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お茶会は突然に 〜カフェ霧雲堂、王女ご来店〜
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朝から爽やかな風が吹き抜け、雲渓村は今日も静かに始まっていた。
薬草カフェ「霧雲堂」でも、主人のシュウランが朝の一煎を淹れている。薬草は、昨夕に裏山で摘んできた金蓮花と小茴香。ほんのりと甘く、すっきりとした香りが立ち上がる。
「今日のは少し甘めですね、師匠」
湯気越しに言葉をかけてきたのは、見習いの少女・シャオケイ。
「風が乾いてますからね。喉に優しいほうがいいでしょう」
そんな他愛ない会話を交わしていると、不意に軋む音がした。
霧雲堂の扉が、慎重に、しかし堂々と開けられたのだ。
「……失礼いたしますわ」
入ってきたのは、ひときわ華やかな少女だった。緋色の刺繍が施された薄絹の上着に、白磁の肌。金の髪飾りが揺れ、瞳は宝石のように碧く澄んでいる。
「おや、また珍客ですね」
「し、師匠!? この方は…!?」
「お初にお目にかかります。わたくし、霊真王国の第四王女、カリン・シャオファと申しますわ」
シャオケイが目を丸くする中、シュウランは何食わぬ顔で一言。
「……まあ、薬草茶を飲みに来た王女というのは初めてですね。歓迎しますよ」
「まあ! 気取らずに話してくださるのですね。ここでは、貴方が王、ですものね?」
そう言ってにこりと笑うカリンは、村人にはない洗練された雰囲気を纏っていた。それでいて、どこか人懐っこく、威圧感を与えない。
「この霧雲堂の評判、最近王都でも噂になっておりますの。“煎じるだけで癒される薬草茶”――お味、ぜひ確かめさせていただきたいと思いまして」
「では、特別なものを一煎お出ししましょう」
シュウランは棚から丁寧に選び取った茶葉を取り出し、湯を沸かし始めた。
選んだのは、黄花薄荷と紅棗を合わせた“心安茶”。不眠や緊張に効くとされる、霊真王家でも秘蔵されてきたブレンドだった。
湯を注ぐと、ふわりと金色の香りが広がり、店内が温かく包まれる。
「……なんて優しい香り。まるで、母に抱かれているような……」
カリンは湯呑を両手で抱え、うっとりとした表情を浮かべた。
「甘すぎず、渋すぎず、けれど芯がある味……。これが、シュウラン様の薬茶なのですね」
「薬というより、身体の声を聞いているだけです。煎じるのは、その手助けに過ぎません」
そんな会話を聞きながら、シャオケイは厨房の奥でそわそわしていた。
(王女様にお茶を出すなんて、大丈夫かな……)
その様子を見て、カリンがにこやかに声をかける。
「あなたが、シュウラン様のお弟子さん?」
「は、はいっ! シャオケイと申しますっ」
「ふふ、とても可愛らしいわね。羨ましいですわ、師匠と一緒に薬草の道を歩めるなんて」
そう言って、カリンはお茶菓子の蒸し団子をひとつ口に運ぶ。
「これも……とても優しい味。薬と聞いて身構えていましたけれど、これは“癒し”ですわね」
「うちの団子は、芍薬の花粉と蜂蜜を練り込んであります。薬効を強調しすぎると、日常には馴染みません。効くが、構えさせない――それが私の流儀です」
カリンはうっとりと笑い、ふと天井を見上げる。
「まるでここだけ、王都とは違う空気が流れているよう。……できることなら、ずっとここにいたいですわ」
「王女が山奥に篭るのは、国が心配しますね」
「ええ、もちろんわかっておりますわ。でも……時々、こうしてお茶をいただきに来てもよろしいですか?」
「薬草を煎じてるだけの場所です。それでもよければ、いつでもいらしてください」
その言葉に、カリンはぱっと笑顔を浮かべた。
この日を境に、王女カリンの“お忍び来訪”は、村人たちの間でも噂になっていく。
「なんでも、王女様が田舎の茶屋に通ってるらしいぞ」「何を飲んでるんだ?」「薬草で姫の心も落ち着くらしい」――。
シュウランが、ただ薬草を煎じているだけで、人が集まり、癒されていく。
