた。タイトルでは想像できない何かが起きるのは間違いない。だが、何が起きるのか中々分からないところが魅力だと思う。気になってつい読む手が止まらなくなる、巧い書き方だと思われる。7話あたりから本格的に、オリジナル設定部分が明かされていく。無理のない設定なので、すんなりと納得がいく。しかし、物語はすんなりとはいかない。

【この物語の見どころ】
この物語には、転換期が数度あるように感じる。読者はきっとその時が訪れるまで気づかないだろう。そのくらい巧い書きかたがなされており、あっと驚くに違いない。多くを語るとネタバレになったしまうので、書くことは出来ないが、意外な展開となっていく物語だ。村の秘密がわかっても、その先の展開は予測不能であった。現在10話にて、この先どうなっていくかも、まだ分かっていない。匂わせ部分もあるので、どんな展開になっていくのか想像しながら読むのも面白いと思われる。

果たしてあなたの予想は当たってただろうか?
是非お手に取られてみてくださいね。お奨めです。

2021.05.02 海月大和

こちらにもありがとうございます。作品の魅力をがっつり語っていただけてとってもありがたいです!モチベーションが上がります!

解除
crazy’s7@体調不良不定期更新中

【物語は】
主人公がある馬車に乗ったことがターニングポイントのようである。この後、ある女性が知り合いに似ているという話から一転、馬車は盗賊に襲われ主人公の素性が明らかになってしまう。そこで、この物語の世界観も分かっていく。盗賊に襲われる場面は戦闘シーンが丁寧で分かりやすく、主人公の戦闘能力の強さを裏付ける大事なシーンでもある。素性がバレてしまったことが、運のつきなのかそれとも…。

【登場人物の魅力】
主人公はこの世界の中で、一目置かれるほどの特殊な職業の者ではある。しかし奢ることもなく、良心を持った人物だと感じる。というのも、この世界の中には用心棒として、金をせびる様な人もいるし、主人公と同じ立場であってのそういうことをする人がいるからである。彼はとても冷静で、余計な争いを好まないようにも感じる。賢い人という印象。この物語では、たくさんの登場人物が出ては来るが、馬車に同乗した人々や村の人たちという一括りとして考えることが出来る。つまり、主人公と主人公を巡る人々という感じがする。それは、主人公が際立つ物語という意味合いである。主人公が何を考えているのか分からないミステリアスな部分もあり、物語の先の読めない仕様となっている気がした。

全体的に登場人物が多い作品ではあるが、一括りとして考えると混乱はしない。

解除

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。