21 / 38
村を揺らす流行風邪と、霧雲堂の奮闘
しおりを挟む
初霜の知らせが届いたその朝、雲渓村は薄い霧に包まれていた。空気は冷たく、吐いた息が白く広がる。
霧雲堂の戸を開けると、真っ先に飛び込んできたのは、くしゃみの連発だった。
「へくしっ、へっ……くしゅっ!」
「うわ、シャオケイ、大丈夫ですか?」
シュウが眉をしかめて声をかけると、シャオケイは鼻をすすりながら頷いた。
「だ、大丈夫ですぅ……たぶん、ちょっと寒気がしただけで……」
「どう見ても風邪ですね。熱は?」
「うぅ……ちょっと、あるかも……です」
シュウはため息をつきながら、彼女を奥の座敷へ寝かせ、あっという間に漢方煎じ薬の準備に取りかかった。
「まったく……弟子が寝込んでどうするんですか。まあ、寒さにはまだ慣れていないでしょうからね」
薬草棚からカッコン、カンゾウ、シナモンの樹皮などを取り出し、慎重に量を量って茶器に入れていく。
シュウの手際は無駄がなく、音も静かだ。まるで儀式のように、薬草が一つ一つ丁寧に組み合わされていく。
その日の午後。
店を訪れた村人から、気になる話が舞い込んできた。
「なんだか、村の子どもたちが次々と風邪で寝込んでるんですよ」
「わしの孫も昨日から熱が出てなあ……。お茶屋さん、なにか効く薬草はないかのう?」
気づけば、店の入り口には、薬草茶を求める村人たちが列を成していた。
「ふむ……流行風邪ですか」
シュウは顎に手を当て、すぐに対応策を思案した。
この手の風邪は、乾燥と寒暖差が引き金になることが多い。体を温めつつ、呼吸器を潤す薬草が必要だ。
「よし、特製の“風邪茶”を作りましょう。材料はショウガ、キキョウ、レンギョウ、それに乾燥したナツメも加えよう」
「それって、飲みやすいですかね?」
「飲ませるのは子どもが多いですからね。甘味を加えるために、蜂蜜も少し入れましょう。味と効果の両立ですね」
こうして、霧雲堂は臨時で「薬草風邪対策ブレンド」の提供を始めた。
店内には、咳をしながらも笑顔を見せる村の親子たちが集まる。
奥では、だいぶ熱の下がったシャオケイが、布団に包まれながらメニュー表に新しいイラストを描いていた。
「“風邪茶セット”、あったかいおにぎり付き、子どもには飴ちゃんのおまけ……うん、これでいこう」
シュウがその様子を見て、くくっと喉の奥で笑った。
「あなたもどんどん、店員らしくなってきましたね」
「えっへへ……褒められた?」
「ふふ、まだまだですよ」
数日後。
流行風邪は、霧雲堂の風邪茶と看病の甲斐もあり、徐々に収束に向かっていた。
村人たちは口々に感謝の言葉を述べ、差し入れの野菜や干し柿などを置いていった。
霧雲堂の軒先では、日向ぼっこ中のウーロンが大きく伸びをして、くるんと体を丸めた。
シュウはその隣で、ちびちびと茶をすすりながら、空を見上げる。
「……風邪ひとつで、これほど村に動きがあるとはね。ですが、悪くない」
暖かい茶の香りが、湯気とともに空へと舞い上がる。
その香りは、霧の中でもほんのりと甘く、どこか懐かしいような気配を残していた。
霧雲堂の戸を開けると、真っ先に飛び込んできたのは、くしゃみの連発だった。
「へくしっ、へっ……くしゅっ!」
「うわ、シャオケイ、大丈夫ですか?」
シュウが眉をしかめて声をかけると、シャオケイは鼻をすすりながら頷いた。
「だ、大丈夫ですぅ……たぶん、ちょっと寒気がしただけで……」
「どう見ても風邪ですね。熱は?」
「うぅ……ちょっと、あるかも……です」
シュウはため息をつきながら、彼女を奥の座敷へ寝かせ、あっという間に漢方煎じ薬の準備に取りかかった。
「まったく……弟子が寝込んでどうするんですか。まあ、寒さにはまだ慣れていないでしょうからね」
薬草棚からカッコン、カンゾウ、シナモンの樹皮などを取り出し、慎重に量を量って茶器に入れていく。
シュウの手際は無駄がなく、音も静かだ。まるで儀式のように、薬草が一つ一つ丁寧に組み合わされていく。
その日の午後。
店を訪れた村人から、気になる話が舞い込んできた。
「なんだか、村の子どもたちが次々と風邪で寝込んでるんですよ」
「わしの孫も昨日から熱が出てなあ……。お茶屋さん、なにか効く薬草はないかのう?」
気づけば、店の入り口には、薬草茶を求める村人たちが列を成していた。
「ふむ……流行風邪ですか」
シュウは顎に手を当て、すぐに対応策を思案した。
この手の風邪は、乾燥と寒暖差が引き金になることが多い。体を温めつつ、呼吸器を潤す薬草が必要だ。
「よし、特製の“風邪茶”を作りましょう。材料はショウガ、キキョウ、レンギョウ、それに乾燥したナツメも加えよう」
「それって、飲みやすいですかね?」
「飲ませるのは子どもが多いですからね。甘味を加えるために、蜂蜜も少し入れましょう。味と効果の両立ですね」
こうして、霧雲堂は臨時で「薬草風邪対策ブレンド」の提供を始めた。
店内には、咳をしながらも笑顔を見せる村の親子たちが集まる。