今日もまた、静かに、しかし確実に、「霧雲堂」の名は広がっていくのだった。
薬草カフェ「霧雲堂」でも、主人のシュウランが朝の一煎を淹れている。薬草は、昨夕に裏山で摘んできた金蓮花と小茴香。ほんのりと甘く、すっきりとした香りが立ち上がる。
「今日のは少し甘めですね、師匠」
湯気越しに言葉をかけてきたのは、見習いの少女・シャオケイ。
「風が乾いてますからね。喉に優しいほうがいいでしょう」
そんな他愛ない会話を交わしていると、不意に軋む音がした。
霧雲堂の扉が、慎重に、しかし堂々と開けられたのだ。
「……失礼いたしますわ」
入ってきたのは、ひときわ華やかな少女だった。緋色の刺繍が施された薄絹の上着に、白磁の肌。金の髪飾りが揺れ、瞳は宝石のように碧く澄んでいる。
「おや、また珍客ですね」
「し、師匠!? この方は…!?」
「お初にお目にかかります。わたくし、霊真王国の第四王女、カリン・シャオファと申しますわ」
シャオケイが目を丸くする中、シュウランは何食わぬ顔で一言。
「……まあ、薬草茶を飲みに来た王女というのは初めてですね。歓迎しますよ」
「まあ! 気取らずに話してくださるのですね。ここでは、貴方が王、ですものね?」
そう言ってにこりと笑うカリンは、村人にはない洗練された雰囲気を纏っていた。それでいて、どこか人懐っこく、威圧感を与えない。
「この霧雲堂の評判、最近王都でも噂になっておりますの。“煎じるだけで癒される薬草茶”――お味、ぜひ確かめさせていただきたいと思いまして」
「では、特別なものを一煎お出ししましょう」
シュウランは棚から丁寧に選び取った茶葉を取り出し、湯を沸かし始めた。
選んだのは、黄花薄荷と紅棗を合わせた“心安茶”。不眠や緊張に効くとされる、霊真王家でも秘蔵されてきたブレンドだった。
湯を注ぐと、ふわりと金色の香りが広がり、店内が温かく包まれる。
「……なんて優しい香り。まるで、母に抱かれているような……」
カリンは湯呑を両手で抱え、うっとりとした表情を浮かべた。
「甘すぎず、渋すぎず、けれど芯がある味……。これが、シュウラン様の薬茶なのですね」
「薬というより、身体の声を聞いているだけです。煎じるのは、その手助けに過ぎません」
そんな会話を聞きながら、シャオケイは厨房の奥でそわそわしていた。
(王女様にお茶を出すなんて、大丈夫かな……)
その様子を見て、カリンがにこやかに声をかける。
「あなたが、シュウラン様のお弟子さん?」
「は、はいっ! シャオケイと申しますっ」
「ふふ、とても可愛らしいわね。羨ましいですわ、師匠と一緒に薬草の道を歩めるなんて」
そう言って、カリンはお茶菓子の蒸し団子をひとつ口に運ぶ。
「これも……とても優しい味。薬と聞いて身構えていましたけれど、これは“癒し”ですわね」
「うちの団子は、芍薬の花粉と蜂蜜を練り込んであります。薬効を強調しすぎると、日常には馴染みません。効くが、構えさせない――それが私の流儀です」
カリンはうっとりと笑い、ふと天井を見上げる。
「まるでここだけ、王都とは違う空気が流れているよう。……できることなら、ずっとここにいたいですわ」
「王女が山奥に篭るのは、国が心配しますね」
「ええ、もちろんわかっておりますわ。でも……時々、こうしてお茶をいただきに来てもよろしいですか?」
「薬草を煎じてるだけの場所です。それでもよければ、いつでもいらしてください」
その言葉に、カリンはぱっと笑顔を浮かべた。
この日を境に、王女カリンの“お忍び来訪”は、村人たちの間でも噂になっていく。
「なんでも、王女様が田舎の茶屋に通ってるらしいぞ」「何を飲んでるんだ?」「薬草で姫の心も落ち着くらしい」――。
シュウランが、ただ薬草を煎じているだけで、人が集まり、癒されていく。
今日もまた、静かに、しかし確実に、「霧雲堂」の名は広がっていくのだった。
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