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山越えの果てに、癒しの香りを
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都を離れて、何日が経ったのか。
追放の印が押された通行証を懐に、シュウランはただ黙々と山道を歩いていた。
かつての弟子に陥れられ、宮廷を追われた日。身にまとっていた薬師の外衣も剥がされ、今は粗末な旅装ひとつ。
それでも彼の足取りは、不思議と軽かった。
――もう、肩書きも、栄誉もいらぬ。ただ静かに、誰かの役に立てる場があればいい。
目指していたのは、かつて恩人に教わった「霊気と水脈が交わる地」、雲渓と呼ばれる村だった。
山奥にあり、地図にも載らぬ小さな集落。だが、薬草の自生地として名高く、気候も穏やかで隠棲には最適だという。
いくつもの峠を越え、雨に打たれ、靴を泥に取られながら、それでも彼は進んだ。
疲れ果てた足を引きずってたどり着いた先に――霧の中から、ひっそりと現れた村があった。
「ここが……雲渓村ですか」
山霧に包まれたその村は、石積みの塀と竹の生け垣に囲まれ、木造の家々が段々に並んでいた。
薬草の香りが風に乗って漂い、土の匂いと混ざり合って、どこか懐かしい空気を醸していた。
村の者たちは、最初こそ警戒の眼差しを向けたが、怪我人を手当てしたり、簡単な薬湯を分けたりするうちに、次第に心を開いていった。
なかでも、村長ホウリョウとの出会いは大きかった。
「ただの旅人じゃないな。目を見ればわかる。あんた、よほどのことを経験してきた」
ホウリョウの紹介で空き家を借りると、シュウランはすぐに店の準備を始めた。
山から薬草を採り、簡素な炉を据え、茶葉を乾かす棚を設えた。
看板には『霧雲堂』の三文字。
「薬を煎じ、茶として振る舞う。それが、わたしに残された最後の技です」
ただの店ではない。
疲れた者が休み、悩める者が語り、病める者が癒される――そんな場所にしたかった。
初日は、誰も来なかった。
二日目は、道を尋ねる老婆が一人。
三日目、ようやく一人の少女が「喉が渇いた」と立ち寄った。
その少女こそが、後に弟子となるシャオケイである。
「おじさん、なんか変な匂いするけど……お茶?」
「ええ。今日は桂皮と甘草を煎じてみました。少し、飲んでみますか?」
少女が一口飲んだ瞬間、表情が一変した。
「……うまい! なにこれ! あったかくて、体がふわってする!」
「はは、効きすぎたかもしれませんね」
その日から、ぽつりぽつりと客が訪れるようになった。
かつてのような名声はない。
だが、湯気の向こうに広がる笑顔と、「ありがとう」の言葉こそが、今の彼にとって何よりの褒美だった。
こうして、山奥の小さな村に――香りと癒しの店が産声を上げたのである。
追放の印が押された通行証を懐に、シュウランはただ黙々と山道を歩いていた。
かつての弟子に陥れられ、宮廷を追われた日。身にまとっていた薬師の外衣も剥がされ、今は粗末な旅装ひとつ。
それでも彼の足取りは、不思議と軽かった。
――もう、肩書きも、栄誉もいらぬ。ただ静かに、誰かの役に立てる場があればいい。
目指していたのは、かつて恩人に教わった「霊気と水脈が交わる地」、雲渓と呼ばれる村だった。
山奥にあり、地図にも載らぬ小さな集落。だが、薬草の自生地として名高く、気候も穏やかで隠棲には最適だという。
いくつもの峠を越え、雨に打たれ、靴を泥に取られながら、それでも彼は進んだ。
疲れ果てた足を引きずってたどり着いた先に――霧の中から、ひっそりと現れた村があった。
「ここが……雲渓村ですか」
山霧に包まれたその村は、石積みの塀と竹の生け垣に囲まれ、木造の家々が段々に並んでいた。
薬草の香りが風に乗って漂い、土の匂いと混ざり合って、どこか懐かしい空気を醸していた。
村の者たちは、最初こそ警戒の眼差しを向けたが、怪我人を手当てしたり、簡単な薬湯を分けたりするうちに、次第に心を開いていった。
なかでも、村長ホウリョウとの出会いは大きかった。
「ただの旅人じゃないな。目を見ればわかる。あんた、よほどのことを経験してきた」
ホウリョウの紹介で空き家を借りると、シュウランはすぐに店の準備を始めた。
山から薬草を採り、簡素な炉を据え、茶葉を乾かす棚を設えた。
看板には『霧雲堂』の三文字。
「薬を煎じ、茶として振る舞う。それが、わたしに残された最後の技です」
ただの店ではない。
疲れた者が休み、悩める者が語り、病める者が癒される――そんな場所にしたかった。
初日は、誰も来なかった。
二日目は、道を尋ねる老婆が一人。
三日目、ようやく一人の少女が「喉が渇いた」と立ち寄った。
その少女こそが、後に弟子となるシャオケイである。
「おじさん、なんか変な匂いするけど……お茶?」
「ええ。今日は桂皮と甘草を煎じてみました。少し、飲んでみますか?」
少女が一口飲んだ瞬間、表情が一変した。
「……うまい! なにこれ! あったかくて、体がふわってする!」
「はは、効きすぎたかもしれませんね」
その日から、ぽつりぽつりと客が訪れるようになった。
かつてのような名声はない。
だが、湯気の向こうに広がる笑顔と、「ありがとう」の言葉こそが、今の彼にとって何よりの褒美だった。
こうして、山奥の小さな村に――香りと癒しの店が産声を上げたのである。
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