奥では、だいぶ熱の下がったシャオケイが、布団に包まれながらメニュー表に新しいイラストを描いていた。
「“風邪茶セット”、あったかいおにぎり付き、子どもには飴ちゃんのおまけ……うん、これでいこう」
シュウがその様子を見て、くくっと喉の奥で笑った。
「あなたもどんどん、店員らしくなってきましたね」
「えっへへ……褒められた?」
「ふふ、まだまだですよ」
数日後。
流行風邪は、霧雲堂の風邪茶と看病の甲斐もあり、徐々に収束に向かっていた。
村人たちは口々に感謝の言葉を述べ、差し入れの野菜や干し柿などを置いていった。
霧雲堂の軒先では、日向ぼっこ中のウーロンが大きく伸びをして、くるんと体を丸めた。
シュウはその隣で、ちびちびと茶をすすりながら、空を見上げる。
「……風邪ひとつで、これほど村に動きがあるとはね。ですが、悪くない」
暖かい茶の香りが、湯気とともに空へと舞い上がる。
その香りは、霧の中でもほんのりと甘く、どこか懐かしいような気配を残していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界でホワイトな飲食店経営を
視世陽木
ファンタジー
定食屋チェーン店で雇われ店長をしていた飯田譲治(イイダ ジョウジ)は、気がついたら真っ白な世界に立っていた。
彼の最後の記憶は、連勤に連勤を重ねてふらふらになりながら帰宅し、赤信号に気づかずに道路に飛び出し、トラックに轢かれて亡くなったというもの。
彼が置かれた状況を説明するためにスタンバイしていた女神様を思いっきり無視しながら、1人考察を進める譲治。
しまいには女神様を泣かせてしまい、十分な説明もないままに異世界に転移させられてしまった!
ブラック企業で酷使されながら、それでも料理が大好きでいつかは自分の店を開きたいと夢見ていた彼は、はたして異世界でどんな生活を送るのか!?
異世界物のテンプレと超ご都合主義を盛り沢山に、ちょいちょい社会風刺を入れながらお送りする異世界定食屋経営物語。はたしてジョージはホワイトな飲食店を経営できるのか!?
● 異世界テンプレと超ご都合主義で話が進むので、苦手な方や飽きてきた方には合わないかもしれません。
● かつて作者もブラック飲食店で店長をしていました。
● 基本的にはおふざけ多め、たまにシリアス。
● 残酷な描写や性的な描写はほとんどありませんが、後々死者は出ます。
貞操逆転世界の「内助の功」~掃除と料理を極めた俺が、脳筋幼馴染を女王にするまで~
ありゃくね
ファンタジー
前世の記憶が目覚めたそこは、男女の貞操が逆転した異世界だった。
彼が繰り出すのは、現代知識を活かした「お掃除アイテム」、そして胃袋を掴む「絶品手料理」。 ただ快適に暮らしたいだけのマシロの行動は、男に飢えた女騎士たちを狂わせ、国の常識さえも変える一大革命へと繋がっていく。
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています
【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。
でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。
今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。
なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。
今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。
絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。
それが、いまのレナの“最強スタイル”。
誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。
そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。
田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜
咲月ねむと
ファンタジー
東京での社畜生活に心身ともに疲れ果てた主人公・田中雄介(38歳)が、故郷の北海道、留咲萌町に帰郷。両親が遺したダンジョン付きの古民家を改装し、「ダンジョン民宿」として開業。偶然訪れた人気配信者との出会いをきっかけに、最初の客を迎え、民宿経営の第一歩を踏み出す。
笑えて、心温かくなるダンジョン物語。
※この小説はフィクションです。
実在の人物、団体などとは関係ありません。
日本を舞台に繰り広げますが、架空の地名、建造物が物語には登場します。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる