追放された宮廷錬丹術士、山奥で仙人ライフ始めます 〜薬草を煎じてるだけなのに、王女や弟子が次々やってくる件〜

甘夏蜜柑

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村を襲う謎の病と薬草の秘密

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 霧雲堂の朝は、いつも薬草を煎じる香りから始まる。しかし今朝の空気には、どこか緊張の気配が漂っていた。

「師匠、今朝また一人、倒れたそうです。リェンおばあさんが畑で急に動けなくなって……」

 シャオケイが慌てた様子で駆け込んできた。彼の手には、村の診療記録がぎっしりと書かれた帳面が握られている。

「脈が乱れ、熱があり、手足にしびれ……。これはただの体調不良ではありません」

 シュウランは静かに立ち上がり、調合棚から数種の薬材を選びながら言った。

「これは病だ。原因を突き止めなければ、ただ煎じ茶を振る舞っていても、根本は解決しない」

 二人はそのままリェンの家を訪ねた。寝台の上には、蒼白な顔で眠る老婆が横たわっていた。彼女の脈を取ったシュウランの眉がわずかに動く。

「体内に、微かな毒素の痕跡がある……だが、これは自然由来のもの。おそらく薬草に含まれていた成分が、体質によって悪影響を及ぼしたのだ」

「薬草が原因ですか?」

「可能性はある。最近、雲渓村の薬草の育ち方が以前と違う。原因は、気候変動か、あるいは……外部からの混入か」

 シュウランは、その足で村の薬草採取地へと向かった。山の中腹、雲が流れ込む谷あいに広がる薬草畑。そこで見つけたのは、一本の異様な色をした薬草だった。

「これは……チンリェン草。高地にしか生えない薬草のはず。なぜ、ここに?」

 その葉は他の薬草と見分けがつきにくいが、体質によっては毒と化すこともある。リェンの体調不良の原因は、これに違いなかった。

「自然に生えてきたのか? いや、意図的に混ざった可能性もある……」

「師匠、まさか誰かが……?」

「断定はできない。ただ、このまま放っておけば被害は拡大する。村全体を守るためには、薬草の管理方法から見直す必要がある」

 その夜、霧雲堂では新たな薬茶の調合が行われた。チンリェン草に対抗する解毒作用を持つ花・リュウカを主材に、胃腸を整える薬根と、神経を和らげる樹皮を加える。

「この薬茶は、一度きりの対処ではない。これからは、薬草を育てる場所、収穫する時期、保存の仕方まで、すべて見直すことが必要になる」

 シュウランは、煎じた茶をリェンに飲ませ、しばらく様子を見る。

 しばらくすると、リェンの表情が和らぎ、うっすらと目を開けた。

「……ああ、楽になった……ありがとうよ、シュウランさん……」

 シャオケイがほっと息をつく中、シュウランは静かに頷いた。

「この村には、古くからの知恵がある。だが、それだけでは足りない時代が来ている。伝統に敬意を払いながら、現代の知識で補っていかねばならない」

 翌日、シュウランは村人たちを集め、薬草の取り扱いについての講習会を開いた。

「これがチンリェン草。見分けがつきにくいですが、特徴はあります。香り、葉脈の走り方、根の色。よく覚えておいてください」

 村人たちは真剣な表情で話に耳を傾けていた。その中心には、村長ホウリョウの姿もあった。

「シュウラン殿、君の知識と姿勢は、我らが守ってきた伝統と共に歩めると信じている。これからも雲渓村を、共に守っていこう」

 その言葉に、シュウランは深く一礼した。

「はい。私はこの村の一員です。皆と共に、この地に根を張っていきます」

 かつて宮廷に仕え、国の精鋭として生きてきた錬丹術士が、今は一つの村で薬草と向き合い、人々と共に生きる。

——その胸には、確かな誇りと、静かな決意があった。
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